03話 少年、先輩からいびられる
冒険者協会の受付アーノルドから逃げ出した先で待っていたのは、ガラの悪い冒険者パーティであった……
加虐的な笑みを浮かべた3人に連れられて、勇樹は協会のすぐ脇の裏路地に押し込まれ、マンガに出てくる不良のカツアゲシーンのように胸倉を捕まれ壁に押し付けられた。
「おいお前、随分と上手くあのオッサンに取り入ったな。Fランク風情があのオッサンを扱き使ってよぉ。お前、アイツの何か弱みでも握ってんのか?」
「……違いますよ。というか、何でそんな事を聞かれなくちゃいけないんですか」
「おいおい、優しく聞いてる内が花だぜ? 大人しくゲロッちまえよ」
「いや、ですから何で貴方たちにそんな事を話さないと……」
勇樹はそこで言葉を切った。
いや、言葉を切らざるを得なかった。
何故なら業を煮やした1人が、勇樹の頬にナイフを突きつけたからだ。
「ごちゃごちゃとうるせぇんだよっ! ちょっとあのオッサンに気に入られてるからって調子に乗ってんじゃねぇぞ! 良いからさっさと吐けっ!」
「えーっと、吐けと言われてもそもそもこの状況自体が飲み込めてない訳で……貴方たちは誰? あのオッサンのファンかなんか?」
暢気に質問をする勇樹に、3人の顔が引きつり怒気が増す。
そして、勇樹はさらに強く壁に押し付けられ一瞬息が止まった。
「ざけんなよ……そもそもFランクが家を借りるだぁ? 言え、どうやってあのオッサンに取り入った。弱みでも握ってんのか?」
「どうしてそう言う発想になるかな……」
「Cランクの俺たちですら宿暮らしなのに、Eのお前がそんな良い暮らし出来る訳ねぇだろう! ネタを言え、そうすれば俺たちもあのオッサンから金を脅し取れる……!」
この男たちは勇樹の羽振りが良いのは、アーノルドの弱みを握り贔屓して貰っている物だと思い込んでいた。
そして、暫く状況が良く分かっていなかった勇樹も漸くその事に気付き、大きく溜息を吐いて胸倉の手を軽く払った。
軽い仕草ではあったが、男はそれだけで手を放してしまいフラついて尻餅まで付いた。
「はぁ……何かと思えばカツアゲだったんですねこれ。僕はてっきり体育会系な可愛がりかと思って焦っちゃいましたよ」
「んだと!?」
勇樹の思いっきり嘗めた態度に、3人は思わず剣に手を掛ける。
しかし、天災レベルがウヨウヨしていた竜の砦や五感を封じられて襲われた竜の里での修行に比べれば、彼らの殺気など勇樹にとってはそよ風レベルであった。
一般人ならば腰を抜かすであろう殺気をぶつけられても、特に恐れる事もなく勇樹は無防備に3人に近づいて……彼らの顎を打撃して一瞬の内に無効化させた。
「ふぅ、何で目を付けられたんだろう? ネット小説のテンプレは外してたつもりなんだけどなぁ」
勇樹は悶絶している3人の装備を手早く剥ぐと、酒精の強い作業用酒を顔などに振り掛けて、泥酔した所で路地の奥に放置した。
これで仮に見つかったとしても、酔っぱらって寝込んだ所を追い剥ぎにあったぐらいにしか思われず、本人たちも極度の泥酔状態になれば記憶が飛ぶかそのまま凍死してくれれば後腐れも無い。
勇樹は何食わぬ顔で路地裏から出ると、足早にそこから立ち去ったのであった。
屋敷へと帰宅した勇樹は、早速暫く放置されていた屋敷の掃除を開始した。
余計な茶々が入った所為で若干時間を取られた所為で既に太陽も傾きかけているが、ある程度は綺麗にしておかなければ、壁は蔦が這い、部屋の中は埃と蜘蛛の巣だらけ、幸い雨漏りしている所はなかったが、自分が使う範囲の部屋だけでも掃除をしておかなければ、今晩は寝る所が無いという危機迫った状況であった。
「ちくせう! こうなると分ってたら草刈り機とか掃除機とか作って置いたのに! 殆ど武器になるような物しか作ってないよ!?」
と嘆いては見たものの、幾ら嘆いた所で無い物ねだりにしかならないので、勇樹は大人しく誰もいない屋敷を黙々と掃除する事にした……
勇樹が真っ先に取り掛かったのは、腰ほどまで伸びきった庭の草むしりだった。
無心だった。 ただひたすら目に映る緑を鎌で刈り取る作業を機械的に熟してゆく。
己は機械だ、草刈り機なのだと言い聞かせて、屋敷の表側を粗方刈り終わった頃になって入口の門から玄関までの道を綺麗にするだけでも十分に事足りた事に気が付き、精神的ダメージで膝から崩れ落ちて暫く動けなかった。
しかし、いつまでもそうしている訳にもいかない。
何せ屋敷の中は未だ手付かず、宿から移動させた荷物は玄関ホールに置いたままなのである。
既に日も暮れているので、妥協して今日は玄関ホールで寝るにしても埃っぽいのは我慢できない。
これからの重作業を思うと気が重くなるが、勇樹は膝に力を入れて立ち上がりフラフラと屋敷の中へ入って行った……
「えーっと、確か聞いた場所はここの筈だけど……本当にここ? 間違えてないよね?」
勇樹がアリサに家を買ったと報告に来てから3日が経った。
アレから一回も顔を見せに来ない勇樹を心配したアリサは、勇樹の屋敷を訪れたのだが……予想以上の豪邸に驚いていた。
何せ、街のギリギリ外にあるという事で人気のない土地を、とある貴族が税金対策に纏めて借り上げて建てた屋敷は、ここへ来る途中にあった大きな屋敷すら3つは軽く入りそうな広い敷地に、2階建ての部屋数が十数室もある立派な屋敷が建てられていた。
アリサは予想以上の規模に暫く言葉を失い立ち尽くしていたが、屋敷の方から大きな物音がしたのを切っ掛けに我に返り、慌てて屋敷の中へ入って行った。
そして、扉を開けたアリサの目に飛び込んできたのは、いつぞやの様に行き倒れている勇樹……ではなく、額にねじり鉢巻きを巻き、口には釘を銜え、目の下に隈を作りながら床板を張り直していた。
「あ、アリサさんこんにちは~。今日はどうしました?」
「どうしましたって……ユーキ君が3日もウチに来ないから心配して来たんじゃない」
「あ~、もうそんなに時間が経ってたんだ……いや~、実はあの後にここの掃除を始めたんですけど、そうしたらあっちもこっちもスッカスカだったんで、これはもう掃除するより引っぺがして作り直した方が早なぁなんて思ったら夢中になってました。済みません」
「夢中になってたっていってもここまでする? 普通……」
恥ずかしそうに照れている勇樹の言葉に、アリサは呆然としながら壊された壁と剥がされている床に視線を向ける。
綺麗に無くなっているそれは、素人が思い付きでやった様には思えないほど綺麗に外されていて、今も床板を張り直している姿は、いつも見ているのほほんとしている勇樹とはかけ離れた、まるでプロのように慣れた手付きだった。
「もうちょっと待っててください。もう少しでここも張り終えちゃいますから、そうしたら食堂へ案内しますよ」
「はぁ……わかった。私はここで見てるね」
「はーい」
アリサが玄関ホールの大階段に腰かけると、勇樹は黙々と作業を再開した。
その後、驚くほど作業はスムーズに進み、数十分で終わった。
作業を終えた勇樹は一旦汚れた服を着替え、アリサを食堂へ案内すると、屋敷のあまりの広さにアリサは目を回していた。
ドアを開けると、中は十数人くらいが一度に食事できそうな広い食堂のど真ん中にポツンと4人掛けの円卓が置いてあった。
アリサは呆然としたまま勇樹に手を引かれ、勧められるがまま席に着いた。
勇樹は向い合せに座ると話を切り出した。
「それで、今日は何の用ですか? 僕の様子を見に来ただけじゃないでしょう?」
「……うん、実はね。私、明日から一週間ほど用事でお城の方の教会に行かなきゃいけなくなっちゃったの。だから、その間ユーキ君のご飯が……」
「あ~、うん。それ位なら僕でも何とかできますよ。それよりも子供たちの方は大丈夫ですか? ヘレンさんだけじゃあ色々と大変なんじゃあ……」
「それについては大丈夫、この時期だけ手伝いに来てくれる人たちがいて、子供たちの面倒は見てくれるんだけど、その人たちはあくまで協会を手伝いに来てくれているだけだから、私がいない間またユーキ君がどこかで行き倒れないか心配で……」
何せ、目を放すと何をしでかすか分からず、いつもフラフラとジッとしていない。かと思えば部屋に引き篭もって文字通り寝食を忘れて何かに打ち込んでいる。
今回にしても、部屋の掃除がいつの間にか屋敷のリフォームに発展しているように、アリサとしては一週間も様子を見に行きたくても行けない状況というのは、気が気ではなかった。
心境は家にペットを残して遠出しなければならない飼い主である。
旗色が悪くなった勇樹は、手を叩いて声を上げた。
「それより、アリサさんも一週間も出かけるんですよね! だったら念の為に色々持っていった方が良いですよ! ほら、例えばこんな物とか!」
話を変えるように勇樹が取り出してきたのは、小さなアクセサリーから暗器、果ては用途が分からないような物をジャラジャラとテーブルの上に広げた。
そしてその中から小さな笛を取り上げた。
「これは『恐怖呼び起こす角笛』といって、吹くと中に刻まれた溝を通した息が圧縮された魔法詠唱となって、笛の音を聞いた相手を軽度の『恐怖』状態にできます! 暴漢に襲われそうになった時にどうぞ!」
「い、いやぁ、そう言うのは使わないと思うなぁ……」
「じゃあ、こっちの短剣は!? これはとある神話をモデルに、振るっただけで山の頂を切り落とす事が出来る『小さき稲妻』って言うんですけど……あ、それとも銘を呼ぶと持ち主の元へと飛んでくる『呼応し抉る戦神剣』っていう短剣もありますよ!」
「うん、だからね……」
結局、アリサは勇樹の熱意に根負けして(比較的に)穏やかな【解毒】魔法が込められたペンダントを選んで受け取った。
勿論これも勇樹が作製した装着者に即死するような毒を無効化する耐性を付けるマジックアイテムで、王族でも持っていない様な品だったりする。
そんな事とは露知らず、次の日にアリサは出掛けて行った……
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




