10話 少年、巡り巡って誤解が解ける
(´・ω・`)今回の話は前に投稿した時の9話を分解して書き直した物なので、前話も合わせてご覧ください。
アリサが勇樹を追い出した翌日、教会の元に一人のシスターが訪ねてきた。
この教会の礼拝堂には『創世神メヴァーユ』をモチーフにした水晶の像が飾られている。
この像は“人の持つ穢れを引き受ける”という触れ込みの魔法道具で、この像の前で祈りを捧げると像が人の“穢れ”受けて僅かに濁り、人の悪い物を取り攫ってくれると信じられている。
しかし、そのままでは像が濁ったままになってしまう為、溜まった“穢れ”を定期的に清めるという特別な役目を持つシスターがいて、彼女たちは教会本山から少数で辺境の村など各地の教会を巡回する為に、戦闘も熟せるように騎士としての訓練を受けている戦乙女とも呼ばれる特殊なシスターである。
しかも、今日訪れた彼女は前日に勇樹がアリサと間違えて助けたシスターだった。
像に溜まった穢れの浄化が終わり、礼拝堂から出てきたシスターは食堂に居たアリサに声を掛けた。
「シスターアリサ。無事、像の浄化が終わりましたよ」
「……はぁ」
「シスターアリサ?」
彼女が声を掛けても、アリサは上の空で溜息を吐くだけで彼女に気付いた様子もなかった。
その様子を不審に思ったシスターは、アリサの肩を叩いて改めて声を掛ける。
「アリサ、シスターアリサ。聞いていますか?」
「はい!? あ、浄化が終わったんですか?」
「はい、像に蓄積されていた穢れは綺麗に浄化できました……それより、何か心配事でも?」
「ええ、まぁ……」
「……」
「……」
そこで会話が止まってしまう。
今更ながらアリサは昨日、勇樹にやってしまった事を若干後悔していた。
今までもやって来た冒険者の中には、孤児院に居る獣人の子供を奴隷商に売ろうとする不心得者はいたが、得てしてそう言う輩はどこか纏う雰囲気が暗く目がギラギラしているという共通点があった。
しかし思い返せば、たった数日ではあるがアリサの見て来た勇樹はそんな輩とは似ても似つかず、寧ろ孤児院の子供たちと同レべ……いや、純粋に見えた。
あの時はジャックの反応からついカッとなったとはいえ、一日経って自分のやってしまった事がアリサに重く圧し掛かっていた。
アリサがそんな調子の為、空気が重たくなり自然と子供たちもアリサの周りには近寄らなくなってしまい、一人の時間が増える事で余計に悩んでしまうという悪循環に陥っていた。
重苦しい無言の空気に耐えられなくなったシスターは、何か話題が無いかと思案して先日に自分が巻き込まれた事件を思い出した。
「そうそう、そう言えば昨日の事なんですが、獣人の子供を攫う現場に遭遇しましてね」
“獣人を攫う”というワードに反応して、アリサがピクッと肩を震わせた。
「ここへ来る途中に恥ずかしながら入り組んだ道で迷ってしまってね。どうやら盗賊が街に入り込んでいた様で、偶然入り込んだ袋小路で子供を攫う途中だったので私が助けに入ろうしたのですが、こちらへやって来る前にモンスターの群れと遭遇してしまって、その戦闘で武具はボロボロになったので整備に出した事をすっかり忘れてしまって……それでもどうにかしようとしたんですが、徒手空拳では多勢に無勢で逆に彼らに捕まってしまいました」
「それは大変でしたね。でも、今こうして居るという事は……」
「はい……恥ずかしい話なんですが盗賊の馬車で街を出ようとした所で、とある少年に助けて貰ったんですよ。ただ、名前も言わずに行ってしまったので礼を言いたくても何所の誰なんだか分からず仕舞いで……」
「そ、そうなんですか」
「ああ、その時に一緒に捕まっていた獣人の子供がいたんですが、その子を担いだまま物凄い跳躍を見せていたから凄腕の冒険者なのだろうと冒険者協会に尋ねても該当する高ランクの冒険者は居なかったんですよ……」
「へ、へぇ~、そうなんですか。子供を担いだまま……ですか」
凄腕の冒険者というのには覚えがないが、似たような事がごく最近、具体的には昨日に起こった事を思い出して顔を引き攣らせた。
いや、しかし彼女が言っているのは“凄腕の冒険者”だ。自分が見知っている彼は最低ランクで食べる物にすら不自由しているようなどこにでもいる冒険者の筈……と自分に言い訳するように言い聞かせた。
そんなアリサの様子に気付かず、会話が途切れた事でシスターが次の予定がある事を思い出して話を切り上げて席を立った。
「話し込んでしまったな。それでは私はこれで」
「あ、今日は態々ありがとうございました」
「気にするな、これも私の仕事だからね」
それだけ言うとシスターは出て行った。
アリサはそれを見送り姿が見えなくなった所で、慌てて教会を飛び出した。
理由は勿論、先ほどのシスターとの会話。
本人は顔も見ていないので分からないと言っていたが、状況を考えれば答えはもう一つしかなかった。
「そんな……だとしたら私は彼に酷い事を……!」
アリサも多少は勘違いしている部分があると思っていたが、まさか勇樹がジャックを助けてくれていたとは思いもしなかった。
何故あの時ジャックがあんな反応をしたのかはアリサには分からなかった。
だが、状況的には誘拐されたジャックを勇樹が助けてくれた……それはまず間違いなかった。
「謝らないと……」
彼女は真っ先に勇樹が止まっている宿へと向かった。
そして飛び込むように宿に入り、目を丸くしている女将に近づいて勇樹の居場所を尋ねた。
「すみません! ここにユーキ君……若い男の子の冒険者が泊まっていますよね!?」
息を切らせて尋ねたアリサに返ってきた答えは、彼女を愕然とさせた。
「ああ、あの坊やかい? あの坊やなら昨日から帰って来てないよ」
「え?」
女将の答えに、思わず膝から崩れ落ちそうになりながらも、必死に足に力を入れて耐えた。
「ど、どこへ行ったかは……」
「知らないねぇ。その前もちょこちょこいなくなる事はあったし、こっちは料金もちゃんと貰ってるし、泊り客がどこへ出かけたかまでは面倒見きれないよ」
「そんな~……」
出鼻を挫かれてアリサは思わずその場にへたり込みそうになる。
そんなアリサの様子を見て、宿の女将が何かを思いついてポンと手をついた。
「そうだ、あの子は冒険者なんだから協会の方に行って見ればいいんじゃない?」
「教会?」
「違う違う、冒険者協会の方だよ」
きょとんとした顔で自分を差してしまった指を引込めながら、その手があったかと再び足に力を込めた。
女将に礼を言うとアリサは宿を飛び出した。
「全く、若いねぇ」
宿の女将は乱暴に閉じられた扉の見ながら肩を竦めた。
宿の女将の助言のままに冒険者協会の建物前まで来たアリサであったが、そこまで来て彼女は中に入るのを尻込みしていた。
何せ彼女は冒険者協会に近づくのはこれが初めてで、今までチンピラの溜まり場同然のこの場所を敬遠していた。
一応、教会からも依頼は出しているが、それは教会全体で定期的に出している依頼なのでアリサはただ依頼を受けた冒険者を迎えるだけだった。
道往く人も建物の前でウロウロするシスターを怪訝な顔で見て行くが、当の本人は周りを気にしている余裕が全く無いので気付く事は無かった。
「……よし、行くぞ!」
1時間ほどうろついて、漸く決心が付いて協会のドアを開いた。
そして、意を決して目を開いたそこは……ガランとしたホールだった。
人もいるにはいるが数名が壁際のテーブルで集まっているだけで、受付にいる女性たちも暇そうにしていた。
些か拍子抜けしたアリサは、暇そうに小さく欠伸をしている同世代くらい女性職員の元へ向かった。
「あの~」
「はい、どうしましたか?」
「少しお尋ねしたいんですが……ユーキという冒険者の事なんですけど……」
そこから勇樹の事を思い出しつつ特徴を話したのだが、彼女は勇樹の事を全く知らなかった。
受け付けの女性に申し訳なさそうに謝られ、アリサはこれ以上そこに居ても情報はないと諦めて冒険者協会を後にした。
アリサが出て行ったあと、隣にいた職員がアリサと話していた職員に話しかけた。
「ねぇ、もしかして今のシスターが探してたのって、いつもアーノルドさんと話してるあの子じゃない?」
「え? そんな人がいるんですか?」
「ああ、貴方とは受付の位置は反対側だから知らなかったか……ひょっとしたらあの人に聞けばシスターの探してた人も分かったかもしれないわね」
職員は入口の方を見たが既にアリサは出て行った後だったので、すぐに切り替えて元の業務に戻った。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




