06話 少年、異変を感じる
(´・ω・`)サーヴァントが! 騎空団が!
私の時間を奪ってくるの!(自業自得)
先日に斬り落とした腕が見事に繋がり、勇樹が食い貪って空にした食料を買い込むため、アリサから買い出しを言い渡された。
といっても、勇樹には容量を気にせず入れられる“旅人の鞄”があるので金額さえ気にしなければ、所謂「この棚のここからここまで全部下さい」というのができるのである。
買い出しを早々に終えた勇樹は、暇潰しも兼ねて暫く顔を出していなかった冒険者協会へと足を向けていた。
「やあ、オッチャン。相変わらずこのカウンターには誰も並ばないね!」
「うっせ、おめぇも随分と久々じゃねぇか。買ったばかりの奴隷とあれやこれやで忙しかったかぁ?」
下品な笑みを浮かべながら聞いてきた受付け中年のアーノルドに、勇樹は呆れたように溜息を吐いて首を振った。
「単なる療養だよ。この間の騒動の時にちょっと手を怪我しちゃってね。動けないってワケじゃなかったんだけど、知り合いから絶対安静って言われちゃってね」
やれやれと肩を竦ませながら首を振る勇樹の台詞に、アーノルドは目を見開いて驚いた。
「お前……知り合いがいたんだな」
「いるよ!? もう一月はここに住んでるんだから、知り合いの一人くらいできるよ!」
といっても、勇樹の言う知り合いとは目の前のアーノルドと孤児院のアリサたちの事を指すのだが、アリサとも勇樹が行き倒れて彼女が拾わなければ出来ていなかった縁である。
さらに言えば、フィーアを買うまでは殆どを工房に引きこもり食事はノームから山ほど貰った干し肉で済ませ、フィーアが来てからは彼女が買い物に出ている為、顔見知りすらいない状態だったりする。
勇樹の所業を知っているアーノルドは、心外そうにする勇樹の主張を鼻で笑った。
「ハッ、冒険者らしいことを一つもやらねぇ奴が吹くじゃねぇか。そんなに言うんだったら、そろそろパーティ組む同業者の知り合いも出来たんだろうな?」
「そ、それとこれとは別の話じゃないですか」
「いやいや、冒険者だったらまず横の繋がりを作らなくちゃダメだろ。大概の事はウチの閲覧室でも調べられるけどよ。初心者の心構えっつうか躓きがちな事ってのは本には書いてないからな? ついでに言っとくが、初心者向けの依頼に複数人でやるのが多いのはそういう繋がりを作る場を与えるって意味もあるんだからな? お前は何か知らんが一人でポイポイやってるみてぇだけどよ」
「……いつも不真面目なオッチャンが、真顔で真面な事言ってる……明日は雷雨か」
「おう、そりゃどういう意味だ」
大げさに驚いてみせる勇樹に、アーノルドは青筋を立てて口角を歪めて狂暴な笑みを浮かべた。
「ハッハッハッ、そんな怖い顔を向けられたら僕って小心だからチビって心臓が止まっちゃうよ」
「おう、だったらチビろや。指さして笑ってやるからよ」
「は? やだよ、何でいい年してこんな所で漏らさなきゃいけないのさ」
「んだとこのっ」
カウンター越しに伸びてくる腕をヒョイッと躱すと、なおも腕を伸ばそうとするアーノルドを制して本題を切り出した。
「所でさ、この前の片づけってどうなってんの?」
「え~っと……ああ、あのモンスターの山のことな。一応、馬車の運行には問題ない程度に片付いてきてるぞ。早いとこだともう悪臭を出し始めてやがるから、そろそろ第3陣を送り出すのを検討中って所だな」
「そうなんだ。じゃあ、周辺のモンスターの分布はどうなってんの? 死骸に釣られたモンスターの駆除とか今回の進攻での森の被害状況とか」
勇樹の質問にアーノルドは首を傾げた。
「まあ、新人の護衛って事で死骸の周りには巡回を置いてるが……森の被害って何の事だ?」
「……は?」
アーノルドからのまさかの返しに勇樹は思わず目が点になった。
前回のモンスターによる進攻は数千からなる大移動である。
しかも、それは厳山竜を起点とする魔王による洗脳によって、周辺にいたモンスターを台風のように巻き込みながら移動して行った事が原因となっている。
山や川、森の奥地など生息域など関係なく引き連れて行ったので、森の様子は大分変っているだろうと勇樹は予想していた。
「いやいや、あんだけの大移動かあってそこに生息してた生き物が無事な訳ないでしょ? 下手したら植物にだって影響があるかもしれないんだよ?」
「あ~、そんな事ってあるのか? 森にいる奴にはかわんねぇだろ?」
「ダメだこの人……脳筋だったか」
今一、勇樹の言っている事が理解できていないアーノルドを見て頭を抱えた。
しかし、ここで問答を繰り広げても話しは進まないと見切りをつけ、勇樹は席を立った。
「とにかく、今の話を偉い人に話してみてよ。そうしたら事の重大さがわかると思うからさ」
「おい、貴様! また証拠にも無く……おい!?」
「じゃあ、今日は顔見せに来ただけだからこれで帰るね~」
帰る際に視界の端に何かいたような気がしたが特に気にも留めず、伸ばされた手を掴み軽く相手の重心を引き寄せると、立ち位置を入れ換えるようにクルリと回転させた。
引き込まれた方は踏み出した勢いそのままに、抵抗も出来ぬままアーノルドの前に置かれた椅子に座らされた。
突然話した事も無い冒険者が前に座ったので微妙な顔をしているアーノルドと、アーノルドの前に座らされてガチガチに固まってしまった憐れな冒険者を置いて、勇樹は冒険者協会を後にした。
――エルクレア西部。
魔王領へと繋がる森林の中で、一組のCクラス冒険者パーティが活動していた。
先日のモンスターの大進攻によって昨日まで冒険者の一番の稼ぎである採取系や討伐系依頼は制限されていた。
それが今日になって漸く解禁され、依頼書が張りだされた瞬間に協会内では乱闘騒ぎの奪い合いになるほどだった。
そして、そんな僅かに切り分けられたパイを手にした冒険者たちは、森に入って進んでいる内に様子がおかしい事に気が付いた。
「ねぇ、なんか森の中が静か過ぎない?」
「うむ、先ほどからモンスターに遭遇するどころか鳥の声すらしないである」
「……ダメ、さっきから糞も足跡も見つからない」
仲間のスカウトが地面を凝視しながら首を横に振る。
そこでリーダーの剣士が困惑したように周囲を見回した。
「おかしい、この前までこの辺にはグレイファングの群れがいた筈なのに……」
「移動したにしても、小型のモンスターまでいなくなっているのはおかしい」
「仕方ない。もう少し奥まで行って……」
その瞬間、木々の隙間からキラリと光が一閃した。
一同が気付いた時にはガードの身体が腰から切り離され、ドサリと鈍い音と共に上半身が落ちた。
突然の事にパーティ内に動揺が走る。
「……こ、攻撃!? でも気配が全くない!?」
「とにかく逃げろ! ここに居たら全滅だ!」
慌てて逃げようと体を反転させた瞬間に、木の上から黒い影が素早く降りてきて、魔術師の腹を貫いた。
そして、そこで漸く音なきモンスターの全容を目撃した。
「ぶ、ブレイドマンティス?」
「いや、それにしては色が黒いぞ!」
突如として現れた両手に大鎌を備える異色の昆虫型モンスターに、生き残った冒険者たちは異様な雰囲気を感じ取って武器も投げ捨てて形振り構わず走り出した。
幸いというか、黒き暗殺者は2体の贄で満足したらしく逃げ出した冒険者たちを追うそぶりは見せなかった。
しかし彼らの不幸はそれだけに止まらなかった。
「な、何でコイツが……!!」
森の出口までもう少しという浅い所で、彼らの前に新たな襲撃者が現れた。
「ぐ、グリードグリズリー!? なんで冒険者が徒党を組んで相手するような大型モンスターがこんな森の入り口近くにいるんだよ!?」
本来、森の中部から奥地に生息するようなモンスターは森の浅い所には出て来ないというのが常識であった。
しかし先日の大進攻によって多くのモンスターが散り、普段はいないような所に取り残されていたのである。
――グオォォォ!
「ちくしょう! こんなの相手にどうしろっていうんだよ!」
「と、兎に角逃げ……」
スカウトが逃げようと身体を捩った瞬間、大熊の腕がその小さな体を吹き飛ばした。
大木すら圧し折れる怪力に吹き飛ばされ、一撃で絶命したのは幸いだったのか……
残り1人となった剣士は恐怖の余り腰が抜け、ガタガタと震えながらその場に座り込んでしまった。
「だ、誰かたすけ……」
彼が最後に見た光景は、白く鋭い牙が生え揃った赤い口内だった。
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