02話 少年、宿を取る
(´・ω・`)漸く2章に入れました。
ここから主人公の大冒険?が始まります……
「それで? お前は一体何者なんだ?」
命を助けて貰い、馬車まで曳かせて今更過ぎる質問に、少年はちょっと困った様子で答えた。
「僕はユーキ・イトーって言います。一応、冒険者?をしています。なり立てですけど」
すると、少年の返答にティアナは目を輝かせた。
「冒険者! なんと、お前は冒険者なのか!? それだけの腕前だ、さぞや名の通った冒険者なのであろうな!」
「いや~はっはっはっ……はぁ」
まさか、なってすぐに山籠もりしていましたとは言えず、曖昧な笑いで誤魔化す勇樹であった。
そしてその曖昧な態度はアンジュの疑念を、さらに高ぶらせる事となる。
何せ相手は腐っても王女である。
相手が盗賊の扮装ならば、攫われた若い女性の末路など騎士団に所属していれば否が応でも知っている。
その為、アンジュは勇樹の一挙手一投足に注意を払い警戒していた。
そんな警戒を余所に馬車はあっさり王都エルクレアへ到着。
門に近づいた時に人が馬車を曳いていると騒ぎになったが、馬車を見て慌ててやってきた騎士が新しい馬車を手配。
あっさりと勇樹はお役御免となり、ティアナたちに別れを告げて勇樹は久方ぶりとなる冒険者協会へと足を向けた。
前回訪れた時には閑散としていたので、その時に警戒していたのをすっかり忘れて思いっきり扉を開けてしまい、勇樹は冒険者協会にいた冒険者全員の視線を集めてしまった。
と言っても入って間もない新人が粋がってそう言う行為をするのは珍しくない為、大半は興味を失ってすぐに視線を逸らしたが……
受付カウンターには10代くらいの可愛らしい女性、眼鏡を掛けた30代のキャリアウーマンといった感じの女性、そして禿げ頭のオッサンが座っていて、前者2人には行列が出来るほど冒険者が並んでいるのに対して、オッサンの所には誰も並んでいなかった。
それを見た勇樹は迷わず受付に向かった。
「ヤッホー、オッチャン。前はお世話になりましたー」
「あ? 誰だっけ……ああ! あの時の坊主か! あの後、全然姿を見せなかったがどうしてたんだ?」
「あはー、山籠もりというか修行というか……兎に角、人里から離れた生活を送ってました」
「は~、なんというか。あの爺さんも無茶な事するなぁ。初心者にいきなり訓練させたのか」
受付のオッサン……アーノルド・シュヴァッツマンは露骨に顔を顰めながら面倒臭そうに溜息を吐いた。
「オッチャンはあのお爺さんが誰だったか知ってたの?」
「うんにゃ? たまにいるんだよ。暇つぶしに新人の冒険者にそれっぽい事を言って変な特訓をさせる爺さんがたまにいるんだよ。有名になった時に『あの冒険者は儂が育てた』とか言いたいんだと」
「え~……なんていうか、随分と迂遠な暇つぶしですね」
「年寄りだからな、気がなげぇんだろ」
その暇つぶしの為に勇樹は散々な目に合ったのだが、それを態々受付の彼に話す気はなかった。
そこで勇樹はここへ来た目的を思い出した。
「そうだ、幾つか聞きたい事があるんだけど」
「んあ、なんだ?」
「1つ目はこの辺に宿ってない? 料金はそこそこ高くても構わないから素泊まり目的じゃない宿が知りたい。2つ目は貸し工房ってどっかにあるかな。材料と機材は持ち込みで、剣とか作りたい。3つ目はここで買い取りとかってできるの?」
矢継ぎ早に繰り出された質問にアーノルドは面倒臭そうな態度を変えないまま、いくつかの書類を取り出して答えた。
「えーっと、1つ目の宿は俺のオススメを後で地図を書いてやるよ。2つ目の工房はここで貸してるよ。料金は1時間で銀貨2枚、借りる場合はこの申請書を書いて貰う。3つ目の買い取りはここでもやってるが、ここで買い取ってんのはモンスター素材と薬草の類だけで、持って来た場合は2階に上って目の前の受付な。他にある場合は商人協会へ行け」
アーノルドは複数の質問に地図を書きながら閊える事無くスラスラと答え、貸し工房の申請書と共に差し出した。
「他に質問は?」
「この貸し工房の申請書ってここで出せばいいの?」
「そうだ。いいか、次からは隣の若い姉ちゃん達の受付に行くんだぞ? こっちに来ると俺の仕事が増えるからな」
「なんで受付職員が受付の仕事を嫌がってるのさ……というか、何でこっちはこんなに人がいないの?」
「新人は俺の顔が怖いのか寄り付かねぇし、ベテランは俺に目を付けられたくないんだとよ。全く……暇潰しでここに座ってるってのにお前が来たせいで余計な仕事が増えちまったじゃねぇか」
「ハッハッハッ、それじゃあ僕はこれで」
怠そうな目で睨みつけて来るのを、勇樹は顔を逸らしながら笑って誤魔化ながら席を立つ。
アーノルドから申請書と宿へのメモを受け取ると、そのまま逃げるように商人協会へ向かう為に冒険者協会を出て行った。
帰ってくる道中で適当に狩ったモンスターの部位や薬草を売って資金を作った勇樹は、アーノルドのオススメの宿に向かった。
宿の場所は少々入り組んだ所にあって分かりにくかったが、冒険者協会のオススメだけあって中々に綺麗で高そうな宿だった。
中に入ると30代くらいの女性がカウンターに座っていた。
「おや、お客さんかい? いらっしゃい」
「こんにちは、冒険者協会の方でここを紹介して貰ったんですけど、部屋は空いてますか?」
「空いてるよ。どのくらい泊まるつもりだい?」
「とりあえず一週間、一人部屋でお願いします」
「はいよ、朝晩飯付きで一泊120Eだよ。えーっと、一週間だと……」
「840Eですね」
「おお、計算が早いね。坊や」
東洋人特有の童顔の所為か、宿の女将から子ども扱いを受けた。
17歳も子供とだと言ってしまえばそれまでだが、この頃の男子は色々と複雑なのであった。
「あはは、コレくらいはヨユーですよー。それで部屋は……」
「ああ、はいこれ鍵ね。部屋は2階だよ」
絵が書かれた札付きの鍵を受け取って2階へ上がった。
部屋番号は字が読めない人の為に鍵には絵札が付いていて、それがドアに付いているプレートに書かれている絵に対応していた。
勇樹は素早く部屋を見つけると、鍵を開けて中に入り、ドアに鍵を掛け荷物を置いてベッドに座り込んだ。
勇樹は基本的に、旅行へ行ってもホテルに部屋に引き篭もって居られれば満足するタイプなので、元の世界のそれも日本の宿と比べると若干下回るが、それでも比較的小綺麗にしてある部屋だったので伸び伸びとする事が出来た。
「ふう、とりあえず部屋は確保っと……それじゃあ、荷物の整理でもするかなぁ。そうだ、ジェイド師匠は何くれたんだろう?」
別れ際にノームのジェイドが寄越した旅人の鞄を開く。
ガサガサと中を漁ると、金属のインゴットや各種の道具などが詰まっていた。
「お、ミスリルにアダマンタイトまであるや。師匠太っ腹~……あ~、燻製も沢山入ってる……やっぱり在庫処分だったんじゃん!」
ゴソゴソと鞄の中身を確かめていき、必要な物やすぐに使う物を自分で製作したウエストポーチ型の旅人の鞄へ移して行った。
モデルは勿論猫型で青い起き上がり小法師の四次元なポーチである。
旅人の鞄というと、大体がショルダーバックかナップザックの様な形しかなかった為、不便さを感じた勇樹が工房に引きこもって作った物の1つである。
「ふむ……これなら暫くは採取に行かなくても平気かな?」
鞄の中身を移し終えた勇樹は、鞄から取り出したミスリル製の金槌を眺めながらニヤリと笑った。
ノームの里を出た事でノーム達のサポートは得られなくなったが、逆に言えば勇樹を見咎める人もいなくなった事により、ここならば1日中引き篭もっていようが途中で止められずに、勇樹は存分に製作にのめり込む事が出来る。
「ミスリルにアダマンタイト、ヒヒイロカネにオリハルコン……その上、魔法石まであると来れば、ここなら何時間工房に篭っても止められる事は無い……だったら、思う存分、思い付いたアイテムが作れる……ウッヒッヒッヒッ」
勇樹は薄暗い部屋に一人で笑った。
その姿は他人に見られよう物なら即通報される様な、誰が見ても怪しい人物そのものであった。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




