表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者は101人いる(旧版)  作者: 酔生夢死
3章 少年、家を買う

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/130

04話 少年、奴隷を買いに行く

 アリサが出かけてから3日、屋敷を購入して一週間が経ち掃除から始まった一階部分の改装が完成して、ふと辺りを見回してみると、勇樹はかつてない程のピンチに陥っている事に気が付いた。

 そして、そのピンチに対して勇樹はあまりにも……無力だった。


「アカン」


 家の惨状を見て、勇樹は思わず呟いてしまった。

 それは改装に使った木材や石材に工具まで、色々な物がやりっぱなしのまま放置されている廊下だった。

 おまけに木屑もまるで新雪のように散らばったままだった為に、洗面所まで歩いた勇樹の足跡がくっきりと残っていた。


「あっちゃ~、片付けてないからゴチャゴチャしちゃってるなぁ。しかもこっちは……」


 そう呟きながら勇樹はリビングのドアを開ける。

 すると中は、宿から持って来た脱ぎ散らかした服や食べた後に放置した食器や、街の外へ出かけた後に泥だらけのまま歩き回った所為で床に泥が点々と固まってこびり付いていった。

 他にもノームから貰った味噌や糠の樽なども積み上がっていて、文字通りのゴミ屋敷と化していた。


「……流石にこれは人の住む環境じゃないよねぇ。でも片付けるのは苦手だしなぁ」


 余りの惨状を見回しながら頭を掻いて暫く考え込むと、小さく溜息を吐いた。


「……よし、援軍を頼もう!」



「という訳で、これを出したいんでお願いしまっす!」


「あ? お前の方が依頼を出すのかよ。どれどれ……」


 アリサがいない為、この町に知り合いは殆どいない勇樹は、初めから最終手段である冒険者協会へとやってきた。

 Fランクが依頼を出すというのは余り無い話なので、珍しく興味を持ったのかアーノルドは勇樹から受け取ってその内容を読んだ。

 だがすぐに溜息を吐いて鼻クソをほじり始めた。


「アホか、こんなの態々(わざわざ)依頼に出すなよ」


 冒険者協会に行くと、アーノルドが呆れ顔で依頼書を突っぱねた。

 突っぱねられた依頼書にはこう書かれている。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 ※家の家事依頼

 期間:1日

  報酬:銀貨一枚(1千E)

  備考:主に家の掃除、洗濯、食器洗いなど

          依頼者:ユーキ・イトー

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

 そもそも家事では戦力外の勇樹は、人を雇う事で解決しようとしたのだった。


「アホか、こんな依頼に銀貨一枚は高いし、そもそもこんな事は奴隷でも買ってソイツにやらせておけばいいじゃねぇか。こういう依頼を出すって事は、ある程度の金はあるんだろ?」


「まあ、あんまり使ってないからね」


 とはいえ、日本生まれ日本育ちの勇樹にとっては“奴隷”というのは創作上の非日常的な物で、家事を任せるお手伝いさんというと年配の方というイメージしかなかった。

 好き勝手やっている勇樹にとっては、年上の他人に家の中に居られると見咎められているような気分になるので、あまり気乗りしなかった。


「奴隷と一言で言っても色んなのが居らぁな。人族に亜人、獣人に老人に若いの男も女もいるから、若い女の奴隷でも買って来れば良いじゃねぇか」


 ニヤニヤと笑みを浮かべたアーノルドが茶化すように勧める。

 そんなアーノルドの様子に気付いた様子すらなく、勇樹は珍しく真面目な顔をして考え込んでいた。

 とは言っても、内容は奴隷を買うのと短期で人を雇うのとでは、どちらの方が精神的負担の少ないかと悩んでいるだけであった。

 そんな様子に、アーノルドが呆れた様子で溜息を吐いた。


「それによう、冒険者ってのは大なり小なりチンピラみたいなもんだぜ? 家事なんか真面に出来る訳ないだろうが」


 その言葉で勇樹の奴隷購入が決定した。



 冒険者協会に紹介された場所へ行って見ると、勇樹の世界での学校のような建物が建っていた。

 広い敷地には四方を囲う3mほどの高い壁と、鉄の棒をがっしりと組み上げた堅牢な作りになっている門が立ちはだかる。

 そこで初めて、この壁は部外者から内部を守る為の防御ではなく、中の物を外へ出さない為の檻なのだと気が付いた。


 勇樹は門にいた警備員にギルドからの紹介状を見せると、隣接する建物に案内された。

 ここは奴隷市場。売られてきた者を奴隷として教育して売り出す、仕事の無い低級民の受け皿であり、捕まった犯罪者の引受先であり、この世界の社会の労働者供給源である



「ようこそいらっしゃいませ! ワタクシ、この奴隷市を仕切られて頂いております奴隷商のアクドと申します! えー、イトー様はギルドからのご紹介となっておりますが、この度はどのような奴隷をご所望でしょうか!?」


 店の奥から出てきたのは、スラリとした痩身の紳士だった。

 しかし、派手な色のタキシードにシルクハットを被り、クルリと整えられたカイゼル髭とモノクルを掛けている所為で見るからに胡散臭い雰囲気を漂わせた、誰が見ても態とらしい満面の笑みを浮かべた中年の奴隷商だった。


「家事ができる奴隷が欲しい。性別問わず16歳前後なら亜人でも獣人でも構わない」


「承知いたしました! それでは何人か連れて参りましょう!」


 アクドはそう言って後ろに控えていた部下に合図を送ると、部下は一礼して部屋を出て行った。

 程無くして、部下は数名の検査衣のような薄い麻服を着た奴隷を連れて戻ってきた。

 そして連れて来られた奴隷を見た勇樹は、思わず目頭を押さえてしまった。


「ご要望通り、家事ができる16歳前後の奴隷でございます! 如何でしょうか?」


「家事、家事ねぇ……」


 アクドが連れて来た奴隷は、本当に同い年なのだろうかと疑いたくなるほどの……筋肉質な男だらけだった。

 人、亜人、獣人……8人ほどの奴隷が連れて来られたが、どれも体力自慢の肉体労働が得意そうな者ばかりで家事が得意そうには見えない。


「えーっと、彼らはどういう事が得意なんですか?」


「はい、主に薪割りやゴミ掃除、屋敷の警護などが得意ですよ!」


「ですよね~」


 普通、奴隷を買い求める客は労働力が不足している中流層か上流層、又は即戦力を欲している冒険者パーティと決まっている為、特に若い奴隷が欲しい場合は十中八九、肉体労働用として買って行く場合が多い。

 特に勇樹はギルドからの紹介状を持ってやって来た為、奴隷を買ってくるように言われた冒険者パーティの雑用だと予想して、それ用の奴隷を揃えたのであった。


「あ~うん、欲しいのは掃除とか洗濯とか料理とか、家の事を任せられる奴隷が欲しいんだ。悪いけど彼らでは僕の要望に応えられそうにないよ」


「し、失礼しました! それでは改めてご要望通りの奴隷を連れて参りますので、少々お待ちくださいませ!」


 困ったように眉を顰めた勇樹を見て、アクドは慌てて奴隷を下げさせた。

 出されたお茶を飲みながら待っていると、今度は先ほどと同じように麻服を着た同世代くらいの少女たちが5人ほど連れて来られる。

 やはり亜人や獣人もいたのだが先ほどと違うのは、男たちは髪も髭も伸ばしっぱなしで身なりがあまり良くなかったのに対して、この少女達は身だしなみがキッチリとして薄らだが化粧すら施していた。


「如何です。綺麗所を揃えさせて頂きましたが、気に入った者は居りましたかな?」


「う~ん、そうですね~」


 勇樹としては折角買うならば異世界らしく亜人か獣人を買おうと決めていた。

 そしてこの場に擦れて来られた奴隷は人族と獣人が2人ずつに亜人が1人、目を合わせるとニッコリと微笑む者から、薄着が恥ずかしいのか俯いて顔を合わせ無い者まで、勇樹に対する反応はバラバラであった。


「一応聞くけど、ここにいる全員は家事全般ができるんだよね?」


「ハイ、勿論でございます。一応ご説明を入れますと、そちらの赤毛の人族のアンは洗濯や料理の他に裁縫スキルを持っております。隣の金髪の人族のネーアは算術スキルと書類作成スキルを持っており、机仕事なども得意としています。次の猫の獣人ミアは冒険者の経験があり、犬の獣人チロは歌唱スキルがあります。どうです? どの娘も見目麗しくオススメとなっております! ちなみに全員、処女ですよ」


 耳元でそう付け加えられた情報よりも、勇樹はアクドのキツイ香水が気になり思わず息を止めた。

 しかしアクドの言う通り、ここにいる少女は勇樹の目から見ても美しく可愛らしい娘ばかりだった。

 しかし、勇樹にはそんな事よりもアクドのある言動の方が気になった。


「あの、そこの後ろにいる子は?」


「え? ああ、あの娘はですねぇ……何と言いますか、お客様の要望に応えられる物は全て提示するというのがワタクシの信念でありまして、ハイ。不快でしょうが、彼女もまたお客様のご要望に叶う奴隷かと思いまして……」


 勇樹が4人の陰に隠れるように立っている亜人の少女について尋ねると、先ほどまで胡散臭いまでの笑みを浮かべでハキハキと答えていたアクドが、初めてそれ以外の表情を浮かべ眉を顰めて言葉を濁した。

 アクドとしては気付いて欲しくなかったようだったが、むしろ口数が減った事が勇樹の興味を引いた。


 その少女を見て勇樹がまず気になったのは、他の4人に比べて着ている服がヨレヨレで、髪も良く手入れされておらず伸ばし放題で明らかに態と彼女を野暮ったく見せている。

 彼女の周りも、その少女を勇樹の視界から外して自分をアピールするように、前へ出て横一列に並び立っている。

 何かあるのかと観察していると、少女の髪の間から尖った耳がチラリと見えた。


「……エルフ?」


 勇樹の何気ない呟きに少女は肩をビクッと震わせた。

 すると、アクドは観念したように溜息を吐いて語り始めた。


「実を言いますと彼女はハーフエルフなのです。ご存じの通りエルフは誇り高い種族でありますのでハーフエルフは迫害の対象となり、またハーフエルフは精霊魔法を扱えない事から精霊から嫌われたエルフ……つまり、災いの元と云われ買い手が付かないのですよ」


「じゃあ、なんでそんな子を奴隷に?」


「奴隷商のルールには『来る者は拒まず』という物がありまして、どのような者であっても奴隷ならば扱わなければならない規則があるのです。彼女もここへ来てからもう8年ほどになるのですが、ハーフと知ると途端に手を引く方が多いのですよ……」


「なるほど……」


 勇樹の感情が篭っていない反応に、アクドは小さく溜息を吐いた。

 アクドとしてはこのまま彼女の『若さ』という商品価値がなくなる前に何とかして売り払って、ここの奴隷として置くのだけは避けたかった。

 が、思った以上にハーフエルフという枷は大きく、時折こうして他の奴隷と混ぜて並べるが反応は芳しくなく、脳筋な冒険者も最初は彼女の容姿を見て買おうとするのだが、ハーフと知った途端に尻込みしてしまう。


 今回もまたそうなるのかと諦めて掛けたその時、勇樹は徐に椅子から立ち上がってハーフエルフの少女の方へと歩み寄った。

 突然の行動に周りが驚いていると、勇樹は少女の手を取って……


「良い、素晴らしいじゃないかハーフエルフ! やっぱファンタジーってこうでなくっちゃ! なんで人間以外との交配が可能なのかとか2種が混じるとどう変わるのかとかいろいろ気になる所もあるけど、それ以上にファンタジーにはハーフって欠かせないよね! 純粋なエルフとか獣人も気になるけど、やっぱレアさというかロマンがあるよね! しかも良く見るとアンバーとエメラルドグリーンのオッドアイなんだね! あ、僕はユーキ・イトー、冒険者です! よろしく!」


「え、え? な、何が……」


 突然目を輝かせた勇樹は、興奮しながら少女の手を両手で包み込むように握り締め、鼻先がくっつきそうなほどの距離まで顔を接近させて捲し立てるように話し出した。

 今までに経験した事のない突然の反応に、少女は状況が把握できずに目を回していた。

 少女の手をギュッと握りしめたまま、ブンブンと腕を振っている勇樹は、顔だけアクドの方へ向けて告げた。


「気に入った。この子を貰うよ」


「は……ハイハイ! 構いませんよ、お買い上げありがとうございます! ええ、こちらのハーフエルフはフィーアと申しまして、ウチの奴隷の中でも家事系スキルはトップクラスで何でもそつなく熟しますよ! そして何と言っても、精霊魔法こそ使えませんが属性魔法も人並に扱う事が出来るのです! 冒険者ならば供に連れて行くも良し、これだけの器量をただ侍らせるも良し! それに何と言ってもハーフとは言え、永遠の美の象徴であるエルフの処女ですよ!」


「へぇ~」


 つい先ほどまで諦めオーラを漂わせていたアクドが、売れると確信した途端にハーフエルフのフィーアをグイグイ売り込み始めた。

 勇樹はフィーアの顔をよく見てはいなかったが、改めてみると美形種族のエルフの血が入っているだけの事はあり、シミ一つない肌に丸みを帯びた目、すーっと通った鼻と桜色の小さい唇がバランス良く顔に配置されていて、世間一般を鑑みても可愛らしいと評価される顔立ちである。

 但し体系もエルフの血からは脱せなかったようで、スレンダーな体型であった。


「では如何でしょう? 金貨14枚という所で……」


「14!?」


 そこで初めてフィーアが声を発した。

 今まで銀貨3枚まで落とされても買い手の付かなかったハーフエルフの自分に、それだけの高値が付けられる日が来るとは思っても見なかったからである。

 フィーアの反応を見て、勇樹は目を細める。


「あはは~、オジサン吹っ掛けるねぇ。この子、ハーフエルフで買い手が付かないんでしょ? 特に貴族や冒険者っていうのは験を担ぎたがるものだから、『災いの元』なんて言われてる商品を買う人なんていないんじゃない?」


「はっはっはっ、しかし決して買う人がいない訳じゃありませんよ? 今はこうして残っていますが明日には他に買われてしまう可能性も無きにしも非ずですよ? そうなればこれだけの器量よしは早々……」


「金貨1枚」


 値を吊り上げようと語るアクドに割り込んで、金額を提示する。


「イトー様……さすがに金貨14枚を1枚にするいうのは……」


「8年も買い手が付かず、ハーフエルフという事を吟味すればこれでも出した方でしょ? 本来なら売れ残ればここの奴隷にするか、鉱山かどこかで安く使い潰すしかないんだからさ。だったら、少しでも赤字は補填したいんじゃない? ああ、僕は別に構わないよ? 別にここで買えなければ、遠出して別の街で買えばいいわけだし」


「え……」


 勇樹の言葉にフィーアは声を漏らす。

 通常、奴隷が奴隷商の元に居られるのは大体2年から4年である。

 殆どの場合はその期間内に売れてしまう事が多いので長くいる方が珍しい。

 それに買い手が付かなければ、国に労動力として買われて鉱山などに送られ働かされて、大体が解放される前に死んでしまうのが普通である。


 フィーアが8年も居られたのは、見た目の良さと珍しさからだった。

 しかし、入れ替わりの激しい奴隷たちの中で売れ残っているというのは肩身が狭く、孤立してしまっていて、新人からいじめられる事もよくあった。

 そこへ自分を買ってくれるかもしれない、しかもハーフエルフの自分を嫌悪しない人に出会ったと思いきや、その希望があっさりと消えてしまいそうになった。


「むむむ……では、金貨7枚では?」


「金貨3枚、これ以上は上げられない」


「……はぁ、仕方ありません。金貨3枚で手を打ちましょう」


「あ、登録とかのオプションも込みでお願いしますね」


「ええ、ええ! 出血大サービスです! どうせ鉱山の方にも送れたか分からなかったですからね! この際、売れた事を祝して契約料も首輪代もそれでいいですとも!」


 アクドは自棄になったように声を上げて、契約を施す者を呼ぶ。

 勇樹は渡された針で指を差してぷっくりと赤い血を出すと、それをフィーアの首筋にある奴隷紋に押し当てた。

 すると紋様が光り出して、形が微妙に変わった。


「……ハイ、契約は終了でございます。最後に、奴隷は首輪をせずに外を歩き回ると没収されてしまうのでご注意ください」


 アクドからチョーカーのような首輪を受け取り、勇樹はフィーアの首に巻いた。

 この瞬間、勇樹は初めて奴隷を購入した。


最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ