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勇者は101人いる(旧版)  作者: 酔生夢死
4章 少年、鬼を見る

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07話 少年、謎が深まる

 ――ゴリ……ゴリ……ゴリ……


 何かを磨り潰すような音と薬草の臭いに刺激されて、徐々に意識が浮上してくる。

 薄らと目を開けると、赤い空が見えた。


「こ……こは?」


 首を横に傾けると、そこには敷物の上に寝かされた仲間の姿が見える。

 そしてその瞬間、自分たちに起った恐怖がフラッシュバックした。


「あ、ああ‥…あああぁ!!」


 見知らぬ巨大モンスター、成す術も無く殺された仲間、目の前に迫る牙……気絶するまでに様々な事が思い出されて体がガタガタと震えて身が縮む。

 思わず足を畳み小さくなって震えていると、磨り潰す音が止まった。


「あ、起きた?」


 声のした方に目をやるとそこには珍妙な格好をした子供がいた。

 服を覆面のように頭に巻き、裸になった上半身には泥のような物へ謎の模様を描いている。

 思わず誰何する事すら吹き飛んでしまった。

 すると、その珍妙な少年は手元で何か作業をすると、瓶を片手に近づいてきた。


「とりあえず気付けに一本どうぞ」


「あ、ああ……すまない」


 瓶の口からは若干変な臭いが混じってはいたが、酒の匂いがしていたので一思いに一気に煽った。

 瓶の口から液体が流れだし、口の中に酒の香りが充満した……と思った次の瞬間、得も言われぬ苦みとえぐみが、彼の舌に襲い掛かった。


「んぐっ!? ガッ、んぐんぐんぐ……」


 思わず吐き出そうとしたが、少年に顎を掴まれて瓶を逆さに口に押し込まれた。

 口の中の不快な物を吐き出す事も出来ず、口内から排除する為に……それを飲み込んでしまった。

 喉仏が動き、液体が食道を通って胃の中へ入って行く。

 暫くして、瓶の中が空になり全て飲み込んだ事を確認すると少年は手を放した。


「ゲホッゲホッ……何しやがる!」


 少年は抗議を無視して彼の手首を掴んで何かを数えたり、目を覗き込んだりするたびに脇に置いた紙の束に何かを書き込んでいく。


「どこか痒かったり痛い所はある? 目がくらくらしたり吐き気があったり、可笑しくも無いのに笑い出したいなんてことは?」


「い、いや、それはないけど……」


「なるほどなるほど……よし、元気になったみたいだね。じゃあ、さっさとお仲間を連れて帰りなよ」


「な、仲間?」


 少年に言われて思わず寝かされている仲間たちに目をやると、奇妙な事に気が付いた。

 真っ二つにされは筈のガードに腹を串刺しにされた筈の魔術師、一撃でボロボロにされた筈にスカウトが装備こそボロボロになっていたが、傷一つない姿で寝かされていた。

 最初は死体が並んでいると思っていたが、胸が上下しているのを見て生きて事が分かり、あのモンスターの襲撃は夢だったのかと思い掛けたが、血塗れ装備が夢ではなかった事を物語っていた。


「でも……それじゃあ、なんで……」


「いや、偶々変異種2体を狩ったら付いてきたんで、つい拾ってきちゃいました。あ、これ協会まで持ってってね」


「え、あ……へ?」


 彼の思考を打ち切るように、大きな昆虫の羽根が1枚と牙と爪がそれぞれ1本ずつを渡される。

 思わぬ贈り物に戸惑っていると、某猫型ロボットよろしく腰に付けた鞄から自分よりも大きな荷車を取り出した。

 そして3人をそれぞれ風呂敷で巾着包みに包むと、小慣れた要領で装備と一緒に荷車へ乗せた。


「さぁて、これで一人でも街まで運べるでしょ。んじゃ、後は頑張ってね~」


「ま、待ってくれ! 色々聞きたい事は山積みだけど、まずは礼をさせて欲しい! 命を救って貰ったのに何もしない程、恥知らずじゃないぞ!」


「あ、そういうのはいいんで、さっさと帰ってください。僕はこれからちょっと用事があるんで。じゃ!」


「お、おい、ちょっと!?」


 呼び止める彼を置き去りにして、少年は森の中へと消えて行った。



 買い物やその他諸々の用事を済ませた勇樹は、街をぶらついていたドラグニールと合流して帰宅した。

 買って来た物をフィーア達に渡すと、早速勇樹はドラグニールにある物を見せる。

 それを見たドラグニールは一言。


「それは間違いなく魔王が復活しておるのう」


「あ~、やっぱり……」


「それまでいなかったモンスターの変種が突然出現するのは魔王復活の特徴の一つじゃ。まず間違いなく、既にこの近くで魔王が復活しておる」


 猪型モンスターの牙を見ながら断言するドラグニールに、勇樹は眉を寄せて机に突っ伏した。


「はぁ~、こっちはこの前の奴でもボロボロだったのに、もう少し待ってくれてもいいんじゃないかなぁ」


「何を言っておるんじゃ情けない。というより、お主は一月もあって何をしていたんじゃ? 世界を回るとかじゃ言って置いてこんな屋敷まで買っておるし。先代の勇者であれば一月もあれば魔王を捻り潰せるほどの高みに上っておったぞ」


「べ、別にサボってた訳じゃないんだからね。ちょっとマジックアイテム作りにハマっちゃって引き篭もってただけなんだからね」


「それが原因じゃろうが……」


 呆れたように溜息を吐くドラグニールに対して、勇樹は笑って誤魔化した。

 傍から見ていたアリサが、ふと疑問に思ってフィーアに問い掛けた。


「ねぇ、あの人ってユーキ君のお爺さんなの?」


「いえ、わたしも先日が初めてお会いしたので……アリサ様はお会いした事は無いんですか?」


「わ、私だって彼に教会でご飯を食べさせてただけだから……それに考えてみれば私、ユーキ君の事は冒険者だってこと以外は何も知らないんだよね」


「大丈夫ですよアリサ様、わたしもユーキ様の事はよく知りませんから!」


「うん……それ何の励ましにもなってないからね」


 フィーアから若干ずれた慰めの言葉を掛けられ、アリサは苦笑いしながら溜息を吐いた。

 そんな風に2人が勇樹たちから少し離れた所で話していると、ドラグニールが何かに気付いて勇樹の方を振り向いた。


「そういえばお主、あの奴隷はハーフエルフではないか? 随分と珍しい物を住まわせておるのう」


「獣人とエルフとドワーフはファンタジーの王道だからね! いつかはエルフとかドワーフのいる所にも行ってみたいなぁ」


 目を輝かせながら言った勇樹の何気ない呟きに、ドラグニールは眉を顰めた。


「う~む、どちらも止めておいた方が良いと思うがのう。ドワーフは鉄を打ち酒と共に生きているような奴らじゃし、エルフは自分たちが高潔な種族と信じて疑っておらんから人間のお主が行っても碌な事にはならんぞ?」


「いいんだい! 会って話したりその場所へ行く事に意味があるんだよ!」


「お主がそれで良いのであれば、別に止めはせんがのう……ふむ、それにしても今までの勇者たちより遅かったとはいえ、異性を2人も囲い込むとはお主もやるのう。ただ手を出した臭いがせんのは若干気になる所ではあるが」


「は、何言ってんの? フィーアは家の事をやって貰う為に雇っただけだし、アリサさんは単に家出したシスターだよ」


「家出した言うな!」


 丁度お茶の追加を持って来たアリサに頭を叩かれる。

 その言葉を聞いたドラグニールは意外そうな声を上げた。


「なんと、今までの者たちはやれハーレムだの成り上がりがどうのと言っておったのに、お主にはそう言うのはないのか」


「人見知りのコミュ障にそんな事ができるわけないじゃん。女の子囲ったってギスギスしてストレス貯めるか、徒党を組まれて尻に敷変えるだけだよ。可愛くて自分だけに従順な無垢で純粋な女の子が欲しいならホムンクルスでも作ればいいんだよ。はぁ、早くゴーレム作りたい……」


「それはそれで極端じゃのう」


 自分の言葉で落ち込んだ勇樹を見ながら、ドラグニールはお茶を啜りながら呟く。

 歴代の勇者の中にはそう言う事に傾倒した者がいない訳ではなかった。

 少女の姿をした自動人形(オートマタ)人造人間(ホムンクルス)を作って人里離れた奥地に引き篭もった者もいたが、彼の遺物は彼が死んだ数年後に彼の作品たちの手によって廃棄されているので、勇樹が望むような記録は残ってはいない。


 話題が途切れて僅かな無言の後、アリサが小さく手を上げた。


「ユーキ君、それでこちらはどなたなの?」


「あれ? 言ってなかったっけ?」


「聞いてません。今朝初めて知りました」


 にべもなく言い切られて、気まずそうに頭を掻きながら苦笑いをして誤魔化す。

 しかし、アリサにジッと睨まれて観念したように肩を竦めた。


「えーっと、こちらは僕の……師匠? いや、保護者? 違うな……ねぇ赤爺、僕たちってどんな関係って言えばいいの?」


「まぁ……知り合いでいいじゃろ」


「じゃあ、それで。僕は赤爺って呼んでる」


「あのねぇ……」


 結局、よく分からない2人の回答に頭を抱えるアリサ。

 埒が明かないので、単刀直入に問うた。


「ユーキ君のお爺さんじゃないの?」


「ははは、それはないよ。だって赤爺は……」


 そこでドラグニールは腕を変化させてみせる。

 いきなり人の腕が真っ赤な爬虫類のような腕に変わって行くのを見たアリサとフィーアは目を丸くした。


「ドラゴンだからね。普人の僕とは血縁関係はないよ」


 その時の2人は目の前の事に驚き過ぎて、勇樹の言葉は耳には入っていなかった。

 結局、勇樹の知り合いが増えた事で余計謎が深まったのであった。


最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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