12話 少年、鬼を見る
(´・ω・`)PCトラブルに時間を取られて、オーバーしてしまいました……
――『闘気』。
この世界に於いて攻撃の基本にして奥義とも言われている、自分の魔力を攻撃に乗せる闘法。
一定以上の冒険者や騎士はこれを習得し、攻撃や防御に上乗せする事で身体能力を極限まで高める事が出来る。
「ハッ、そんな付け焼刃の闘気でオレに勝てるとでモ? だとしたら随分と舐められたものだナ」
突きつけられた槍の刃先から漏れるユラユラと湯気のように不安定な闘気を見て、小鬼王は一笑した。
「ははは、そうだね。正直、魔力がやけに抑え辛くって、まるで利き手じゃない方で箸を使って豆を摘まもうとしている気分だよ」
「フッ、それは己の未熟さダ」
「ごもっともっ!」
会話を切るように勇樹が踏み出し、槍を突き出した。
小鬼王は余裕の表情で体を半身だけずらして軽々躱し……苦悶の表情を浮かべた。
小鬼王が脇腹を見ると、そこには投げナイフが刺さっていた。
「チッ、やっぱり体から離れると一気に魔力が霧散するなぁ!」
「この程度の小細工で勝てると思うナ!」
勇樹はナイフが浅くしか刺さらなかった事に舌打ちし、小鬼王は脇に刺さったナイフを引き抜いて投げ捨て、勇樹に殴りかかる。
当たれば必殺の拳に取れる行動の選択肢などある筈も無く、過敏なまでに反応して数m後ろまで下がった。
同時に勇樹の集中力が切れてしまい、槍に纏っていた闘気が散ってしまう。
「ああっ!」
「どうしタ! 折角の闘気が消えてしまったゾ!」
「結構、制御が難しいんだよ! コレ!」
次々と繰り出される拳を何とか躱しながら、再び槍に闘気を纏わせようと試みる。
しかし、敵を目の前にして手元の槍に集中する事が難しく、闘気を纏わせるどころか暴れ回る自分の魔力を制御する事で手いっぱいだった。
「チッ!」
苦し紛れに投げたナイフを、小鬼王は払う素振りすら見せずに弾いて見せ、その中の一本は弾かずに握り潰した。
「ほう、また小細工カ。だが、もうオレには効かんゾ」
「それは残念っ!」
勇樹は再び、今度は赤いビー玉のような物を地面にバラ撒く。
それを見た小鬼王は咄嗟に高く跳び上がり、直後にバラ撒いた物が激しく光り出して爆発する。
爆発を回避した小鬼王が木の枝に着地しようとした瞬間、煙の中から闘気を纏った槍が飛び出し小鬼王の足を貫いた。
「チッ、あっちは囮か!」
「んなワケないじゃん! どれも本命、油断してたら取りに行くよ!」
「クッ、狂人メ!」
小鬼王は爆風の中を突っ切ってきた勇樹に悪態を吐きながら、追撃で突き出される槍を躱して木から飛び降りる。
しかし勇樹も空中で木を蹴って方向を変えて、小鬼王の方へ方向転換すると持っている槍を投げつけた。
槍は真っ直ぐ着地直後の小鬼王の足を貫いて、小鬼王は地面に縫い付けられた。
「がっ……だがこの程度デ!」
「いや、これで終わりだ!」
勇樹の台詞に小鬼王は咄嗟に上を仰ぎ見た。
そこで見たのは木の上で勇樹が息を限界まで吸い込む姿だった。
「食らえ、【竜咆】!!」
「な、竜魔法!?」
小鬼王が目を見開いて驚いた直後、勇樹の口から閃光が放たれ小鬼王を飲み込んだ。
「ふぅ……ちょっとやり過ぎちゃったかな?」
【竜咆】で撒き上がり中々晴れない土煙を見ながら、思わずそう呟いた。
しかし、それはすぐに思い直された。
煙の向こうで小さな人影が立ち上がり、腕を振るうと勇樹との間の煙が吹き飛ばされ、全身にダメージを受けてボロボロになった小鬼王が立っていた。
「くっ、まさか貴様が竜の系譜だったとはナ……勇者よりも厄介な手合いを相手にしてしまったようダ」
「一応こっちも全力だったんだけど、そんなあっさりと立ち上がって来ないでよ」
「バカが……この程度の息吹で倒れるほど、魔王の側近は甘くないゾ!」
小鬼王は威嚇するように牙を見せ、拳を振り上げた瞬間、上空から現れた影に小鬼王が踏み潰された。
「……え?」
突然、目の前で敵があさりと死んだ事と、新たに現れたソレに勇樹は思わず言葉を失った。
小鬼王を無視の様に踏み潰したソレは、全長は3m近く赤銅色の肌に額に2本の角を生やした……『鬼』であった。
「なんだ、竜が戦ってる気配を感じてみれば……ただのガキか」
「っ!?」
――たった一言。
『鬼』が勇樹に向かって発したたった一言で、勇樹は無意識の内に逃げる様に後ろへ跳んで距離を取った。
それが放つただならぬ空気が、勇樹の本能を過剰なまでに反応させていた。
しかし、『鬼』はそんな勇樹を路傍の石でも見るような目で見ると、すぐに視線を外して赤く染まった自分の足元を見た。
「あ……あ~、なんか潰しちまったか? まあいいや、どうせ雑魚だったんだろ」
自分の部下だった者を踏み潰して置きながら、それが大した事では無いように呟き、『鬼』は軽く頭を掻いた。
「しっかし、態々出て来ったってのに何もしないのもアレだな……よし、これでも潰して帰るか」
「!!」
『鬼』が何気なく勇樹の方を向いた瞬間、勇樹の中の警報が最大で鳴り響き、形振り構わず逃げ出した。
どこへなど考えている暇はなかった。
とにかく、あの『鬼』から離れて遠くへ逃げ出したいという一心で、必死に足を動かした。
だが、そんな勇樹の脇を黒い影が追い抜いて勇樹の前に立ち塞がった。
「おいおい、逃げんなよ」
「っ!」
ソレを視認した瞬間、勇樹は咄嗟にポーチに手を突っ込みながら反対側へ走り出す。
そして後ろ手に先ほどのビー玉のような物をバラ撒きながら、その場を離れようとして……腕を掴まれた。
万力のような強い力で握り締め挙げられて、勇樹は思わず声を上げた。
「ぐあぁぁぁ!?」
「ちょこまか動く奴だな。それに何だこれ?」
勇樹がばら撒いた物を全て掴んで手で握り潰し、開いた手からはサラサラと粉が舞い散った。
「全く、勇者がいるから何匹か嗾けてみりゃあ、勇者共はそれすら倒せねぇ雑魚だしよぅ。戦いの気配を感じて来て見りゃ、いたのはこんなガキ一匹か」
「……放せっ!」
勇樹はナイフに闘気を思いっきり纏わせると、自分を掴んでいる『鬼』の腕を思いっきり斬り上げた。
だが、ナイフは1mmも食いこまず金属でも叩いたかのような音と共に火花が散った。
「あ? その闘気は……」
ナイフに込められた勇樹の闘気を見て、眉を顰めた『鬼』がそれに手を伸ばそうとした時、黒い影が陰った。
『悪いが、そやつは儂の身内じゃから放して貰うぞ? 魔王』
次の瞬間、赤い閃光が勇樹と魔王と呼ばれた『鬼』との間を通り過ぎ、赤銅の腕が宙を舞った。
腕を斬り飛ばされた魔王はその影の正体に目を見開いて、凶悪な笑みを浮かべた。
「赤賢竜っ! 貴様か!!」
片腕を抑えながら魔王が見上げた先にいたのは、大きな翼を広げ魔王を見下ろす赤い鱗の竜――赤賢竜ドラグニールだった。
喜々としている魔王の反応とは対照的に、ドラグニールは普段の飄々とした雰囲気は鳴りを潜め、殺気に近い張り詰めた雰囲気を漂わせていた。
『目覚めて早々の所を悪いが、お主を相手にするのは骨なのでな。さっさと退場して貰うぞ』
ドラグニールは口を開くと口内に小さな光球が出現し、その光球より光の線のような【竜咆】が一直線に魔王へと伸びた。
まるでレーザーのような息吹が魔王の腹を貫き、そのまま横へ薙ぎ払って魔王の腹を焼き裂く。
「ぐっ!? ……チッ、目覚めたばかりじゃ分が悪いかっ」
【竜咆】によって焼き切られた片腕と脇腹を庇いながら、吐き捨てる様に呟く。
それに対してドラグニールは魔王の足元で倒れていた勇樹を摘み上げると、興味を失ったように魔王に向かって手を払った。
『ほれ、逃げろ逃げろ。儂も忙しいんで見逃しちゃるわい』
「その油断、後で後悔するなよ!」
魔王は捨て台詞を残して、魔王領の方へ消えて行った。
ドラグニールは魔王が離れたのを確認すると、翼を羽ばたかせて街の方角へと方向を変えて飛び立った。
その途中、気絶した勇樹を見てドラグニールは小さく息を吐いたのだった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。
11/06 後半をやや加筆しました。




