06話 少年、子供たちと戯れる
勇樹が採掘に出かけてから数日後……
王都エルクレアの住居区域の片隅にある教会、その敷地内の隅の方で勇樹は冒険者協会から取ってきた依頼も兼ねて、壊れたランプや錆びた草刈り鎌などに囲まれて、ゴソゴソと内職に励んでいた。
そこから少し離れた所で孤児院の子供たちが、物陰に隠れながら勇樹を観察していた。
「おい、エリク。あの兄ちゃんが何してるか見えるか?」
木の上に登っている猫の獣人のエリクに声を掛けたのは、この孤児院のガキ大将で逆立った髪が特徴のライオンの獣人カールである。
「うーん……何かやってるのは見えるんだけど、手元までは見えないなぁ」
「む、じゃあミミル。お前は何か聞こえないのか?」
カールが次に聴力に優れたウサギの獣人ミミル声を掛けた。
ミミルは整った眉をハの字にして耳を澄ませていたが、カールの問いかけに首を振った。
「ダメ。何か言ってるのは分かるけど内容が分からない」
「そうか……」
何故子供たちが勇樹の様子を窺っているかというと、教会の依頼を受けた大概の冒険者たちは最低限の草むしりや薪割りを済ませると、早々に帰って行くのが常であった。
当然、子供たちに混じってパンとサラダとスープだけで酒も出ない食事など取らないし、況してや仕事外の事までやるなどあり得ない。
特に冒険者は自分の持つスキルを他人の前では使いたがらず、飯の種になるような技術を無料で奉仕するなどあり得ない事であった。
しかし勇樹は、食後にアリサから屋根の修理を頼まれ、それが終わると頼まれもしないのに自分から壊れた生活用具の修理まで買って出た。
冒険者という生き物の生態を、異世界初心者の勇樹よりも知っている子供たちは何か裏があると思い警戒していた。
「あの兄ちゃん……後から金とかせびるんじゃねぇか?」
「どうしよう、アリサお姉ちゃんって意外と抜けてる所があるから、きっと騙されてるんだよ!」
元来、動物は自分のテリトリーに侵入してくる部外者を嫌う。
それは人間も例外ではなく、況してや子供たちは獣人であり、その習性は顕著に現れる。
そうなれば、子供たちがどういう結論に達するかと言えば……
「オレたちで、姉ちゃんを助けるんだ!」
「そうだ! 冒険者なんかに姉ちゃんは渡さないぞ!」
既に子どもたちの中では、極悪な魔王に囚われてしまった姫君を助け出す騎士というヴィジョンが浮かんでいた。
孤児院の子供たちにとって、アリサは姉であり母であり大事な家族である。
例え敵が年上の荒事に慣れた冒険者であっても、彼らは一切退くつもりはなく断固戦う決心をして、各々が木の棒や石ころなどの武器を手に取った。
そして武器を手に戦わんと顔を上げたその時……
「おーい、そこの子供たち。ちょっとこっち来てみ~」
まるで子供たちが自分に攻撃をしようとしていたタイミングを図っていたように、勇樹は子供たちに声を掛けた。
子供たちは思わず手に持っていた武器を落として物陰に隠れた。
「ほれほれ、面白い物を見せてあげるからおいで~」
勇樹は警戒する子供たちに向かって笑い掛けながら手招きをした。
暫くは物陰から睨む子供たちと笑って手招きする勇樹とで膠着状態になっていたが、その緊張した空気を破ったのは最年少の人族のジャンとリスの獣人のオットーだった。
「あ、こら2人とも!」
好奇心に負けた2人がトコトコと勇樹に近づいた。
勇樹は2人が近づくのを見て、脇に置いてあった物を2人に見えるように手に持った。
それは薄く削った長方形の木の板に、丁の字になるよう木の棒を突き刺した物である。
「ほーら、最近じゃあめっきり見なくなった、端材で作った竹トンボだよ~」
「たけとんぼ?」
「なにそれ~」
2人は竹トンボを物珍しそうに見る。
勇樹はニヤリと笑うと、竹トンボの軸を両手で挿んで手を擦る様に前後させて回し始める。
クルクルと回るそれと、意味ありげな勇樹の笑みに2人はワクワク顔で竹トンボを注視する。
そして、十分に気を引けたと判断した所で……
「これはねぇ、こうすると……それ!」
「あっ!」
「とんだ! まほう!?」
勢い良く回しながら手を離れた竹トンボは、クルクルと回転しながら空へ舞い上がった。
飛んでゆく竹トンボを2人がキラキラした目で追い掛ける。
それを遠くから見ていた子供たちも、隠れていたのを忘れて飛び上がった竹とんぼを興味深げに身を乗り出している。
「他にも独楽にケン玉、竹ヘビに竹馬に木端のパズルとか積み木もあるよ! さぁみんな寄っといで~」
竹トンボでの興味を切っ掛けに、子供たちが勇樹の元へと駆けて来た。
「なあなあ! これはどうやって使うんだ!?」
「こっちはなに~?」
「オレ、さっきの飛ぶヤツがいい!」
「はいはい、順番に説明するよ」
世界は変われども子供の好奇心旺盛さは変わらず。
未知の玩具を前に、先ほどまでの警戒心が嘘のように勇樹へと近づいて、それぞれ玩具を手にしていた。
しかし、一人だけ一歩も動かず勇樹を睨み付けている子供がいた。
先日、勇樹を仇の様に蹴っていた犬の獣人ジャックである。
「オレは騙されないぞ……姉ちゃんはオレが守るんだ!」
ジャックが決意を固めて拳を握りしめ、子供たちに独楽の回し方を教えていた勇樹を睨み付け、持っていた棒を握りしめて走り出した。
「うああああ!」
「ジャック!?」
「おっと、危ない」
ジャックが木の棒を振り上げて勇樹に殴りかかる。
周囲の子供たちは突然の事に驚き動けず、棒が勇樹へと振り下されるのをただ見ている事しかできない。
そこへ勇樹は腰のポーチに手を掛け一閃。
「……へ?」
ジャックが振り下した棒は、握った手から数cmを残して綺麗に切断されていた。
勇樹は斬り飛ばした部分の棒をキャッチながら呆然としているジャックを見た。
「全く危ないなぁ。僕だったから良いようなものの。他の子だったら怪我だけじゃ済まないよ。ね?」
ポーチに剣を仕舞いながら笑い掛けると、ジャックはその場にぺたりと座り込んでしまった。
所用で出かけていたアリサが帰って来て見たものは、大人気なく喧嘩独楽で子供たちを負かせてはしゃいでいた勇樹たちだった。
「兄ちゃんもう一回!」
「今度は負けねぇ!」
「はっはっはっ、爺ちゃん家で暇を持て余したご老人たちから容赦なくベーゴマを巻き上げられた僕に、そう簡単に勝てるかな!?」
「……随分と仲良くなったのね」
「あ、アリサさんどうも! 屋根とランプの修理と刃物の研ぎと薪割りはやっといたよ!」
男子も女子も勇樹から貰ったらしき玩具で遊んでいた。
そんな様子をアリサが呆れながら子供たちを見回していると、子供が一人足りない事に気が付いた。
「あれ? ねぇカール、ジャックはどこへ行ったの?」
「む? おいミミル、お前知らないか?」
「知らない。気が付いたらいなかった」
他の子供たちも知らないと首を横に振るばかり。
それを見たアリサは眉を顰めて溜息を吐いた。
「しょうがない子ね……どっかその辺に隠れてるのかしら?」
「探すの手伝おうか?」
「大丈夫、こういう事は孤児院じゃ良くあるから探すのには慣れてるわ。代わりにその子たちを見ててちょうだい」
「ラジャー!」
真面目な顔をして敬礼をする勇樹を見てクスリと笑いながら、アリサはどこかへ出かけて行った。
それから暫く経って勇樹が独楽で挑んでくる子供たちを片っ端から返り討ちにして日が傾きかけた頃、子供たちに玩具を配りながら片付けを始めていた勇樹が空を見上げながら首を傾げた。
「おっかしいなぁ、いつもならアリサさんが夕飯の支度を始めてる時間なんだけど……」
「お姉ちゃん、まだ帰って来てないよ?」
「そうなんだよねぇ」
思わず入口の方に目を向けるが、夕飯時な所為かアリサどころか誰かが通る様子すらない。
このまま待っていてもいいのだが、これ以上待っていると料理は切ると焼くしかできない勇樹が子供たちに夕飯で野菜と肉の丸焼きを作らなければならなくなってしまう。
「それだけは何としても回避しないと……そんな食生活はあの砦と穴蔵だけで十分だよ……」
ちなみに修行時には、竜の砦では倒したモンスターの肉や木の実や雑草を食べ、竜の里ではほぼ食事をする暇もなく修行に明け暮れ、ノームの里では精霊族は魔力があれば殆ど食事を必要としない為、研究の為に作られた物の在庫処理をしていたので、こちらへ来て勇樹がちゃんとした料理らしい食生活を送れているのは、アリサのお陰と言っても過言ではなかった。
「よし、僕はひとっ走りアリサさんを探してくるから、みんなはここで大人しくしててね。何かあったら教会にいるヘレンさんの所へ行くんだよ?」
「「「「「はーい」」」」」
子どもたちに見送られて、勇樹は教会を飛び出した。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




