05話 少年、採掘へ出かける
(´・ω・`)おかしい……やっとヒロインが出せてこれから主人公と絡んでいくはずだったのに、もうヒロインから離れやがった……
エルクレア王国の西方、大陸より突き出た形をしているそこは隣国との合間に険しい山と深い森による天然の要塞が築かれ、有史以前より魔王が頻繁に湧く事から人々からこう呼ばれていた――『魔王領』と。
魔王領の土地は魔力含有量が多く、固有の環境に変化しており、それによって冗談のような天変地異の如き気象が発生し、独自の進化を遂げた高レベルモンスターが生息する危険地域に指定されている。
幸い、陸には天然の要塞が、海は海流の関係によりモンスターが魔王領から出る事は滅多に無いが、魔王領の影響は周囲にも及んでいて、エルクレア西方の森は高レベルのモンスターが生息する高レベル冒険者のみが立ち入りを許される閉鎖区域となっていた。
さて、この世界では魔力が増えると質が上がるのは生物も無機物も同じである。
使い込まれた道具が使用者の魔力を吸収した事で優秀な魔法媒体になる事は間間あり、魔力の通り道である龍脈が通っている土地ならば質の良い鉱石が採掘できる事が良くある。
高レベルモンスターの生息する所では上質な素材が手に入る為、それを専門に採取する冒険者がいる程である。
しかし、そういう者たちも所詮はモンスターと出会わない様に気配を消して少量を取ってくるのがやっとである。
況してや、そんなモンスターに喧嘩を売る自殺願望者など一人しかいなかった……
「ヒャッハー!!」
世紀末な雄叫びと共に、軽トラック程の大きさもあるモンスターが吹き飛び、森の木々がバキバキと音を立てて薙ぎ倒して行く。
木の圧し折れる音にモンスターの鳴き声が混じる。
「全く、人が採取しているのを横から襲うとは危ないじゃないか!」
モンスターの生息域のど真ん中で的ハズレな文句を呟く勇樹。
現在、勇樹は足りなくなったミスリルや魔法石などの魔力を含んだ鉱石――通称『魔鉱石』を採掘する為に、魔王領との境界付近の山まで来ていた。
「それにしても、師匠から貰ったこの探知レーダーが確かなら……この山は魔鉱石の宝庫だね」
勇樹が持っているレーダー画面には前方に見える山の地中には、他のエルクレア周辺の山々の3倍以上の埋蔵量があると表示されていた。
しかも、比較的浅い数m地点から埋まって居るので、念の為にと山の様に用意した採掘用の道具も使う必要もなさそうである。
勇樹はレーダーで鉱石が多く埋まっていそうな場所を確認すると、吹き飛ばして気絶しているモンスターに止めを刺して手早く解体、血の一滴すら余さず回収して専用の旅人の鞄に仕舞い込む。
「むむむ……余裕を持って旅人の鞄を複数持って来たけど、この分だと倒したモンスターで埋まりそうだなぁ」
勇樹としても希少なモンスター素材は有難いが、歩けば当たると言わんばかりに頻繁に襲い掛かられては、鞄がいくらあっても足りない。
などと素材を詰め込んだ鞄を眺めながら考えていると、先ほどの戦闘音に釣られて新たにモンスターが現われた。
森の奥より雄叫びを上げて現われたのは、燃える様な赤銅色の体毛に覆われて、木よりも太い四本の腕を振り回して木々を薙ぎ倒しながら勇樹へと近づく、この森の猿たちの主にして、冒険者協会指定討伐ランクCのモンスター『イーラコング』である。
「あちゃー、もう次が来たか……」
向かってくるイーラコングを見て、勇樹が顔を顰めながら構えたのは、勇樹がこの日の為に作製した5本の武器の1つである『黒田号』と名付けた槍であった。
薄らと緑色を放つミスリル製の刃に、黒く艶やかな霊木を加工した柄には魔法効果のある細かな紋様が刻まれ、それが魔力を通す事で薄らと光を放つ。
兎に角頑丈さを求め、斧のように振り回しても折れず曲がらず、理論上ではドラゴンが踏んでも壊れない伝説級並みの性能となった、勇樹の自慢の武器の一つである。
「シャアッ!」
先手必勝、勇樹はイーラコングの到着を待たずに突撃する。
切っ先が狙うは――目。
生物である以上、眼球は隠す事も守りようのない急所であり、訓練でもしていない限り目の前に迫ってくる物に何らかのアクションを取ってしまうのは必定。
そして、イーラコングもまた目の前に迫ってくる槍に対して振り払うという行動を取った。
「甘い、【円転撃】!」
それを読んでいたように勇樹は攻撃スキルを発動し、素早く槍を回転させて払う腕を避け、イーラコングの振り切った腕を石突で打撃した。
予想外の反撃に驚き、イーラコングは思わず後ろへ飛び退る。
痛む腕を庇いながら、自分へと向かって来た愚か者を殴り飛ばそうと、その剛腕を振り上げた。
振り下された拳は真っ直ぐと勇樹に向かい、蚊の様に殴り潰される……とはならなかった。
勇樹はクルリと体を捻ると、風を切って轟音を唸らせる剛拳を服にも掠らせる事無く躱した。
更に伸びきった腕を足場に蹴り出し、ポケットから取り出した薬包を指で弾いてイーラコングの顔にぶつけた。
薬包の中身はただの粉薬だったが、視界を塞ぐという役割を十分に果たし、突然目の前が粉塗れになった事でイーラコングは思わず顔を背ける。
その隙を、勇樹が見逃すはずもなく。
勇樹は1度だけ小さく息を吐き、そして息を吸い込んで止めると、槍を強く握り締めて槍に自身の魔力を込める。
込められた魔力によって槍に刻まれた魔法陣が起動し、強化魔法が槍を包む。
「止めッ【貫槍撃】!」
一閃――目の前を覆うのがただの粉だと気が付いたイーラコングが、敵である勇樹を視界に入れようと向きなおした瞬間、勇樹の槍がイーラコングの眉間を貫いた。
現在、勇樹のレベルは『12』。
通常であれば、このレベルでCランクのモンスターを単体で撃破する事などあり得ない。
しかし、今の勇樹は“竜の心臓”によって人の身でありながらドラゴンの力を振るい、自らが鎚を振るって製作した鉄鋼を豆腐の様に斬り裂く剣や物理ダメージをカットする防具など常識外れの装備に身を包み、趣味で作った小道具を使えば、高ランクのモンスターを倒す事は十分に可能であった。
襲い掛かってくるモンスターを倒しつつ、森を抜けて山の中腹まで辿り着くと、勇樹はそこで足を止めた。
「よーし、さっさと採掘を始めちゃおう。モンスターが次から次へとキリが無いや」
そう言って勇樹が取り出したのはツルハシ――ではなく、前方に円錐状のドリルを付けた円筒状の本体に無限軌道を付けた、所謂『地底戦車』であった。
この地底戦車は勇樹が作った物ではなく、過去にノーム達が勇者たちの話を基に作ったはいいが、穴を掘るのにノーム達は魔法で事が足りる為、作ったまま放置してあった物を勇樹が見つけて自分用に改造した物である。
勇樹は地底戦車を外から操作して、ドリルを山肌に向けると自動操縦で坑道を掘り始めるように設定した。
地底戦車はドリルを唸らせながら地面を掘り始める。
ちなみにこの地底戦車の本体内には旅人の鞄と同じように収納用の異空間が存在し、ドリルで掘り出した土をそこへ詰め込んで穴を掘っている。
地中を掘り進める地底戦車を追い掛けながら、地底探査となれば有毒ガスや酸素不足の心配から予め作って置いた簡易酸素ボンベを咥え、火を使わない魔導式ランプを取り出した。
数mも掘り進んでいると、レーダーに反応が出た所でドリルを止め、地底戦車を仕舞って代わりにツルハシを取り出す。
勿論、このツルハシもオリハルコン製の時価にすれば城1つが買えるという頭の悪い道具である。
「さて、採掘を始めますか。どんだけ掘れるかな~」
魔王領固有の魔力によって山の地中にはミスリルなどの魔鉱石が豊富に生成されているが、同時に高レベルモンスターが跋扈する危険地帯でもある為、それらは一切日の目を見る事無く死蔵されている。
勇樹はツルハシをグッと握り締めると思いっきり振り上げて目の前の壁へと振り下した。
誰もいない、薄暗い坑道でただ一人、勇樹は誰に邪魔される事もなく黙々と鉱石を掘り出すのであった……
十数時間後、日も暮れかけて街にある殆どの店屋が閉店の支度を始めていた。
商人協会とてその例外ではなく、そろそろ閉める準備を始めていた所へ一人の少年が駆け込んできた。
「こんちわー、ガメツさん。今回の買い取りをお願いしまーす」
「おや、これはイトー様。では鑑定しますので、奥の部屋へどうぞ」
商人協会に在籍する商人の1人であるガメツは会館を閉める準備をしていたが、勇樹の姿を見ると作業する手を止めて奥の倉庫へと案内した。
ガメツは既に、この一週間で何度か勇樹が持ち込んだ物を買い取った経験があり、その度にモンスターの素材などを山の様に持ち込んで来る為、勇樹が持ち込む場合は店ではなく裏の倉庫へ直接案内する様になっていた。
裏の倉庫は鑑定スキル持ちが鑑定を行う作業部屋を兼用していて、作業を終えて休んでいた者たちは勇樹の顔を見てざわつき始めた。
「今回はどれ程お持ちいただけましたかな? 流石に今からですと、前回の様にモンスターの素材を数十頭分も出されますと支払いは明日になってしまいますが……」
「ああ、大丈夫。今回は数体しか取らなかったから大した量じゃないよ」
「そうですか。いや~、冒険者がパーティを組んでやっと倒せるようなモンスターの素材が殆ど傷の無い状態で手に入るのは嬉しいんですが、流石にアレだけの量となるとこちらにも対処できる量という物が……」
「大丈夫だって、今回は大きいのが数体しかないからすぐに終わると思うよ」
そう言って勇樹はボストンバック型の旅人の鞄からモンスターの素材を取り出した。
最初の2体まではガメツもにこやかに見ていたが、3体、4体と増えて行く毎にその笑顔が固まって行き、最後のモンスターを出した頃には顔面蒼白になっていた。
「前と同じで良い所は僕の方で取っちゃってるけど、残った分は全部買い取っちゃってくれる?」
「……い、イトー様? 失礼ですが、これを全てご自分で?」
「え、そうだよ。特にこのデカくて白いグレイファングなんて、思ったよりしぶとくって仕留めるのに時間掛かっちゃって、ちょっとこの辺に傷が付いちゃってるけど大丈夫?」
勇樹は手に持った白い毛皮を捲くって擦った様な傷の付いた箇所を見せて説明していたが、ガメツには勇樹の言葉が耳に入っていなかった。
何故ならば、勇樹が手に持っているのは出現すればグレイファングを引き連れ、大規模な群れを作り人間に害をなす為、見かければ即討伐任務が組まれるCランクの『シルバーウルフ』というモンスターだった。
シルバーファングの毛皮は多少の刃を通さない為、防具としても優秀な部類に入る素材で、通常であればボロボロになった死体からほんの僅かに残った傷が無い皮が鎧の一部に使える程度にしか残らない希少な素材である。
「まさか……シルバーファングの毛皮がこれほどまでに綺麗な状態で……このエルクレアに店を構えて十数年経ちましたが、これほど立派な物は見た事がありませんよ」
「えーっと、これって売れる?」
「はい! しっかりと鑑定させて頂いた上で料金をお支払いいたします! ほら鑑定班の皆さん、お仕事ですよ!」
ガメツが手を叩いて、様子を見て固まっていた鑑定持ちに活を入れた。
その声に我に目覚めた作業員たちは、ワラワラと勇樹が広げた素材の山に集まって、鑑定を始めた。
「ウヒャー、コイツはランブルボアの牙だってよ。こんな綺麗に立派な牙なんて初めて見たぜ」
「こっちはグランベックの角と毛皮じゃ! 冒険者パーティですら手を焼くモンスターをこうも綺麗に仕留めるとは……」
「これはイーラコングの皮……? おいおい、Cランクのモンスターの毛皮が焼け焦げ一つなく綺麗な状態ってどんなだよ!?」
そこかしこから驚きの声が上がるのを聞き流しながら鑑定の様子を見学していると、ガメツは思い出したとポンと手を叩いた。
「そう言えばイトー様、最近はこの王都でも物騒な事件が起こっているそうですのでお気を付け下さい」
「物騒な事件?」
「はい、何でも女子供を狙った人攫いの様で、ここ数日でも何人か行方不明者が出ているようですよ。まあ、貴方ほどの強さがあれば関係ないとは思いますが」
「あははは、でも用心に越した事は無いよ。いつ何時事件に巻き込まれるとも限らないしね」
「そうでございますね。あ、鑑定にはもうしばらく時間が掛かりますから、終わるまで表のホールでお待ちください」
「そう、じゃあそうさせて貰うよ」
勇樹はガメツに案内されて会館に戻り、そこで暫くお茶を飲んで時間を潰し、買い取り額を貰ってホクホク顔でアリサの居る教会へ向かったのであった。
ちなみに狩ったモンスターの素材の買い取り金額は、勇樹が作ったツルハシを正規の値段で買ってもお釣りがくる程度の物だった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




