02話 少年、戦後処理を手伝う
(´・ω・`)ゲームだと倒したモンスターは消えてくれるからいいですよね。
現実では悪臭や病気の元となるので、死体の処理はちゃんとしましょう。
魔王復活の兆しと思われるモンスターの大進攻は冒険者と騎士、そして勇者たちの活躍によって少なくない死傷者を出しながらも無事食い止められた。
戦闘が終わった直後は、冒険者も騎士も貴族も平民も関係なく勝利に湧き、一晩中どんちゃん騒ぎが続いた。
だがこの世界はゲームではない。
仮にこれがゲーム、あるいはそのルールに準じた世界ならば倒したモンスターは光に消え、代わりにドロップアイテムでも落ちているのだろう。
しかし、この世界にはそんな優しいルールはなく、死んだ者はキッチリその場に残る。
加えて、エルクレアは一年を通して温暖な気候である為、物が腐り易い。
そんな所に死体の山など放置しておけば1週間も経たずに悪臭を撒き散らし始め、病原菌の巣窟となる。
腐敗はこちらの感情など構いもせずに進んで行く為、例え仲間を失っていても愛する者と会えなくとも片付けなければならない。
モンスターの進攻の所為で物資も不足しているので、輸送を行う為にもモンスターの死体の山に埋もれている街道の周りだけでも片付けなければ、満足に物も運べないのである。
エルクレア郊外、街道があった場所にEランクからCランクまでの冒険者が集められていた。
「という訳で、これより街道一帯のモンスターの死体を片付ける! 剥ぎ取った後の素材を売りたい物はこっちに買取所を設置した。終わった者から上がっても良いぞ!」
「「「う~す」」」
ノロノロと冒険者たちが割り振られた死体の山へと散らばって行く。
実はこの作業、Cランク以下の冒険者は強制参加で普段稼ぎの少ない者にとっては稼ぐチャンスなのだが、拘束時間が長くおまけに血塗れになるので参加した冒険者たちのやる気は果てしなく低かった。
そして、ここにも一人。
冒険者協会からの呼び出しによって強制参加したFランクがいた。
「剥ぎ取り~♪ 剥ぎ取り~♪ 楽しいな~♪」
人数の都合上、何故か一人になった勇樹は自前のナイフで手際よくモンスターを解体していく。
他の冒険者が刃を入れる事すら苦労している中、まるで熱したナイフでバターを切るが如く吸い込まれるように、スルスルと肉と骨と皮を切り分ける。
左腕が使えないので、右腕と両足に時には口まで使って器用に道具を使って剥いで行く。
「はぁ、それにしても剥いだ後の物が邪魔だなぁ。これだったらフィーアも連れて来て手伝って貰うんだった」
剥ぎ終わった皮を足で押しながら、疲れたように溜息を吐いた。
ただ黙々と作業を進めて数時間が経ち、昇っていた太陽が頭上までやって来た頃、単純作業に飽きていた冒険者達は各所で小競り合いが始まってしまった。
「おい! その皮は俺たちが剥いだ奴だぞ!」
「バカ言うな! これは俺たちのエリアにあったモンだ! テメェこそ変な言いがかりつけんじゃねぇ!」
「んだとっ!」
やれ剥いだ皮の数が足りないだの、そっちが盗んだこれはウチのだと言い争いがそこかしこで起り始めていた。
当然、協会から派遣された監視が仲裁に入るが、元々は血の気の多いチンピラ同然の冒険者である。
あっという間に殴り合いになって、周囲がそれを囃し立てて賭けを始めてしまった。
そんな空気の中、一人だけ暢気に黙々とモンスターの死骸の解体作業を進めていた輩がいた――勇樹である。
「すみませーん。作業が終わったんで帰っていいですか?」
「は? おいおい、終わったってまだ昼前だぞ? 最低でも2体はやって片付けて貰わないと困るぞ」
暢気な声で声を掛けてきた勇樹に、受付けをしていた衛兵は顔を顰めた。
山のように積まれた死骸を片付ける為、片付けに参加している者には取った部位を好きにさせる代わりに、一日のノルマが課せられていた。
そうでもしなければ到底片付きそうにない量なのである意味仕方のない事だった。
「ええ、ですからあの辺りにあったのは片付けましたよ?」
そう言って勇樹が指差した先には、テニスコート程のスペースだけが綺麗に片付けられ、肉片一つ落ちていない空白地帯になっていた。
周囲がモンスターで山積みになっているので、余計何もないそこだけが際立って見える。
受付けをしていた衛兵があんぐりと口を開けて言葉を失っている脇で、勇樹はさっさと証明だけ貰い、伸びをしながら帰って行った。
その直後に我に返った衛兵は勇樹を引き留めようとしたが、既に勇樹の姿はなかった。
「という事でお勤め終えて帰ってまいりましたー! ただいまー」
扉を開けながら騒がしく帰ってくると、奥からフィーアが早足でやって来て一礼して勇樹を迎えた。
「ユーキ様、お帰りなさいませっ!」
「あーうん、ただいま。今お風呂大丈夫かな? 作業させられてたら血だらけになっちゃって、ちょっと臭いんだよね」
「はい、ユーキ様が出かけられた後にアリサ様がお風呂の準備をしておいた方が良いとおっしゃられていたので、準備は出来ております」
「りょうかーい。じゃあ、ちょっと入って来るねー」
この世界の風呂は基本釜焚きが主流である。
何しろマジックアイテムに使えるようなサイズの魔石は希少で、発見されればまず国が買い取り滅多に市場には出回らない為、日常用品にマジックアイテムはまず使われない。
それに引き換え、勇樹の場合はノーム達から様々な資材を選別に受け取っており、その中には魔力結晶と呼ばれる魔力が結晶化した物も混じっていた。
それのお陰で勇樹の屋敷の風呂場は、まるで現代日本の風呂の如く蛇口を捻ればお湯が出てくる上に、タイルに魔術回路を仕込む事で風呂場内は一定の温度に保たれ、浄化効果で常に清潔が保たれている。
細部まで拘って作った、勇樹の自慢の作品の一つである。
尚、この風呂場が風呂場として使用された事は殆どなく、主に汚れてしまった素材を洗う際や物を作る時に水が必要になる場合の水場として使う場合が多かった。
そして、これを作った当初は勇樹一人で住む予定だったので、当然ながらこの風呂場は男女で別れてはいない。
現在、この屋敷には女性2人がいる。
つまりこれは起こるべくして起こった。
「ふう、良いお湯だった~」
「さぁて、外で作業して汗掻いちゃったから流さないと……」
「「……あっ」」
丁度、風呂に入る者と風呂から出て来た者が鉢合わせしてしまった。
お互い、予想もしていなかった出来事に固まり、思わず見合ってしまう。
そして無意識に、入って来た者の視線が首から下へ下がり……
「き、きゃ~~~!」
「ご、ごめんなさい! まさかユーキ君がもう帰ってるなんて思わなくて!」
出て来た者が思わず甲高い悲鳴を上げ、入って来た者は慌てて脱衣場を出て扉を閉めた。
扉を閉めた所で安堵の溜息を吐いた所で、何かがおかしい事に気付いて扉に向かい合った。
「いやいや、ちょっと待って。なんで男のユーキ君の方が声を上げてるの!?」
「いやぁ、お約束かな~っと思いまして」
「今の声、どうかなさいましたか!?」
悲鳴を上げられて納得のいかないアリサと、悲鳴を聞きつけて飛んできたフィーアが何やら言い合っている声をBGMに、とりあえず勇樹は服を着る事にした。
「とりあえず、今後はこんな事が起らないように戸に板を掛ける事にしました」
風呂から出た勇樹と入れ替わるようにアリサが風呂に入り、出てきて一息ついた所でコソコソと部屋の隅で内職していた勇樹が2人にそう宣言した。
しかし、突然言い出したので2人は一瞬、勇樹が何を言いたいのか分からず首を傾げた。
「表側には『空き』の文字、裏側には『使用中』の文字を彫った板だよ。基本は表側にしておいて、中に入る時はこれをひっくり返して置く。こうすれば中に人がいるかどうか分かるでしょ?」
「なるほど、確かにそれなら中に人がいるかどうか分かるわね。ただ問題が一つ……」
「問題?」
シンプルな構造のシステムにどんな構造があるのかと勇樹は首を傾げる。
勇樹の反応にアリサは苦笑いしながら口を開いた。
「私、字が読めないんだよね」
「じ、実はわたしも……」
「ええ!? 」
2人の予想外の親告に驚きの声を上げた。
何故ならアリサは教会のシスターであり孤児院の殆どの業務を請け負っている。
フィーアに関しても奴隷商側がハーフエルフであるフィーアの価値を少しでも上げる為に、色々な事を習わされている。
当然、2人とも読み書きは出来る上に勇樹もそれを知っていた。
故に余計にアリサとフィーアの告白に、目を見開いて驚いたのである。
「なんで!? だって2人とも読み書きは出来る筈じゃあ……」
「いや、そうなんだけどね。でも、その……」
アリサが奥歯に物が挟まった様に言葉を濁しつつ、徐に勇樹の持っている板を指差した。
「ゴメン、その板の文字は私も知らないから読めないわ」
「はい、私も見た事がありません……」
「……あ」
この世界へ召喚された者には必ず【異世界言語】というスキルが付く。
異世界人はこのスキルに因ってこの世界の言葉を書いたり話したりしようと思えば自分の言葉が勝手に翻訳されるので、普段は意識する事は無い。
しかし、勇樹はトイレなどのドアで良く見かけたイメージしたままで作ってしまったのである
勇樹の持っている板には『空き』と『使用中』という文字が日本語で彫られていた。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




