04話 少年、飯を集る
(´・ω・`)この話で漸く10万字を超えました。
しかし……このヒロイン、どうやって主人公と絡ませればいいんだ(オイ)
「すみませーん、これお願いしまーす」
今日も今日とて朝一にアリサに拉致られて教会で朝食を食べた後、冒険者協会へやってきた勇樹は貸し工房の申請書を笑顔で受け付けに提出した。
それを見た受付のアーノルドは心底面倒くさそうな顔で溜息を吐いた。
「毎回毎回、俺んとこ来るなよ。俺の仕事が増えるじゃねぇか」
「だって、オッチャンの所っていっつも誰も並んでないし、今更女の人ってなんか緊張するって言うか……」
「俺相手なら緊張しねぇのかよ」
「うん、全く」
アーノルドの問いに、あっけらかんと頷く勇樹。
それをみたアーノルドは深い溜息を吐く。
「はぁ……お前は変わってるな。普通初心者は俺みたいな奴のとこには来ねぇんだけどなぁ」
「大丈夫です、子供の頃から良く『お前は変だ』って言われてましたから」
「そこに大丈夫な要素の欠片もねぇな……そう言えば、お前さんムクムクは狩らないのか? 元々はアレを倒す為に修行してきたんだろ?」
「あははは~、いやぁもうアレはいいかなぁ」
ただでさえムクムクなど相手にならないモンスターを散々相手にさせられたのである。
それを高が殺されかけたというだけで、やりたい事をする時間を割いてまで狩る理由にはならなかった。
「いいかなぇって……まあ、良いけどよ。ほれ、工房の使用許可書だ。お前も引き篭もってばかりいねぇでたまには依頼を熟しやがれ」
「はーい、気が向いたらやりまーす」
「はぁ……言っとくけどな、EとFランクは依頼達成ノルマってのがあって、それを達成できねぇ奴はカード剥奪もあるんだからな?」
「え、そんなのあるの?」
判を押された申請書を受け取り、話もそこそこに退散しようと椅子から立ち上がり掛けた勇樹だったが、アーノルドの言葉に思わずもう一度座り直した。
「あるに決まってるだろ。冒険者カードはFランクでも持っていれば登録した街に入市税を払わずに出入りし放題だし、冒険者にとって命とも言える武器や薬を購入する場合は割引される場合があるし、ある程度の身分証にもなるからな。だから仕事もしねぇ奴を冒険者にしておけるほど国も協会もお人好しじゃねぇよ」
「まあ、それが罷り通ったら冒険者で溢れちゃうもんね」
勇樹は納得が入ったように頷いた。
過去には商人が入市税をケチる為だけに、自分の拠点の街で冒険者登録を行うという行為が横行した。
しかしそれでは街も税金が回収できず収入が減るという事で、苦肉の策として冒険者の本分である依頼にノルマを課す事となった。
「分かってんじゃねぇか……あ~、でも今は街の外へ行かなきゃいけねぇ依頼は、止して置いた方が良いぜ?」
「はえ? どうして?」
勇樹に問われてアーノルドは気まずそうに鼻を掻いた。
アーノルドの反応に勇樹が首を傾げていると、大きく溜息を吐いて見せて訳を話し出した。
「何でも、国が勇者を召喚したとか言ってその育成の為に初心者向けの狩場を占拠してんだよ。お陰で冒険者とのトラブルが絶えねぇんだ」
「ああ、勇者……居ましたねそんなのも」
自分がこの世界へ連れて原因をすっかり忘れていた勇樹は、懐かしさに思わずそう呟いた。
異世界に来てから既に2ヶ月と少しが過ぎたが、勇樹にとっては殆どが修行の毎日であり、正直な所、勇者とか魔王とかそんな事を気にしている余裕など微塵もなかった。
そんな勇樹の内心など露知らず、アーノルドは疲れたように溜息を吐く。
「冒険者が護衛の騎士に絡んで問題は起こすわ、勇者が倒したモンスターの死骸をそのままにするもんだからそれを狙ったモンスターが寄ってくるわ、こっちとしちゃあ堪ったもんじゃねぇよ」
「え、回収して協会とかに下さないの?」
「あっちは城住まいの勇者御一行だぞ? ガキの小遣い稼ぎにしか無んねぇ程度の金なんかに見向きなんざするかよ」
「ああ、稼がなくても国からの援助でお金には困って無い訳か」
「まあ、そう言うこった」
片や突然サバイバル敢行で、片やお城でお供付きのぬくぬくレベリング。
一瞬だけ勇樹の脳裏にあの時に断らず、城に残るべきだったかという思いが過ったが、それはそれで面倒臭そうな事に巻き込まれそうだと考え直して即座に斬り捨てた。
一秒にも満たない逡巡をおくびにも出さずに苦笑いしながら頭を掻いた。
「じゃあ、採取系の依頼を細々と熟す事にします」
「まあ、精々がんばれや。考えてる事はみんな同じだからそれ系の簡単な依頼は毎朝取り合いになってるけどな」
アーノルドが軽く顎でしゃくった先には、もう疎らにしか依頼書が張っていない掲示板があった。
勇者が現われてからというもの、『半人前』と言われるEとFランクの冒険者たちは簡単な依頼を取って達成ノルマを達成する為に、毎朝依頼書が張り出される前から掲示板の前に張り付いて、張り出されると同時に奪い合いになるのが恒例行事となってしまっていた。
勿論、いくつか残っている物もあるが、条件が厳しい物や重労働を伴うか手間が掛かる依頼しか残ってはいないのは必然だった。
「う~ん、とりあえず修行中にも色々と採取したのが残ってるから、それで採取系の依頼に使える物がないか探してみるよ」
「はぁ……まあ、精々頑張れや。2度と俺の所に来んじゃねぇぞ~」
「それについては前向きに検討させて頂きます」
心底面倒くさそうなアーノルドに、勇樹は誤魔化すようにニッコリと笑って掲示板に向かっていた。
掲示板には確かに勇樹が持っている薬草などの採取依頼は張り出されていた……が、その全てがCランク以上を対象とする物か、荷物運びなどの時間が掛かる力仕事ばかりだった。
そして原則として依頼は自分のランクより上の依頼を取ってはいけない決まりになっている。
そこで勇樹は適当な依頼書3枚を引き剥がした。
「という訳で、午前中に全部熟して午後は引き篭もってました!」
短時間で終わりそうな重労働系の依頼を熟した後、予定通り工房に引き篭もった帰りに教会へ寄った勇樹は、孤児院の子供たちと夕食の準備を手伝っている最中に、昼間の事をアリサに話していた。
「……良くそんな大変そうな仕事を3つも午前中で終わらせられたね」
「鍛えてるからね! お陰で何とか依頼ノルマが達成できたよ」
勇樹が大袈裟に安堵の溜息をついて見せる。
それから達成ノルマについて知らなかった事を告げるとアリサは驚いていたが、それならば教会が定期的に出す依頼を受けるといいと勧めた。
特に協会は孤児院を併設している所が多い為、いつも人手が足りておらず定期的に冒険者に依頼を出すのだが……この依頼は教会の予算で出される為、殆どボランティアに近い報酬しか出ないのでやりたがる者がいない。
それはこの状況であっても同じで、子供たちに囲まれながら雑用を熟すのが恥ずかしいという気持ちもあって誰もやりたがらないのである。
「もっと報酬が出せれば冒険者の人も来るんだろうけど、こればっかりは予算の都合でね……ユーキ君がタダでやってくれたら、もっと助かるんだけどね?」
「はっはっはっ、その辺は僕を助けると思って勘弁してよ」
これからは選んで依頼を取らずとも、教会が出す人気のない依頼を取って行けば、勇樹はノルマを達成する事が出来て冒険者を止めずに済む。
色々な意味で教会に助けられた勇樹は昼間に拵えて置いたある物を取り出すべく、腰のポーチを探った。
「アリサさん、これご飯のお礼とこれからお世話になる分です。どうぞ」
勇樹がそう言って取り出したのは一本の包丁だった。
勇樹の事を稼ぎのない冒険者だと思っているアリサは、精々屋台の肉串程度だと思っていたので取り出された包丁を見て大いに驚いた。
艶のある宝玉のような光沢を放つ木で拵えた柄と鞘に、鋼ではない冷たく透き通った輝きを見せる刀身が角度を変えるごとに様々な色を見せる。
まるで芸術品のようなその包丁にアリサは目を奪われた。
「これ僕が作ったんだけど、余った素材で作った安物だから気にしないで使って」
「こ、これが安物? ていうか、包丁とか作れるんだ……」
「うん、その辺は師匠に叩き込まれてね……あの時、調子乗ってあんな事を言わなければ改造なんて事にはなんなかったんだろうなぁ。ははは……」
「え? なんか言った?」
「あはは~、何でもないよー」
目から光が消えた勇樹の色々な念の篭った虚ろな呟きに気が付かない程に、アリサは包丁の方に心を奪われていた。
思わず手に取って見ると、まるでアリサの為に誂えたかのように彼女の手に吸い付いたようによく馴染んだ。
それもその筈、勇樹がアリサに渡した包丁の刀身にはオリハルコン合金を使用し、鍛造の段階から切れ味上昇や刃毀れ防止、間違えて指を切らないように怪我防止などの十数個にも及ぶエンチャントを重ねており、柄に使われている木材はノームの里を出る時に餞別に貰った世界樹の枝を使用している。
更に柄にも滑り防止や自動調整機能のエンチャントを掛けてある。
そして、極め付けは柄に付けられた小さな魔石である。
幾らエンチャントを掛けていていても、使っていれば刃毀れや磨り減りもすれば、小さな傷も付く。
出来るだけ長く使って欲しいと考えた勇樹は武器でもないただの包丁に、空気中の魔力を取り込んで自己修復をする機能を取り付けたのであった。
時価にすれば白金貨数百枚……王族が所有する魔法剣ですら付いていない様な、無駄に洗練された無駄のない技術を無駄に盛り込んだ包丁……魔包丁とも呼べる逸品を余った材料で手慰みに作り、あまつさえ朝晩の飯の礼に安物だと言って渡す勇樹は確実にノームに毒されていた。
「ホント、偶々材料が余ったから作っただけの物だから、気軽に使ってよ」
「ありがとう。正直、ウチで使ってたのがボロボロになってたから、どうしようかと悩んでたとこだったのよ。ほら、ウチってあんまり余裕が無いからさ」
「何だったら道具の修理とかもできるよ? それも依頼の内って事でやってもいいし」
「いや、そこまでやって貰ったら悪いよ。それはユーキ君の大事な飯の種でしょ? そんな安売りしちゃダメだよ」
「まあまあ、気にしない気にしない」
目が回り血を吐く程度の努力したとはいえ、勇樹にとっては短期間で無理矢理押し付けられた技術という感覚があり、使えるなら使ってしまえという認識であった。
そもそも、勇樹はお金には困ってはいなかった。
ここ一週間、殆ど工房に引き篭もっていた勇樹だが時折、欲しい素材があるとフラリと森の奥へ採取に出かけて、そのついでに狩ったモンスターなどの素材を、冒険者協会を通さずに商人協会などに売り払っていた為、冒険者協会は勇樹の所業に一切気付かず、この手の話にありがちな『自分の冒険者ランク以上のモンスターを狩ってランクアップ』という場面を回避し続けた。
そうして偶に在庫整理で売り払っていたので、勇樹は今の生活を半年は出来るくらいのお金を溜め込んでいた。
「あ、そうだ。明日は朝から用事があるからこっちには来られないんだ。多分夜には帰って来られると思うんだけどね」
「用事? 何か仕事?」
「いや、工房で使う素材が足りなくなってきちゃったから、仕入れに行くんだよ」
「大丈夫? 幾ら鉄や銅は延べ棒なら安いと言っても、そこそこの値はするんだよ? まだDランクにもなってないのに買うお金はあるの?」
アリサは不安そうに尋ねた。
その様子にまるで出来の悪い弟を心配する姉の様だと思いながら、勇樹は腕を上げてアピールする様にポーズを取った。
「大丈夫。ただ同然で手に入るから、お金の心配はないよ!」
「ただ同然って……それってなんか騙されてない?」
「いや、騙す相手がいないからその辺は大丈夫……」
「え?」
「いやいや、ちょっと前から懇意にさせて貰ってる所だから、その心配はないよ! あ~、それよりお腹空いちゃったよ。早くご飯作って食べようよ」
勇樹の言葉にやんちゃ盛りの子供達も反応して騒ぎ出す。
「はいはい! もう、もうすぐできるからユーキ君は食器を持って来て、みんなは手を洗ってらっしゃい」
「「「はーい」」」
勇樹と子供達は方々へと散り、食事の支度を始めた。
その後、勇樹は朝が早いからと夕食を早々に食べ終えて宿へ帰り、明日の支度もそこそこに就寝したのだった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




