07話 少年、異世界捜査網
(´・ω・`)探し物って、探している時に限って見つかりませんよね。
そして後日に探したはずの場所からポロッと出て来るんですよ……
子供たちに見送られ、勇んで飛び出した勇樹であったが、教会から数mも進んでいない所で足を止めた。
「しまった……探そうにもどこを探せばいいか全くわからない」
何せ勇樹は王都へ戻ってきた約2週間の間、宿と貸し工房を行ったり来たりするだけの毎日、工房に入れば半日は篭りきりで出歩く事はなく、出掛けると言えば気晴らしを兼ねた素材を取りに森へ入るだけで土地勘は皆無である。
況してやアリサやジャックが行きそうな場所など、見当も付く筈がなかった。
「参ったなぁ……よし、こうなったら初心に立ち返ろう」
勇樹はそう呟くとその場に屈み込み、目を細めて地面をじっと見つめだした。
「アリサさんの身長は僕と比較して160前半……体重は50後半、利き腕は右で利き足は左、物を噛む時は左に寄りがちで、パーソナルスペースは右側で重心がやや左前傾向、視力は右が1.2で左が1.0、髪は茶色で肩まで伸ばしたのを纏めた短めのポニーテール、日常的に力仕事が多いので体力は平均以上、歩行速度は時速4.5kmと速め、視線の注意は正面によりやや下方向……あっ、でも足のサイズが分かんないや」
アリサの行き先を足跡から辿ろうとした勇樹だったが、肝心な情報を知らない事を思い出し断念して、手掛かりを求めて来た道を戻る。
一旦教会へ戻り、門の陰から中を窺うと、子供たちは既に孤児院に戻ったのか庭には誰もいなかった。
獣人の探知能力に引っかからない様に注意していると、食堂から子供たちの会話が聞こえてきた。
「姉ちゃん遅いな~。オレ腹減ったよ」
「私も……たくさん遊んでお腹ペコペコ……」
「あの冒険者の人、本当にアリサお姉ちゃんを探してくれるかなぁ?」
「いや、無理じゃない? あの兄ちゃんなんか抜けてそうだから、姉ちゃんが戻って来た頃に帰って来るんじゃないかな」
「寧ろ迷子になって、アリサ姉ちゃんに助けて貰ってんじゃねぇ?」
「「「あははは!」」」
子供たちに笑い話のネタされているのを聞いて震える腕を押さえながら、見つからない様にコソコソと教会の中へ入って行った。
「あんにゃろう共め……帰って来たら泣かす」
高校生とは思えない大人気ない言葉を呟きながら、持てる潜入系スキルをフルに使ってアリサの部屋を探し出した。
「えーっと、アリサさんの部屋は……あった、ここか」
教会内のアリサの部屋を見つけた勇樹は、誰も来ない事を確認すると針金一本で手早く鍵を開け、誰にも見つからないように素早く侵入した。
目的の物を探す為、勇樹はざっと部屋の中を見回して一番それが入っていそうな所に近づく。
「何か手がかりになりそうな物は……あ、これなんかいいな」
何かをゴソゴソと漁り目的の物を見つけると、それを取って再び教会を飛び出した。
「今日は風もないし、この道は頻繁に人が通らない。だったらまだ残って居る筈……」
そう言って勇樹が取り出したのは、アリサの部屋から持って来た麻で編まれたインナーウェア、つまり肌着だった。
本当ならば足のサイズが分かる物や臭いで辿る為にハンカチかアクセサリーなどがあればよかったのだが、いざ探そうと部屋に入ると、そこにあったのは小さなチェストが一つと予備の修道着が壁に掛けてあるだけ。
シスター故に節制を心掛けているのか、チェストの中に入っていたのも、数点の着替えと裁縫道具などが入っているだけだった。
一応、チェストにはハンカチも入っていたが、アリサの物というよりも子供たちを拭くのに使っている所為か持ち主の臭いよりも子供たちの臭いが多く付いていた為、仕方なく肌着を選んで持ち出した。
肌着に付いた臭いを覚えると、今度は犬の様に地面に顔を近づけて同じ臭いを探す。
行方不明になった人を探すためとはいえ、犬の様に四つん這いになりながら道路の臭いを嗅いでいる姿は、誰かに見つかれば間違いなく通報される光景だった。
夕飯時で誰も通り掛からなかったのが救いである。
「クンクン……よし、こっちに同じ臭いが続いてる!」
レベルが上がった事によって身体能力は然る事ながら五感も強化された為、少し集中すれば山犬の如く臭いを辿って追跡する事が可能となった。
というよりも、竜の砦に居た時にはコレくらいできなければ生きて行けなかったとも言える。
アリサの臭いを見つけた勇樹は、臭いが続いている方へと走り出した。
勇樹がアリサの部屋に入り込んでいた頃、王都の外れにある廃墟に1台の幌馬車が止まっていた。
その周囲には数人の男たちと、手を後ろに縛られて猿轡を銜えさせられた子供と女性が数人、荷台に乗せられていた。
「よーし、これで全員乗ったな?」
「おう、これで最後だ」
騒いで暴れている犬耳獣人の子供を肩に担いだ背の低い男が、煩そうに顔を顰めながら荷台に子供を下す。
「むー! むむー!」
「うるせぇガキ! 静かにしてやがれ!」
見るからに粗暴な男が、騒いでいた獣人の子供を手に持った棍棒で殴り飛ばした。
殴り飛ばされた子供を同じように縛られていたシスターの女性が、自分の体で受け止め心配そうに顔を覗き込む。
そこへリーダーらしき男がやってきた。
「おいイッチ、そいつらは大事な商品なんだから、もっと大事に扱え」
「へい、すんません頭」
頭と呼ばれた男は馬車に詰め込まれた女子供を見てニヤリと笑う。
「勇者様とやらが外の狩場を占拠してくれたおかげで街には冒険者が溢れて、俺たちみたいなのが少し混じっても不審に思われずに仕事がし易くて助かるぜ。全く勇者様様だなぁ!」
頭が大口を開けてガハガハと大きく笑った。
彼の言う様に現在エルクレアは、無用なトラブルを避ける為に勇者のレベリングに周辺の狩場を王家の方で占拠している為、依頼などで出られなくなった冒険者たちが街に溢れて、治安が悪くなりあちこちでトラブルも発生していた。
そこに目を付けた盗賊の頭バンゴは、数名の部下を引き連れて王都に潜入、冒険者を装うって堂々と街を練り歩いて標的を品定めして、人目が無くなった所で人攫いを行っていた。
彼らは主に獣人の子供や女性を標的にしており、特に獣人をペットに欲しがる変態貴族や他の種族よりも体が丈夫な為に娼館や冒険者からの需要が高いので、奴隷商は常に欲しがっていて持って行けば確実に売れているのも原因であった。
「しかし、このシスターもバカだよな。獣の子供を攫ってる現場に態々踏み込んで来てよぉ。自分も捕まってりゃ世話ねぇわなぁ!」
「いいじゃねぇか。お陰でこんな美人の姉ちゃんが手に入ったんだからよ。コイツは娼館とかで高く売れんぜ?」
ニヤニヤと笑みを浮かべて、バンゴは怯えているシスターの顎を掴んでグッと引き寄せる。
そして、品定めする様にシスターの顔を覗き込んだ。
「アンタは高級娼館に売ってやるよ。器量は良いし元シスターならちょっと仕事を覚えればすぐに人気が出るだろうよ! ガハハハ!!」
一方、勇樹は教会よりほど近い路地裏で立ち尽くしていた。
「ここだ……ここでアリサさんの匂いが切れてる。多分ここで引き返したかそれとも……」
現在、勇樹がいる路地裏は人が少ない住宅地でも全く人が立ち寄らない場所で、仮にここで何か行われても、余程の事が無い限り誰かに気付かれる事は無い。
そして、少し調べるとごく最近、それも同時期に複数の人間が出入りした痕跡があった。
そこから導き出される結果は……
「引きずった跡が途中で切れてる……大人数と合流してどこかに移動した? 担いで連れて行くには目立つし……という事は何かで運ばれた? 誘拐、それも計画的だったら……」
地面を見るとまだ掃除されていないのか乾ききっていない馬糞が、色や臭いと内容物から同一の個体から出た物だと推測し、それが点々と落ちているのを見つけた。
もしそれが誘拐犯たちの物であるならば、どこかに拠点を構え、誘拐した彼女をそこへ幽閉している可能性があると勇樹は考えた。
「うむ、路地の手前にブレーキ痕とここだけ糞の間隔がずれてる……という事は、もしアリサさんが誘拐されたのなら、これを辿って行けば良い筈!」
そう結論付けると、勇樹は轍を辿って走り出した。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。
8/29 一部内容を変更しました。




