01話 少年、ノーム達に無心する
(´・ω・`) 長すぎる充電期間を経て、恥ずかしながら再び戻ってまいりました。
また頑張って再開したいと思いますので、よろしくお願いいたします。
前章までの3つの出来事。
・アリサが家出してくる ・勇樹、奴隷の奴隷 ・魔王は死んだ
最初に勇樹が感じたのは背骨に赤く熱した鉄棒でも刺したかような熱さであった。
無意識の内にその熱さから逃げようと身体を捩るが、何故か身体が思うように動かない。
やがて熱さは背中全体に回ると、勇樹の意識もゆっくりと浮上するように覚醒に向かう。
鈍っている意識の中で徐に目を開けると、見覚えのある顔がガラス越しにこちらを覗きこんでいるのが見えた
「……」
「何を」と口にしようとしたが何かが覆っていて、喉も痺れているかのように感覚が無く全く声が出なかった。
ゆっくりと目を動かすと下から気泡が昇って来るのが見え、自分が水槽のような物に入れられている事に気が付く。
酒に浸かったマムシ宜しく、ワケの分からない液体の中で浮いているという状況に疑問が過るが、働かない頭ではそれ以上の事は考えられなかった。
そこで再び、今度は背中を直に炙られているような熱さが襲ってきた。
なんとか動かない身体を必死に捩ろうとするが、持ち主の意思に反して身体は全く動かず、肩が軽く上下するのみ。
叫びたくとも声は出ず、逃げようにも身体は動かず、どうにもならない状況に勇樹は……ブチ切れた。
「だから熱いだろうが!!」
怒りに任せて出された足が、ケースの蓋を蹴り飛ばし液体と共に勇樹が流れ出る。
「ゲホッゲホッ、一体何なのさ……あ~、頭が痛い」
口を覆っていたマスクが流れ出た拍子に外れて鼻と口に液体が入り、若干涙目になりながら咳き込んでいると、目の前にタオルが差しだされる。
勇樹は反射的にそれを掴んで顔を拭き、そこで自分の前に誰かが立っている事に気が付いた。
「全く、治療ポッドを蹴り破るとは……お前は全く変わっていないな」
「せ、先生? あれ、じゃあここってノームの里……?」
掛けられた声に思わず顔を見上げると、そこにいたのはノームの鍛冶師で勇樹の師であったジェイドが立っていた。
勇樹の問いにジェイドは小さく頷く。
「目覚めたばかりの魔王とやらかしたらしいな。お陰でガーネの治療ポッドが無ければ、脳髄を引き抜いてクローン体に移植する所だったぞ?」
「あ~……うん、そうならなくて良かったです。ハイ」
冗談交じりに言われているが、そうなっていた場合には本当に脳髄を引っこ抜いて遺伝子からクローンを作って移植していたに違いないと勇樹は確信した。
「それで、一体何をすればあそこまで自分の体を壊せるんだ? 全身の骨は粉々、内臓だって幾つか破裂していたぞ」
ジェイドにそう問われて、勇樹は何があったのか思い出そうと頭を抱えて唸る。
しかし、勇樹が何かを思い出そうとすると、締め付ける様な鈍い頭痛が襲いその場に蹲ってしまう。
「う~ん……覚えてません……」
「まあ、そんな状態では仕方あるまい」
「うぅ……なんか物凄く頭が痛いんですけど、コレってなんなんですかね?」
頭を抱えて苦しげな勇樹の問いに、ジェイドは呆れたように顔を背けながらボソッと呟いた。
「お前は二日酔いだ」
「ほえ、二日酔いっすか……ぐぐぐ、魔王め。未成年に酒をぶっかけて酔わせるとは卑怯な……」
魔王がその場にいたなら抗議されそうな事を呟きながら、勇樹は痛む頭を堪えてゆっくりと立ち上がる。
しかし、立ち上がった拍子に頭痛がして、思わず座り込みそうになってしまう。
「う~、頭痛い……」
「我慢しろ。今、お前の体は色々とあって薬が使えん」
「色々? それって背骨が妙に熱いのと関係あるの?」
「ああ、不死鳥の骨髄をお前に移植した」
「ちょ!? また何してくれてるのさ!? ……痛つつつ」
声を上げた拍子に痛みが走って頭を押さえる。
そんな弱り切った勇樹に水を入れたカップを差し出しながら、ジェイドは手元の子機を口元まで近づけた。
「ユーキが起きた。ついでに入れていた容器を破壊したぞ」
『だなぁ!?』
子機から驚いたような声が漏れると、数秒後にドタドタと一人のノームが転がるように駈け込んで来た。
その部屋の主であるガーネは、部屋の惨状を見て頭を抱えた。
「何なんだなぁコレは! 何で何で治療ポッドが壊されるんだなぁ!? 中に入れたユーキは、あと3日程度は治療に掛かる筈で万が一に備えて麻酔やら痺れ毒を流した上で拘束していた筈なんだなぁ!? 折角の実験サンプルが逃げ出すなんて予想外なんだなぁ!!」
「やっぱりノームってド畜生なんだなぁって思いました」
「安心しろ、アレはまだ良心的な方だ」
「全然安心できないんですけど!?」
勇樹を実験台にする気満々だったガーネが嘆いている姿に、勇樹は色々な意味で何とも言えない複雑な表情で呆れたように呟いた。
そんな勇樹を慰める様に肩に置かれたジェイドの手を払い退けながら、勇樹は思わず叫んでしまって響く頭を抱え込んだ。
色々と言いたい事はあるけども結果的には治療して貰ったので、その色々は飲み込む事にした勇樹は自分が作ったマジックアイテムの数々を師匠たちに見てもらっていた。
旅人のポーチから取り出して数秒でジェイドが口を開いた。
「ゴミだな」
「ですよね~」
「何だこの剣は。ひたすら魔力を炎へと変換するだけで方向性など何もない、これでは馬鹿デカいライターではないか。その上、どれも制御も上限も設定していない所為で爆発する危険性がある。ただ実験にしてもこれはタダのゴミだ」
「……こっちの魔道具はしっかりと作ってあるな。どれも悪くない」
「こっちも特に問題ないヨ! 起動もスムーズで、機能にも問題ないアル!」
魔道具専門のタンザと魔法技師アレキサの2人の評価を聞いたジェイドは、睨むような目を勇樹に向けた。
鍛冶師であるジェイドはドラグニールから直接、勇樹の世話を頼まれた事もあって、勇樹がノームの里に滞在中はジェイドが勇樹の面倒を見て、他のノームの講義が数日に1回だったのに対してジェイドは1日の終わりに必ず勇樹に自分の技術を教えていたのである。
一番長く教えていたはずの分野が一番無様だという成果に、ジェイドは頭に来ていた。
ジェイドの怒りの気配を感じ取った勇樹は慌てて向き直って声を上げる。
「待って待って、言い訳させてください! ここにあるのは全部まだ手探り状態の実験品ばかりなんです! 一応、会心の出来の物もあったんですけど、それは魔王との戦いで破壊されてしまったんですよ! それに自分の手持ちじゃ鉄とミスリルを使うのが精々で、強度を優先するとコレが精一杯なんです!」
「そんなもの、オリハルコンか最上位素材を使えばいい」
「使えたら使ってますよチクショウめ!」
なんて事も無く言ってくるジェイドに、勇樹は半ば自棄になって持っていたポーチを床へ叩き付けた。
勇樹が餞別に貰った中には確かにオリハルコンも混じっていた……が、それは武器を3本も作ってしまえば無くなってしまう程度の量しかなく、調べると錬成に必要な素材も途方も無く希少な物ばかりだった為にラストエリクサー症候群になった勇樹はミスリルや鉄を代用して使っていたのである。
それを聞いたアレキサが懐かしむ様に目を細めた。
「アー、確か昔にタケシも人里じゃあ賢者の石なんか手に入らないってブチギレてた事アルヨ!」
「……うむ、世界樹なども龍脈の上でなければ育たんしな」
「む、そうだったのか。それはスマン」
「謝罪よりも素材をください!」
頭を下げるジェイドに割と図々しい事を頼みつつ、勇樹はポーチから1枚の設計図を取り出した。
それを近くにあったテーブルに広げると、ジェイド達も近寄って広げられた設計図を覗き込んで目を見開いた。
「ユーキ……これは?」
「僕が考えた魔道具や武器の数々です。理論上は作れるはずなんだけど、素材不足とか製作場所のスペースの問題で作れなかった物ばかりっす」
「なるほどヨ~。コレらを作るとなるとかなりの空間と人手が無いと作れないアル。材料の方はこっちにある物を好きに使って構わないアルヨ」
「あざっす!」
「……ついでにその辺のノーム達に声を掛ければ、面白がって手伝う奴も大勢いるだろう」
「いや、これらが作れなかったら最悪、旅に出る時には今の屋敷を破棄するしか方法がなかったので助かりました。なので当座の目標はコレを作る事にします! つきましては必要な素材の提供を……」
勇樹は1枚の設計図を取り上げて指を差し、必要な素材を挙げて行く。
すると途中で、ジェイドがゴミと称した勇樹の武具の数々を指差しながら、勇樹の武器の設計図を手に取った。
「おい、そっちの道具よりこっちの武器や防具を作る方が先なんじゃないか?」
「いえ、武器の方は廃棄品を使い捨てながら戦えばいいですけど、コレは向こうじゃ絶対に作れないんでこっちを優先します。なので必要な材料を戴きたいのと……」
勇樹はジェイドの言葉に対して首を横に振った。
勇樹はそこで言葉を切り、先ほどから部屋の隅で治療ポッドの修理をしているガーネに目を向けた。
視線を向けられている事に気が付いたガーネは、ぎくりと肩を震わせて顔だけ勇樹たちの方へ向ける。
勇樹は未だに熱を持つ背骨に手を当てながら、片手でバンとテーブルを叩いた。
「先ほど聞いた。不死鳥の骨髄とやらの件を詳しく説明して頂きましょうか!」
その瞬間、ジェイドとガーネは同時に顔を横に逸らした。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




