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勇者は101人いる(旧版)  作者: 酔生夢死
2章 少年、拾われる

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11話 少年、ナデポる

 それから2日が経った。

 あれからアリサは暇を見つけては街を駆け回って勇樹を探したが、何故か目撃情報どころか一向に手掛かりすら見つからなかった。

 まるで彼自身の存在自体が幻であったかのように……


「はぁ……一体何所へ行っちゃったの?」


 謝ろうにも本人がどこにいるのか分からず、冒険者協会に赴いて受付の女性(・・・・・)に話を聞いても全く分からず、近くの飯屋や酒屋にも聞いてみたが、どの店でもそんな少年は知らないと言われてしまった。

 もしかしたら、あんな酷い事を言ってしまった所為で勇樹は街を出て行ってしまったのではないか? またどこかで行き倒れているんじゃないか? などという後ろ向きな考えばかりが浮かび、この3日間、アリサは胸に悶々とした気持ちを抱えていた。


「アリサお姉ちゃん、みんなで薪を運び終わったよ」


「うん、ありがとう……」


「お姉ちゃん、大丈夫?」


「うん、ありがとう……」


 知らせに来た人族の女の子リナが、様子がおかしいアリサの体調を心配して心配そうに話しかけるが、帰ってくる返事は気の無い物ばかりだった。

 リナは自分ではどうしようもないと溜息を吐いて、みんなの居る庭へ戻って行った。

 再び一人になったアリサは、一人で小さく溜息を吐く。


 普段であれば、アリサもここまでは悩んではいなかった。

 何故ここまで思い悩んでいるのかと言えば、元はと言えば行き倒れていた勇樹をアリサが拾って来たのが始まりである。

 真面目なアリサとしては、拾ってきてしまった生き物は最後まで世話をしなければならないという責任感が彼女を苛んでいた。


「でも、ひょっとしたらその内、ただいま~とか言って帰って来るかも「ただいま~」こんな感じで……って、え!?」


 何気なく呟いた独り言に、まるで計ったかのようなタイミングで聞こえてきた声に、アリサは思わず立ち上がって外へ駆けだした。

 そして飛び出した扉の向こうには、何やら子供たちと赤黒い塊を囲って楽しそうにしている勇樹の姿があった。


「ユーキ君!」


「あ、アリサさん。どーも、数日振りですね」


「そうね、数日振り……って、今までどこにいたの!? 私、貴方に酷い事を言ってそれで……」


 気に病んでいた原因が戻って来た事で、慌てて飛び出してきたアリサは暢気に挨拶をしてきた勇樹に詰め寄る様に近づいた。

 アリサに問われた勇樹は照れるように頭を掻いて答えた。


「いや~、あの後に暫く時間を潰そうと森に行ったら……色々やっている内に気付けば今朝になってまして、これは不味いと思って慌てて帰って来たんですよ。ああ、あとこれお土産です」


「お土産? って、きゃあ!?」


 そう言って勇樹は、自分の脇に置いてある赤黒い塊を指差した。

 勇樹の胸の位置ぐらいの高さはあるそれは、よく見ればモンスターの死体であった。

 それを見たアリサは、思わず飛び上がって勇樹の後ろに隠れた。


「ランブルボアを仕留めたんですけど、余っちゃったんでどうぞ」


「どうぞって……こんな大きいのどうすれば……」


「とりあえず内臓とかは今日にでも調理して、残りは燻製とかにするしかないんじゃないですか?」


「そうね……ありがとう、助かったわ。これだけあれば暫くは食事に困らないわね。ウチは育ち盛りが多くて、食費が馬鹿にならないから。それと……」


 そこで言葉を切り、アリサは勇樹に深々と頭を下げた。


「ごめんなさい! 勘違いとは言え、ジャックを助けてくれた貴方に酷い事を言ってしまって」


 シスターから話を聞いた後、改めてジャックから改めて話を優しく丁寧に聞き出すと、ジャックは素直に真実を話し出した。

 勇樹に殴りかかった後、ジャックは協会を飛び出して歩いていた所に路地裏で(たむろ)していた盗賊たちと鉢合わせし、気付けば縛られて転がされていた事や、どうしてあの時に勇樹を睨み付けて指差したのかも詳しく喋らされた。

 ちなみにその後、ジャックは暫く布団から出て来なかった。

 深々と頭を下げるアリサを苦笑いしながら宥める。


「あははは、気にしてないですよー。寧ろ手の方は大丈夫でした?」


「え、ええ……あの後に腫れて来ちゃったから回復魔法で治したわ」


 その言葉に勇樹が一瞬「回復魔法!」と目を輝かせたが、首を傾げるアリサを見て軽く咳払をした。

 そして、居た堪れなさから目を泳がせると、ランブルボアに目が目に留まり慌ててナイフを取り出し、座り込んでランブルボアの解体を始める。


「そ、そうだ! コレ、痛んじゃうし早く解体しないと!」


「兄ちゃん、解体なんかできるの~?」


「むしろ、自分の手とか切りそう……」


「はっはっはっ、伊達に師匠たちから仕込まれてないよ」


 勇樹が解体を始めると、子供たちが興味深げに集まって来て勇樹をからかう。

 子供たちにちょっかいを出されながらも、勇樹は慣れた手付きでランブルボアの皮を剥がしてゆく。

 子供たちは生々しい解体風景にキャッキャと怖がりながらも、逃げようとせずに勇樹に纏わりついている。

 そして、たった数分でランブルボアを綺麗に解体し終わった勇樹は、血だらけになった手や顔を拭いながらアリサに声を掛けた。


「アリサさーん、とりあえず皮と内臓は切り分けて置きましたよ~」


 無邪気な顔で手を振る勇樹にアリサはクスッと笑いながら近づいた。

 それは無意識の行動だった。

 いつも子供たちを褒める時に、アリサはスキンシップとして頭を撫でていた。

 そして、勇樹の頭が丁度手を伸ばせば届く位置に来た事で、咄嗟(とっさ)にアリサの手が伸びた。


「ユーキ君、ありがとう」


 勇樹が見上げて見えたのは、心の底から安心したアリサの笑顔だった。

 勇樹は小学生の頃に両親を亡くし、高校に上がるまで祖父と2人暮らしであった。

 その為、母性と言う物に全く慣れていなかった。

 そして自分で望んだとはいえ、突然異世界に連れて来られ過酷な日々を過ごして、内心では気付かぬうちにストレスを溜め込んでいた。


 そうした要素が重なった結果、アリサに撫でられながら微笑まれ……勇樹は落ちた。


最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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