07話 少年、期待のルーキーと出会う
(´・ω・`)大体の物語で『期待の新人』と持て囃されるキャラは天狗になっているパターンが多いですよね。
まあ周囲が何でもかんでもチヤホヤしていたら、そりゃあ性格歪みますよ。
「そういえば、昨日早速オッチャンが紹介してくれた所に行って奴隷を買って来たよ。でも酷いじゃないか! 家政婦さんでも雇いに行く気分で行ったら、最後まで面倒を見なきゃいけないペットを貰ってきた気分だったよ!?」
「いや、奴隷なんてそんなもんだろ……てか、あの後すぐに買いに行ったのかよ。どっかのボンボンだったのか? お前」
「食べるのに困らない程度のスキル“は”持ってるよ!」
勇樹の態とらしい微妙な言い回しに対して、アーノルドは差して興味も示さず適当な返事をする。
そして、ニヤリといやらしい笑みを浮かべて、前のめりになって耳打ちをするように小声で話しかけてきた。
「それで? どんな奴隷を買って来たんだよ」
「どんなって言われても、家事ができる子だよ。そもそも家を掃除して欲しくてそう言う人を探してたからね」
「そうじゃなくて、どんな奴を買って来たんだよ。当然、女だよな? 年上か? 同い年か? お前の性格じゃあ年下はねぇよなぁ」
「僕より年下って犯罪でしょ……というか、あの屋敷の規模を掃除しろっていうのは酷でしょ」
「俺を無視して話を進めるなよ!」
話に割って入ったにも係わらず、そのまま話を続ける2人に青年は思わず声を荒げた。
それを聞いた2人は合わせたかのように、心底面倒くさそうに眉を顰めた。
「まだいたの?」
「いたさ! というか話し掛けたのに、なんでそのまま話し続けるんだよ!」
「だって興味ないし」
「な、ぐっ!?」
平然とした顔で鰾膠も無く言い切る勇樹に、思わず言葉が出なくなる青年。
「ねぇオッチャン。この人、オッチャンの知り合い? なんか物凄く突っかかって来るんだけど」
「あ~、確かたった半年くらいでCランクまで伸し上がって、『期待の新星』なんて持ち上げられてる新人だよ。名前は確か……」
「俺はカイル、カイル・フランブリッツだ! よく覚えて置けFランク!」
自慢げに鼻を鳴らしながら名乗り上げるカイルを見た勇樹は、そのままアーノルドの方を振り返ってボソッと呟いた。
「こういうのって、大抵調子に乗って早死にするタイプだよね?」
「お前もそう思うか? 俺も才能はあると思うんだが、こんな調子だといつか自分の力量を見誤って痛い目に合うだろうよ。はぁ、才能ある冒険者は貴重だってのにさぁ」
顔を見合わせてヒソヒソ話を始めた勇樹たちに、カイルはイラついた様子で足を踏み鳴らした。
その音に周囲の冒険者も何事かを振り向いたが、この程度の諍いなどは冒険者協会では日常茶飯事なので、すぐに興味は失われた。
「だから! Fランクが俺を無視するな!」
「はぁ、さっきからFランクFランクってうるさいなぁ。そんなに噛み付いて来て君、オッチャンのファンか何かなの? 実はサインとか貰って楽しくお喋りしたいの?」
「おい止めろよ。メンドくせぇ」
カイルを押し付ける気満々の勇樹に、アーノルドは暗にファンがいることは否定しないまま勇樹を止める。
だが、その友人同士の様な気安いやり取りが余計にカイルの気に障った。
「お前……たかがFランクの癖にいい度胸だな。俺が身の程って奴を教えてやるよ! これから狩りに行くモンスターの数で勝負しようぜ。負けた方は相手の言う事を何でも聞く、俺もお前も同じ条件だ。まさか断るなんて情けない事は言わないよな?」
「お断りします」
「ふっ、そうだろう。勝負を挑まれて逃げ出すなんて卑怯な……はぁ!?」
「お断りします。というか、そっちが圧倒的有利なのになんで受けなきゃいけないんですか? FランクとCランク、実力で考えればどちらが強いかなんて10人に聞けば10人とも同じ答えを言いますよ。それにそんな勝負をして僕に一体何のメリットがあるんでしょうかね?」
「いいのか? ここで断れば後で大変な目に合っても知らないぞ?」
「ご随意にどうぞ。じゃあオッチャン、僕は午後から用事があって出かけるから多分明日は来られないと思うから、いつもの依頼を明後日以降で宜しく!」
それだけ言うと、勇樹はカイルに一瞥もせずに脇を通り過ぎて協会を出て行った。
今まで期待の新人と持ち上げられ恐れられていたカイルは、初めて格下からおざなりな対応をされて怒りで顔を真っ赤に染めていた。
午前中の予定の当てが外れた勇樹は午後からだった予定を繰り上げて、街の外へ出かけモンスターを狩って来る事にした。
緊急の討伐ノルマで大勢の冒険者が門へと集まっている今、少し時間が経って人が疎らになってからでは普段余り他の冒険者と交流のない勇樹は目立ってしまい、厄介な輩に目を付けられ可能性が増えてしまう。
そんなリスクを避ける為、勇樹は街の外へと出る冒険者の群れに紛れてこっそりと外へ出た。
だがハッキリ言って、外へ出たのは失敗であった。
例えるならば長期休み中のレジャー施設状態、流石に鮨詰め状態ではなかったが明らかに場所に対して冒険者が過剰な状態であった。
「あーあ、適当にグレイファングの群れでも狩ろうと思ってたのに、これじゃあ人目があり過ぎるよ……もっと奥へ行こうっと」
探していたEランクのグレイファングを諦め、一つ上のランクのモンスターを狙いに、勇樹は森の奥を目指した。
そして、それも失敗だった。
Dランクモンスターのビッグベアを見つけ、影に潜みながらゆっくり近づいて仕留めようと武器を取り出そうとした時、突然脇から別の冒険者パーティが現われてビッグベアと戦闘を開始してしまった。
似たような事が3度ほどあったので仕方なく勇樹は人目を避ける為に、モンスターのレベルが高い魔王領方面に向かった。
モンスターが強ければそれだけ近づく冒険者の数も減り、しかも森の奥へ行けば木々が鬱蒼としていて視界を遮るものが多いので、まず他人に見つかる事は無い。
だが、この選択が最後の大失敗であった。
「おっかしいなぁ。いつもだったら熊の1頭や2頭は見つかる筈なのに……足跡とか爪痕は見つけるけど、肝心の本体はどこだ?」
勝手知ったるは採掘で通っている森。
慣れた足取りでどんどん森を進んで行く勇樹だったが、いつもとは違う森の様子に首を傾げた。
普段ならば幾つかのモンスターの気配は常に感じられる筈なのだが、今日は不自然なまでに森が静かであった。
「あれー? 何でこんなのモンスターがいないんだ? まさか、ここにまで冒険者が……」
「君! こんな所に入り込んでは危ないじゃないか!」
勇樹の嫌な予感は思い付いて、即当たった。
協会の招集は王都エルクレアにいる冒険者全員に発せられていた。
つまり、普段は滅多に出て来ない高ランクの冒険者も当然駆り出されていた訳で、そんな高ランク冒険者が低ランクに混じって城周辺のモンスターを討伐していても、儲けが少なく非効率である。
であれば、自然とランクは高いが買い取り価格も大きいモンスターを狙って、森の奥へと流れるのは自然な流れであった。
声を掛けられた勇樹は咄嗟にマントのフードを目深に被り、布を当てて口元を隠した。
と同時に、勇樹を見つけたパーティは慌てて勇樹の方へ駆け寄ってきて周囲を警戒する。
「君、一人でこんな所へ来てはいけないぞ! 我々の様なAクラスのパーティですら、この森に入るのは危険だというのに」
「はっ、大方欲に目が眩んで入って来たんだろ? そんなちゃちな皮鎧とマントしか着てない奴が森に入ってくんなよな。俺たちの邪魔だろうが」
「こら、そんな風に言わないの! ゴメンねボク。この人、口は悪いけど実は心配性なだけだから気にしないでね」
「……この前も新人を助けてたしな。面倒見は良いんだ」
「おい、勝手な事言ってんじゃねぇぞ!?」
安全が確認できたのか、囲うようにして冒険者たちが勇樹に話しかけてきた。
勇樹は隙を見て逃げようと思っていたが、流石に高ランクに成れるだけの事はあり、抜け出せるような隙が全く無かった。
なので、勇樹は作戦を変える。
「いえ、僕は冒険者ではなく商人なんです。こんな森の中じゃあ、戦い続けていたら薬や食料なんて幾らあっても足りないでしょう? だからと言って一々街まで戻るのは大変だ。なので、今回に限り出張をしているんですよ」
そう言って勇樹は鞄の中から回復薬の入った瓶を取り出して見せる。
それを聞いた冒険者たちはお互いに顔を見合わせた。
商人が態々モンスターのいる場所まで物を売りに来るなどという話は聞いた事が無く、それが少年一人で危険な森の奥まで来るなど不自然極まりなく『怪しい』の一言だった。
しかし、その反面で彼らにとってこの出張は有難かった。
事前に準備しているとはいえ、全てが予定通りに行く訳ではない。
当然予想外の出費が起こる場合もあり、実は彼らも予想以上に連戦が続いた所為で早々に手持ちの薬などが無くなり掛けてしまい、引き返す途中であった。
「回復薬だけではなく、矢の補充や保存食量に飲料水。魔法を封じた魔石も僅かながら用意していますよ」
「魔石まで!?」
勇樹が挙げた商品に冒険者たちは驚きの声を上げた。
嵩張る為に最低限しか持って来られない食料や飲み水だけではなく、使い捨てながら魔法が使えない者でも魔法が使用できる希少な魔石まであるのは予想外であった。
「ただし、態々こうして危険な場所へ出向いているので出張料金で少し高くなっていますが大丈夫ですか?」
「ああ! 金なら幾らか持ってるからすぐくれ!」
流石に怪しいと思ったのかすぐに調べられない薬の類は買わなかったが、矢や魔石は質を調べた後、その材質や作りの良さに驚きながら、出先だったので全てを現金払いとはいかなかったが、足りない分は彼らの狩ったモンスターの素材を物々交換でほぼ買い取られた。
販売が終わった所で勇樹はさり気無い流れで彼らに別れを告げ、引き止められる前に全速力でその場を立ち去った。
「ふぅ、危ない危ない。まさかあんな所で他の冒険者と鉢合わせするとは……というか、よく見るとあっちこっちで冒険者がうろついてるや。今日は大人しく帰った方が良いな」
これ以上奥へ行くにしても帰って来る時に鉢合わせするリスクがある事を考えて、勇樹は大人しく帰る事にして来た道を帰ろうと引き返し……ふと、何か言い知れぬ気配を感じて足を止めた。
しかし、周囲を見回しても草木が鬱蒼としているだけでモンスターの影すら見当たらない。
結局、一瞬感じた気配に首を傾げながらも気のせいだったと思い直して勇樹は街に戻って行った。
――同時刻、エルクレア王国の東部。
数百年前に起きた魔物の大侵攻の時に大暴れして軍隊を蹴散らし、勇者とその仲間たちによって行動不能にまで追いやられ、それ以降は百年単位でずっと特に動きもせずに寝起きを繰り返していた。
そして、今年は偶々それが目覚める年であった。
通年通りであれば、また眠るまでの間は微睡みながら周囲の物を食い荒らすだけの筈だった。
それが目覚めてまず始めに感じたのは『ざわめき』。
頭の中で複数の声が幾重にも重ねるように囁きが響く。
次に聞こえてきたのは唸る様に低く恨みの篭った『声』。
その声が聞こえる度に、それの意識は黒く深く塗り潰されていった。
そして、それに比例する様に怒りとも憎しみにも似たどす黒い感情が湧き上がり、視界を真っ赤に染めた。
『人間ハ敵ダ!』 『人間ヲ滅ボセ!』
『人間ヲ殺セ!』 『恨ミヲ晴ラセ!』
その声に導かれるまま、それはゆっくりと動き出した。
山の如き巨躯をゆっくりと持ち上げると、ずっと動かずにいた所為で背中の上に張り付いていた木々が地滑りを起こしたように滑り落ちた。
大岩の如き顔を上げ、周囲を見回して目的の物を見つけると、それは大地を響かせながらゆっくりと歩み出した。
それの名は『厳山竜』。
魔王が復活の予兆である“波”に飲まれて正気を失い、狂気に目を曇らせた巨大モンスターは人が多くいる場所……王都を目指していた。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




