13話 少年、重傷で運ばれる
(´・ω・`)まだ本調子ではありませんが、再開したいと思います。
夕焼けが空を真っ赤に染める頃、屋敷の西側の窓からは夕日が差し込み、アリサとフィーアは勇樹の帰りを待ちながら夕食の準備を始めていた。
赤く染まっている窓の外を眺めながらアリサがポツリと呟いた。
「それにしても、彼は一体何所まで出かけて行ったのかしら?」
何気なく呟いた直後、窓の外が突然空を雲が覆ったように暗くなった。
そして、上の方からバサッバサッと翼が羽ばたく大きな音が聞こえてきて、ズシンと地響きが伝わり何か巨大な物が庭に下り立ったような音がした。
「い、今の音は何だったんでしょうか……?」
「庭の方よ! とにかく、行って見ましょう!」
アリサたちは調理を一旦止めて、庭の方へ掛け出した。
庭に出た2人は音の正体を見て思わず腰を抜かして、その場に座り込んでしまった。
音の正体……それは赤い鱗の巨大なドラゴンだった。
屋敷の庭はそこそこの広さがあるのだが、巨体のドラゴンは窮屈そうに尻尾を丸めて外壁に当らないようにしながら口に咥えた何かを地面へと降ろした。
しかし、アリサたちは “生きた天災”とも称されるドラゴンの襲来の方に気が向いていて、それが何かは気付いていなかった。
それに気付いたドラゴンはゆっくりと口を開いた。
『ほれ、そこの2人とも何をしているんじゃ。呆けていないで此奴を早く中に運んでおくれ』
「「……へ?」」
ドラゴンの口から聞こえてきた聞き覚えのある声に、2人は目を丸くした。
そこから数秒ほど呆けた2人が、漸く赤いドラゴンことドラグニールの足元にある物がボロボロになった勇樹だと気が付いて、大慌てで家の中へと運び込んだ。
そして傷の具合を見る為に服を脱がせようとしたが、ここで問題が発生した。
既に戦闘でボロボロだった事と緊急を要したので服を切って脱がせようとしたのだが、
手で裂こうとしてもビクともせず街の道具屋で買ったナイフを使っても刃が生地を滑るばかりで1mmも切る事が出来なかった。
「ったく! こんな不良品押し付けて、あの道具屋には今度文句言ってやる!」
「アリサ様、今はそんな事よりもユーキ様の治療を!」
「分かってるわよ! でもどうすれば……」
そこでアリサは勇樹の腰にあるポーチが目に入った。
そしてそのポーチがマジックアイテムで勇樹が色々な道具を詰め込んでいた事を思い出して、慌ててポーチの中に手を突っ込んだ。
ガサガサとポーチの中を漁って一本のナイフを見つけて、そのナイフで服を切ってみると、ゆっくりではあったがナイフの刃が服を切ったのを確認する。
四苦八苦しながら勇樹の服を切って脱がせた2人は、怪我の様子を見て絶句した。
勇樹の両腕は皮膚が裂けてズタボロになり、腕や胴も切り傷や打ち身で怪我をしていない箇所は一つも無く、未だに血が止まらぬ傷が痛々しかった。
「……思った以上に怪我が酷いわ。私の回復魔法じゃ、こんな怪我なんて治せないわよ……」
アリサもシスターである以上は回復魔法に多少の心得はあったが、それは転んだ子供の怪我を治せる程度のレベルでしかなく、勇樹のような重症者を治せるほどの腕はない。
それでも気休めにはなるかとアリサは祈るように回復魔法を勇樹に掛けるが、勇樹の傷の前には焼け石に水であった。
フィーアに至っては簡単な属性魔法しか使えないので、歯痒い思いをしながらも布を濡らして勇樹の体を拭いたり、アリサの汗を拭ったりと自分のできる範囲で手伝った。
2人が必死に勇樹の治療にあっていた時、人型になったドラグニールが部屋に入って来た。
「ふぅ、薬棚を探すのに手間取ったわい。ほれ、これを其奴に飲ませるんじゃ」
「わ、わかりました!」
フィーアがドラグニールから小瓶を受け取ると、勇樹の体を起こしてゆっくりと小瓶の中身をゆっくり飲ませた。
喉仏が動き中身が無くなるのを確認すると、ベッドに寝かし直す。
その後は様子を見る為に時々回復魔法を掛けつつ、アリサはドラグニールに事情を聴く事にした。
「で? 一体どうしてこうなったの?」
「まあ、なんというか……簡単に言えば勇樹が魔王と遭遇してのぅ……」
「ま、魔王!?」
予想もしていなかった単語に、アリサは思わず悲鳴に近い声を上げた。
後ろで控えていたフィーアに至っては、驚きの余り悲鳴を上げる間もなく気絶寸前で倒れそうになり、椅子の背もたれに手を突いて何とか体を支えた。
一般人からしてみれば勇者や魔王などは雲の上の存在であり、伝説に残る抗う事も逃げる事も出来ない天災のような物という認識でしかなかなく、身近な人間がそれに襲われるなど考えた事すらなかった。
同じく目の前には魔王に並ぶ伝説級のドラゴンがいるのだが、気が動転している2人の頭からはスッカリ抜け落ちていた。
混乱した空気を戻そうと、ドラグニールは軽く咳払いをして話を続けた。
「まあ、今回の事は運が悪かったんじゃな。何せ相手は脳味噌まで筋肉でできているような奴じゃ、どうせ自分の縄張りから出てきたのも暇を拗らせての事じゃろうて」
「でもどうして魔王が? 魔王は勇者様が倒してくれるんじゃないの?」
「あ~、勇者……勇者のう」
アリサの何気ない質問に、ドラグニールは痛い腹を触られたように顔を顰めた。
当たり前の事なのに都合の悪いタイミングでソレを聞かれたような、答えに窮した表情にアリサは首を傾げた。
まさかアリサも、人類の希望であり半ば神格化されている勇者たちが普通の人間のように伸び悩んで城で燻っているなど、考えもしなかった。
「どうしたの?」
「いや……ゴホン。それよりも此奴には薬を飲ませたから、早ければ明日にでも目を覚ますじゃろう。そうしたらコレを割って儂に知らせてくれ。それまではベッドに縛り付けて置くんじゃぞ?」
ドラグニールはそう言うと、プレパラートのような物をフィーアに渡した。
受け取ったフィーアは小さく頷いて、受け取ったそれを大事にしまい込んだ。
「任せて、寝ずの番で見張っておくから」
「ふぉっふぉっふぉっ、それは頼もしい。それでは、儂は用があるのでまた明日の朝にお邪魔させて貰うよ」
「あ、お見送りいたします!」
ドラグニールが笑いながら部屋を出て行くと、フィーアも慌てて後を追った。
2人が居なくなり静かになった部屋に残ったアリサは、寝ている勇樹の顔を覗き込んで額に手を当てた。
「まったく……魔王と会ったなんて、君は一体何をしてるの?」
呆れたようなそれでいて穏やかな口調が呟きながら、無邪気に寝ている勇樹の頭を撫でた。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




