16話 少年、鬼に挑む
(´・ω・`)また風邪ひきました……
それはさて置き、バトル表現って難しいですね。上手く書ける気がしない。
3日後、勇樹は魔王領のとある場所まで来ていた。
新たに製作した槍『黒田号MK‐2(仮)』を隣に突き立て、仁王立ちで双眼鏡を覗きながらニヤリと笑みを浮かべている。
そして、徐に双眼鏡をポーチにしまって代わりに短槍を取り出すと、3歩だけ後ろに下がり思いっきり息を吸い込みながら槍を構えた。
「まぁーおぅーくぅーんっ!」
腕と槍に魔力を纏わせ、遠くへと響かせるような大声を張りながらステップを踏み……
「あっそびーましょっ!!」
『ドンッ!』と何かを突き破るような音と共に、勇樹は力いっぱい槍を投げる。
投げられた槍は、ミサイルのような勢いで一直線に荒野の真ん中にポツンと立っているソレに向かって飛んで行った。
音を切り裂き飛んで行く槍は何の抵抗も許さずソレを貫く……事は無かった。
赤銅のソレは音速を超えて飛んできた槍を、テーブルに置いてあるコップでも手に取るような気軽さで、あっさりと掴んで見せた。
――瞬間、勇樹と視線を交えた赤銅の魔王は獰猛な笑みを浮かべると、地面を陥没させて槍の飛んできた方角へと跳んだ。
「よう、一体これは何のつもりだぁ?」
勇樹の元まで跳んできた赤銅の鬼種の魔王は、勇樹が投げた槍を握り潰しながら問い掛けた。
「何って遊びのお誘いですよ。鬼なら大好きでしょ? 酒と喧嘩は」
対して勇樹は不敵な笑みを浮かべながら拳を突き出す。
一瞬、勇樹に何を言われたのか分からずきょとんとした顔をした魔王であったが、次第にその意味を理解して、牙を剥きだしながら大きく笑った。
「ハッ! ニンゲンのガキが、一体それがどういう意味か分かって言ってんだろうなぁ?」
「勿論、命を懸けた横道無しの大喧嘩だよ。“鬼”だったら断らないよね?」
大江山の酒呑童子然り、『鬼』とは常に真っ向勝負を好む性質である。
そして、この赤銅の魔王も正々堂々の一騎打ちを好み、歴代の勇者たちを何度も返り討ちにして苦しめた生粋の戦闘狂である。
故に勇樹からの誘いを断らず断れない。
勇樹からの申し出に、今度は天まで届くような大声で笑い出した。
「ガッハッハッハッ! 勇者以外のガキからそんな事を言われたのは初めてだなぁ! よし、気に入った!」
ご機嫌な様子で魔王はその場に座り込むと、腰に下げていた徳利を手に取った。
そしてそれを煽りながら、空いた方の手で地面を指差した。
「丁度良い暇潰しだ、ハンデをくれてやる。オレはここから腕一本で相手してやろう」
「ハイ! それでも多分勝てないと思うんで10発ぐらい無防備で居てくれませんか!」
「はっはっはっ、調子に乗んな」
「でしょうねっ!」
脇に立てていた槍を取り軽く振り回すと、勇樹は勢いよく突撃すると共に槍を喉元へと突き出す。
しかし、魔王は徳利を煽りながら余裕の笑みを浮かべた。
「な!?」
勇樹は思わず魔王の行動に声を漏らしてしまった。
ニヤリと笑った魔王は持っていた徳利を前へ突き出すと、その徳利は金属を突いたかのような音と火花を散らしただけで容易に勇樹の攻撃を受け止めたのである。
その上、何の変哲もないその徳利は、勇樹の攻撃を受けてもヒビ一つ入ってはいなかった。
「甘いんだよ」
「ぐあっ!」
魔王は小ハエでも払うかのような軽い動作で徳利を振り回すと勇樹は弾き飛ばした。
たったそれだけで勇樹はボールのように地面を跳ね、大岩に衝突してめり込む。
勇樹は咄嗟に岩から腕を引き抜こうとするが、めり込んだ腕は容易には引き抜く事ができず勇樹は一度大きく息を吸い込んだ。
そして、全身に魔力を行き渡らせる。
「フンッ!」
勇樹が軽く全身に力を篭めると、それまでめり込んで動けなかったのが嘘の様に軽々と岩を破壊して飛び出した。
走りながら槍を振り回して勢いを付け、再び魔王へと突き立てた。
「うりゃ!」
「甘ぇ!」
スピードの乗った勇樹の一撃を、魔王は徳利で払い落とす。
すると勇樹は、払われた勢いをそのままにその場で一回転して、数撃ち当たれと言わんばかりに次々と槍を突き出すが、魔王は手に持った徳利で勇樹の槍を受け止め、その度には火花が飛び散る。
「硬いなぁ! それ!」
「へ、良いだろ。『紅葫蘆』っていう結構レアなマジックアイテムなんだぜ?」
「……まさか中のお酒ってお坊さんを溶かして作った物じゃないよね」
「は? なんで坊主が酒になるんだよ」
マジックアイテムの名前を聞いて勇樹は一瞬、返事を返すのも危険かと警戒したが、思い返して見れば既に何度も魔王と会話してしまっているので、元ネタ通りの能力は無いと判断した。
そんな勇樹の様子に首を傾げながら、魔王は勇樹の猛攻を弾きながら自慢げに紅葫蘆を見せつける様に前へと突き出した。
「コイツの能力はスゲーぜ? 何せ、飲んでも飲んでも酒が湧き上がって来るんだからな!」
「……え、それだけ? 僕の攻撃を受け止めている事に関しての能力は!?」
「あ? んなもん、コレがそれだけ堅ぇって事だろ。何せコイツはその辺の雑魚を幾らぶっ叩いても罅一つ入らねぇんだからよ」
「ただ堅いで納得いくか! チクショウ!」
自分の攻撃が全く効いていない理由が“なんか堅いから”で済まされてしまい、勇樹は遣る瀬無さを槍に乗せて魔王へぶつける事にした。
そんな勇樹の複雑な感情など知らずに、攻撃の勢いが増した事で魔王は目を輝かせていた。
「ははっ、勇者じゃねぇから正直期待もしてなかったが、中々やるじゃねぇかぁ!」
「だったらそのまま期待も警戒もしないままで、踏ん反り返っててくださいよ!」
「ハッハッハッ、諦めな!」
そんなふざけたやり取りをしつつも勇樹の槍の勢いは増して行き、何合か打ち合った直後、槍が魔王の防御を抜けて頬を掠った。
赤銅の頬から青い血が一筋だけ流れ、魔王はそれを腕で拭い、拭った後を見てニヤリと笑った。
「よーし、一発当てたから今度は本気でやるぞ!」
「待って、ルールがいきなり変わってるよ!? 動かずに腕一本で相手するって話だったじゃない!」
「そこは『一発当てたら終わり』って今決めたぜ」
「鬼は嘘吐かないんじゃなかったの!?」
「オレは嘘が嫌いだが、方便は嫌いじゃないんだぜ?」
魔王は牙をむき出しにして笑みを浮かべると、その眼の奥にある何かを感じ取った勇樹は咄嗟に後ろへ跳び下がった。
そんな勇樹に対して、魔王は無防備に両腕を広げて見せる。
「ほら、今なら攻撃し放題だぜ?」
「……よく言うよ。そんな獅子が口を開けて待ってるようなところへ、無防備に突っ込むワケないじゃん」
「じゃあ、どうするんだ?」
「こうする!」
勇樹はポーチに手を掛けると、数個の魔石を手に取って魔力を篭める。
仄かに赤い光を放つソレを、それを魔王の顔に向けて投げ付けた。
魔石の光は次第に輝きを増して行き、魔王の眼前に届く頃には閃光のような光を放っていた……が。
「何だそれ?」
魔王は腕を一度だけ振るうと、勇樹が投げた魔石を全て掴み取って握り潰した。
次に手を開いた時には、粉々になった魔石が手の平からサラサラと零れ落ちて風に乗って消えてしまった。
「なあ、一体これが何だって……」
魔王が顔を上げた瞬間、目の前に魔力を纏った槍の刃先が迫っていた。
しかし、今度は油断も無く顔を僅かに動かしただけで槍を躱し、カウンターに紅葫蘆で殴り掛かる。
勇樹も反撃が来る事は織り込み済みで、既に防御姿勢を取っていたが、腕力で強引に上から殴り飛ばされた。
「っ!?」
「甘ぇよ。仮にもオレは魔王だぜ? こんなもんじゃ到底当ら……」
魔王がまだ喋っている途中で、持っている紅葫蘆から火花が散った。
しかしこれは勇樹の攻撃が防がれた訳でも、魔王が徳利を使って攻撃を防いだ訳でもなかった。
即ち、勇樹は意図的に魔王の紅葫蘆を突いていた。
「……おい、どういうつもりだ?」
「攻撃してて気づいたけど、その徳利に罅が入らないのって単にそれが堅いってだけじゃなくて、そっちも微妙に槍の打点をズラす事で衝撃を受け流してたよね? って事はさ……」
勇樹は槍を改めて構え、ニヤリと笑って見せた。
「その紅葫蘆を集中的に攻撃すれば、破壊できるって事じゃない?」
「へ……面白れぇ。お前が壊れるのが先か、俺のこの紅葫蘆が割れるのが先か、勝負してやるよ!」
「上等!!」
隕石のように振り降ろされた徳利を躱し、振り切った所を槍で突く。
火花が散り、罅も入っていないと判断すると即座に後ろへ跳び、返す刀で薙ぎ払われた紅葫蘆を回避する。
振るっては避け、突いては躱して、躱せば距離を詰める。
勇樹にとってみれば我慢比べ、魔王にしてみれば一撃必殺。
当れば終わりの勇樹が圧倒的に不利の中、戦いの勢いは衰える事無く増していく。
やがて互いの風を切る音が均一になり、そこかしこで火花が線香花火のように激しく舞い散るようになってくる。
そして、2人のぶつかり合いが最高潮へ達した瞬間……互いは弾かれるように距離を取った。
「ハァ……ハァ……やるじゃねぇか」
「はぁはぁはぁ、へへ……罅入れて……やったぜ」
苦虫を噛み潰したような顔をした魔王の視線の先には、紅葫蘆にほんの僅かに入った傷のような罅であった。
これだけ見れば目的を達した勇樹の勝ちであるが、その代償は大きかった。
息を切らしながらも余裕の笑みを浮かべる魔王と、呼吸する事で精一杯になっている勇樹では、どちらが優勢かなどは一目瞭然であった。
酸欠で働かない頭でも自分が不利である事を確信した勇樹は、一度だけ深くゆっくりと深呼吸すると、再び槍を構えた。
「次の一撃で、貫く!」
「やってみな、ガキが!」
これが最後の一撃と、勇樹はほぼ全ての魔力を槍の先に注ぎ込んだ。
急造で製作された槍は勇樹の魔力を留めきれずに激しく振動しだすが、そんな事は構いもせずに槍に魔力を篭めて、刃先を魔王へと向けて飛び出した。
魔王は何の気負いも無く紅葫蘆を構えて槍を防ぐ……と思いきや、途中で勇樹は足を軽く滑らせ、槍の軌道が変わってしまう。
僅かに軌道がずれた槍は紅葫蘆から逸れて、真っ直ぐ魔王の顔へと向かってゆく。
「うおっ!?」
慌てて紅葫蘆をズラして槍を受け止めた瞬間、2人の手にそれまでとは違った感触が返ってきた。
即ち……
――バシャン!
勇樹が突き出した槍が偶然、先ほど徳利を入れた罅に突き刺さり、徳利の底を突き破った。
突き破った穴から透明な液体が飛び出して、勇樹の顔へと降り掛かった。
「うわ!? テメェ、何しやがる!」
魔王が穴の開いた徳利を掲げながら声を上げているのを最後に、勇樹の意識はそこで途切れた。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




