11話 少年、小鬼に足掻く
(´・ω・`)風邪をひいて喉が痛くて声も出ません……
ひょっとすると来週はお休みするかもしれません。
勇樹は森の中を駆けながら今後の対応について考えていた。
あの小鬼王とやらも、あの程度で倒せるなどとは毛ほども思ってない。
――必殺技が欲しい。
魔法もスキルもあるこの世界で、魔法が使えない勇樹は大きなハンデであった。
ドラグニール曰く、魔力がドラゴン寄りになっている為に人間が使う【属性魔法】が使えず、それと引き換えに【竜魔法】という物が使える筈だと聞いていた。
勇樹がたまに使う【竜咆】も【竜魔法】の一つではあるが、それは初歩の初歩、【属性魔法】でいえば「指先に火を灯す」という魔法を覚えるなら出来て当然のレベルである。
その上、勇樹は未だ吸い込んだ魔力をそのまま息吹として放つ事しかできない。
通常、竜種は取り込んだ魔力を自身の属性に強化した息吹を吐き、『爪と牙は万物の魔法を引き裂き、鱗は千の刃と万の魔法を弾く』と云われ、まさに魔法生物の頂点と呼べる最強のモンスターである。
そして、それらが【竜魔法】に因る物ならば、理論上は勇樹もその片鱗を扱える筈であった。
修行中に竜の里でも使い方を聞いた事があったが、『なら、どうやって2本足で歩いているのかを聞かれて答えられるか?』と返されては諦めるしかなかった。
現状ではあの小鬼王には敵わないと判断して逃げる事を選択した勇樹だったが、このままバカ正直に街へと逃げればどうなるかぐらいは容易に予想が付いた。
故にあの小鬼王を追い返すか倒すしかない。
そして追い返す場合は、相手の気まぐれなどではなく勇樹自身の手によって確実に追い返さねば、家にいる2人に万が一の事があっては堪らない。
「とはいっても、魔法もスキルもないんじゃなぁ……槍も折れちゃったし、はぁ……」
何気に勇樹は黒田号が折れてしまった事を思いっきり引き摺っていた。
火を吹いたり電撃を放つような特別な機能はないが、徹底的に強度のみを強化して折れず曲がらず、どんなに乱暴に扱っても変形しない武器を手前味噌ながら勇樹は密かに気に入っていた。
――何かが足りない。
竜の砦で修行していた頃、上級モンスターを相手に戦っていた時の感覚とは何かが欠けている。
そんな違和感に引っかかりながら、勇樹は森の中を街とは違う方向へ進んでいた。
但し、魔王と遭遇する恐れもあるので魔王領へ向かう事はせず、北側から回り込む様に東へと向かう。
途中、モンスターから隠れてやり過ごしながら装備の残りを確認しつつ、小鬼王にどう立ち回るかを考えていると、勇樹は足を止めた。
そして勇樹の視線の先には、地面に埋まったはずの小鬼王が岩の上に座り、待ち構えていた。
「ははは、中々早い脱出だったね。もう少しかかると思ってたけど」
「ふむ、アレは中々に抜け出すのに苦労したゾ。まさか、オレの魔力を利用して発動する魔道具だったとはナ。お陰で、自力で出る羽目になったワ」
小鬼王は肩を回して溜息を吐いて見せた。
一方、勇樹は小鬼王の放つ雰囲気が、先ほどよりも大きく濃くなっているのを感じ取って、冷汗が止まらなかった。
腰のポーチに手を掛けて、いつでも逃げ出せるように隙を窺っていた瞬間、小鬼王が目の前に現れた。
「!?」
「先ほどの礼ダ。吹き飛ベ」
物凄い殺気に反応して勇樹は咄嗟に腕をクロスさせるが、小鬼王の拳はガードの上から容易に勇樹は殴り飛ばす。
飛ばされた先にあった巨石が、勇樹が叩き付けられた衝撃で崩落する。
「ぐはっ!?」
右腕は粉々に砕かれ、左腕も骨にひびが入りながらもポーチに手を突っ込むと卵形の注射器を取り出して、無造作に右腕に刺して潰す様に握り締める。
注入された薬の効果が出始めると同時に、引き抜く間もなく勇樹は瓦礫から飛び出す。
「ごふっ……マズイ……!」
たった一撃で瀕死間際まで追いやられ、状況はさらに悪くなった
これ以上は逃げようがないと覚悟を決めた勇樹は、ポーチから1本の槍を取り出す。
それを見て小鬼王はニヤリと笑った。
「ほう、向かって来るのカ」
「これ以上は逃げようがないからね」
「ならば、その覚悟に免じてすぐに沈めてやろウ!」
小鬼王がそう言い終わると同時に、勇樹は反射的に体を逸らした。
その直後、鼻先数cmを小鬼王の足が空を斬った。
躱したと安堵する暇も無く、背筋がゾクッとしてその場から転がるように離れる。
すると、またもその直後に小鬼王の拳がその場に突き刺さる。
「ほう……これを躱すカ」
「はぁ……はぁ……ギリギリだけどね!」
肩で息をしながら、勇樹は小鬼王を見ながらある事を考えていた。
先ほど小鬼王は「オレを覆う障壁」という言葉を口にしており、それがある為に勇樹の攻撃は通じないのだと言っていた。
ならば……竜の砦に居たモンスターたちはどうだったのだろうと考えた。
確かに、最初の事は雑魚にすら槍が通じずに殺されまくっていたが、剣を手に入れて雑魚を狩っている内に上位のモンスターにまで傷を付ける事が出来ていた。
そのモンスターたちには障壁とやらが無かった筈がない。
現に砦に居たモンスターたちは勇樹が考え付く限りの攻撃でも傷すら作らなかったのである。
――ならば自分は、アレらのモンスターの“障壁”をどうやって突破していたのか。
勇樹がそこまで考えた所で、小鬼王は再び動き出した。
「呆けている暇はないゾ。足掻ケ」
「っ!? チッ!」
何か考えが纏まりそうだった所で再び攻撃が開始されて、考えが霧散する。
勇樹が小鬼王の攻撃を躱すには何も考えず、身体の反応に身を任せる必要がある為、それを阻害するような事が出来るほどの余裕はない。
バランスを崩す程に大きく体を逸らし、崩れたバランスのまま倒れ込んで地面を転がり、転がる勢いで立ち上がって走り出す。
「ハッ、どうした? さっきから逃げてばかりではないカ!」
「うるせー! げほっ、こっちにだって予定ってものがあるんだよ!」
「ならば、それを崩させて貰おウ!」
勇樹は木の陰に入りながら、必死に頭の中でバラバラになったパズルを集め直した。
『障壁』『竜の砦』『通じなかった攻撃』『通じた攻撃』『傷』……色々な単語が頭の中を飛び交って半ば諦めかけたその時、勇樹の眼に攻撃寸前の小鬼王の姿が映った。
「あ、アレは……」
それが目に入った瞬間、勇樹の頭の中の単語が一気に砕け散って、一つの答えが現れた。
そしてその直後、足を止めてしまった勇樹に小鬼王が殴り飛ばした大木が直撃した。
「うむ、これで終わりカ」
大木の下敷きになってピクリとも動かなくなった勇樹を見て、小鬼王はそう呟いた。
「では、次は街で雑魚退治と行くカ」
小鬼王はニヤリと笑いながらそう呟いて勇樹に背を向けた瞬間、小鬼王の耳に小さな呼吸音が聞こえた。
「なんダ? まだ生きていたのカ?」
そう言って後ろを振り向き、大木の下敷きになっている勇樹を見る。
しかし、呼吸で肩が動いている以外には指先すらピクリとも動いておらず、その下では赤い液体がダラダラと流れて地面を染めているので、このまま放置しても勝手に死ぬと判断して前を振り返った直後、小鬼王の肩に背後から槍が突き立てられた。
「!?」
「はぁ……はぁ……こんな基本的な事も見逃してたなんて……」
思わぬ不意打ちに小鬼王は大きく後ずさって、勇樹と距離を取った。
自分の肩をチラリと見ながら、小鬼王は勇樹に尋ねた。
「何故ダ。何故、オレの障壁が破られタ」
「ハハハ……簡単な事だったんだよ。そんな事、向こうの小説でもよく載ってたっていうのに完全に意識の外だったよ」
「一体何ヲ……!?」
勇樹の姿を見て、小鬼王は思わず言葉を止めて息を飲んだ。
小鬼王の視線の先、それは勇樹の持っている槍だった。
勇樹の魔力が腕を伝い、グネグネと揺らめきながら槍を覆っている。
「“闘気”……だト? バカな、そんな物に目覚めた所で何が……」
その瞬間、小鬼王は言葉を途中で切って先ほどの勇樹のように体を逸らした。
体勢を大きく逸らした小鬼王の頬を、勇樹の槍が掠めて行く。
「“魔力を攻撃に乗せる”。こんな事、思いっきり使い古されてるっていうのにすっかり頭から抜け落ちてたよ。ありがとう、答えを見せてくれて」
「……何?」
先ほど足を止めた時、勇樹の眼には飛び込んできたのは自分の腕に魔力を纏わせて攻撃に入る小鬼王の姿であった。
それを見た瞬間、そんな単純な事すら忘れていた事に思わず呆けてしまい、勇樹は大木を避けられなかったのである。
「ハッ、だがそんな粗末な闘気とも呼べぬ代物で、オレに勝てると思うのカ?」
「どうだろうね。でも、これでこっちの攻撃もお前に通じる」
勇樹はゆっくりと槍を持ち上げて小鬼王に向ける。
「さぁ、反撃開始だ!」
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




