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勇者は101人いる(旧版)  作者: 酔生夢死
3章 少年、家を買う

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10話 少年、最前線を突っ切る

(´・ω・`)これが今年最後の投稿になります……

 次は1月10日を予定しています……

 冒険者協会に知らせが舞い込んで来た翌日。

 王都エルクレアの東側に広がる草原にて、モンスターの大群を迎え撃つ為に騎士団と冒険者が集められた。


 騎士団の本隊は防衛の為に、王都エルクレアの東門のほぼ目の前に構えられていた。

 その本部に一人の兵士がやってきた。


「見張り台からの報告です。森の向こうに黒い影を視認、徐々にこちらへ近づいているとの事です」


「ご苦労、下がってよろしい」


「はっ!」


 兵士が下がると、報告を受けた士官は溜息を吐いた。

 ならず者(ぼうけんしゃ)からモンスターの大群が接近しているという目撃情報が上がって来た時には嘘だと思っていた。

 その日暮らしの根無し草の戯言で騎士団を動かすなど、とんでもない事だと直前まで苛立っていたほどである。


「まさか、本当だったとは……何故だ、何故私なんだ。他の奴らではなく、何故私の任期中にこのような事態に……」


 思わず漏れた本音は、幸い誰にも言聞かれる事は無かった。

 勇者が魔王を討伐してから約100年、その間に最強を誇っていたエルクレア騎士団は年々縮小傾向にあった。

 騎士団の本分は防衛である為、モンスターが王都に近づかない限り動かない。

 また王都周辺のモンスターは少なくない数の冒険者が狩りに出るので、都市の防衛機能が働いている事もあり、ここ十数年はモンスターがエルクレアを襲った記録は全く無い。


 事実、若い兵士でモンスターとの戦闘を経験した事がある者はごく一握り、それも兵士になる前に村に迷い込んできた物を退治した事があるだけで、兵士の訓練メニューにはモンスターとの戦闘は一切行われていないのが現状であった。

 そしてそうなってしまったのは、ごくありふれた――上官達による物資の横領である。

 備蓄を少しずつ売り払い、購入する備品の質を落とし、遠征予算は据え置きで回数を減らし、浮いた予算は全て上官達の懐に入っていた。

 勇者というシンボルと暫く続いた平穏が国の防衛力を緩やかに腐らせ、黎明期には魔王の脅威から人類を守る砦として高いレベルを誇っていたが今では見る影もなかった。


「い、いや、だが幾らレベルが下がっているとはいえ、他国と同じ程度のレベルではあるのだ。それにこちらには勇者たちだっている……!」


 縋る希望を見つけた士官が頭を抱えながらブツブツと呟いていると、息を切られた兵士が飛び込んできた。


「ご、ご報告します! モンスターの大群の接近を確認、まもなくこちらへやってきます!」


「チッ……全軍配置に就きなさい。一匹たりとも街に近づけさせるな!」


 逃げ出す場所などとうのに無い、ならばいつまでも泣き言は言っていられず戦うしかないのであった。



 冒険者は最前線で待機していた。

 但し正規の軍である騎士団とは違い、冒険者たちは思い思いに円陣を組んで雑談を交わしていたり、武具の手入れをしていた。


「はぁ、Cランクになったらもっと楽に稼げると思ったのに、何でなってすぐにこんな事になるんだよ……」


 冒険者の一人が剣の手入れをしながら思わず呟いた。

 彼はつい先日、念願のCランクに上がったばかりだった。

 昇格試験に合格した時は、そのまま知り合いと酒場へと流れてバカ騒ぎをして浮かれていたが、その数日後に冒険者カードから招集の知らせがあった時には冷や水を掛けられた気分だった。


 最初は『一定のランク以上になると招集される義務が付く』という事を忘れていた。

 彼の頭の中にあったのは、ランクが上がればもっと稼げるようになるという事だけで、そこに付いて来る義務も権利も説明は受けていたが半分も理解はしていなかった。

 だから、最初はそれを無視しようとしたが他の冒険者からそれを無視すると、最悪カードの剥奪もあると警告されて渋々協会に赴いた。

 そこで聞かされたのはモンスターの大群が街へ迫っている事と、Cランク以上の冒険者はこれの討伐に絶対参加だという事だった。


「はぁ……こんな事になるなんてツイてねぇなぁ」


「おいおいおい、なんて不景気なツラしてんだ?」


「そんな心気臭い顔してたら、俺たちまで暗くなっちまうだろうが。もっと明るく行こうぜ! 何せ稼ぎ時だからな!」


 声を掛けてきたのは彼と同じ、Cランクの冒険者たちだった。

 彼らもこれからモンスターの大群との戦闘が迫っている恐怖心を紛らわせたかったのか、途切れることなく下らない話を喋り続けた。

 そして、その時はやってきた。


「全員、準備しろ! モンスターの群れが見えてきた!」


 決戦の時は、もうそこまで迫っていた。



一方、勇樹は冒険者協会から一旦家に帰り、フィーアに「モンスターの大群が近づいてるらしいよ~」と暢気に告げて1時間ほど昼寝して、慌てているフィーアに昼食を頼んでのんびりと食べた後、散歩に行く様な気軽さで出かけて行った。


「おーおー、もうあんな所にいるのか……うわ~、まるで黒い波だね」


 勇樹は自作した双眼鏡を覗きながら、遠くに見えるエルクレアへと侵攻するモンスターの大群を見てはしゃいでいた。

 現在、勇樹がいるのはエルクレアから東側に十数km、細長く伸びた森を抜けた先にある小高い丘に囲まれた平原、そこを望む高台でひっそりと隠れて待機していた。


 人でモンスターでも、騒然としている者たちの脇をすり抜けるのは割と簡単だった。

 街を出る時には門周辺に兵士が引っ切り無しに出入りしていたので、勇樹が出て行く際には特に見咎められる事も無くあっさり街を出る事ができ、厳山竜を狂わせた“波”の余波で正気を失ったモンスターたちなどは気配を消せば数m横を歩いていても気付かれる事は無かった。


 現在、勇樹が見ているのは今まさにエルクレアへと押し寄せようとしているモンスターの群れである。

 虎ほどの大きさがありそうな狼や2mはありそうな昆虫に、オークやゴブリンなどのファンタジーではお約束なモンスターまでが、続々と迫っている様子が見えていた。


「う~ん、思ったよりも数が多いなぁ。コレをあそこにいる冒険者たちで食い止められるかなぁ?」


 予想以上のモンスターの数に、思わずここへ来る途中で見かけた冒険者達を思い返して不安になった。

 明らかに装備が良さそうな冒険者は広範囲にバラけて待機していたのに対して、恐らくCランクであろう殆どの冒険者たちは中央で固まり、勇樹は集団行動について詳しい訳ではないが、アレでは非効率な事だけはわかった。


「ぶっちゃけアレ、戦う時になったら味方が邪魔で渋滞するんじゃないかなぁ。まあいいや」


 勇樹は面倒臭そうに立ち上がると面倒臭そうに溜息を吐いた……が、その顔は口角が上がり、まるでプレゼントを待ちわびる無邪気な子供の様に目が輝いていた。


「とはいえ、ある程度は掻き回して数を減らして置かないと、こっちの邪魔が入ると面倒だからねっ!」


 徐に首から下げていた双眼鏡を外して腰のポーチに入れ、代わりに槍を取り出す。

 現在、勇樹の格好は誰かに見られても素性がばれない様に全身黒尽くめの服に、フード付きの黒外套を羽織っていて、隠しているつもりでも寧ろ悪目立ちしそうな格好をしていた。


 軽く槍を振るって感覚を確かめるとグッと握り込むと足に力を入れた。

 ――次の瞬間、勇樹が立っていた地点が爆ぜて土煙が舞い、モンスターの大群に向けて勇樹が地面スレスレを飛ぶように駆けだした。


「ヒャァァァッホォォォイー!! レッツパーリィーだ!」


 黒い弾丸は奇声を発しながら、煙と見紛うほどの大群に向かって一直線に向かって行く。

 そして接触した瞬間、煙の一角が小さく凹んだ。

 しかしその凹みはすぐに埋まってしまって、誰にも気付かれる事は無かった。



 勇樹の視界を埋め尽くすのはモンスターばかり。

 槍で刺し、槍で突き、槍を薙ぎ、拳で殴り飛ばし、足で蹴り飛ばしても一向にモンスターは減る様子はない。

 視覚も聴覚も嗅覚も触覚も、入ってくる情報全てが狂ったモンスター一色である。

 腕に噛み付いてきたモンスターを前から来た奴にぶつけて槍で串刺し、後ろから飛び掛かってきたのを蹴り飛ばして前へと飛び、槍を引き抜きながら石突で上にいるのを突き上げて振り下ろし、左右から飛び掛かって来るモンスターを巻き込む。


「アハハハ、こりゃキリが無いや!」


 モンスターに頭突きをかましながら思わず叫ぶ。

 一歩足を進める毎に四方八方からモンスターが押し寄せて来るので、一瞬でも動きを止めれば次の瞬間にはモンスターの波に呑まれてしまう。

 常人であればすぐに息切れしてしまうような状況にもかかわらず、一切立ち止まらずに動いていられるのは勇樹の胸に埋め込まれた“竜の心臓”のお陰だった。


 人の身では強靭過ぎる心臓の機能に追い付く為に、勇樹の血管や臓器などの肉体全体が、レベルが上がるに連れて相応に強化されて超人的な身体能力を得ていた。

 これによりまるでゲームのキャラクターの如く、殆ど止まる事なく動き続ける事が可能となっていた。


 槍で突き刺したモンスターを振り回し、一瞬生まれた空白地に身を滑り込ませて右手で槍を振り回しながら左手をポーチに突っ込み、小瓶を取り出して弾いた蓋を相手にぶつけながら口に銜えると同時に脇から来るモンスターに肘鉄を喰らわせ、自分で煎じた回復薬を飲みながら勇樹は視線を走らせる。


「薄い所はない……なら抉じ開ける!」


 勇樹はポーチに付けていた4つの小さな玉が付いたストラップの内1つを引き抜くと、それに微量の魔力を篭めて前に放り投げた。

 放り投げられたストラップの先に付いた小さい魔石は、周囲の魔力を吸い上げて表面に刻まれた呪文(・・)を起動させた。


「小規模の爆発で吹き飛ばす! ……あっ」



 一方、冒険者たちも今まさに黒い壁の如きモンスターの大群と衝突しようとした。


「来たぞー! 全員、武器を構えろ!」


「「「オオー!!」」」


 冒険者たちが武器を振り上げたその瞬間、大群の中から爆音と共に5m程の火柱が上がった。

 突然の事に、前列にいた冒険者が思わず立ち止まる。


「な、なんだ!? 何が起きた!?」


「誰かが先走って魔法を撃ちこんだか!?」


「ち、違う! 爆発は群れの中から起きたぞ!?」


 突然起きた爆発に動揺する冒険者達。

 モンスターも予想外の方向からの攻撃に一瞬行動が乱れたが、すぐに目の前の冒険者の方へ向き直して侵攻を再開した。

 それを見た冒険者の一部はすぐに気持ちを切り替えて武器を構えた。


「ぼさっとするな! モンスターが来るぞ!」


「弓使いは矢を番え、魔法使いは詠唱を開始しろ!!」


 そこにいた全員(・・)にとって予想外のハプニングが起こったが日銭を稼ぐ為、大切な人を守る為、名声の為、様々な目的が入り混じった決戦の火蓋が切られた。


最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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