14話 少年、奴隷(主)からの初めての命令
(´・ω・`)実際にやってみないとわからない事って良くあります。
……私も登場させるまで、こんなに自分の中でフィーアが主人公と絡ませ辛くなるとは思いませんでした。
勇樹が魔王に遭遇した日の深夜。
夕食を食べ終わった後も勇樹の様子を見ていたアリサと交代し、薄暗い部屋の中でフィーアはジッと勇樹の顔を見ていた。
フィーアが勇樹に買われてこの屋敷に来てから一週間以上が経過した……が、その間に勇樹と会話した時間は一日にも満たなかった。
2人が一番会話した時といえば、買われて屋敷の中を案内された時と屋敷内のマジックアイテムの使い方を聞いた時だけで、後は勇樹が引き篭もっているか出かけていて、顔を合わせるのは食事の時ぐらいである。
その上、待遇は破格で毎回お小遣いとして銀貨一枚が渡され、用意された服は魔法効果が付いた高級物ばかり、お金が無くなったと言えば小袋一杯の銀貨を渡され、食料庫には庶民は滅多に口に出来ない肉が一杯に入っている。
今日までのフィーアの勇樹への印象が『冒険者で低ランクなのにお金持ちの不気味な主』なのは、ある意味当然の結果だった。
しかも、今日は傷だらけでドラゴンに咥えて運ばれてきた上に、その傷を負わせたのは魔王である。
ある程度割り切ってしまっているアリサと違い、そもそも接触が少ないフィーアは疑念を募らせていた。
とは言っても、フィーアもここを追い出されてしまえば行く所が無いので、正体不明な主に怯えながらも真面目に仕事をする以外に方法はなかった。
加えて言えば、初日の勇樹のハーフエルフへの反応もフィーアに疑念を持たせる要因となっているので、ハッキリ言って自業自得である。
「本当に……どうしてユーキ様はわたしを買ったんでしょうか」
この屋敷には、見た事も聞いた事もないようなマジックアイテムで溢れている。
火は指先だけで点き、水も井戸から汲んでくる必要が無く、掃除も洗濯も簡単に終わるようなメイドを雇う必要もない程に便利な物がある。
キッチンの使い方を聞いた時に、勇樹から渡された料理本に載っている料理を再現するのには苦労しているが、それですら手順や分量が詳しく書いてあって、ある程度覚えてしまえば道具も材料も揃っているので苦労はしているが大変ではなかった。
「わたしがいる意味って……何なんでしょうか」
無邪気に眠り続ける主の顔につい手が伸びた瞬間、勇樹の目がパチリと開いた。
フィーアは驚きの余り椅子の上で小さく飛び跳ね、心臓が口から飛び出しそうになる。
勇樹の目はキョロキョロと周囲を探るように動いた後、ゆっくりと顔をフィーアの方へ傾けた。
「あれ……フィーア? なんで……ああ」
目覚めた直後は意識が朦朧としていたが、徐々に意識がハッキリしてくると気絶する直前の事を思い出して小さく声を上げた。
そして、強烈に脳裏に刻まれた恐怖の体現を思い出して、勇樹は両手で顔を覆い震えあがった。
「あ、ああ……ああァァァっ!!」
「ゆ、ユーキ様!?」
突然震えだした勇樹の様子に驚いて、フィーアは慌てて勇樹の顔を覗き込む。
そして、勇樹は両手をベッドに叩き付けると大きく咆えた。
「ああ……アイツめッ! 万全の状態だったら……いや、もっと装備を充実させていれば一泡ぐらい吹かせられたのに! チクショウ!!」
「ゆ、ユーキ様……?」
てっきり恐怖で震えている物だと思ったフィーアは、思わずポカンと口を開けて呆けてしまう。
そんなフィーアの様子など全く気が付かず、勇樹は天井に向かって咆え続ける。
「あんのクソ赤オーク! 今度会ったら皮引っぺがして鍋敷きにしてやる!」
「えーっと……」
怒髪天を衝かんばかりに動けないベッドの上から、天井を越えて魔王領に居るであろう魔王に向かって、子供の癇癪のような怒鳴り声を上げる。
当然、そんな事情など知らないフィーアは、勇樹のいきなりの豹変っぷりに驚き怯えて椅子の陰に隠れていた。
一頻り暴れて落ち着いたのか、勇樹は肩で息をすると思い出したように顔を顰めた。
目に見える傷は魔法薬とアリサの魔法で消えてはいるが、深い部分に負ったダメージは完全には抜けていなかった。
「痛っ……あれ、フィーア。そんな所で何してるの?」
「え、あの、その……」
まるで先ほどの事などなかったように、勇樹は椅子の陰に隠れたフィーアに話し掛けた。
しかし話し掛けられたフィーアの方は、勇樹の急な切り替えに付いて行けずしどろもどろになってしまい、口から出る言葉も意味の無い物ばかりになってしまう。
そこで漸く自分の今の体勢を思い出して、ゆっくりと立ち上がってベッドの脇まで近づいた。
「えっと、お身体の具合はいかがですか?」
「ああ、うん。まだ節々が痛いからベッドから動けないけど、それを除けば腕とかが動かないだけだよ」
「それは十分に異常だと思うんですけど……」
魔法薬による応急処置が無ければ、腕を切断していたかもしれない程の大怪我をまるで他人事のようにケラケラと笑い飛ばす。
しかし、フィーアの方は包帯が巻かれている勇樹の腕を見て、運ばれて来た時の傷だらけの姿を思い出して、思わず顔を顰めてしまった。
彼女の反応に、勇樹は小首を傾げる。
「およ? どうかした? お腹痛いの?」
「どうして……ユーキ様はそう平然としていらっしゃるのですか? 聞けば、魔王に遭遇して怪我を負ったらしいじゃないですか……怖くはないんですか?」
それは思わず漏れた疑問だった。
今まで生きてきた中でも余り外へ出た事が無く、内向的な性格のフィーアにとって毎回傷だらけになって帰ってくる勇樹の行動が理解できなかった。
突然投げかけられた疑問に、勇樹はハトが豆鉄砲を食ったようなきょとんとした表情を見せる。
「怖い……怖いか~。う~ん、怖いと言うより楽しい……かな。うん、まだこの周辺しか見ていないけど、それでもこの世界には僕が見た事も無いような物に溢れていて、まだまだ見ていない物だって沢山あるんだよ」
それはドラグニールに正面から問われたあの日、勇樹自身が真っ直ぐに答えた目標。
“この世界を見て回りたい”。
今は物を充実させる方にハマっているが、それもそろそろ終わりそうなので、次に勇樹はこの街を出て旅に出す計画を密かに立てていた。
「しかしそれには、あのドチクショウをどうにかしないと気が済まない!」
「あ、まだ動いては駄目ですよ!」
目を覚ました直後の事を思い出したのか、勇樹は痛む体に鞭打ってベッドから起き上がろうとする。
脂汗を掻きながら無理矢理体を起こそうとする勇樹を、フィーアが慌てて止めに入る。
「でも、こうしている間にもあのクソ赤オークが笑ってるのかと思うと……スッゲームカつく」
「赤オークって……とにかくまだ駄目ですよ!」
突然、子供の駄々みたいな主張をする勇樹に若干驚きながらも、無理をされても困るので肩を掴んで押し留めようとする。
しかし、フィーアの細腕では怪我をしているとはいえ勇樹を押し留めるのには無理があった。
いよいよ力負けしてしまう――そんな時、フィーアは自棄になって叫んだ。
「もう! 『大人しくしていてください』!」
自棄になったフィーアがそう叫んだ瞬間、起き上がろうとして上げていた勇樹の腕が、突然重さが変わったかのように勢いよく落ちた。
そして僅かだが勇樹自身もベッドに軽く沈み込んでいる。
突然の出来事にフィーアが驚いていると、勇樹が苦々しい顔で首元を睨んだ。
「グギギギ……隷属の首輪がこんな所で……!」
咄嗟に叫んだフィーアの言葉が、勇樹の首に付けられた『隷属の首輪』に「勇樹への命令」として反応した結果、勇樹の体への負荷をかけて行動を制限する呪いが発動したのである。
しかし首輪の事をすっかり忘れていたフィーアは、突然の勇樹の反応に驚いて思わずベッドから離れるが、勇樹の呟きで首輪の事に気が付いたフィーアはすぐに命令を取り消そうとしたが、ベッドの上の勇樹を見て思わず声が止まった。
動けない身体を無理矢理起こそうと唸る勇樹の姿に、フィーアの子供の頃のある出来事が思い出され、小さく溜息を吐きながら改めて言葉を発した。
「それではユーキ様、明日の朝まで『そのままベッドでお休みください』」
「ちょ!? 待ってよフィーア!?」
勇樹は思わぬ奴隷からの命令に驚いて声を上げた。
そして晴れやかな顔で出て行くフィーアを、勇樹はベッドの上から見ている事しかできなかった。
「あれ? フィーア、どうかしたの? なんだかスッキリした顔してるけど」
「アリサ様。わたし、実はずっとユーキ様の事を怖い方だと思っていました」
「え、そうなの?」
「はい、だってこんなお屋敷を持っているのに本人はFランクの冒険者で、しかも赤賢竜様のようなドラゴンともお知り合いで、王族でも持っていないような物を沢山お持ちなんですよ?」
「あ~、確かにそれだけ聞くとなんか不気味よね……私もその辺の事は良く知らないし」
「ですがあの姿を見て思ったんです。なんだか私の昔の友達とそっくりだなぁって」
「へ~、それで吹っ切れた訳? その友達ってどんな人だったの?」
「はい、子供の頃に里の近くで拾った狼の赤ちゃんです」
「……へ?」
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




