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勇者は101人いる(旧版)  作者: 酔生夢死
2章 少年、拾われる

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12話 少年、プレゼントを贈る

(´・ω・`)この話は直前まで書き上がるまで迷走してました。

 面白くなかったらごめんなさい(予防線)

 伊藤勇樹の朝は早い。

 まだ朝日も昇る前に目覚め、魔法式ランプの灯りの下で彫刻刀を片手に今日の工房で使う分の薪に、炉の火力を上げる為の魔法式を彫り込む。

 本来であればミスリルなどを加工する為の熱量を確保する為には、ノームの里でやっていたように火属性の魔石を使用するのが効率的には良いのだが、専用の炉でないと高い火力に耐えきれずにあっという間にボロボロになって使い物にならなくなってしまうのである。


 その為、裏ワザとしてミスリルが加工できて炉もギリギリで耐えきれる温度を確保する為に、この地味な作業を行う必要があった。

 その作業を日が昇るまで行い、外が明るくなると木屑を集めて出かける支度を始める。 ちなみに、冒険者協会などが開くまではまだ1時間ほどが、殆どの屋台などは既に開いていて仕事に向かう人はそこで朝食を済ませるのである。


 支度が終わって部屋を出かけようとした時に、ちょっとしたトラブルがあったがあまり時間が経つとアリサが迎えに来て怒られるので、店主の話もそこそこに慌てて宿を出た。

 アリサのいる教会は、勇樹の泊まっている宿から10分ほどの住宅地の中にあり、勇樹が教会に着く頃には子供たちは既に目覚めて庭先にある井戸で顔を洗っていた。

 入って来た子供たちに手を振って挨拶すると、勇樹は真っ直ぐ勝手口を目指す。


 教会の勝手口から中に入ると、背中まで伸びたブラウンの髪を揺らしながら鼻歌を歌い調理するアリサを見つける。

 アリサを見つけた勇樹は笑みを浮かべながら声を掛けた。


「アリサさん、おはようございまーす!」


「ひゃっ!? ゆ、ユーキ君おはよう。じゃ、じゃあ、机に並べるのを手伝ってちょうだい」


「了解~」


 軽く挨拶を交わすと、既に出来上がって皿に盛られたスープとパンが盛られた皿を台車に載せて食堂へ持って行く。

 食堂に着くと席の前に人数分のスープを並べる。

 勇樹が料理を並べ終わるのを見越したか様に、子供たちを連れたヘレンが食堂へ入って来て席に着く。

 全員が揃った事を確認すると、アリサが祈りと感謝の言葉を読み上げて食事を始める。



 教会で食事を取った後は、冒険者協会へ出かける。

 協会に入ると、朝の騒がしい時間にも拘らず誰も並んでいない受付に真っ直ぐ向かった。

 勇樹が近づくと、人目も憚らずに大欠伸をしていたアーノルドが片手を軽く上げた。


「おう、ユーキか」


「やあ、オッチャン。はい、これ宜しく」


 アーノルドへの挨拶を簡単に済ませると、勇樹は昨日の書いた予約票と冒険者カードを渡す。

 面倒臭そうに顔を顰めながらも、アーノルドは予約票を受け取る。


「うぃー、そう言えば数日前にこの街を出るとか言ってたアレはどうしたよ。結構熱心に周辺の地理を調べてたじゃねぇか」


「あはは~、アレは暫く保留という事になりました~。もう少しこの辺でやって行こうかな~って」


 実はアリサが勇樹を叩いてしまったあの日の後、勇樹はアリサと疎遠となってしまえば気まずい思いをしてまでエルクレアに居る理由はないと、街を出る算段をしていた。

 そして、勇樹が帰って来た時に持って来た土産は、別れの餞別のつもりで持って来たものであった。

 結果的にはそうならなかったので、勇樹の街を離れるという計画も無駄になったのだった。


「ああそうかい、まあ仲間もいないのに遠出は危ないし、今は隣国まで護衛する依頼もないからなぁ。新人らしく、まずは慌てず実力付けて仲間を見つけるのを優先しな」


「はーい、そうしておきます」


 勇樹はアーノルドから工房の使用許可書を受け取ると、いつも使っている部屋へと入って行った。



 冒険者協会の貸し工房は全部で4部屋あり、勇樹はいつもその中の1号室を専有していた。

 とは言っても、あくまで公共施設なので私物を置いてはいないが、さり気無く炉や床などに自分が使いやすいよう、各所に細やかな改造を施して強化している。


「さてと、今日は何を作ろうかな~?」


 勇樹は手慣れた様子で炉に火を入れ、十分に熱を持った所でオリハルコンのインゴットを投げ入れて熱し始める。

 インゴットを熱している間もつぶさに炉の様子を観察しながら、絶えず空気と共に魔力を送りつつ火力を微調整していく。

 勇樹の師匠であるジェイド曰く、『送る魔力の量は炎の揺らめきに合わせて調節するのがコツである』と教わった通りに、ジッと炎を見つめながら魔力に強弱をつけて行く。


 現在では非常に高価ではあるが魔鉱石専用の炉がある為、そもそも手動でこの作業を行う者はいない。

 但し専用炉では鉱石の良し悪し関係なく一律に管理する為、エンチャントを掛けられる量にバラつきが出てしまう。

 しかし勇樹がやっている方法ならば、使う鉱石に合わせて最低限の魔力で加工できるので常に魔法効果を掛ける枠に余裕ができる。

 火から出したオリハルコンにエンチャントを掛けながら、鼻歌混じりに成形して行く。


「~♪ ~♪♪」


 もし、その様子を街の鍛冶屋が見れば勇樹のやっている作業の冗談のような複雑さに泡を吹いて卒倒するような作業を一つも失敗する事なく熟してゆく。

 朝から工房に篭って日が暮れ始める夕方頃、最後に複雑な術式を刻んだ魔石をはめ込んで勇樹の作品が完成した。


「よし、出来た!」


 出来上がった作品を見て勇樹は満足そうに頷いた。

 そして、いつもなら協会の会館が閉まる時間までいる勇樹だったが、今日はいつもよりも早い時間で切り上げた。

 そして、いつもの様に痕跡なく綺麗に工房を片付け、アーノルドに使用許可書を返却すると、いつもは終業時間ぎりぎりまで篭っている筈の勇樹が出てきたのを見て目を丸くして驚いていた。


 勇樹が早く切り上げたのには理由があった。

 幼い頃に両親を亡くし、田舎に住んでいた祖父の家に預けられ、近所にいる若者の数が両手で数えられる程度しかいない、付近の学校へ通うのに片道2時間は掛かるような地域に住んでいた。

 祖父は口数が少ない寡黙な人だったので、愛と勇気ならぬ本とゲームだけが友達で、暇さえあれば山を駆け回って遊び、同世代と遊ぶ事も全くなかった。

 祖父が亡くなり東京の高校に進んでからはよりボッチ化が進み、学校ではクラスメイトとは話すものの、あまり人とは話さず家と学校を往復するだけの生活を送っていた。


 そんな勇樹が異世界へやって来て、日本では有りえなかった急激な環境の変化に、勇樹は知らず知らずの内にストレスになっていて、そんな勇樹がアリサに頭を撫でられて微笑まれた時、勇樹の中で何かが芽生え、生まれたての雛の擦り込みの如くアリサに好意を抱いた。



 一方のアリサもモヤモヤとした気持ちを抱えて、色々と困惑していた。

 原因は昨日の夜、アリサはいつもの様に寝る前に趣味の恋愛小説を読んでいると、ヒロインが死地に向かってしまった思い人を心配して食事も喉を通らないというシーンが出てきた。

 そこで何気なく、傍から見れば昨日までの自分とそっくりだなぁと思ってしまった。


 幼少時より教会に預けられ、同世代の異性と関わることが殆どない人生を送ってきて彼女は、一人の異性の事で悩んだ事などなかった。

 アリサも年頃の女の子である。 恋愛への興味は人並にはあったし、恋愛小説を読んではいつかはという憧れを持っていた。

 それがつい先日、勇樹を心配して3日間も悩み通しだったという事が傍から見れば、まるで思い人に思いを募らせているヒロインの様ではないかと気づく。


 そして、そこから始まる思考の渦、寝る直前という最も無駄に頭が働く瞬間、負の思考が負の思考を呼び、今頃になって自分の所業が無性に恥ずかしくなり、ベッドの上で転がりこそしなかったが完全に泥沼へと陥って静かに悶えていた。

 そんなで実は、今朝からアリサは皿を割ったり水が入った桶をひっくり返したりと失敗続きで、勇樹の顔も碌に見る事が出来なくなっていた。


「痛っ!?」


 そんな事を考えながら子供たちの服を繕っていると、指を針で突いてしまった。

 慌てて指を見ると、白い指に赤い点がぷっくりと膨れ上がる。

 アリサは軽く涙目になりながらその指を咥える。


「いたたた……はぁ、今朝から失敗ばっかりだなぁ」


 自分のやらかした失敗を思い返して、アリサは思わず溜息を吐く。

 確かに自分は恋をしてみたいと憧れもあった。

 しかし、アリサが憧れていたのは騎士と姫のような話で、そういう点では勇樹にはその荷は重いだろうと考えた所で、その考えを払うように首を振った。


「いやいや、そもそもこれは違うでしょう……私はただ彼を叩いちゃった事が気になって、直後に居なくなったからそうなった訳で……」


 誰となく言い訳をしてみるが、そもそも誤解を解く相手がいない為に思考はマイナスの方へと沈む一方であった。


「はぁ……こんなんじゃ、真面にお勤めなんかできる訳が「こんにちは!」ひゃ!?」


 完全に気が緩んでいた所に、件の勇樹が現われてアリサは思わず飛び上がってしまった。

 そんなアリサの反応に首を傾げながら、勇樹はアリサに近づいた。


「アリサさん! 今日はこういう物を作って見たんで、アリサさんにあげますね」


「え? でもこれ……」


 子供が拾ってきたドングリでも渡すように、勇樹が取り出したのは白く輝く髪飾りだった。

 白鳥を模った髪飾りには緑色の宝石があしらわれていて、よく見ればその宝石には細かく何かが彫られているのが見える。

 そしてそれを見た瞬間、アリサの顔が分かり易く変わった。


「こ、これってマジックアクセサリー!?」


 アリサが驚くのも無理はなかった。

 魔法効果の掛かったアクセサリーを作れる職人はごく僅かで、ダンジョンなどでも稀に発見されるが絶対数はまだ少なく、オークションに売り出されれば1つで家が土地ごと買える値が付き、持っているのは貴族や上級冒険者ぐらいである。


「一応、『活性回復』と『対魔法耐性』と『魔力回復上昇』を付けてあります。ああ、それとそれらの効果は空気中の魔力を自然に吸収して蓄積しているんで、某ヘリトンボみたいに、いざという時に『充電切れしてた!』みたいな心配はないですよ」


「へ!?  こ、これ本当にユーキ君が作ったの!?」


「あはは、ええまあ。師匠の物と比べると甘い部分もあるけど、僕なりのアレンジも加えてそこそこ良い出来だと自負しております!」


 それを聞いたアリサはさらに心臓が止まりそうだった。

 通常、アクセサリーに付加される効果は1つか2つというのが常識であった。

 アクセサリーに関わらず、マジックアイテムは魔力を補充しなければならないのが常識であり、勝手に補充されるという話は全く聞いた事が無かった。


「あ、それともデザインが気に入りませんでした? 髪飾りが嫌なら指輪とかブローチもありますよ。ただ、付加してある効果が違うので全く同じ物はないんですけど……」


 勇樹はそう言うと、鞄からじゃらじゃらとアクセサリーと机に広げた。

 そしてアリサはいよいよ以って言葉を失った。


「ブレスレットとかには『サイズ調整』も掛けてあるから、着けて軽く魔力を通せばピッタリのサイズに自動で調節してくれるよ。どれがいいですか?」


「え、あの……え?」


 勇樹に問われて、益々混乱するアリサ。

 今までその辺にいるただの冒険者だと思っていた子供が、まさか国宝級のマジックアイテムを作れる職人だったとは思いもよらず、しかも高価なアイテムをまるで庭先で拾ったちょっと形が変わっている石ころの如くプレゼントしてくるとは思いもしなかった。

 何か裏があるのではないかと、勇樹の顔を見るが……


「?」


 のほほんとした顔をしてこちらを見ている勇樹を見て、その考えは霧散した。

 良い意味で何も考えて無さそうなこの少年が、態々人を騙す為にこんな手の込んだやり方をするとは思えなかった。

 それに、このアクセサリーも本人が冗談で言っているだけで、実は露店で買って来た物かも知れないと思い直して、机の上にあるアクセサリーから一つを手に取った。


「えーっと……じゃあ、このブローチを貰おうかな?」


「はい! どうぞどうぞ!」


 アリサがブローチを手に取るのを、嬉しそうにこちらを見ている勇樹の顔を見た瞬間にアリサは、自身が抱えていた感情が手のかかる弟を見て心配するような感覚であったと気付いた。

 受け取った事を無邪気に喜ぶ勇樹を見て、犬の耳と尻尾が付いているのを幻視して、アリサはクスリと笑った。



 その後、教会で夕食を食べて宿へと帰る道中、自分の作った作品をアリサに受け取って貰えて、勇樹はご機嫌で鼻歌を歌っていた。

 勇樹が宿に帰ると、女将が腰に手を当てて待ち構えていた。


「えーっと、どうしたんですか?」


「アンタねぇ……明日にでも宿から出て行って貰うよ!」


「え?」


 こうして勇樹は宿無しとなった。


(´・ω・`)ここで2章は終了です。

 また幕間に数話を挿んでから、次章はストックが溜まり次第、投稿するつもりなので開始日は未定です。



最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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