15話 少年、怒られる
(´・ω・`)何故だろう……
ヒロインが絡むと執筆速度が駄々下がりする気がします……
「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」
人気が無くなった住宅区域、その中を一人にシスターが駆け抜けていた。
足に纏わりつくスカートを大きく捲り上げ、汗で服が張り付くのも気にも留めず、必死に足を動かした。
心臓が破裂しそうなほどに鼓動を早く刻み、脇腹がねじ切れそうに痛い。
一生懸命走っているつもりでも、ゆっくりと景色が流れて行くのがもどかしくなる。
逸る気持ちを足に込めて、いつも見慣れた道を駆け抜ける。
そして、目的地の教会が視界に入ると殆ど飛び込む様に中へ入った。
「シスターヘレン! カールにジャック、ミミルにリナ! みんな、無事!?」
息を切らせて飛び込んで来たアリサが大声を上げて中へ呼びかけるが、全く反応が無かった。
いつもとは違う静かな雰囲気に、アリサは思わず最悪の状況が頭を過ぎる。
「まさか……もうここにまでモンスターが!?」
城を出て来る前に聞いた話を思い出して、顔を青くした。
それは数十分前、中央の王城の中にある協会に出向いていたアリサは、今日の午前中に帰る予定で荷支度をしていた。
すると、王城内が騒がしい事に気付き、何があったのかを近くにいた兵士に尋ねると、この街にモンスターの大群と巨竜が近づいているという話を聞かされる。
街にも入ってくる可能性がある為、あと数日は城で待機するよう言われた瞬間、アリサは孤児院の事が心配になり気付けば城を飛び出していた。
「エリク、ケビン! ティアナ、アナ? みんないないの?」
子供たちの部屋やヘレンの部屋を見て回るが、部屋の中は空っぽで食堂や中庭にも誰一人もいなかった。
がらんどうのように空っぽな孤児院で、アリサは思わず崩れ落ちた。
「そんな、みんなどこに……」
「あ~、終わった~」
「疲れたぁ。早くおやつにしようぜ~」
「……え?」
聞き覚えのある子供の声がすぐ傍でした事に驚いて俯いた顔を上げると、教会堂の方から子供たちが出てくるのが見えた。
予想外の事にアリサが呆然としていると、先頭を歩いていた猫獣人のエリクが中庭で項垂れていたアリサを見つけた。
「あ~! アリサお姉ちゃんが帰って来てる!」
エリクが目を見開いて声を上げると、他の子供たちもアリサを見つけて嬉しそうに駆け寄った
「ホントだ!」
「お姉ちゃん帰って来てたの!?」
「おかえり~!」
誰もいないと思っていたら突然子供たちが現われ、状況が把握できないアリサは一番に出た疑問を辛うじて絞り出すように呟いた。
「みんな、何してたの?」
「おそうじしてたんだよ」
「お手伝いのおばさんの昨日で来なくなっちゃって、ヘレンお婆ちゃんに言われて教会の方で掃除してたんだよ」
「そ、そうなんだ……」
普段、子供たちは訪問者の邪魔にならない様に教会には近寄らない様にさせていた為、アリサも無意識に子供たちを探す場所の候補から外していたので気が付かなかった。
その上、教会堂はたまに合唱なども行うので防音処理がしてあり、出入り口の扉を閉め切ってしまうと全く音が入って来なくなるのである。
自分のうっかりを嘆いていると、獅子獣人のカールがアリサの袖を引いた。
「なーなー、姉ちゃん。なんか昨日からモンスターがなんだとか、ヒナンがどうとかウワサしてたけど、なんのこと?」
「そ、それは……」
子供たちに問われ、アリサは言葉に詰まった。
ここでモンスターの大群が迫っていると正直に言ってしまうのは簡単であるが、それで子供たちに無駄な心配をさせたくはない。
かといって咄嗟に嘘がつけるほど、口が回るタイプでもなかった。
何かを言おうと口を開き掛けたまま固まってしまったアリサに、子供が疑問を持ち始めた時、教会堂で後片づけをしていたヘレンが出てきて子供たちに囲まれたアリサを見つける。
「おや、アリサちゃん。帰って来てたのかい」
「し、シスターヘレン。ただいま……」
今すぐにでもヘレンに駆け寄って、モンスターの大群が迫っている事を相談したかったが、子供たちの目がある所ではそれも憚られた。
アリサの様子に何かを感じたヘレンは子供たちを呼び集めた。
「さぁ、みんな。食堂でおやつを食べておいで、キッチンに置いてあるからカールとミミルでみんなに配ってあげなさい」
「「はーい」」
年長のカールと兎獣人のミミルが年下の子たちを連れて行く。
子供たちが見えなくなったのを確認して、アリサはヘレンに駆け寄って抱き着いた。
「おやおや、どうしたんだい?」
「ヘレンさん! 今、この街にはモンスターの群れが押し寄せてるんです! 街にも入って来るかもってお城の人が!」
アリサは今まで我慢していた物を吐き出すように、必死にヘレンに訴えた。
それをヘレンは静かに頷きながら聞いていた。
そして、アリサが話し終わるとそっと頭を撫でた。
「大変だったね。怖かったんだね。でも、もう大丈夫よ」
「だって、群れの他にも巨竜がいるっていうのに、何が大丈夫なんですか!」
「うん、実はね。今朝、あの子がウチを心配して見に来てくれてね。その時にもう戦いは殆ど終わったって教えてくれたんだよ」
「……へ?」
一瞬、ヘレンの言っている事が分からず、気の抜けた声を出してしまう。
そんなアリサの反応に、ヘレンは呆れたように溜息を吐いた。
「ほら、あの子だよ。ユーキくんだっけ? あの子が色々とお土産持って見に来てくれたんだよ。その後、子供たちとも遊んでくれて、あの子たちも大喜びだったよ」
「そう……だったんですか」
普段の姿からは、全然そういう事をしそうにない同い年の友人に心の中で感謝した。
だが真実は、片腕が使えなくなった所為で工房を作る事が出来ず、また冒険者協会も営業がストップしているので依頼に出る事も出来なくなって暇になった勇樹が、孤児院の子供たちと遊びに来たというのが真相だったりする
そうとは知らないアリサは後でお礼を言いに行こうと決めた。
翌日アリサは早速、勇樹の家へ行く事にした。
緊張しながら住宅地を抜けて、ほぼ郊外と言っていい勇樹の屋敷の前まで来ると一旦深呼吸をして門を開けた。
玄関でドアをノックすると、中から聞いた事のない少女の声が聞こえてきた。
「はい、どちら様でしょうか?」
「……え、誰?」
ドアを開けて中から出てきた少女フィーアにアリサは目を丸くする。
思わず家を間違えたかと見回したが、そこは間違いなく勇樹の屋敷であった。
「あの~、ウチにどのようなご用でしょうか?」
「えーっと、ここってユーキって子の屋敷じゃあ……」
「はい、ここはユーキ様のお屋敷ですよ」
「あ、よかったぁ。一瞬間違えたかと……ん? ユーキ様?」
フィーアの台詞が引っかかって首を傾げた。
そしてよく見るとフィーアの首には首輪が付いており、そこからアリサが導き出した答えは……
「ゆ、ユーキ君が……人攫い!?」
「ええ!?」
「待って!? 勘違いでとんでもない事叫ばないで!」
玄関の騒ぎを聞き付けた勇樹が家の奥から飛び出して、慌ててアリサの腕を取って家の中へ引っ張り込んだ。
事態を把握できてないフィーアは、戸惑いながら2人の後を追い掛けた。
「で? どういう事か説明して頂戴」
「イエスマム!」
青筋を立てて仁王立ちしているアリサの前で、正座をさせられている勇樹はダラダラと汗を流しながら反射的に敬礼で返事をした。
静かな怒りを湛えているアリサに、勇樹は厳山竜を前にした時よりも緊張した面持ちでガタガタと震えながら今までの経緯を説明し出した。
「自分は家事が一切できない為、代わりにやってくれる人を探した所、奴隷を勧められたのであります!」
「なるほどね……でも、それだったらこんな若い子じゃなくて、もっと年上の人でも良かったんじゃない? それに……」
アリサはチラリとフィーアを見る。
フィーアの顔には紛れもないハーフエルフの証、髪から飛び出る程度の尖った耳が覗いている。
アリサの視線に、フィーアがビクッと肩を竦めた。
「どんな奴隷を買ってくるのもユーキ君の勝手だけど、キチンと面倒は見られるの? 稼いでるって言ってたけど、奴隷だって食事はするし服とかも必要でお金が掛かるんだよ? ただでさえ冒険者なんてそんなに稼ぎが無い人が多いのに無責任に……」
「あ、あの!」
今まで震えながら黙っていたフィーアが、アリサの言葉を遮って声を上げた。
その声に思わずアリサと勇樹はフィーアの方を振り向き、視線が集まった事にフィーアは一歩だけ退いたが、キッとアリサの方を睨み付けた。
「ゆ、ユーキ様はキチンとわたしに服や部屋などは不相応なくらいに与えてくださっています。それ所か毎日のように、その日の分のお金までわたしに預けてくださいます! なので、余りユーキ様を怒らないで上げてください!」
「えーっと、うん、そうなんだ」
「はい、ですからシスター様のご心配するような事はありません!」
鼻息も荒く頷くフィーアに、アリサは若干引き気味だった。
アリサの知る奴隷といえば、商店で労働力として働かされているような無口で目に生気が無く、感情を表に出す事などまずあり得ずに黙々と仕事をしているイメージがあった。
奴隷らしからぬフィーアに驚いたアリサは、思わず勇樹に耳打ちする。
「うーんと……ねえ、ユーキ君。あの子に何かしたの?」
「何って、普通だよ? とりあえず家が汚かったから掃除するようにお願いして、ご飯作って貰って、買い物とかするだろうからって少ないけどお小遣いも渡しただけだよ? ああ、それと折角お風呂があるのに体を拭いて済ませようとするから、いつでも入っていいよって言ったぐらいかな?」
「……待って、色々とツッコミ所があるけど、とりあえずそれって奴隷の扱いじゃないわよ」
「え? でも、殆ど無休で働いて貰っちゃってるし、結局お給金だって受け取ってくれないからこっちで貯金してるんだよ?」
「どこの世界に、奴隷に休みとお金を与える人がいるのよ! そんな仕事だったら私がやりたいくらいよ!!」
勇樹の奴隷への扱いに、思わずアリサが叫ぶ。
通常は奴隷など人間扱いされず家畜と同様に労働力として扱われる。
その上、フィーアの年くらいの少女ならば、大体がそういう事をする目的で買う者が多い為、昼夜働き詰めで完全に自由な時間などない。
つまり、フィーアの様にほぼ主人からは言い付けられず、掃除と洗濯と食事諸々で仕事が終わってしまうなどあり得ない事なのである。
奴隷をお手伝いさん程度に考えていた勇樹は、深く考えもせずにフィーアがあまり不自由しないようにやっていた。
「うーむ……これはアレか、昔のペットは家の外でご飯に味噌汁ぶっかけた猫まんまが普通だったけど、今じゃ部屋の中で無農薬フードを食べるのが珍しくないみたいなものか。深いね!」
「言っている事は良く分からないけど、全然深くないわよ」
自分の結論に満足そうに頷いている勇樹に、アリサは溜息を吐き、再び小さくなっているフィーアに近づいた。
「えーっと、フィーアだっけ? 私はアリサ、見ての通りシスターをしているわ。色々大変だろうけど、これからよろしくね」
「え、あ、はい! わたしはユーキ様の奴隷のフィーアと申します。宜しくお願いしますアリサ様」
アリサが自己紹介を行うと、フィーアは畏まったように頭を下げた。
そして顔を上げて目が合うと、2人はどちらともなく笑い出した。
一頻り笑いあった後に、アリサが勇樹の左腕のギプスに気が付いた。
「そう言えば、ユーキ君ってばその腕はどうしたの?」
「ああ、これはね……肘から先をぶった切っちゃったから、今くっ付けてる最中なんだよ」
「へぇ、肘から先を……へ? 肘から先を?」
「うん、こう刃物でスパッと」
勇樹は手刀を左腕の肘の先に振り下ろして、切るジェスチャーをする。
しかし、ギプスの上からでは良く分からない為、アリサも半信半疑で信じてはいなかった。
そこで勇樹はギプスを取り外し、傷口を縛っていた包帯を外して、まだ繋がっていない腕を外して見せた。
一応、腕の方には布を被せて傷口が見えない様にはしているが、パカッと外れた腕にアリサの顔が青くなった。
「ほら、こんな感じで斬っちゃったんだよ」
玩具でも見せびらかすように、外した腕をブラブラと振って見せる。
すると、アリサは電源が切れたかのように白目を剥いて倒れてしまった。
「え、アリサ様!?」
「ちょ、大丈夫!?」
突然、アリサが気絶してしまい勇樹とフィーアは慌てて駆け寄り、大慌てでアリサをソファーのある談話室に連れて行った。
その後、目覚めたアリサに勇樹はこれ以上ないという程に叱られたのだった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




