05話 少年、再生する
主人が奴隷に首輪を着けられるという、本人からすると割とショッキングな事件から勇樹が食事をすっぽかすという事が無くなってから数日後、勇樹は新たな危機に遭遇していた。
最初に気が付いたのは普人よりも優れた感覚を持つエルフの血を引くフィーアだった。
その日のフィーアはいつもの様に朝食の支度を終えると、主人である勇樹を呼ぶ為に工房へ向かう。
やりたい事が出来ると昼夜を問わず集中する彼女の主人は、この屋敷を購入してから数えるほどしか自分の寝室で朝を迎えた事が無い為、フィーアも勇樹に用事がある時には自然と工房へ足を向けるようになっていた。
工房の前までやって来ると、ドアをノックして中にいるであろう勇樹に呼びかける。
「ユーキ様、朝食の用意が出来ました。部屋から出てきてもらえませんか?」
声を張り上げるような事は無く、それでいて部屋の中にまで聞こえる様にハッキリとした口調で呼びかける。
しかし何かの作業に集中していて聞こえてないのか、はたまた寝落ちしてしまっているのか、いつも通り部屋の中からは返答が無い。
「ユーキ様、起きていらっしゃいますか? もう朝です。朝食はしっかり取りませんと、またアリサ様に叱られてしまいますよ」
『うぅ……』
だが、中から聞えてきたのは小さく呻くような声だった。
ただならぬ気配を感じたフィーアは慌ててドアを開けた。
部屋に入ると中では勇樹は床に倒れ、呻き声を上げていた。
「ゆ、ユーキ様!? しっかりしてください! 大丈夫ですか!?」
――ぎゅるるる~~~
「……へ?」
驚いたフィーアが慌てて勇樹に駆け寄り、抱き起して呼びかけると、返答が口からではなく腹から聞こえてきた。
余りに予想外な返答に固まっているフィーアを余所に、勇樹の腹は引っ切り無しに鳴り続け、漸く一言だけ口を開く。
「お、お腹……空いた……」
干乾びる寸前のような擦れた声を絞り出し、力なく伸ばされた右腕がパタリと落ちた。
「え、えーっと……?」
昨晩もアリサ達よりも多めに盛った夕食を平らげた後に、余った分を確りお代わりまでしていた筈の勇樹が何故、こんな状況になっているのか全く分からないフィーアは一先ず勇樹の食事を作る為にキッチンへと駆けるのであった。
「がぶっもぐもぐガツガツガツごくごくごく……がぶっがぶっもぐもぐもぐ」
「うわぁ……なんか、初めてユーキ君を拾った時の事を思い出しそうな光景ね」
山盛りの皿が片っ端から空になって積み上がって行く光景に、アリサは思わずそんな言葉を漏らした。
現在、アリアとフィーアの2人掛かりで引っ切り無しに料理を作っては、椅子を持ち込んで待機している勇樹がそれを片付けて行くという流れ作業が彼是2時間ほど続いていた。
そんな一向に食べる量に衰えを見せない勇樹を、目を細めて眺めている人物がいた。
「ふぉっふぉっふぉっ。お主、少しは心臓の方が馴染んできた様じゃのう」
「ほういふほほ? むぐむぐ」
勇樹の健啖っぷりを目を細めながら見ていたのは赤爺こと赤賢竜ドラグニールであった。
厳山竜と交戦したという事で勇樹の様子を見にやってきたドラグニールは、勇樹を見ながらそんな事を呟いた。
「微かじゃが、お主の身体から発する魔力が竜に近づいておる。どうやら身体が竜の魔力に適応してきた様じゃのう」
「ほふはの? むぐむぐ、しぶんはよふわははないけほ」
「嘘だと思うんじゃったら【能力表示】でも覗いてみれば良かろう」
「ふう……ステータス? 何言ってんのさ赤爺、そんなゲームみたいな」
「お主こそ何を言っているんじゃ? 【能力表示】魔法は勇者の特権じゃろうに」
ドラグニールを笑い飛ばそうとしたが、本人の真面目な表情に食べる手を止めて【ステータス】と唱えた。
そして、約一ヶ月ぶりとなるそれを見て、勇樹は思わず懐かしい声を上げた。
「あ~あ! あったねこんなのも」
「あったねってお主は……それでスキルの方はどうじゃ?」
「う~ん、称号が幾つか増えてるのと……あ、『竜の心臓』ってスキルの横の数字が増えてる。でもレベルは増えてないよ?」
「まあ、その辺はまだ足りん物があるんじゃろうて。精進せいよ」
「あははは……その辺は善処しま~す」
ニヤリと笑うドラグニールの話を笑って誤魔化し、再び食べ始めた。
そこで勇樹にふとした疑問が浮かんだ。
今回、勇樹はアリサたちのお陰で三食を確り食べ、行き倒れるような状況にはなっていない筈であった。
しかし、実際には空腹で倒れて、今も4人前ほどの料理を平らげている。
「ねぇ赤爺。なんか食べても食べても足りないんだけど、どうしてか分かる?」
「ん? それはお主の身体が竜に近づいて、より強靭な肉体に作り替わろうとしているからじゃろうな。おまけにぶった切った左腕を繋げようと身体が栄養を欲しておるんじゃろ」
「もぐもぐ、じゃあ暫くはこのままって事?」
「というより、完全なドラゴンになればさほど食べなくとも生きて行けるんじゃが、体は人間のままじゃからのう……恐らく食べる量は間違いなく増えると思うぞ」
「マジですか……もぐもぐ」
ショックを受けながらも食べる手は止まらず、頭を抱えながら食べるという器用な事をしていた。
すると、今まで調理をする方に集中して話を聞いているだけだったアリサが話しに入って来た。
「ちょっと、まさか毎回これだけの量を食べるっていうの? 流石にそれはフィーアの負担が大きいわよ!?」
「何、自分の餌ぐらい自分で用意すればいいじゃろ。どうせユーキもその位の蓄えぐらいはあるんじゃろう?」
「ん~、まあ剥ぎ取った後の肉なんかは凍らせたまま仕舞いっぱなしにしてあるよ。お陰でお肉だけは困ってないです、はい」
冒険者協会などではモンスターの皮や牙爪などの部位を買い取る事はしているが、肉については特別に買い取りをしていない。
持ち込まれれば安値で買い取りもするが、それはあくまで買い取り部位のおまけでしかない。
一般で出回っている食用の肉は、牧場の家畜や市場が専門で雇っている冒険者が狩って来たモンスターの肉が占めているので、普通の冒険者はモンスターの肉を売るルートは無く、よほど希少なモンスターでもない限り真っ先に捨てられている。
そんな事情もあって、狩ったモンスターを丸ごと回収している勇樹の鞄には、皮を剥いだままに肉と内臓がそのまま貯まっていて、時折ブロックに切り分けた物をフィーアに渡していた。
「じゃあ、今度バーベキュー用にマジックアイテムでも作るかな。幸いウチの庭は広いから丸焼きするスペースもあるし」
「それがいいじゃろうな。それに“竜の心臓”の適応が進めば、腕をぶった切っても一日程度でくっ付けられるようになるじゃろうて」
「自分が人外になっていく様をまざまざと見せつけられる訳ですね、わかります」
「ふぉっふぉっふぉっ、どれだけ体が丈夫になっても人間である事には変わらんから安心せい」
そう言う問題でもない気がしたが、勇樹はその言葉をスープと一緒に呑み込んだ。
漸く腹の虫も収まりドラグニールが帰った後、左腕の切り口がムズムズし始めたので固定していた包帯を取って見る事にした。
「ねぇ、大丈夫なの? もう随分経つけど腐ってない?」
「一応薬にも浸けてたし、体質のお陰なのか全然腐ってないよ。ただ……うわぁ」
留めていた布を剥がすと切り口の肉がブクブクと盛り上がり、よく見ると脈動していて切り離された腕とくっ付こうとしていた。
「我が体の事ながら気持ち悪っ」
「こ、これはちょっと凄いわね……」
「これ、どうなってるんですか?」
顔を顰める勇樹に釣られて、アリサとフィーアも覗きこんで言葉を濁した。
時間にすれば数分ほどだったが、ブクブクと盛り上がった肉は次第に収まり、やがて切り口が無かったかのように綺麗に繋がっていた。
勇樹は腕を数回振り、手を開け閉めして完全にくっ付いた事を確認した。
「おお! 腕がくっ付いた!」
「ほ、本当に戻ってる……こんなの回復魔法でも聞いた事ないわよ」
「普人族ってみんなさん、こうなんでしょうか」
「いやいや、そんな訳ないからフィーアも勘違いしないで」
フィーアの勘違いを慌てて訂正するアリサを余所に、勇樹はコソコソと部屋を抜け出して、帰って来てからやり残していた事を消化する為に工房へと戻って行った。
しかし、すぐに勇樹は工房から引っ張り出され、勇樹が食べ尽くして空になった食料の買い出しをする為に駆り出されるのであった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。
※特に意味のないステータス
ユーキ・イトー
AGE:17 SEX:M
Lv8 HP:7650/7650
MP:30990/30990 SP:15990/15990
筋力:897
耐久:797
敏捷:1197
知力:597
精神:1047
運 :4
属性:無(竜)
スキル:『異世界言語』Lv8 『■■■■(未覚醒)』『竜の心臓』Lv1(5/6)
『剣術』Lv6 『槍術』Lv4 『気配遮断』Lv6 『気配察知』Lv5 『回避』Lv7 『直感』Lv7 『職人系技術』Lv7 『竜魔法』Lv3 『知識閲覧』Lv8
称号:『巻き込まれた一般人』『毛玉に負けた男』『野生児』『石器の職人』『覚醒者』『愚か者』『種族:半竜人』『ノームの里の弟子』『生体知識庫』『行き倒れ』『暴風少年』『一騎当千』『厳山を越えし者』『ハーフエルフの奴隷』




