03話 少年、シスターがストップ
(´・ω・`)何かで「書ける書けないじゃなくて書くんだよ!」って書いてありました。
自分にはその必死さが足りないのか……
ノームの里で師匠であるジェイドが納得の行くまで武器を作らされ、漸く解放された勇樹はドラグニールに送られてエルクレアへと戻ってきた。
だが、勇樹は自分の屋敷の扉の前で立ち往生していた。
何せ『ちょっと魔王にケンカ売ってくる』という書置きのみを残して、もう10日も音信不通でいたのである。
その上、前回も前々回も大怪我で心配を掛けたという自覚があるので、気分はまさに悪戯がばれて怒る母親から逃げる子供の気分だった。
そんな風に扉の前でウロチョロして半時が過ぎようとした時、不意にガチャリとドアノブが回り、扉が開いた。
突然の事に完全に気を抜いていた勇樹は反応する間もなく、中から出てきた人物と目が合ってしまう。
「あ」
「あ……ああ、アリサ様! ユーキ様が帰ってきました!!」
「ちょ、まだ心の準備が!」
中から買い物カゴを持って出てきたフィーアは勇樹の姿を見た瞬間、踵を返して家の中に戻って行ってしまう。
引き留めようと慌てて手を伸ばしたが勇樹の手は虚しく空を切り、そのままの体勢で玄関に取り残され、数秒後に顔を真っ赤にしたアリサが中から飛んできて、勇樹の頭に拳骨を落とすのであった。
「で? 一体これはどういう意味なのか、詳しく説明してくれるわよね?」
にこやかな笑みを浮かべながらテーブルに叩き付けられたのは、勇樹が残した書置きだった。
一方、勇樹は蛇に睨まれたカエルが如く椅子に座ったまま身動きが取れず、額からは冷や汗をダラダラと流していた。
「いえ……その、これは何と申しますか」
「こんな書置き残されて、10日もどっか行っちゃって、わたしたちがどんな思いだったか……分かる?」
「はい、大変にご迷惑をお掛けしまして「迷惑じゃなくて心配したの! この前もその前も、フラッといなくなったかと思えば大怪我して帰って来れば心配するに決まってるじゃない! それにユーキ君がいなくなったらフィーアはどうなるのか分かってるの?」
「はい、よく考えてませんでした。深く反省致します……」
ちなみに、主が死んだ奴隷は遺失物と同じ扱いになり、保護した者に占有権が与えられる。
とは言っても、主が死んだ奴隷というのはあまり好まれず原則は奴隷商の方で買い取りになるので、拾う者も少ないのだが……性質の悪い輩に捕まり悲惨な目に合う場合も少なからずあった。
そういう話を聞かされた勇樹は、垂れていた頭がますます垂れて地面に付きそうになる。
「私だって見知らぬ他人じゃないんだから、物凄く心配するに決まってるじゃない。ただでさえユーキ君は危なっかしくて目が離せないんだから、ウチの子たちと遊んでる時だって木に登って調子に乗って頭から落ちた事があったじゃない」
「返す言葉もございません……」
勇樹がそう言うと、アリサは小さく息を吐いた。
そして徐に勇樹の傍まで来ると、そのまま勇樹の頭を抱えるように抱き寄せ頭を撫でる。
「ホントに……心配したんだからね」
祖父から拳骨を落とされる事に慣れていた勇樹は、諭されるように叱られる事も抱きしめられる事にも慣れていなかった。
驚いた勇樹は慌てて離れようとしたが、アリサの涙混じりの呟きに何も言えなくなり、肩の力を抜いてなすがままに彼女が満足するまで撫でられ続けた。
「というワケでユーキ君は暫く街の外へ出るのは禁止。というか、そもそもFランクの冒険者は街の外へ出る用事なんかないんだから、いいわね?」
数分後、自分のやっている事に客観的な視点で見た時に色々と不味い事に気が付いたアリサは、慌てて勇樹から離れて恥ずかしがるように顔を逸らすと、照れ隠しにとんでもない事を言って来た。
勇樹はそれに対して慌てて反論に出る。
「待って! 確かに冒険者としての活動じゃあ外には出ないけど、他の用事で外に出る必要があるから困るよ! 折角、師匠たちから新しい道具も貰ってこれからアイテム作りが捗ると思ってたのに!」
「うん、工房に篭るのも含めて禁止ね。ただでさえ目を離すと一日中篭ってるんだから、少しは落ち着いて体を休めなさい……念のために、フィーア」
「はい」
アリサに呼ばれてフィーアが部屋に入ってくる。
フィーアはアリサの隣に立つと、勇樹に軽く会釈して真っ直ぐ顔を見据えた。
これから何が起こるのかと固唾を呑んで待っていると、緊張した面持ちのフィーアが徐に口を開く。
「ユーキ様……『暫くの間は家で大人しくしていなさい』!」
申し訳なさそうにしながらもしっかりと命令を言い切るフィーアに、勇樹は目を見開いた。
フィーアの命令を受け、勇樹の首に着けられた隷属の首輪がほんのり光り出す。
それを見たフィーアは水飲み鳥のように何度も頭を下げる。
「も、申し訳ありませんユーキ様! 奴隷のわたしが主に命令なんて失礼な真似を!」
「……アリサさん、やってくれたね」
ひたすら恐縮するフィーアをスルーしながら勇樹はアリサの顔を見た。
これで勇樹は首輪の効果によって命令通りに家で大人しくせざるを得なくなり、思わず苦虫を噛み潰したように渋い顔になる。
そんな視線を向けられてもアリサは涼しい顔で、寧ろ眉を顰めてピン伸ばした人差し指を勇樹に向けた。
「シスターとしてもユーキ君の体にはダメージが残り過ぎです。暫くは休養期間を置いてお仕事はお休みしなさい。そうじゃないと身体を壊すわよ」
「……分かりました」
アリサからシスターとしての判断も持ち出され、勇樹は渋々頷いた。
ちなみに、この世界では回復魔法を得意とするシスターが町医者を兼任している所が多いので、ドクターストップならぬシスターストップというのは間々ある事である。
勇樹が頷くのを見届けたアリサは、身体の力を抜いて椅子の背もたれに寄りかかりながら大きく息を吐いた。
そして、改めて前のめりになると勇樹の書置きを持ち上げてみせる。
「それで、ここに書いてある事はどうなったの? まあ、こうして無事に帰って来たんだから魔王とは遭わなかったんでしょうけど……」
「いや、ちゃんと魔王には会ったし戦ったよ? お陰でこっちはクズボロにされて生死をさ迷っちゃったよ」
「はい!?」
勇樹の返答に思わずアリサは素っ頓狂な声を上げて開いた口が塞がらなくなった。
アリサは勇樹が出かける前よりも所々にあって傷跡が消えていて、顔色も良かったので魔王とは遭遇していない物だと思い込んでいた。
故に勇樹の発言はショックが大きかったのである。
「生死って……でも見た所、怪我なんてどこにも……」
「師匠の所で無理矢理治療を受けさせられてました。お陰でこの通りピンピンしてるよ! それで師匠の所でこんな物を作って見ました!」
そう言って勇樹は腰のポーチに両手を突っ込んで漁り出した。
アリサが首を傾げていると、目的の物を見つけたのか勇樹の手が止まる。
「『妖精の通り道』と『通行証リボン』~!」
「……なにそれ?」
ダミ声を出しながら取り出したのは1m程のフープ状の輪っかと数本のリボンだった。
道具を取り出すという事で意識した声だったが、アリサとフィーアは元ネタを知らない異世界人なので、突然の勇樹の変声にただ首を傾げるだけに終わった。
いつかはやろうと企んでいたネタが駄々滑りしたので、勇樹は気を取り直して取り出したアイテムを机に並べた。
並べられたアイテムを見て、フィーアは目を丸くする。
「これは……マジックアイテムですか?」
「そそ、突然ですがここでクイズです。この紙の両隅に書かれた2つの点の最短距離はどこでしょう?」
そう言って勇樹は、書置きの裏に2つの点を書き入れて2人に問い掛けた。
突然のクイズに戸惑いながらも、アリサは勇樹から鉛筆を受け取って点と点の間に一本の線を引いた。
「点と点を結ぶ線、コレが最短ルートでしょ?」
「残念ながらハズレです。こうすればもっと近くなるよ」
勇樹はそう言って紙を半分に折って点同士をくっつけた。
それを見たアリサは眉を顰めた。
「それはズルいわ。そんなの屁理屈じゃない」
「屁理屈でも、これはそういう道具なんだから仕方ないんだって」
「あの……まさかこの道具って」
フィーアが恐る恐る尋ねると勇樹は一つ輪っかを近くの壁に貼り付け、ポーチからもう一つ取り出してアリサたちを挟んだ反対側の壁に貼り付ける。
「この『妖精の通り道』は2つの間の空間を捻じ曲げて出口と入口を作るマジックアイテムなんです。だからこうするとっ!」
勇樹は壁に掛けた輪っかに向かって飛び跳ねた。
当然そんな事をすれば壁に激突すると思い、アリサが「危ない」と叫ぼうとした瞬間、勇樹が輪っかの中へと消えて行った。
2人が驚いて固まっていると背後から何かが着地する音が聞こえ、慌てて音のした方を振り向くとそこには勇樹が立っていた。
「じゃじゃーん!」
いつの間にそこへとか、どうやって移動したのかとか、あらゆる考えが過っては目の前で起きた現象の所為で吹き飛んでしまう。
アリサが唖然としていると、隣にいたフィーアが膝から崩れ落ちて尻餅を突いた。
「ちょ、フィーア大丈夫!?」
突然、床に座り込んだフィーアを心配したアリサが声を掛けるが、フィーアはそれに全く反応せず呆然と勇樹の作ったマジックアイテムを見つめていた。
「ゆ、ユーキ様……もしや、それは転移魔法なのですか?」
「う~ん、これは空間転移というよりは空間移動に近いかな?」
「う、嘘……空間系魔法は使える人が少ない上位魔法の筈……そのマジックアイテムなんて神話級の筈です!」
「ユーキ君?」
フィーアの科白に、アリサは勇樹の方を振り向いた。
神話級のマジックアイテムといえば存在するその殆どが国宝になっている物ばかりで、魔法事情に疎いアリサだったがシスターとして最低限の歴史は学び知っている。
神話級のマジックアイテムといえば一般人……それ以上に低ランクの冒険者が通常の手段で手に入れられるワケがない。
疑うようなアリサの視線に対して、勇樹はスッと顔を背けるのだった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




