03話 少年、拾われる
(´・ω・`)漸くヒロインその1を出すことができました……
ただ、これだけ時間を掛けて出したヒロイン1のコンセプトは『地味・常識人』です。
2015/05/30 内容を微妙に変更しました。
時間は一気に一週間後まで飛ぶ。
その間、勇樹は手持ちの素材をありったけ使い、思い付くままに刷り込まれたスキルと覚え込まされたノームの技術を使い、槌を振るって素材を加工して、アイテムを作成する為に貸し工房に引き篭もっていた。
とは言っても、冒険者協会にも営業時間という物があるので朝早くから出向き夜遅くまで引き篭もって、追い出されると宿へ寝に帰り、たまに欲しい素材があるとフラリと出かける生活を繰り返していた。
その時、勇樹が取っていた食事は一日一回に渡された燻製肉の欠片を休憩の合間に齧るだけで後は水だけ、文字通り食事する間も惜しんで工房に引きこもっていた。
その結果が……行き倒れであった。
それはいつもの様に貸し工房のある冒険者協会へ向かう道中であった。
文字通り宿と貸し工房を往復するだけの生活をしていた勇樹であったが、極端な食生活が祟って、とうとう空腹のあまり気絶してしまった。
しかし、そこを偶然通りかかったシスターによって助け出され、勇樹は教会に連れて行かれたのであった……
気絶した勇樹を教会へ運んだシスターの少女は、先輩シスターの手を借りて勇樹を食堂へと運び、朝食の残りのパンと野菜のスープをテーブルに伏している勇樹の顔の前に並べた。
料理の匂いに反応して鼻をヒクつかせ、ゆっくりとパンに手を伸ばした。
緩慢な動作でパンを小さく千切ると口に運んで、数回咀嚼した後に飲み込んだ。
「……っ!!」
次の瞬間、勇樹はガバッと体を起こして飛び掛かる様に食事を始めた。
硬いパンを煎餅の様にバリボリと齧り、スープで流し込んで行く。
「うわ……よっぽどお腹が空いてたんだね。ほら、パンならまだ残ってるからドンドン食べていいよ」
「いたらきまふ!」
差し出された籠を引っ手繰る様に受け取ると、中に入ったパンを両手に持って齧る。
そんな様子をシスターの少女はテーブルの反対側に座って、唖然とした表情で見ていた。
「よ、よくそんな硬いパンをスープや水でふやかさずに食べられるね……」
「むぐむぐ……ごくっ、鍛えてますから!」
「どう鍛えたらそんな風になれるって言うのよ……」
冗談で釘を打ったら抜けなくなった事もあるパンを平気な顔で食べる勇樹を、少女は驚きを通り越して呆れた表情で呟いた。
そんな少女の呟きなど気にする事なく、勇樹はパンと手を合わせて食事を終了していた。
「ふぅ、人心地に付きました。どうも御馳走様でした」
「お礼なんて良いわよ。どうせ残り物だったし、パンなんて長期保存用に焼いたのはいいけれど硬すぎて食べられそうになかった奴だったし」
「そうですか? 割とサクサクしてて美味しかったですけど」
「……私が齧った時には歯が掛けそうなくらい硬かったんだけど?」
既に空になった籠を見つめながら首を傾げる少女であったが、気にしても無駄だと思い直して少年の方を向いた。
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はアリサ・ヘルディン、ここのシスターよ」
「僕はユーキ・イトー、冒険者……です。うん」
一瞬、この一週間の行動が思い返されて言葉が詰まったが、一応冒険者カードは持っているので最後の所で踏み止まって頷いた。
「へぇ、その年で冒険者なの。凄いね!」
「え、ええまあ……冒険者、ですよ。(殆ど依頼とかやってないけど)」
「ん? 何か言った?」
「いえ、何にもー」
とりあえず自分の中の違和感を握り潰す事にした勇樹は、貼り付けたような笑顔で返事をした。
そんな風にアリサと話していると、廊下の方からドタドタと足音が聞こえて来たかと思うと、小さい子供たちが食堂に飛び込んできた。
「アリサ姉ちゃんが男を連れ込んだってほんとー!?」
「その人がお姉ちゃんのこいびと~?」
「姉ちゃん~俺、腹減った~」
「死ね」
「なんかこの人、臭くない? お姉ちゃんダメだよ、こういうお金の無い人を拾ってきちゃ。元の場所に返さないと」
雪崩れ込んできた子供たちはそのままアリサを囲い、思い思いの主張を繰り広げる。
子供たちのこういう行動に慣れているのか、アリサは適当に相槌を打ちながら飛び付いてくる子供たちを軽々と往なしてゆく。
「えーっと、この子たちは? あ、止めて止めて。食べたばっかだから揺すらないで、リバースしちゃう」
「ウチの教会は孤児院もやっててね、この子たちはそこの孤児たちよ」
「ああ、孤児院の……」
よく見ると入って来た子供は5人だが、内人族の子供は1人だけで残りは亜人や獣人の子供ばかりであった。
勇樹は、このまま何もリアクションを起こさず、されるがままになっていては子供たちにやられ放題だと考えて、髪や服の袖を引っ張られながらも椅子からすくっと立ち上がり、子供たちに向かってニコッと笑い掛けた。
「やぁやぁ子供たち、僕は冒険者のユーキ・イトーって言うんだ。皆よろしくね! そしてそこのお前! さっきから僕の向う脛を蹴るんじゃない! 痛いよ!」
「死ね!」
「こ、こらジャック! 止めなさい!」
犬耳少年のジャックはアリサに叱られると、食堂を飛び出してしまった。
アリサは普段とは違うジャックの様子に、心配そうに入口の方を見つめた。
「ゴメンね。あの子、普段はあんな子じゃないんだけど……」
「あははは、あの年の子供はあんなもんだよ。きっと大好きなお姉ちゃんを取られるとか思ったんじゃない?」
「それなら良いんだけどね」
「なーなー、なんで兄ちゃんはウチにいるんだ?」
「アハハハ、実は行き倒れを少々……」
リザードマンの子供に聞かれ恥ずかしそうに答えた勇樹に、アリサは思い出したように手を叩いた。
「そうだ、どうしてユーキ君はあんな所で行き倒れてたの? 格好を見る限りお金が無いようには見えないけど……」
アリサは勇樹の服装を見て、汚れは目立つが解れたり繕った跡が無いので新品の服であると見抜き、さらに身なりも泥や煤で汚れてはいるが、体臭がきつくない事からキチンと体を洗っていると考えた。
その2つの事柄から、少なくともお金に困ってはいない筈だと予想した。
「あーうん、これには色々と深い事情があったりなかったりする訳でして……」
「どうしたの急に、しどろもどろになって……まさか、変な輩に身ぐるみはがされたとか!?」
「それは違います。えーっと、実は……」
曖昧な答えでお茶を濁そうとした勇樹であったが、それがアリサの想像力を働かせる結果となってしまった為、仕方なく事実を話した。
その結果……
「はぁ~、趣味に夢中になって食事を忘れてたぁ? どんだけ夢中になってやってたのよ……」
「いや~はっはっはっ、お恥ずかしい」
思いっきり呆れた表情で深く溜息を吐かれ、勇樹は照れを誤魔化すように笑った。
反省の色すら見えない勇樹にもう一度溜息を吐いたアリサは、困った様な笑顔を浮かべて勇樹に提案した。
「その様子じゃあ、また行き倒れそうよね……じゃあ、こうしましょう? 貴方は朝と晩にウチにご飯を食べに来なさい。その代り、時々ウチの仕事を手伝ってくれないかしら?」
「え、でもそんなの悪いですよ」
「いいの! ウチって女2人と子供たちだけでしょ? だから男の人の手が欲しいのよ。それに冒険者なんだからそれぐらいしなさい。それに毎回通るたびに貴方を拾うのは面倒よ」
「あははは……」
もう2度と行き倒れないと断言できるほど、勇樹は自分を知らない訳ではなかった。
結局、アリサの押しに負けた勇樹は提案を飲む事となった。
一応、ここの責任者は先輩のシスターだそうなので挨拶しておく事になった。
先輩シスターのヘレンさんは70代くらいの白髪交じりのお婆さんシスターで、縁側でお茶を啜っているのが似合いそうな好々爺である。
「おやおや、アリサちゃんのお友達だったのかい。ここに運ばれてきた時はびっくりしたけど、もう大丈夫なのかい?」
「はい、お騒がせいたしました! もう大丈夫です!」
正確には友達ではないが態々そこを突っ込んで面倒臭い方向に行かれるのも億劫なので、勇樹は笑顔で肯定した。
「そうかい、アリサちゃんはシスターのお勤めが忙しいからって、年の近いお友達っていないから仲良くしてあげてね」
「な、ヘレンさん!」
ヘレンの言葉に慌てるアリサ。
そして、アリサは顔を赤らめながらヘレンに詰め寄って、頻りに弁解していた。
一方勇樹は、特に気にする様子もなく普通に受け答えしていた。
「バカだけど体力には自信があるので、ジャンジャン用事とか頼んでくださいね! 一応こう見えても自分、冒険者なんで!」
「そうかい? じゃあ、早速で悪いんでけど薪を運ぶのを手伝っておくれ。場所はアリサちゃんが知ってるから」
「了解しました!」
こうして勇樹は街中にある小さな教会でお世話になる事になった。
が、翌日にはすっかり忘れて勇樹は工房に引き篭もってしまった為、その次の日からは朝にアリサが宿まで出向いて勇樹を捕まえて教会まで引きずる破目となったのは、また別のお話。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




