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勇者は101人いる(旧版)  作者: 酔生夢死
5章 少年、懐かれる

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02話 少年、ノームを知る

(´・ω・`)ノームは純粋なだけで外道ではありません。

 ただちょっと自分の研究以外は割とどうでも良くて、研究の為なら手段を選ばないだけなのです。

「即ち、生成される魔力量とユーキの身体が持つ魔力伝導率を考えると、人の体を保ったままそれをクリアするには不死鳥の骨髄を移植する他なかったんだなぁ」


 結局、勇樹の無言の視線に耐えきれなかったガーネは、いかに自分の判断が正しかったか言う正統性を語って、自分の無実を訴えた。

 精霊族であるノーム達は、石ころ程度ならば簡単に握り潰せるほどの力と『精霊魔法』という独自の魔法を持っており、普人一人程度ならば簡単に制圧できるほどの強さを持っている。

 勇樹が何かした所でノーム達にとっては痛くも痒くもないのだから、本来であればガーネも弁明して正統性を訴える必要などない筈だった。


 しかし、そんなノーム達を慌てさせる唯一の方法を勇樹は知っていた。

 この世界で“知”を司る精霊とも言われているノーム達の弱点……それは自分たちの研究である。

 実験中に研究室を爆発させて、部屋の物を吹き飛ばす事があっても、ノーム達は自分が作った物に相応の愛情を持っている。

 特に勇樹は入っていた治療ポッドは、彼の研究成果の粋が結集した相棒であり、それを人質に取られたガーネは無条件降伏するしかないのであった。


 愛用の金槌をチラつかせながら治療ポッドの前に立っていた勇樹は、ガーネの説明を聞いて一先ず金槌を下ろすと溜息を吐いた。


「話は分かりました。原因が僕のレベル不足であり、それを行ったのは仕方のない処置だった事は納得しましょう……ですが!」


「だなっ!?」


「『それだけでした!』『わぁ、ありがとう!』で済ませられるほどノームの性質(たち)を知らないワケじゃないよ! さぁ、治療ポッド(むすこのいのち)が惜しくば、後ろ手に隠した研究レポートをこっちに寄越して見せろ!」


「だ、ダメなんだなぁ! これはどんな事があっても渡せな……ああ!」


 咄嗟にガーネが何かの用紙の束を後ろに隠すよりも先に、脇からジェイドがそれを取り上げた。

 用紙を取り戻そうと手を伸ばすガーネをアレキサが取り押さえつつ、ジェイドはそこに書かれている物を流し読みして溜息を吐いた。


「これは……ユーキの改造計画か? 眼球や内臓などを高位の魔物の物と置き換える計画なのか。確かに、これならば自身の魔力で自壊する事はなさそうだが、これでは確実に普人の姿は保っていられないな」


「ほほう?」


 勇樹に疑念の篭った視線を向けられて、ガーネは勢いよく顔を背ける。

 しかしよく見ると、その顔からは脂汗がダラダラと流れていた。

 勇樹は再び徐に金槌を振り上げると、その気配を感じ取ったガーネは勇樹の腰に泣いて縋りついた。


「待って欲しいんだなぁ! 謝る、謝るからそれだけは勘弁して欲しいんだなぁ!」


「他に、僕の体に何か仕込んだりしていませんか?」


「してない! しようと思ってたけど、その前にユーキが起きちゃったから何もしてないんだなぁ! 信じて欲しいんだなぁ!」


 あっさりと計画を吐いたガーネは、その場に泣き崩れる。

 勇樹も少しやり過ぎたかと若干後悔しかけたが、次のガーネの台詞に勇樹は開いた口が塞がらなくなった。


「折角、手に入った実験台だったのに惜しい事をしたんだなぁ! こんな事だったら薬の量をもっと増やして、完全に動けないようにするべきだったんだなぁ! 折角、魔物の部位を色々用意していたのに勿体ないんだなぁ!」


「…………」


「安心しろ。これはノームとしては極めて普通な方だ」


「やっぱノームはド畜生だった」


 とりあえず勇樹は腹いせに改造計画書をビリビリに破いて治療ポッドは破壊し、ついでに煩雑になっていたガーネの研究室を嫌がらせも兼ねて綺麗に整頓(・・・・・)した。

 爽やかな笑みを浮かべ、喜々としてガーネの研究室を掃除している勇樹の姿を、ノーム達は恐ろしい物を見る目で見ていた。



 ほんの細やかな復讐を終えた勇樹は、スッキリした顔で改めてジェイドに話を聞く事にした。

 勇樹にしてみれば魔王と戦っていた筈が、気が付くとノームの里にいたので大方の予想は付いていたが、もっと詳しい話を聞いて確証が欲しかったのである。


「まあ、瀕死の僕を赤爺がここへ連れて来たという所までは容易に予想は付くけど、そもそも魔王はどうなったの? 僕がボロボロになって運ばれて来たって事は、また敗走って事?」


「いや、安心しろ。お前は魔王に勝った。こっちだ」


 勇樹の問い掛けに対して首を横に振ったジェイドは、ガーネの研究室のさらに奥にあるドアを開けた。

 ドアの向こうは生体サンプルを保存している冷蔵室になっていて、その部屋の最奥にソレはあった。

 冷蔵室の奥に置かれたカプセルの中には、魔王の死骸が不凍液に浮かんでいた。

 それを見た勇樹は白い息と共に声を漏らす。


「おお、魔王だ……ホルマリン漬けみたいでちょっと気持ち悪い」


「魔王の(むくろ)を見た感想がそれか」


 勇樹は道路で引き潰されているカエルでも見るような目を魔王の死体に向けながら、汚い物でも触るかのようにケースの蓋を突く。

 それを見たジェイドは呆れ顔で溜息を吐きながらケースを軽くノックした。


「見ての通り、これは魔王の死骸だ。所々破損は激しいが新しい武具を造るには打って付けの素材だろう」


「魔王素材の武器か~……アレ? そう言えば魔王の心臓(・・)てどうなってんの? 胸のあたりにくり抜いた後がないからまだ中?」


 勇樹の問いにジェイドは首を横に振った。

 そして今まで落ち込んで黙り込んでいたガーネが、入れ替わるように答えた。


「いや、そもそも魔王には竜の心臓のような物は存在しないんだなぁ。あえて言うなら、全身が“魔王の心臓”とも呼ぶべき役割を果たしていて、そのお陰なのか骨も皮も筋も内蔵も、あらゆる部分に魔量を豊富に含んだ素材なんだなぁ!」


「え、それっておかしくない? 魔物は体のどこかに魔力を生成する為の魔石を持っているもんだって、ここで教えてくれたよね?」


 この世界での動物と魔獣や魔物の違いとは、『魔力の保有量』にある。

 魔獣や魔物と呼ばれる生物の体には、勇樹が心臓に移植したような魔石が体のどこかにあるのが常識であった。

 しかし、勇樹の疑問に答えるつもりが無いのか、ジェイド達は意味あり気に顔を見合わせて、肩を竦めるだけで何も言わずに終わる。

 2人の反応に疑問を抱きながらも、勇樹の興味は既に別の方へと向かっていた。


「それで、コレ(・・)ってどうなるの?」


「どうなるも何も、倒したのはお前なのだから好きにしろ。魔王の素材などあっても困らんが、無くても代用できる物は幾らでもある」


「マジで!? じゃあ、これも使って色々作りたいな! 設計図の物だってコイツがあれば色々捗りそうだし!」


「そうか、ならばついてこい。巨大物作製の部屋を貸してやる」


 そう言って案内されたのは、地球で言えば運動場ほどの広さの部屋だった。

 床や壁は硬い材質の物で覆われており、よく見ると天井の所々には実験の跡なのか、黒く焦げていた部分が残っている。

 壁際には煩雑に色々な物が置かれていて、よく見ずともそれが勇樹の欲しがっていた物ばかりだと気付いた。

 勇樹たちが部屋に入って来ると、中にいた数人のノーム達が近づいてきた。


「ほれ、とりあえずユーキの欲しがった物は、殆どここに置いておいたゾ。まずは何を作るんダ?」


「金属の加工ならばワシに任せろ。要望通りの形に加工してやる」


「……魔法式は任せろ」


「単純労働ならウチのゴーレムを貸すえ」


 ワラワラと寄ってくるノーム達を、勇樹は部屋の隅に置かれた作業台まで呼び寄せると、自身が描いた設計図を広げて差し棒を取り出した。


「まずはノームの皆に協力を感謝します。とりあえず僕が今作りたい物は2つ、移動用の車と持ち運びできる屋敷です! 他にも図面は残ってますけど、とりあえずはその2つで!」


「おう」「任せろ」「諒解したえ」


 ノーム達が頷くと各人が自分の得意分野に分れて作業を始め、その光景にジェイドは密かに目を見開いて驚きの目で見ていた。

 地と知の精霊であるノームの殆どが個性的でスタンドプレーを好む者が多く、近しい分野で意見を交換する事はあっても、基本的には閉鎖的な研究者体質である。

 故に、こうして全く関係ない分野のノーム達が一つの物を作り上げる光景など、前の勇者が気紛れを起こした時でさえなかった事であった。

 そんな奇跡のような光景に目を見張りながら、ジェイドは勇樹に近づいて肩にポンと手を置いた。


「それで? 武器の方はいつ手を付けるんだ?」


「あ、師匠。そうだな……今の2つが7割くらいできたら手を付ける予定なので、それ位ですね」


「いや、それは師匠として看過できんな」


 片に置いた手をギュッと握りしめると、そのままジェイドは勇樹を引き始めた。

 突然のジェイドの行動に反応も出来ず、勇樹はズルズルと引き摺られて行く。

 そして、部屋の入口が近づいてきた所で我に返り、慌てて肩を掴む手を外そうと抵抗し始めた。


「ちょ、ちょっと待ってください! ここだって大本は僕がやらなきゃいけないんですから、離れられないんですって!」


「安心しろ、別に武器を作る設備はこの部屋にも整っている。だが、多少の準備は必要だから付いてこい」


「いやいや!? 大きな設計2つも抱えて、この上に武器まで作るなんて器用な真似できないよ!?」


「ハッハッハッ、勇者曰く『成せば成る』そうだぞ」


「え、師匠何でそんなに意気込んでるの? まさか、さっき出した武器がポンコツばっかりで怒ってます?」


「安心しろ。二度とあんなナマクラ共を作れないように、今度こそキッチリと訓え込んでやろう」


 ジェイドは改めて勇樹の首根っこを掴むと、引き摺るように歩き出す。

 勇樹は注射を拒む飼い犬よろしく、足を突っ張って何とか留まろうとするも、細やかな抵抗など虚しくズルズルと引き摺られて行った。


「余った材料で他にも色々作りたい物があったのに!」


「諦めろ。あんなものを作って俺に見せるお前が悪い」


「ちょっと! 苦しいって師匠!?」


 その後、勇樹は作業と並行してジェイドが納得のいくまで武器を作らされ続ける事になる。

 そして勇樹がエクルレアの自宅へと帰ったのは、魔王を退治してから10日後の事であった。


最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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