01話 少年、シスターが家出してくる
(´・ω・`)フハーッハッハッハッ、冬の寒さに負けず夏の暑さにも負けず「この連載小説は未完結のまま約5ヶ月以上の間、更新されていません。」という表記にも挫けず、長き沈黙を破り、今ここに我復活!
……あ、「勇者は101人いる」再開します
――『魔王』。
人類の敵にして、異世界より召喚された勇者によって初めてその存在が確認された魔物の王である。
一口に魔王と言っても数種類が確認されており、鬼のような姿や獣のような姿などの魔王が確認されている。
魔王は約100年周期で現れては人や国を襲い、出現場所も出現する魔王にも規則性はなく立て続けに同じ魔王が復活したかと思えば暫く姿を見せない魔王もいた。
そんな、その生態について殆ど謎に包まれている魔王だが、一つだけわかっている事がある――それは必ずダンジョンの最奥にて復活するという事であった。
初めて魔王が復活し、その後も度々魔王が復活した事で人が住めぬ地に変わってしまい『魔王領』と呼ばれているそこには、中心部にダンジョンが存在している事は人類全てを合わせても極少数しか知られていない。
そんな人が立ち入れないダンジョンの最奥には、『ダンジョンコア』と呼ばれるダンジョンを作り出す核となる巨大な真紅の魔法石が鎮座していた。
そして、それはよく見ると小さく脈動し、カリカリと中で何かが動く音が聞こえている。
やがてダンジョンコアの表面に小さな亀裂が入り、亀裂はドンドン広がって一本の太い腕がコアを突き破って飛び出した。
更に開けた穴を広げる様に両手を穴の淵に沿えて、中にいるソレはゆっくりとコアを左右に広げ始める。
ガラスが割れるような音と共にダンジョンコアが割れ、中から赤銅色の『鬼』が全身に湯気を立ち上らせながら誕生した。
「ウボゥ……」
『鬼』は小さく唸ると、何かを確かめるように手を開閉すると、突然拳を固く握り込んで近くの壁を思いっきり殴りつけた。
轟音と共にダンジョン内が震え、殴りつけた壁は拳を中心に大きく窪み崩れ落ちる。
『鬼』は壁にめり込んだ拳をゆっくりと引き抜く。
「グオォォォ――――!!」
赤銅の『鬼』――鬼種の魔王は復活の産声を上げた。
「全然、私に相談なしで決めちゃったのよ!? 信じられない!」
「はぁ……そうなんですか」
夕食を食べながらぷりぷりと愚痴をぶちまけるアリサに、勇樹は興味無さそうに相槌を打った。
突然、アリサが荷物を持って押しかけてきた。
普段とは違う様子に最初は戸惑っていた勇樹だったが、理由を聞いた途端に色々と気分が引いていた。
「全く! 突然、新しい子をウチの教会に呼ぶだなんて、無理に決まってるじゃない! ただでさえ孤児院の経営もギリギリなのに、もう一人シスターを抱える余裕なんかないんだからね!?」
「まあまあ、ヘレンさんにも事情があっての事だろうし、あんまり怒りながら食べるのも体に……」
「私が一番怒ってるのは、私に黙って勝手に決めた事よ! しかも、その子が来るのが来週!? 部屋の準備だって何もしてないのに、その子が来たらどこに泊める気だったのよ!」
「そ、そうだね……」
当分収まりそうにないアリサの怒り具合に、勇樹はこっそり溜息を吐いた。
そもそもアリサも本来ならここまで怒りを露わにする事つもりはなかった。
しかし、ヘレンが高齢という事もあり教会の活動に専念する為に経営の殆どはアリサが任されており、本人にも自負があった。
そうにも係わらず、人事という重要な事柄を自分の頭の上で決められてしまった事が、責任感の強かったアリサにとって、自分への信頼が裏切られた気分であった。
そして、頭が真っ白になり自棄になった彼女は、部屋から取れる物だけど取って教会を飛び出したのだった。
だが、青い衝動に任せて飛び出してしまった彼女に行く当てなどある筈も無く、当てもなく街の中をぶらついていた所で勇樹の事を思い出して尋ねたのであった。
「というか、シスターが家出とかいいの?」
「良くないわよ。だからこうして困ってるんじゃない」
アリサは自分がやらかしてしまった事に途方に暮れて頭を抱えた。
明け透けに言ってしまえばアリサのいる教会は規則が緩いので、無断外泊をしても問題ない――とは言えこっ酷く叱られはするだろうが、それは単に本人を心配して事である。
加えて、孤児院ではいつかの時のように様々な理由で子供が孤児院を抜け出して、大騒ぎして探すという事も多々ある。
なので既に成人している彼女ならば、さほど咎められる事は無いのだが『子供たちの保護者』という彼女の意地が、教会に足を向け辛くしていた。
「じゃあ、帰れば?」
勇樹は経験上、期間が長引くほど戻り辛くなるのは分かっているので、身も蓋もない言い方をする。
最も、勇樹の場合は祖父たちに野猿が如く捕獲されて、頭にコブが出来るほど拳骨を食らって拗れる前に終わらされてしまったのであった。
「それが出来たら苦労はないわよ!」
「でも行くところないんでしょ? ヘソクリはあるだろうけど、基本シスターは無給で年に一度の新年にお小遣いが少額貰える程度なんでしょう? 宿もタダじゃないし、帰った方が良いと思うよ?」
「というか何でそんなこと知ってるのよ」
「この前、ヘレンさんとお茶飲んでて疑問に思ったから聞いてみたんだよ。他にも最近は支給額が減っただのお布施も減って資金繰りが苦しいなんてあっけらかんと言うもんだから、思わずお財布丸ごと押し付けちゃったよ」
ちなみにその時押しつけた財布の中には金貨がぎっしり詰まっていた為、中身を見て驚いたヘレンは慌てて返そうとしたが勇樹も受け取らず、押し付け合いになった末に勇樹が逃げ出して有耶無耶にしていた。
実はそれ以降、勇樹はヘレンから隠れるように逃げて顔を合わせていなかったりする。
「……いいもん、今日はここに泊まる」
「はぁ、じゃあフィーア、そう言う事だから倉庫から布団一式と部屋の準備宜しく。部屋は一階のでいいよ」
「は、はい!」
部屋の隅で控えていた奴隷のフィーアは、勇樹に指示を受けてパタパタと部屋を飛び出した。
部屋の出て行く彼女の背中を、アリサはジト目で見つめていた。
「……ねぇ、なんで奴隷なんか買ったの? しかも女の子の」
「ん? ああ、僕は家事が苦手でさぁ。最初は依頼で家を掃除しようとも思ったんだけどオッチャンに『冒険者に家事が出来ると思うか?』なんて言われて勧められるままに買っちゃった。ハーフエルフって凄いね。精霊魔法は使えないけど、エルフの高い魔力と普人の武器である属性魔法が習得出来て、しかも話に聞くエルフ特有の排他的で世捨て人な所がないから、教えたら教えただけ乾いた砂が水を吸うみたいに覚えてくれるんだよ。お陰で台所の使い方とかマジックアイテムの使い方もすぐに覚えてくれたし、お陰で師匠たちから分けて貰った食材が無駄に……」
「待って待って、だからって何でハーフエルフなのよ。獣人とか普人の子でも良かったんじゃないの?」
「そこはほら、ハーフエルフって初めて見たからさぁ。色々と興奮の余り勢いでつい……でも凄いんだよ! 僅かだけど魔法への耐性が普人より高くって、勉強家で読み書きも出来て料理なんてこっちの曖昧な要望にも試行錯誤しながら答えてくれるんだよ! まあ、失敗作も多いけどね。でも、マジックアイテムの扱いも慣れてるし、何より掃除が出来るから屋敷の中がゴミで溢れ返らないんだよ!」
「掃除ぐらい自分でやりなさいよ」
「チッチッチッ、自分で出来たらフィーアを買ってないよ」
「自慢げに言う事じゃないわよ……」
得意げな勇樹に項垂れるアリサ。
突っ伏した机は、教会で使っているような節穴だらけの物とは違い、表面はツルツルで質が良い事が一目でわかる。
アリサが座っている椅子も、丸椅子ではなく背もたれがありデザインが揃っていて座る部分にはクッションまで付いている。
「うわー、気が付かなかったけど置いてある家具とかもシンプルだけど高そう。こんなお屋敷だって買ってるのに奴隷まで買っちゃって、勇樹君ってば余裕があるの?」
「自分、稼いでますから! コレくらいヨユーヨユー」
勇樹はあっけらかんと答えた。
事実、勇樹の持つ旅人の鞄の中にはノーム達から譲り受けた金銀銅などの貴金属に、世界樹や神獣などの素材も入っている。
しかしこの屋敷もフィーアを購入する時もこれには一切手を付けておらず、街に帰って来てから稼いだ金しか使っていなかった。
勇樹にとって金銀はあくまでマジックアイテムを作る為の素材であり、それを換金して資金を作るという事すら頭にはなかった。
その上、そんな事をしなくとも3年は生活できるほどの資金も残っている為、アリサの心配などどこ吹く風である。
「いくら稼いでるって……そもそもこのお屋敷だってどうやって買ったのよ」
「え、普通に冒険者協会で紹介して貰えたよ? 宿を追い出されちゃったから、代わりに住むところが欲しくてさ」
「普通はFランクなんかが、こんな大きなお屋敷なんて買えないわよ! 特にこの辺の家を買うには審査とかが厳しくって物凄く時間が掛かるんだから!」
通常は資金と伝手、そして信用が無ければ家は購入できない。
加えて冒険者というのは信用で言えば最底辺、ただのチンピラと味噌糞一緒という奴である。
つまり、本来であれば貴族である親が代わりに買ったり、よっぽどの裏ワザでも使わない限り、Fランクが家を買う事は不可能なのである。
「えー、でもここって曰く付きらしいし、割と安い値段で買えたよ?」
「それが異常なのよ! はぁ……はぁ……もうなんか色々疲れちゃったわ。喉がカラカラ」
若干汗だくになったアリサが、どさっと椅子に座り込んだ。
それと同時にフィーアが仕事を終えて戻ってくる。
「あの……部屋の支度が終わりましたけど、お荷物を運んでもよろしいでしょうか?」
「ああ、それはわたしがやるわ。今日は疲れたからもう休ませてもらうわよ」
「あはは、お疲れーおやすみー」
「全く誰の所為よ! もう!」
「あ、お部屋までご案内します」
片を揺らしながら部屋を出て行くアリサを、フィーアが慌てて追いかけて行った。
斯くして、勇樹の屋敷に住人が一人増えたのであった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




