14話 少年、くっ付ける
(´・ω・`)昨日から新作の投稿を始めました。
あくまでメインはこっちなので、こっちの更新に支障がない程度にやっていく予定です。
崩れ落ちる厳山竜を見ながら、勇樹が気絶してから5分ほどが過ぎていた。
時間が無い中でギリギリまで大がかりな仕掛けを行い、乱戦からの大怪獣との戦闘により、一度は霊薬で回復したと言っても精神的肉体的な疲労は消えてはいなかった。
肘先から切断された勇樹の左腕からは絶えず血が流れ出しているが、幸いにも戦闘前に飲んだエリクサーのお陰で、傷を塞ぐ効果こそ失っていたが増血効果により辛うじて失血死は免れていた。
しかし、それも徐々に効果を失ってきていて、あと1分も経たない内に薬効が消えてしまう直前、動物的な勘によって勇樹はギリギリの所で目を覚ました。
目覚めたばかりである事と血を失っている事で、意識がハッキリせずボーっとしたままムクリと起き上がった。
聞えてくる戦闘音は遠く、冒険者や騎士たちの怒号も混じって、未だに戦闘が終わっていない事が分かる。
とは言っても、勇樹と厳山竜が暴れた余波で実は全体の4分の1ほどが削れているので、あと半日もあれば収束する筈である。
「ハァ……ハァ……ハァ……アカン、血が足りない」
勇樹は朦朧とする意識の中で漫然とこのままの状態は危ないと考えて、立ち上がろうと無意識に左手で地面に突こうとした。
しかし、思っていた反動が返って来ずに、そのまま倒れてしまう。
「あれ……? あ~、そうだった。左腕がなかったんだっけ」
感覚が鈍化している所為で、本来ならばのた打ち回るほどの痛みもあまり感じていない。
勇樹は意識が朦朧としながらも、応急措置として革紐を取り出して口と右腕だけを使って、左腕をギュッと硬く縛った。
こんな時にこそエリクサーを使えればいいのだが、アレは効果が強すぎる為、1日1回しか使用できないという制約がある。
その上、他の薬も効果が薄れてしまうので使えなくなるというおまけ付き。
今更ながら霊薬を栄養ドリンクのように消費した事を少し後悔した。
「と、兎に角倒したコレの回収と……腕も回収しないと……」
そう言って勇樹が取り出したのは、トラックのコンテナほどもありそうな旅人の鞄だった。
勇樹は厳山竜の尻尾の先を鞄に突っ込むと、そのまま中へ押し込み始めた。
すると厳山竜は鞄の中へ吸い込まれるようにスルスルと入って行き、その巨体が嘘のように鞄に納まってしまった。
次に勇樹は固形唾液の針に串刺しになったままの左腕を針ごと回収した。
その場で腕から針を抜かないのは、器具も無い状況で片腕だけで行うと、必要以上に腕を傷つけてしまう可能性がある為だった。
左腕に血が滴らない様に袋を被せ、長めのローブに身を包んでその場から逃げるように立ち去る時、勇樹は厳山竜がいた場所を眺めながらボソリと呟いた。
「今度の時は、巨人に変身するアイテムか変形ロボを用意しておこう……!」
そんなどうでもいい決意を固めながら、勇樹はその場を離れて行った。
数時間後、厳山竜が死んだ事でモンスターの進行が止まり、一気に冒険者たちが巻き返してモンスターの大群は全滅した。
そして、街へ向かってくる巨大モンスターを迎撃する為に陣形を立て直そうとした時には、厳山竜が暴れた事で荒れた地面しか残っておらず巨竜がいたなど嘘だったかのように忽然と姿を消していた。
まだ冒険者たちがモンスターたちと街の外で戦っていた頃、踝まである長いローブに目深にフードを被り、兵士がドタバタと行き交う大通りをふらつきながら通り抜けて屋敷へと帰ってきた。
ドアを開けると、中からフィーアが転がる様に駆け寄って来た。
「ただいま~……」
「ユーキ様!? 一体今までどこへいらっしゃっていたんですか! 起きたらドアに置手紙が挟まっていて、その直後に避難するようにお達しが出て……」
「あ~うん、急いで出かけたから声も掛けずにゴメンね。もう大丈夫だから、とりあえず退いて……」
「ユーキ様、荷物をお持ちしますね」
「いや、これはいい‥…」
勇樹が断るよりも先に、フィーアは勇樹が持っていた物を取ってしまった。
そして、それはまだ勇樹の左腕が串刺しになったままの、厳山竜の固形唾液針だった。
「あれ? この布はなんですか? ……え、人の……腕?」
「えーっとね? ちょっと色々あって腕をぶった切っちゃたからさ。とりあえず返して」
串刺しになった腕に隠すように被せていた布がはらりと落ちて、それを直視してしまったフィーアは顔から血の気がサーッと引いた。
勇樹はローブを捲り上げながら、出来るだけ冗談っぽく言いながら針をフィーアの手から取り返す。
そして、そのままフィーアの身体はぐらりと揺れて……
「……きゅ~」
「ぬわ!? フィーアが倒れた! ちょ、今僕は片腕しかないからこんな所で気絶されたら運べないよ!?」
倒れたフィーアを見て動揺した勇樹は若干的外れな事を叫びながら、その場でオロオロと狼狽えながらフィーアの肩を揺すった。
しかし、フィーアは気絶したまま「うーうー」と唸るだけで全く起きる様子が無い。
「……はぁ、仕方ない」
自力で移動させることが不可能だと悟った勇樹は、腕の刺さった針を近くの壁に立て掛け、フィーアの体を起こすとそのまま肩で担ぐように持ち上げた。
フィーアは勇樹よりも小柄だったので、軽々と持ち上がり片腕でも割と安定していた。
とは言っても、片腕を失って重心がずれている所為か何度か躓きそうになりながらも、フィーアを部屋に運んでベッドに寝かせて一息ついた。
何とかフィーアを部屋まで運んだ勇樹は、左腕を持ってまだ作り掛けの工房にやってきた。
ここへ来たのは勿論、失った腕をどうにかする為である。
「っと、まずはこの針を折るか……」
ローブやポーチなどを外すと、引き抜きやすい長さにする為に針を折る事にした。
まずは針に足を掛けて折れないかを試みる。
右手で針をしっかりと持って、針の中頃に足を掛けて思いっきり体重を掛ける。
「フンギギギ……っ! はぁ、折れねぇ……」
足に全体重を掛けて踏ん張るが、針は撓るだけで全く折れる気配が無かった。
力を入れ過ぎて針から足が滑った所でこの方法で針を折るのを諦めた。
そこで今度は万力を2つ持って来て台の上に並べて置き、針の両端をしっかりと固定すると勇樹はハンマーを取り出した。
「ふっふっふっ、オリハルコンのハンマーで叩いて折れない筈がない!」
そう意気込みながらハンマーを振り回して加減を確かめる。
そして固定した針を叩き折ろうと、ハンマーの重さに任せて勢いよく振り下ろす。
だが、振り下ろされたハンマーは撓った針に弾かれて跳ね返ってしまった。
「おう……思った以上に丈夫だよコレ。どうやったら折れるかなぁ」
ハンマーを放り投げて別の何かを探して工具箱をガサゴソと漁る。
しかし、目ぼしい物が見つからなかったので、今度はポーチの中をひっくり返した。
ジャラジャラと剣や槍などが散らばり、その中から剣を一本だけ手に取った。
何の細工もしていないごく普通の鉄製の剣を構えた。
「ちぇいさー!」
気の抜けた掛け声と共にぶれる事無く意直線に剣を振り下ろした。
が、先ほどのハンマー同様に針に弾かれて跳ね返るだけだった。
「むむむ、硬い上に適度な弾力があるから、力に強いのか……となると、ここは……」
持っていた鉄の剣を放り投げ、散らかした武器の中から別の剣を手に取った。
今度の剣は表面に刻印を施した魔法剣、勇樹が魔力を通すと剣に刻まれた魔力回路が光り出し、攻撃力強化の付加魔法が起動した。
魔法が起動した事を確認すると、勇樹は剣を固定した針へと振り下ろした。
すると今度は弾かれる事無く、針を腕から数cm残した所でスパッと切断した。
そしてもう片方も同じように切り離して、短くなった針を腕から引き抜いた。
「よし、後は傷口を洗って固定してっと」
汚れの付いた傷口を薬で洗うと、腕が変に捩れたりしない様に角度に気を付けて、繋ぎ目を包帯で撒いた上に添え木を当ててギプスの様にしっかりと固定した。
幸い、断面は魔剣で綺麗に切断されていたので、くっ付けるのには苦労しなかった。
竜というのは生命力の強い生き物である。
どんな大怪我をしても1年もあれば完治し、体の部位が欠損しても百年もあれば元通りに生やす事が出来る。
また死んだ後も肉や内臓は、十年間以上は鮮度を保ち脈動し続けるほどに生命力に溢れていて、『モンスターかと思えば、どこかで切り離された竜の尻尾が暴れていた』などという逸話がある。
但しこれは最上級ドラゴン種の所謂『龍』と呼ばれる霊獣の話。
それ以下のドラゴンになると、精々傷の治りが早い程度で欠損部を再生させる事は出来ない。
とはいえ、討伐する人間の冒険者からしてみれば与えたダメージが短期間で治るのは十分に脅威であり、それ故に“竜殺し”という栄誉は高く、またドラゴンの肉体はその生命力の高さ故に貴重な薬になるのである。
そして、勇樹はそんな最上級種の竜の心臓を自分の心臓の代わりに埋め込んでいる。
その強すぎる生命力に適応する為に進化した肉体は、人間としては並み外れた生命力を得た。
それこそ、切り離した腕を接ぎ木の様に再びくっ付ける事ぐらいならば造作もない程に。
一先ず治療を終えてリビングに向かうと、フィーアがオロオロと部屋を右往左往していた。
勇樹は何をしているのか分からず、暫く観察していたがそれ以上の変化が無かったのでフィーアに声を掛けた。
「ねえ、何してるの?」
「ひゃい!? あ、ユーキ様、腕は大丈夫なのですか!?」
先ほどの光景を思い出したのか、青い顔をしながらも勇樹の元へ駆け寄ってきた。
その落ち着かない小動物のような行動に思わず苦笑いしながら、勇樹は軽く左腕を見せるように持ち上げた。
「まあ、大した事は無いから、こうしてくっ付けて回復薬とか飲んでれば2週間もあれば治るよ。こう見えても怪我の治り早いからね!」
「え、えーっと……そ、そういう問題なんでしょうか?」
「無問題!」
まだ納得のいかない様子のフィーアを、勇樹は強引に笑顔で黙らせた。
話を断ち切られてはしつこく聞く事も出来ないので、フィーアは話題を変えた。
「そういえば、今までどこへ行っていたんですか? 街は今、モンスターの大群が押し寄せているとかで大騒ぎになっているんですけど」
「あー、ちょっと朝方に冒険者協会へ行ったらその事で手伝わされたんダー。ダカラ、連絡モ出来ズニイタンダヨー」
「そ、そうだったんですか……って、あれ?」
落ち着いてきた所で、フィーアがある事に気が付いて声を上げた。
「ほえ? どったの?」
「ユーキ様、普通にわたしとお話しされていますね」
「え、なんかダメだった?」
「いえ、そういう事じゃなくて……ここへ来てからユーキ様は一回もわたしの方を見て、お話をしてくれませんでしたから、突然でちょっとビックリしてしまいました」
「いや、それはアレなんですよ。単に人見知りというか、照れが入ったというか、今更ながら同い年の女の子との同居生活に思春期真っ盛りの男子並みに緊張してたと言いますか。色々なアレなんですよ」
「?」
いきなり予想外の事を指摘されて目が泳ぎ、急に捲し立てるように早口になった勇樹に、フィーアは小首を傾げた。
その視線に耐えられなくなった勇樹は、回れ右をして部屋から飛び出した。
「と、とりあえず! 色々な話は後でするから! あとこの屋敷に居れば安全だから家から出ないようにね!」
「え、あ、ちょっとユーキ様!?」
「ホントゴメン!」
逃げるように2階へと駆け上がってしまった勇樹を、フィーアは呆然と見送った。
逃げ出した勇樹は、倉庫になっていた部屋に入って付けていた鞄などを下すと、そのまま床に丸くなって寝始めてしまった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




