11話 少年、人知れずやらかす
(´・ω・`)今年最初の投稿です。
おかしい……休みがあった筈のに書けたのはこの話だけ……(白目)
勇樹にとって予想外に起きた爆発のお陰で、爆心地を中心に小さな空間が生まれた。
そしてその僅かな空間を勇樹は見逃さない。
「ハァァァ……スゥゥゥ!」
隙間が空いた空間で勇樹は大きく深呼吸をして、急いで体に不足していた酸素を送り込む。
乱闘中は動作1つで致命的な隙になり得る為に、呼吸をするタイミングですらままならない状況であった。
大きく吸い込んだ息を吐き出さず、勇樹はそのままモンスターの壁へと突っ込んだ。
予想外の襲撃に進攻していたモンスターたちの間に乱れが生じた。
正気を失っている為、攻撃を受けた所以外は足を止めずに進攻を続けているが、僅かに足並みが乱れ、僅かな乱れが全体の進攻を狂わせた。
倒れた仲間の死体に躓き、後ろから来たのが躓いた者を踏みつけドミノ倒しの様に倒れて行く。
正常の状態だったなら、倒れた者を避けて行くという簡単な事も出来たかもしれないが、今は正気を失いただ真っ直ぐに人の大勢いる所へ進む事だけを目的にしている為に、狂った眼では敵味方の判別が付かず全てが障害物に写っていた。
「ヤーッハー! 潰し合えー!」
モンスターたちは目の前をうろつく障害を壁と一緒に潰そうとする。
オーガの股下を通り抜け、ゴブリンを足蹴にし、飛んでいる怪鳥の頭をぶん殴って墜落させて、迫ってくる棍棒や角の攻撃は手近な物を壁にして凌ぐ。
勇樹が真っ向から戦わなくても、目の前をウロチョロとして軽く小突き回るだけで、勝手に同士討ちしてくれるのだから引っ掻き回すのは容易だった。
オークなどは背後から軽く槍の石突で突いただけで、反射的に棍棒を後ろへ振り回して後ろにいたモンスターの頭を殴り飛ばし、吹き飛ばされた先のモンスターにぶち当たってその周囲で乱闘が巻き起こる。
「チョロすぎ!」
そのまま暫く群れの中を引っ掻き回した後、勇樹はさらに数を減らすべくその場からこっそりと抜け出すと別の場所へと戦場を移した。
勇樹がモンスターの大群の中ではしゃいでいた頃、勇者たちもまた戦いに臨む為に騎士団の陣営で準備を行っていた。
幸い……と言って良いのか、召喚された勇者の半分以上が脱走したおかげでレベリングの障害となっていた「勇者同士が近くにいるとレベルが上がらない」という悩みが解消され、『正統派』グループの平均レベルは30後半まで上がっていた。
但し、持っている武器は未だに国から配給された量産品のみ。
ミスリルなどの希少金属は産出量が少ない為、勇者たちの武具に回せるだけの量が確保できていない上、エルクレアにミスリルを加工できる鍛冶師がいなかったのである。
それでも勇者に備わった『主人公補正』とも呼ぶべき成長速度でレベルアップやスキルを習得し、付与魔法などで強化する事で武器のハンデを補っていた。
こちらへ来た当初はまだ子供っぽさが残っていたが、約3ヶ月の訓練を経てやや逞しく戦士の顔つきになり、浮ついていた空気も無くなりはしなかったが確実に薄くなっていた。
騎士隊で用意したテントの中で初陣の緊張感の中、剣をベルトで背中を固定していた一人がボソッと呟いた。
「とうとう……俺たちの勇者としての戦いが始まるんだよな……」
その言葉にテント内の空気が固まる。
昨日までは小動物の様なモンスターと戦うのが精一杯、魔王と戦うなど夢のまた夢であった。
だが、そこへ突然やってきた“魔王”の存在を感じさせるモンスターの大進攻が、勇者たちに戦いの現実を叩き付けて来た。
魔法使いの一人が緊張の余り手が震えて杖を落としてしまう。
静まり返っていたテント内で杖の落ちた音が嫌に響き、思わず全員が落とした魔法使いに注目してしまう。
全員の視線を受けた所為で、小柄な魔法使いは顔を蒼くしてさらに縮こまってしまった。
「……大丈夫さ」
そう言って立ち上がったのは仲間内で『正統勇者』などと呼ばれている天使星也だった。
「俺たちは今日まで魔王と戦う為に必死になって訓練して来たんだ! お陰でここにいる全員とも戦闘系スキルを覚えたし、レベルだって上がってる! こんなの丁度いいレベリング用イベントじゃないか!」
星也の言葉に、表情が硬かったみんなも頷いて拳を振り上げた。
「そうだ! 俺たちはチートを貰ってここにいるんだ! 負ける筈がねぇ!」
「そうだよな!」
「その通りだ! 正直、この辺のモンスターじゃ物足りなくなってたところだ!」
顔色が戻り、自身を鼓舞するように次々と立ち上がり声を張り上げる。
最後の強気な冗談に笑い合っていると、星也の指導役で騎士隊の隊長であるセレネがテントの中へ入って来た。
「セイヤ、そろそろ準備をお願いします」
「分かりました。みんな、行こう!」
「「「応!」」」
星也の呼びかけに皆が立ち上がって返事を返す。
不安そうに見つめるセレネに星也は強く頷き返すと、彼女は困ったように肩を竦めた。
「それでは、これより皆さんを配置場所まで案内します! 逸れずに付いて来てください!」
「「「はい!」」」
セレネの言葉に声を張り上げるように返事をして、彼女の先導でテントを出た。
エルクレア防衛線にモンスターの大群が当たってから既に一刻半が過ぎた。
魔法使いが約2m間隔で高さ1m横5m程度の土壁を盛り上げてバリケードもどきを作り、押し寄せてくるモンスターが足の止まった所を剣や槍を突き立て攻撃し、飛び越えてくる敵は弓使いが射抜いて行く。
獣と血と鉄の匂いが戦場を埋め尽くし、怒号と咆哮が飛び交う。
時刻は既に夕暮れ、空は赤く染まり影が伸び始めて暗くなり始めていた。
そして、それは野生が最も活動的になる時間であり、モンスターも例外ではなく押し寄せる数と勢いがさらに増した。
未だ混戦にはなっておらず、防戦に徹している冒険者たちも無謀な行動には出ずに、連携というには粗末だが各々を邪魔しない程度に足並みを揃えた動きで確実にモンスターの数を減らしていた。
「畜生! いつまでこうしていればいいんだ!」
「どんなに倒しても、次から次へと湧いてくるな」
「うわ!? あっぶねぇ、今爪が掠った!」
いくら倒しても減る様子のないモンスターの波に、冒険者たちは精神的に疲弊していった。
肉体的にも疲労が溜まり、その疲労が精神を追い詰め疲弊させる……好転の見えない状況も併せて悪循環し始めており、冒険者たちの間で暗い雰囲気を漂わせている。
そして夕日が落ち、山の向こうに陽光が消えかけた瞬間、モンスターの大群の中心で強い閃光と爆風が薙ぎ払うように巻き起こった。
「な、なんだ!? 新手か!」
「おいおい、これ以上は勘弁して欲しいぜ……」
「しっかりしろ! ここで俺たちが負けたら後ろの騎士たちの手柄になっちまうんだぞ!」
「「それは嫌だ!」」
特に仲が良いわけでも悪いわけでもないが、自分たちの取り分が他人に取られる事を何よりも嫌う冒険者たちは、後ろで身を固めているだけの騎士たちに横取りされてなる物かと疲れた体に活を入れた。
しかし、遠くを見て監視をしていた斥候が困惑の声を上げた事が状況を変えた。
「お、おい! 今の光で敵の中心部が大きく削れてるぞ!」
「何? では今のは味方の攻撃だったのか?」
「けど、あんな場所にどうやってあんな魔法をぶち込めるんだ……?」
突然の出来事に呆然とし、今の状況を忘れて呟いてしまう。
冒険者パーティのリーダーの1人がいち早く我に返り、叫び声を上げる。
「……今はそんな事を気にしている場合じゃねぇ! 敵が減ったんだ。今が攻め時だ!」
「「「おう!」」」
原因は分からないが敵が減り、今が好機だと悟った冒険者たちは大きく声を張り上げ攻撃を再開する。
その遥か後方で“山”が静かに迫っている事は、まだ誰も気付いてはいない。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




