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勇者は101人いる(旧版)  作者: 酔生夢死
4章 少年、鬼を見る

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03話 少年、ゴーレムを作りたい(願望)

先人曰く「物語を作る時にガチガチに設定を組んでいたら話が作れなくなる」だそうです。

その点、この話の設定はガバガバなので問題ないですね!

 モンスターの大進攻以降、勇樹の生活サイクルは少々変化した。

 まず、左腕が使えず重心がズレて歩き辛いので出歩く事が減った。

 その代わりに工房に引き篭もる時間が増えたが、ここでも左腕が使えないので精々が簡単な物を作るか、設計図を引く程度しかできない。


 そして、今日も今日とて工房に篭っている勇樹は、『魔法が使えるようになったら使いたい魔法ベスト5』のゴーレム製作をしようとしていた。

 が……


「だー! また失敗した!」


 既に数えるのがバカらしくなるくらい繰り返した何十回目の失敗。

 実験機での試行で思うような反応が出ず、行き詰まり過ぎて勇樹は手に持っていた道具を机に放り投げて、背中を反らせて椅子を傾けた。


「チクショー、まさかこっちの世界に人工知能的な物が無いとは思わなかった……」


 大きな物を作る上で、手が足りないと感じた勇樹は自立式ゴーレムを作ろうと考えていた。

 しかし、すぐに立ち塞がったのが自分で思考するという回路、所謂AIであった。

 この世界ではゴーレムと言えば人が魔法で作り上げた物か、モンスター化した物しかなかった。

 どちらも最初に「一定の範囲を歩き回れ」や「近づく者を攻撃しろ」などの単純なコードを入力して置いて、後はリモコンの様に動かすという方式しかなく、勇樹が望んでいるような命令をすれば後は自分で考えて動くようなゴーレムは無かった。


 そこで次に勇樹が当てにしたのは師匠でもあるノーム達だった。

 ノームの里にいた頃に勇樹はノーム達の手足になって労働をしているゴーレムたちを見かけていたので、絶対にそういう物があると確信して連絡を取ったのだが……ノーム達の返答は「そう言う発想はなかった」という物だった。

 ノーム達は低級精霊を捕まえて、それをゴーレムの脳として運用する方式をとっており、この形式では1つの命令を継続する事は可能だが、自己の判断が求められるような命令を熟す事が出来ない。

 ノーム達もそれほど大量に人手を要する物を作る事が無いので、そういう物を作るという発想すらなかったのである。


「まさか研究好きなノームもその手の事には手を出していないとは……これじゃあ本格的に手詰まりだぞ~」


 思考が堂々巡りしていた所へ、昼食の時間になりフィーアが呼びに来たので実験を中断する事にした。



「とはいう物の、どうした物か……」


 フィーアが作ってくれた昼食を、勇樹は上の空で食べながら頭を悩ませていた。

 そんな様子に、アリサが呆れたように注意する。


「ユーキ君……食事の時ぐらい実験の事は忘れなさいよ。ここの所ずっとじゃない」


「う~ん……そうだね……」


 生返事の勇樹にアリサは目を吊り上げた。

 孤児院でも食事中にふざける子供はいるので、別段に珍しい事ではないので対応も慣れた物だった。


「こら! いい加減にしないと作ってくれたフィーアにも失礼でしょう! 食事の時は食事に集中しなさい!」


「い、いえ、私は別にそんな……」


「う~ん……」


 突然、話を振られてビクッと肩を竦ませて恐縮するフィーアだったが、勇樹は変わらず無反応である。


「はぁ、スライムじゃないんだからボーっとしないで、少しは何か反応しなさいよ」


「う~ん……うん? 待てよ、スライムって確か……そうだ! その手があったか!!」


 アリサの何気ない一言で、勇樹は机をバンと叩いて立ち上がった。

 そして、バタバタと鞄やマントを手に取ると部屋を出て行ってしまった。


「ちょ、いきなりどうしたの……って、どこ行くのよ!?」


「ごめん! ちょっと出かけてくる!」


 何やら慌てた様子でアリサの問い掛けに答えると、遠くの方でバタンとドアが閉まる音がして勇樹は出掛けてしまった。


「一体何なのよ。もう」


「申し訳ありません……」


 呆れるアリサの呟きに、フィーアが困ったように頭を下げた。



「……で? これは何?」


 勇樹がドタバタと出かけてから3時間後、帰ってきた勇樹を見たアリサは口元を引き攣らせていた。

 暢気に笑う勇樹の後ろには網に包まれた3体の影が……


「今やっている実験にちょっと魔法で動く生物のデータが欲しくて、捕まえて来ちゃった」


 ――カタカタカタ


 勇樹の背後にはスケルトンとスライムと石像が生け捕りにされて、モゾモゾと動いている。

 それを見たフィーアは顔を真っ青にして気絶してしまい、アリサが激怒した。


「捨ててきなさい!」


「えー、折角捕まえたのにー」


「捕まえたのにーじゃないわよ! モンスターを飼うなんて何考えてるの!」


「でも、テイマーとかいるよね? それにムクムクも市場で生きた奴を見るよ?」


「アレはEランクで動物と変わらないからでしょ! スケルトンは完全な魔物で人を襲う危険なモンスターなのよ! スライムだって雑食で何でも食べる害獣だからさっさと退治しちゃなさい」


 そう言ってアリサが指を差した先では、スケルトンがカタカタ骨を鳴らし、スライムがブルブルと身を震わし、石像は相変わらずそこに佇んでいる。


「え~、折角面倒くさがるオッチャンから生息場所を聞き出して捕まえて来たのに~、特にスケルトンは普通の網じゃすぐに破っちゃうし、網に聖水を漬け込んだら暫くすると浄化されて消えちゃうし、結構苦労して捕まえたんだよ~?」


「そういう! 問題じゃ! 無いでしょう!」


 アリサが怒っている理由は、アリサが教会のシスターでアンデットのスケルトンを毛嫌いしているからではない。

 レイスやスケルトンを始めとするアンデット系モンスターは、生息域や出現場所を選ばず『死があった場所』ならば街中でも発生する上、奴らの餌は“人の精気”である。


 王都であるここでも、一月に数件は墓地やスラムから発生したアンデットに取り殺される事件が発生している。

 そして、そう言うのを駆除するのも教会の役目であった。

 アリサもシスターの修業時代にはアンデット駆除によく駆り出されていて、その危険性は十分に理解していたからこそ勇樹の行動を怒っていた。


「そもそもアンデットなんて飼えないわよ! いいからさっさと駆除しちゃいなさい!」


「やだ~やだ~、フリードリッヒⅩⅢ世とゲロベルト閣下とブロッケン軍曹は絶対に飼いたい飼いたい~!」


「な、何なのよその大層な名前は……だからモンスターは飼えないって……うん? 名前が3つあるけどモンスターは2匹じゃないの?」


「え、ちゃんと3匹いるよ? スケルトンとスライムと……」


 ゆっくりと勇樹は石像の方を指差し……


「ガーゴイル」


「がーごっ!?」


 『ガーゴイル』、爪には毒があり石像への擬態能力と飛翔能力を持ち、主に遺跡やダンジョン内部に生息する魔法生物。

 奇襲や対応の厄介さからCランク……中級レベルと位置付けられているモンスターである。

 ちなみにCランクに上がったばかりの冒険者の大半が、このガーゴイルのような擬態能力を持つモンスターによって全滅している。


「ちなみに連れて来るのはガーゴイルが一番楽でした。だってこいつ等、日差しの下だと石像のままで動かないから背負って持って帰れたし。スライムなんかバケツで掬えるかな~って考えてたらアッという間にそこを食い破られちゃってさぁ」


「そ、そんな事はどうでもいいわよ! もしここでガーゴイルが暴れ出したら……」


「大丈夫、大丈夫~。あ、じゃあ3匹とも運んじゃうね~」


「ああ、ちょっと!?」


 アリサの制止も聞かず、勇樹はスケルトンたちを台車に載せて運び入れてしまう。

 アリサも慌てて後を追い掛けるが、目前で工房の戸を閉められてしまった。



「もう信じらんない! ユーキ君ってば何考えてるの!?」


「ま、まあまあ、アリサ様……」


 勇樹に締め出されたアリサたちは、談話室にあるふかふかなソファーに身体を埋もれさせていた。

 アリサはお茶が入ったカップを持ちながら唇を(すぼ)める。

 ブツブツと愚痴るアリサを、フィーアは苦笑いしながら宥めた。


「ユーキ様も多分その辺は考えていますよ。それに生きたままというのは初めてですが、今までも大型のモンスターを持ち帰った事は何度もありますから、こういう事には慣れているんですよ。きっと」


「でも、この屋敷には戦えない私たちもいるのよ? もし逃げ出して私たちに襲い掛かって来たら……」


 アリサがそこまで言ったところで、談話室の扉が勢いよく開けられた。

 直前の話題から、2人は思わず体を硬直させる。

 もしや本当に勇樹がスケルトンたちを逃がしてしまったのではないかと、ビクビクしながらゆっくりと扉の方へ顔を向けると、顔を俯かせた勇樹が部屋に入って来た。


 呆然した様子でノロノロとソファーに座ると、フィーアが慌てて勇樹にお茶を入れた。

 フィーアからお茶を受け取ると、熱さも構わず一気に飲み干して何やらブツブツと呟いた。


「完全に想定外だ……結局、スケルトンはゴーレム方式だったし、ガーゴイルは石に擬態するだけの魔物だったなんて……しかも、理想形に近かったのがついでに捕まえたスライムって、単細胞生物並みの知能でどうやって人型を動かせばいいんだよ……!」


 勇樹の目論見としては動かない左手の代わりや、足りない人手を補う為の作業用ゴーレムが欲しかったのである。

 そして、その動きに近いであろうスケルトン・ガーゴイル・スライムの3匹を捕まえて蓋を開けてみれば、スケルトンは決まった動作しかできず勇樹との間に壁を置いてもそれを避けようとすらしなかった。

 ガーゴイルについては完全な石化能力で自身を石像に変えていたが、それ以外は普通の血が通っている生物と何も変わらない事が分かった。


 そして最も驚いたのがスライムであった。

 古今東西、スライムは様々な作品にて色々な解釈がなされている。

 アメーバのような単細胞生物であるとか、それ自体が魔法で意思を持ったモンスターであるなど云々。

 そして勇樹が調べた結果、この世界のスライムはガラス玉のような魔法核と筋肉や消化液の役割を果たす粘液の2つから構成されている事が分かった。

 つまり、スライムこそが勇樹の求めていた自立した魔法生物だったが、同時にその知能の低さが問題となった。


「最低限、アームを動かす動作だけでも教え込みたいけど、それをどうやって真っ新な知能に伝える? 一から教えるのは可能だけど時間が掛かり過ぎるし……ああ、モデルさえあれば複製は簡単なのに!!」


「ねぇ……なんかブツブツ言ってるけど大丈夫なの?」


「えーっと、ユーキ様は時折ああしてご自身の考えを纏めていらっしゃるので、わたしも最初は驚きましたが心配はありませんよ」


 若干どころではなく引いているアリサの問いに、フィーアは綺麗な笑みを浮かべたまま空になった勇樹のカップにお茶を注ぎながら、少しも淀む事無く答えた。

 いつの間にか取り出した設計図と血走った目で一心不乱に向き合っている勇樹に優しい微笑みを向けるフィーアの顔も、アリサの目には『諦念』や『慣れ』といった感情が隠れているようにしか見えなかった……


 結局、ゴーレムの作成には時間が掛かるという結論しか出なかったので、続きは切れた左腕が繋がってから再開する事にした。

 ちなみに、捕獲したスケルトンとガーゴイルは餌と飼育スペースが確保できないという理由で素材行きに、スライムは談話室でオリハルコンを使用した水槽で飼われる事となった。



最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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