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勇者は101人いる(旧版)  作者: 酔生夢死
3章 少年、家を買う

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09話 少年、騒動を傍観する

(´・ω・`)最近、迷走気味です……

 展開は決まっているのに、そこまで行くのが大変です……(愚痴)

 ドラグニールからの知らせを受けた勇樹の行動は早かった。

 最初はフィーアを叩き起こそうと部屋に前まで来た勇樹であったが、ついさっき別れて寝たばかりの彼女を起こす勇気が無く、とりあえず書き置きを残して自分が作製した道具を取りに倉庫へと向かった。


「それで? それはどこまで来てる!?」


『う~ん、この侵攻ペースじゃと3日くらいで街に着くじゃろうな』


「思ったより早いな。この街の戦力で迎撃できると思う?」


『……前に奴が暴れた際には、勇者が戦うと消耗するという理由で複数の国の兵がモンスターの軍勢を引き付けたんじゃが、そうせざるを得なかった理由がコイツの所為じゃったのう。何せ硬い上に歩かれるだけで被害をもたらす動く要塞みたいな奴じゃ』


「うん、とりあえず無理そうなのは伝わったよ」


 鈍重なのは幸いだったが、大抵の攻撃を素で弾けるほど硬い重量級モンスターは性質が悪い。

 止める事も進路を変更する事も容易ではなく、一定以上の攻撃でなければ通じず、相手はただ動くだけで被害が甚大になる。

 まさに“天災”と呼べるモンスターである。

 そんなモンスターに街を襲われれば一溜りもないが、勇樹の関心はもっと別の所にあった。


「大きいってどれだけ大きいんだろ? 手懐けたら背中に登ったり、遊んだりできるかな?」


『いや、無理じゃろうな。今のアレは魔王の放つ“波”に飲まれておるし、目覚めた事に呼応して周囲のモンスターも街に向かって侵攻中じゃからな』


「それを早く言って!? え、モンスターが大侵攻してるって事じゃないか!」


『まあ、厳山竜以外のモンスターはそこにいる人間たちでも対処は可能じゃよ。多分な』


「たぶん!?」


 思わずアイテムを回収していた手が止まる。

 相手が厳山竜1匹ならば、兵隊や冒険者たちと連携して倒すまでは行かなくても退けるまではやれると考えていた。

 しかし余計な外野がいるとなると、割ける人員がガクッと減る事になる。


「くっ、とりあえず僕は冒険者協会へ行ってこの事を知らせてくる!」


『……この時間じゃあ協会は閉っとらんか?』


「……あ」


 時刻は未だ朝日が昇らぬ未明。

 協会はとっくに閉まっている時間で、開くにもまだ時間が掛かる。


「じゃ、じゃあどうすれば!?」


『まあ、落ち着け。厳山竜が街に到着するまでにはまだ3日、取り巻きが到着するまでには丸1日ある。それに、そこまでお主が慌てて心配せんでも、どこの国でも緊急時の備えくらいはある筈じゃ。お主は自分の身の周りだけ心配しとれ』


「むむむ、それもそう……か」


 ドラグニールの言葉に、勇樹は大人しくなった。

 そして、棚に置いてあった鞄を掴んで中身を確認すると、肩に引っ掛けて部屋を飛び出した。


「じゃあ、今できる事をしよう!」


 勇樹はドラグニールからの念話を切ると、支度もそこそこにまだ夜も明けぬ街へと飛び出し、勇樹は真っ直ぐ街の外を目指して走り出した。



 翌日、眠気と欠伸を堪えながら勇樹が冒険者協会へとやってきた。

 何度も欠伸を堪える姿に、アーノルドが物珍しそうに話しかけてきた。


「なんでぇ、やけに眠そうじゃねぇか。あ、もしかして昨日は買ってきた奴隷とお楽しみだったのか?」


 ニヤニヤと下品な笑みを浮かべて、身を乗り出して勇樹に顔を近づけた。

 寝不足で眠気と戦っている中で中年男の顔を近づけられて、勇樹は不快である事を隠しもせずに顔を顰める。


「何だよ気持ち悪いなぁ。昨日は徹夜でアイテムの整理とかやってて寝不足なんだよ。家だって工房も作ってないし、他もまだ改装途中で忙しかったんだよ」


「チッ、何だよ面白くねぇな。男が若い娘の奴隷を買ったとなればやる事は一つだろうが、それとも金が無くてよっぽどアレな奴隷を掴まされたか?」


「失礼な、彼女は奴隷にしておくには勿体ない程可愛い女の子だよ」


 フィーアを貶された気がして、思わず勇樹はムッとする。

 すると、その反応を見たアーノルドは更に笑みを深めた。


「ほほう、じゃあ今度ここに連れて来いよ。んでもって俺に会わせろ」


「はっはっはっ、こんな荒くれ者の巣窟に連れてくる訳ないでしょう? オッチャン、寝ぼけてるの?」


「んだとコノヤロー!」


 そんな風に2人とも笑いながら無駄に水面下で牽制し合っていると、数人の冒険者がボロボロもなりながら協会内に飛び込んできた。

 突然入って来た彼らの様子に、中にいた者たちは何事かとギョッとした顔で注目した。

 しかし、彼らは注目を浴びている事を気にしている余裕も無く、受付へ駆け寄ってカウンターにある物を叩きつけて叫んだ。


「ここから東へ十数キロの場所にモンスターの群れを見つけた! コイツはその一匹の一部だ! もうすぐ、この街に数百のモンスターの群れがやってくるぞ!」


 その瞬間、それを聞いた冒険者と職員が一気にざわめき出した。

 モンスターの大移動……これに類似する現象の原因と考えられる物は少ない。

 『それらのモンスターの天敵となり得るほど強力なモンスターが迷い込んできて、それからに逃げる為』、『天変地異の前触れ』、そして『魔王によるモンスターの大侵攻』。

 いずれにしろ、ただ事ではない事は間違いなく、モンスターとの戦闘を生業にしている冒険者はその最前線に立たされる事は間違いない。

 そして、それを聞いた者の反応は大きく2つ。


「薬や武器の予備を買いに行くぞ! すぐに招集が掛かる筈だ、急いで準備しろ!」


「「「おう!」」」


「や、やべぇよ……モンスターの群れだってさ」


「お、俺、つい最近やっとCランクに上がったばっかりだってのに、そんなのと戦えるかよ!」


「急げ! 協会から招集が掛かっていない今なら、街から出れば召集の範囲外になる筈だ!」


 これからの大戦を前に戦いの準備を始める者と、戦わずに恐怖から逃げ始める者。

 協会内はその2つで大きく混乱し始めた。


「お、落ち着いてください! 詳しい情報が分かるまで冒険者の方は待機していてください!」


「うるせぇ! チンタラしてたらモンスターが来ちまうだろうが!」


 殆どの冒険者たちは動揺していて、職員の制止も全く意味が無かった。

 しかし、それでも冒険者協会から飛び出して騒ぎ立てる者はいなかった……否、そうしようとした者は入り口に立っていた高ランク冒険者に片っ端から気絶させられていた。

 そんな上へ下への大騒ぎを、勇樹とアーノルドはケラケラと笑いながら見ていた。


「よっし! また一人倒した。これで一歩リードだね」


「何の、まだまだ騒いでる奴は山いるんだ。これからが勝負よ」


 2人はどの冒険者が一番騒いでいる者を気絶させるかスコアで掛けていた。

 1人が気絶させられる度に一喜一憂している2人の姿は、混沌としている協会内では異質であった。


「そういえばよぉ、Fランクのお前は逃げださねぇのか?」


「いやいや、こんな近くにモンスターがいるっていうのに街から出るなんて馬鹿でしょ。まあ、街の防衛機能が暴走しているモンスターにどれだけ効果あるのかは知らないけど、外よりはマシだよ」


「はぁ、何でそんな判断ができるのに、ランクは未だ最低()のままなんだよ。そう言う奴は大概3ヶ月もありゃEかDになってるぞ」


「あははー、僕にそんな甲斐性がある訳ないじゃん。無駄な向上心のある奴は死ぬのさ」


「お前は無さ過ぎだ」


「はっはっはっ、それに何かあってもご自慢の“勇者様”が何とかしてくれるんじゃないの?」


「あー、うん、勇者な。確かにそうだな、うん」


 勇樹は何気に思い出して出した話題であったが、それに対してアーノルドは珍しく言葉を濁した。

 何故ならこの時、冒険者協会には勇者たち数名が脱走したという知らせが届いていて、捕縛命令は出さないが注意するようにと国から協会の職員たちに伝えられていた。

 そんな実情を知っているアーノルドは、勇者が頼りになるとは全く思っていなかったので、勇樹が話に出した時につい言葉が出なくなった。

 アーノルドは咳払いを一つすると、徐に席を立った。


「ゴホン、あ~、俺はこれから仕事だ。お前も何があるかわかんねぇから家で大人しくしてろよ」


「え~、いつもみたいにサボれば~?」


「バーロー、俺はサボってんじゃねぇよ。ここに座ってるのも仕事の内だっつうの」


 それだけ言い残して奥の部屋へと入って行ってしまった。

 それとなくアーノルドにモンスターの群れの接近を知らせるつもりだったが、他の冒険者が代わりにやってくれたおかげでやる事が無くなった勇樹は、ボーっとそのまま座っていると協会からの召集を受けた冒険者たちがゾロゾロと入って来た。

 そして、それからさらに10分ほど経つと今度は職員の1人が台を持ってやって来て、その台に上がり説明を始めた。


「皆さん、今日は緊急の招集に集まって頂きありがとうございます。これからギルドマスターからお話があるので聞いてください」


 そして、丁度人影で見なかった誰かが台に上ってくる瞬間、勇樹の目の前にとある人物が立ちはだかった。

 まず見えたのは使い込まれた鉄製の胸当てに要所を革で補強した鎧だった。

 そのまま視線を上げると、どこかのゲームの主人公の様な顔の『期待の新人』カイルがいた。


「……何? 見えないんだけど」


「フン、Fランクが何でここにいるんだ? 今日の招集はCランク以上が呼ばれている筈なんだがな」


 カイルは勇樹を見下した目で冷笑する。

 それに対して勇樹は、そんなカイルなど全く視界に入れてはおらずカウンターに突っ伏してだらけていた。


「あ~あ、これから暫くは依頼が減るかもなぁ。そうなったらノルマはどうなるんだろ? あー、それに外にも出辛くなるのか。素材も予備はどうだったかなぁ」


「おい! 俺の話を聞け!」


「やだよ鬱陶しい、それに僕がどこに居たって僕の勝手でしょ? それとも君の許可でもいるの? 君、ここの責任者?」


「はぁ、全くこれだからFで燻っているような人間は。人の話を全く理解できないのか?」


「あー、もう偉い人の演説終わっちゃったよ。結局、顔も見れなかったよ……あ、そうだ。君、今回は最前線に出るの?」


「え? あ、ああ、勿論だ。こんなチャンスは滅多いないからな。それにこれだけの規模ならAランクの冒険者たちも来るだろうから、戦う姿を近くで見る事が出来るまたと無い機会だ」


 突然、勇樹から話を振られてしどろもどろになりながらカイルは正直に答えた。

 勇樹も暇だったので、相槌を打ちながら適当にカイルを煽てて、話を引き出して暇を潰した。


「つまり、この人たちが今この街にいる上位の冒険者で……って、何で僕はこんな事を話しているんだ!」


 一頻り得意げに話していた所で、カイルがふと我に返って話が中断してしまった。

 それを切り目に勇樹は席を立つ。


「ま、待て!  俺の話はまだ……」


「はいはい、まあ今度ね~」


 カイルは席を立つ勇樹の肩を掴もうと腕を伸ばすが、勇樹はカイルの制止をスルリと躱して、そのまま一回も振り返らないまま冒険者協会を後にしていった。


最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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