幕間2‐2 100人の勇者たちの試行錯誤
(´・ω・`)多分なろうを読んでいる人なら1度は考えるであろう異世界への転生。
でも、自分は異世界で生かせるほどの知識も能力もないので、多分生きて行けないでしょう……
勇者たちがモンスターとの戦闘を開始してから1週間が経った。
結局、生き物を殺すという抵抗感から端っから参加しない者が約7割も出て、残りも嫌悪感からストレスでダウン寸前であった。
その早々にリタイヤした『流され組』の中でも、異世界側の都合で召喚されたとはいえただ飯を食っている事に後ろめたさを感じた真面目な者たちは何かをしようと思い立った。
しかし、日々の訓練にすら逃げ出した彼らに出来る事は無く、そこで思い付いたのが内政チート、または技術チートと呼ばれる、所謂現代日本の知識を異世界に広めるという方法だった。
しかし、ここで問題が発生する。
「先ずは“食”だ! 日本食の基礎は蝋色あるけど、真っ先に思い付くのは『米』と『味噌』と『醤油』と『出汁』だ! まずは大豆を発酵させて……え? 米も大豆が無い?」
「日本刀っていいですよね。柔と剛の2種類の金属を挟む事で『折れず曲がらず』を実現したんでしたよね。確か“焼き入れ”と言って、熱した状態の物を急激に冷やして硬くしたと聞いた事があります。どうやるかは詳しくは分からないですけど」
「えーっと、畑の肥料には糞尿や貝殻の粉末、それに草木の灰を撒くと良いって聞いた事があります。何でも“肥溜め”といって家畜の糞尿を集めていたとか何とか」
彼らが出した知識は、マンガや小説にネットのウィキ○ディアを流し読みして覚えていた、歯抜けだらけの物だった。
そして、相互の認識の違いと歴史的な勘違いにより問題が発生した。
そもそも、情報技術が発達していないこの世界では知識も一つの財産であり、特に国の土台とも言える生産に係わる知識など、その辺の市民が容易に手に入れられる物では無い。
加えてこの国の成り立ち自体が、異世界から来た勇者と共に発展したという記録が残っていた為、王国はそれを無条件で受け入れてしまった。
もし、前もってこの知識は不完全だとあると言っていれば、それをヒントに実験もした筈であったが、コンビニのレジ脇にある募金箱にお釣りの10円玉を入れる様な気軽さで知識をひけらかしてしまった事が勘違いを加速させた。
そして、その結果は言うまでもなく。
「勇者が度々実験とか言って、調理場を占領するもんだから仕事が滞っちまうわ、失敗したとか言って材料を無駄にされちまった! どうにかしてくれ!」
「オイ! 勇者からの要望で剣を作れと言われたんだが、2種類の鉄を挟み込むとか意味分からねぇし、聞いた通りに熱した鉄を冷水に浸けたら、剣が硬くなるどころか脆くなってポッキリ折れちまったぞ。これじゃあ使い物にならねぇよ」
「肥料を撒いた畑の作物が全て枯れてしまいました! その上、悪臭の所為で昆虫系モンスターが湧いて畑はほぼ壊滅状態です!」
次々に送られてくる報告にエルクレア王ウルサルは頭を抱えた。
元々、エルクレアは過去の大戦時に魔王がいた土地への前線基地として作られた要塞都市が元になっていて、勇者や冒険者達と共に発展してきた国である。
過去には召喚した勇者が齎した英知によって国は発展を遂げ、魔王領のモンスターを狙って多くの冒険者が集まり、Aランク越えのモンスターの素材が勇者のパーティによって献上されたという話が残っていた。
しかし、ランクの高い希少なモンスターの素材が多く取れたのは過去の話。
年々冒険者の質が落ち、Bランクのモンスターが年に1回討伐されれば良い方で、Cランクですら月に数回しか市場に出回らなくなっていた。
国王ウルサルは現状を打破しようと、異世界から勇者を召喚する事を決めたのまでは良かったが、欲を掻いて召喚できる上限まで呼んだ事で勇者の成長が大きく遅れてしまった事は誤算であった。
それでもウルサルは勇者の中に戦えない者が出てきても、異世界の知識で挽回できると考えていた。
しかし、蓋を開けてみれば召喚された勇者たちは皆1レベルで剣を見た事すらなく、あの年で学生という事で学ばせてみれば殆どが真面目に取り組まず、勝手に行動してばかりで成果を何一つとしてあげられていなかった。
「くっ、このままでは当初の計画すら実行できないではないか! 態々、周辺国から金を借りてまで勇者を呼び寄せ、勇者軍団を組織して各国に貸し出して恩を売り、冒険者協会を通さずモンスターの素材を回収する予定が……!」
ウルサルは思わず愚痴を漏らした。
頭を抱えるウルサルに、大臣の一人が手元の資料をめくりながら口を開いた。
「しかし、現在呼び出した勇者の中には20レベルに達する者も現われ、このまま順調にレベルが上がって行けば、いずれ計画も実行できましょう」
「いずれでは遅いわ! 既に金を借りた国からは、各地で魔物が活発化しているから勇者の派遣要請が来ているのだぞ! ……全く、これではまるで魔王が本当に復活する様ではないか!」
ウルサルが思わず呟いた言葉に、部屋に居た者たちが一斉に息を飲んだ。
あの日、勇者たちに王が言った言葉。
実はアレは過去の記録から『勇者というのは世界の危機だと言われれば、こっちが何もしなくても行動する』と考えたエルクレア側が、勇者たちを騙しやる気を出させる為に言った嘘のつもりであった。
何せ現在に至るまで魔王がどのタイミングで復活するかは、人類には知る術がないのである。
一応、100年を周期にしている事だけは分かっているが、正確な時間や場所は一切分からず、モンスターが活発化して異常行動が見られる様になってから始めて魔王が復活したのだと認定されるのが現状だった。
そして、魔王を倒せるのは勇者のみ、過去には勇者に頼らず魔王に戦闘を仕掛けた結果、滅びた国が幾つもあった。
「しかし最近、旧魔王領方面からモンスターが戦闘する声が聞こえたという報告もあります。もしかすると……」
大臣の一人は最後まで語らずに言葉を濁した。
「く……何故、儂がこうも頭を悩ませねばならんのだ……!」
ウルサル王の呻くような呟きに、答えられる者はその場には誰もいなかった。
一方、勇者たちも異世界での生活に不満を感じていた。
とは言っても、彼らの殆どが想像していたのは所謂チート能力に頼り、冒険者となって異性の同業者や貴族、奴隷のハーレムを作って愉快に暮らすというご都合生活ではあったが……
それに比べて現在の彼らは、城から出るには一々許可を取る必要があり、用意された部屋を一歩出れば指導役か城の兵士が必ず着いて来る。
食堂とトイレでは扉の前に必ず兵士が2人と、中にも見張り1人が立っていて護衛というよりも監視と呼んだ方がしっくりくる警備体制であった。
好き勝手やれていた学生だった彼らには、城の生活は窮屈過ぎた。
「はぁ、城に居れば楽々異世界生活が出来ると思ったんだけどなぁ。姫様だの女騎士様はみんな『正統派』に付きっきりだしよ~」
「スライムとかテイムして、戯れながら過ごしたい」
「まさかスキルにあんな落とし穴があるとは……加減や配合が直感的に分かるだけで、レシピ自体が浮かび上がる訳じゃないのか」
訓練後の夕食時の食堂は、溜息の大合唱であった。
退屈で平凡な日常を変えて、物語の中の主人公の様な人生を送りたいと願って異世界へやってきたというのに、待っていたのは前の世界よりも苦痛で大変な勉強と訓練だった。
その上、ゲームはないパソコンもマンガも無い、娯楽が全く無い環境に遊びたい盛りの中学生から大学生までの勇者たちの不満は限界であった。
そして、暇と不満と冒険心を持て余した一つの結論に至る。
「なあ、脱走しねぇ?」
「俺、兵士たちがサボり場にしてる所、知ってるぜ」
「私にも一枚噛ませなさいよ。私の指導役は冒険者だから話を聞いて色々知ってるわよ」
「脱走後に冒険者になるにしても武器は必要だろう? 俺は内政組だから廃棄された武器が置いてある場所を知ってるぜ。後は森とかで木の棒とかを加工すれば結構いける筈だ」
発端は誰かの冗談であったかは定かではない。
しかし、城での閉鎖的な生活はその冗談を真実に変えるのに十分な時間と能力を与えてしまった。
誰もが頭の中で描いては消していた脱走計画が同士を得て徐々に寄り集まり個々の欠けた部分を繋ぎ合わせ補完した結果、歪な脱走計画が出来上がっていた。
その上、性質の悪い事に勇者の大半が、何故か高レベルの潜入系スキルを保有しており、レベルだけで言えば熟練クラスが何人もいた為、この計画が最後まで気付かれる事は無かった。
脱走に乗らなかった組も一部を除いては彼らの現状への不満は理解出来た為、計画を知っていても誰も漏らす事は無かった。
そして一週間後の朝、何度扉の前で呼びかけても返事が無いのを不審に思った指導役たちが鍵を開けて中に入ると、部屋は蛻の殻でベッドも冷たいままであった。
召喚された勇者六十数名が脱走またはその手助けをして捕まり部屋に軟禁、約半分の勇者が脱走に成功してしまった。
それを聞いた王は泡を吹いて倒れたという。
こうして召喚されてから約一月半遅れて、チート能力を持った勇者たちが野に放たれた。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




