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勇者は101人いる(旧版)  作者: 酔生夢死
3章 少年、家を買う

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12話 少年、山と相見える

(´・ω・`)……何でこの主人公はヒロインほったらかして戦場にいるんでしょうねぇ(遠い目)

 モンスターとの戦闘が始まってから既に数刻が経ち、真っ暗だった空は白みがかり真っ黒だった戦場に朝日が差し込む。

 この時間までなって来ると、流石のモンスターでも疲労して来るのか進行速度は大分弱まり、依然として進行は止まらないものの勢いは以前よりも大分収まっていた。


「ハァ……ハァ……大分、この辺も減ったかな……?」


 自分が倒した百数十にも及ぶモンスターの死体の山の上で、勇樹は槍を抱えたままその場に座り込んでいた。

 疲れた体は指先すら動かすのが億劫で、思考が泥の様に混濁していてゆっくりとしか働かず、息を吸って吐く事のみに意識を注がなければならない程に。

 そんな無防備な姿を曝す勇樹の周囲にはかなりの数のモンスターが、彼を避けるように進行を続けていた。


 勇樹が放っているただならぬ雰囲気と足元の死体の山が、モンスターたちを警戒させ近寄らせずにいた。

 意識が朦朧としながらも、緩慢な動きで勇樹は腰のポーチに手を伸ばした。

 そして一本の小瓶を取出し、蓋を開けるのも億劫と小瓶の口を蓋ごと噛み砕いて、中の液体を飲み始める。

 小瓶の中に入っていたのは勇樹がノームの里に居た時に、自分で調合した万能薬『エリクサー』だった。


「こくっ……こくっ……こくっ……」


 エリクサーがゆっくりと勇樹の身体に染み渡り、疲弊しきった体に活力を取り戻してゆく。

 生気のなかった目に光が戻り、小瓶の中の最後の一滴を口に含むと、握り締めた小瓶を勢いよく投げ捨てた。


「ふっかーつッ!!」


 エリクサーを飲み干して元気を取り戻した勇樹は跳ねるように立ち上がると、大きく腕を伸ばして復活の雄叫びを上げた。

 ちなみに、勇樹が飲み干したエリクサーは一口でも指先程度の欠損なら生やす事が出来る霊薬であり、現在確認されているのは各国が所有している緊急時用の9本のみという国宝級アイテムである。

 ノーム達は既に安価ではないが安く生産できる方法を確立していて、初心者の勇樹でもなんとか調合に成功した所為で、使った本人はそんな希少なアイテムだとは全く知らなかった。


 まるでその辺で売っているポーションの如く国宝級アイテムを飲んで、完全復活した勇樹はモンスターの大群の後方を見つめた。

 昨日よりも大きくなっているソレは今のペースで進行が続けば、太陽が天辺へ昇る頃に勇樹の居る場所までやってくる計算になっている。


「となるとリミットもそれ位かぁ。少なくともこのモンスターの大群を今の半分ぐらいまで減らさないと、向こうも辛いかなぁ」


 そう言って今度はエルクレアがある方を見る。

 勇樹の居る所からではモンスターが邪魔で直接視認する事はできないが、方角が間違っていなければその先では冒険者たちが必死にこの大群を食い止めているはずである。

 勇樹は一度深く深呼吸をした。

 そして大きく息を吸い込むと、目を前に見開いて口を大きく開ける。

 それは過去に一度、勇樹がこの体になって初めて使用した魔法。


「【竜咆(ドラゴ・ブレス)】!!」


 口の中に展開された魔法陣から、光の激流が放たれた。

 勇樹の視線の先に居たモンスターたちが次々と光に呑まれて行き、数百m程進んだ所で周囲を巻き込み大爆発を起こす。

 光が消えた後には土が黒く焼け、モンスターの死骸が焦げ臭い臭いを放っていた。


 実は勇樹もこの戦いが始まるまで、自分が【竜咆(ドラゴ・ブレス)】を使える事をすっかり忘れていた。

 四方八方からモンスターに襲われ、一撃で倒せるモンスターを一目で選別し、確実に倒せるよう急所だけ狙い、連戦に次ぐ連戦で一晩中動き続けた。

 半ば意識も朦朧とする中で、勇樹は戦いながらこの世界に来てからの事を走馬灯のように無意識に思い返していた。


 自分にあるのは格闘術と魔力消費の激しい魔法武器と使い捨てのマジックアイテムだけだと考えていた。

 故の作戦もそれだけの使用を想定して立てて準備を進めた。

 と言っても『厳山竜と対峙するまでは魔力とアイテムは極力温存して後は頑張る』というお粗末な物であった。

 そんな努力と根性で乗り切ろうとしていた勇樹だったが、流石に精神論で乗り切れるほどモンスターの大群は甘くはない。


 勇樹がボロボロのグダグダになった頃、ふと自分が魔力を認識している事を思い出した。

 空気中にある魔力を吸い込むという感覚、肺に入って来た魔力が心臓を通して体内に取り込んで行くという作業、そして――それを体内に循環させているという感触。

 それを実感した時、勇樹は竜の里に居た時の事を思い出した。

 同時に自分の胸にマジックアイテム“竜の心臓”が埋め込まれてから初めて使った魔法を思い出した時には、自分のうっかり加減に思わずその場でのたうち回りそうになった。


 竜のみが扱える『竜魔法』は、その場にある魔力を自らの中に取り込んでから発動する為、魔力の消費は極端に少ないという特徴がある。

 そもそも龍族は保有魔力が多いので余り利点にはならないが、人間で保有魔力が少ない勇樹にとっては一番に欲しかった物だった。

 そして調子に乗って加減も忘れてバカスカ撃ちまくり、体力を消費して動けなくなったのは自業自得である。


 そんな勇樹が調子に乗ったお陰で、押し寄せていたモンスターの一部は削れたが数字にしてみれば僅か数%……進行を抑えるなど夢のまた夢である。

 だが勇樹の目的はそこではない。

 勇樹の狙いはあくまでも厳山竜であり、モンスターの大群を全滅させる事は自分では不可能だと割り切っている。


「さてと、露払いはこの程度でいいかな? あとは後ろの冒険者さん達に任せて僕は本命を迎えに行くとしますかね!」


 近付いてきたモンスターを蹴り飛ばしながら、勇樹は待機場所へと向かった。

 そろそろ、影が最も短くなる時が近づいていた。



 冒険者たちが戦い始めてからそろそろ1日が経とうとしていた頃、それは現れた。


 ――グオォォォ!


 突如戦場に響き渡った轟音に、戦っていた冒険者たちは思わず足を止めて音のした方を振り向いてしまった。

 そして山の様に巨大な竜がこちらに向かって進んでいるのが、否が応でも目に入ってしまい、戦場だという事も忘れて呆然と立ち尽くした。

 その瞬間、殆どの冒険者達の中で奮い立たせていた何かがボキリと折れた。


「な、なんじゃありゃ……」


 誰かが思わず呟いた。

 そこに集まっているのは、殆どが大物と戦った事などないBランク以下の冒険者ばかりで、竜を相手にするなど夢にも思っていなかった。

 一人、また一人と戦意を喪失して武器を下してしまう。

 何とか戦線は維持できているものの全体的に士気が目に見えて落ち、モンスターを倒す数も減っていた。

 壁を維持していた魔法使いの集中が切れて戦線が崩れ掛けた瞬間、それまで後衛で討ち漏れたモンスターを倒したり、物資の供給や傷付いた冒険者の治療に回っていた騎士たちが飛び出してきた。


「全員、ここが崩れたら街は終わりだと思って、死ぬ気で抑えろ!」


「「「おう!!」」」


 騎士たちは自分たちが厳山竜をどうにかできるとは思っていない。

 だが、彼らは国を守る騎士である。

 例え勝ち目がない戦いであっても、誇りと国と大切な人の為に逃げる訳には行かなかった。



 同時刻、勇樹もまた小高い丘の上の岩陰に隠れながら厳山竜の姿を視認していた。

 と言っても距離としてはまだ遠く、両者の間には1km以上の距離があったが、その巨体はハッキリと見えていた。


 それ(厳山竜)を見た勇樹はある種の懐かしさを感じた。

 そう、アレはまるで幼稚園の頃に画面の向こう側で光の巨人や怪獣王が戦った強敵たち。

 その凶悪さに理不尽さに強さに、勇樹も子供の頃は畏怖して憧れた物だ。

 そして今、勇樹はそれを目の前にして万感の思いで叫んだ。


「どこのウ○トラ怪獣だよっ!?」


 樹齢何百年の大樹の幹のような巨大な足が、地面を踏みしめる度に大地を揺らして腹の底まで響くような振動を伝えてくる。

 悠然と歩く姿は、まるで一つの山が移動しているかのようであり、勇樹はテレビの中の存在でしかなかった特撮ヒーローの巨大怪獣が、目の前に現れたかのように目を輝かせていた。


「う~む、思わず厳山竜ザガンラスとか名付けたくなるなぁ。テイムとかして飼えないかな? ああ、でも置いとく場所がないや」


 そんな暢気な事を呟きながら、勇樹は手元の基盤に魔力を流した。

 すると至る所から、勇樹が仕掛けた【爆炎】の魔術を刻んだ魔石を取り付けた槍がロケット花火の様に次々と飛び出して厳山竜……の手前で見えない壁に着弾して爆発する。


「魔力障壁……!」


 モンスターと呼ばれる生物には大雑把に2種類存在する。

 魔力を自己の能力に使用していない物を動物、使用している物を魔物と呼んでいる。

 例えばドラゴンの飛行やブレス、バジリスクの石化や高レベルモンスターが持つ魔力障壁などが上げられる。


 特に魔力障壁を持つモンスターは物理・魔法共に防御力が跳ね上がる為、滅多な事では傷つける事すら困難である。

 ただ障壁にも“断続的に同じ個所に攻撃を受けると綻ぶ”という弱点が存在するが、ただでさえ近づく事もままならない厄介なモンスターの障壁に、絶やす事なく攻撃を加えるなど困難に近く、殆ど弱点になってはいなかった。


 その上、岩の様に硬く分厚い表皮と巨体を持つ厳山竜にとっては、雨の様に打ち出される疑似ミサイルは針で突かれる程度のダメージにしかならなかった。

 最初こそ爆音に驚くように身動(みじろ)ぎしていたが、2度3度と繰り返す内に害が無いと判断したのか、そのまま普通に歩き始める。


「分かっちゃいたけど、サイズが違い過ぎて全然効いてないや。だって2m近くの槍が産毛みたいなんだもんなぁ」


 次々と爆破して消費されて行く槍たちを眺めながらぼやくように呟いた。

 今回使用した槍は魔力を篭めて投げれば着弾と同時に爆発が起こるというシンプルな仕掛け……なのだが使用している魔石の純度が高い為、一本で屋敷一棟を粉々に吹き飛ばせる威力を持っていた。

 本来であれば厳山竜に使用した分で、エルクレアへ進行しているモンスターたちの4割を難なく削れたはずだった。


 そんな兵器ですら、巨大怪獣の前には足止めにすらならなかったのである。

 なので、勇樹は諦めて次の仕掛けを発動すべく、再び基盤に魔力を流した。

 すると今度は厳山竜の足元が大爆発を起こした。


「ふっふっふ、いくら露出している表側が硬くても普段隠れている裏側はどうかな!?」


 予め地面に埋めて置いた勇樹製作の魔道具が、地雷の如く次々と厳山竜の足元から突き上げるような爆風を打ち上げる。

 突然の足元からの爆発に、それまで泰然と進んでいた厳山竜も思わず驚いてその場で足踏みしてしまう。


 ――グオォォォン!?


 暴れ狂う厳山竜の足踏みが激しい地響きを起こす。

 巨大な足が地面を踏みつける度に亀裂が走り、周囲の山で雪崩が発生して大岩が転げ落ちてくる。

 そんな様子を見た勇樹はニヤリと笑みを浮かべた。


「動揺している所を畳みかける! トドメの第三弾!」


 勇樹は三つ目の仕掛けを発動すべく、基盤にありったけの魔力を注ぎ込んだ。

 大量の魔力が基盤から伸びた回線を走り、勇樹が隠れている岩場の陰に隠されていた4つの砲台へと充填され、中に入った弾が激しく発光する。


「さっきまでの屑魔石を集めて作った爆薬とは違う、高純度の魔力結晶を加工して作った三層弾だ!」


 魔力が充填された弾がギュルギュルと音を立てながら回転を始め、砲身にバチバチと電光が走った。

 やがて回転音が一律になり、砲身の発光が最高潮に達した瞬間、勇樹は基盤に取り付けたガラスケースに覆われたスイッチを殴り割った。


「発射ァ!!」


 勇樹の叫びに呼応するように、砲台の奥が爆発して弾を射出された。

 放たれた弾丸は高速で回転しながら真っ直ぐに厳山竜へと向かい、着弾する直前、再び弾丸が爆発を起こして弾頭は厳山竜の障壁を貫き、硬い表皮を(えぐ)り深く潜り込む。


 ――ギュオォォォ!


 表面を撫でるような爆風からの足元の爆発、そして表皮を抉ってくる礫に厳山竜は堪らず叫び声を上げながら暴れまくった。

 太く巨大な尻尾が山肌を叩いて抉り大蛇がのたくったような跡を作り、足が地面を突くたびに地響きが起きて厳山竜の身体から崩れた岩の様な表皮の欠片が、周囲に噴石の如く降り注ぐ。


 すると突然、厳山竜の身体が爆ぜた。

 厳山竜の体内へと潜り込んだ弾丸には、弾頭に魔力その物が結晶化した『魔力結晶』という物が使われている。

 魔力結晶は魔力が固形化するほど安定しているので、極普通に取り扱う分には何の危険も無い代物だが、同じ属性の魔法が当たるとそれを吸収して数倍の威力で爆発を起こすという特性を持っている。


 そして勇樹は、その結晶に『周囲が一定以上の魔力を持った時に、その魔力を吸収する』という術式を刻み込む事で、弾が体内に入った時に相手の魔力を吸収して大爆発を起こすという兵器を作り上げた。

 一応、これは一定以上の魔力を保有する相手にしか使えないのだが、対象の魔力を強引に吸収してしまうので、たとえ撃ち込まれた後に体内の弾頭を魔法で処理を行おうとしても、それごと吸収して爆発を起こす。

 故に撃ち込まれたら最後、体内に入った弾を自力で爆発前に取り出す以外に対処のしようがない地味にえげつない武器なのである。


 ――グルオォォォン!?


 大爆発によって硬い装甲は大きく捲れ、僅かに血が流れていたが、生命力の高さからか既に傷口は塞がり掛けている。

 それでも、目覚めてから初めて与えられたダメージに、厳山竜は怒り狂った。

 八つ当たりするように足を踏み慣らし、尻尾を地面に叩き付ける。

 その様子を見て、勇樹は呆れたように溜息を吐いた。


「えぇ~、あの弾は結構な自信作だったのに……なんか殆どダメージが入ってないように見えるんだけど。まあ、作戦は他にもあるんだけどさぁ」


 用意した武器が通用しなかった事に脱力感を得ながら、勇樹は腰のポーチに手を掛けるのであった。


最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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