12話 少年、改造される
(´・ω・`)現時点で修行編(1章)が20に達しそうな勢いです
30話くらいまでには2章に入りたいと思います……
ドラグニールから修行終了を言い渡され、初めに降り立った場所に転送されてきた勇樹の第一声は怒声だった。
「このクソ爺!!」
人間、理不尽な事をされれば温和な人間でもキレるのは当然である。
況してや説明もなく危険地域に放り込んで、死んでも生き返るとはいえ何度も辛い思いをしたのだ。
後半はそこの生活が楽しくなってきていたとはいえ、最初の怒りをキッチリ清算する為、万感の思いを拳に込めて巨竜姿のドラグニールを殴りつけた。
勿論、傷ついたのは勇樹の拳の方であった。
しかし、男には無駄と分かっていてもやらなければいけない事があると、鱗を殴りつけた所為で血だらけになった手をドラグニールに治療して貰いながら語ったのだった。
「で、代わりの心臓ってどうやって手に入れたんですか? まさか新しい心臓を手に入れる為に誰かを殺してぶっこ抜くとか嫌ですよ?」
「それは無いから安心せい。丁度いい物を儂の宝物庫の中で見つけてのう」
そう言って取り出したのは、拳大の黒い水晶のような――宝石だった。
「それ石じゃないですか!」
「まあまあ聞きなさい。これは勇者が退治したドラゴンの“竜の心臓”じゃ」
それを聞いた勇樹が「ドラゴンの竜の心臓って意味が被っているなぁ」と内心でくだらない事を考えていると、ソレを持ったドラグニールが説明を続ける。
「竜の心臓というのは、ドラゴン種が持つ器官の名称じゃ。人間や魔物が外から魔力を取り込んで使うが、ドラゴンは自らの体に魔力を生成する器官を持っておるんじゃよ。それが第2の心臓と言われるこれじゃ」
ドラグニールは竜の心臓を勇樹の前に突き出し、勇樹は思わず手に取ると予想外の感触に驚く。
手の中の竜の心臓はほんのり温かく、見た目は鉱石なのに僅かに脈動していたのだ。
「今からこれをお主の心臓に移植する。そうすれば、ドラゴンも持つ並はずれた生命力を得て傷なんぞたちどころに治るじゃろう……多分」
「たぶん!?」
「だが、これを選んだ理由はそれだけじゃないんじゃよ」
ドラグニールは竜の心臓を勇樹から受け取ると、呪文を呟き魔法陣を展開した。
「正直、勇者ではないお主が一月程度でここまでやるとは思ってもいなかったが、その成長がいつまで続くかは儂にも分からん……お主が自衛手段を得る為にも、この程度の荒療治が必要だと判断したのじゃ」
そもそも勇者でない者が1年間も修行しても、20レベルも行けば一流の部類に入り、通常ならばモンスターとの戦闘は、ベテランであっても1週間に3回まで、内容も一日掛けて格下を探し回って、罠に掛けて孤立した所を囲んで倒すという物である。
歴代の勇者であっても、モンスターの巣に放り、死に戻りに任せて修行した者など皆無なのだ。
「うう~……そういう事なら、お願いします……」
物凄く渋々と言った様子で勇樹は横たわり、ドラグニールの魔法によって深く眠らされた。
「うむ……」
横たわる勇樹を前にしてドラグニールは自分の顎を撫でていた。
施術は成功していた、ドラグニールの予想を上回る速さで。
予想以上に勇樹の魔力に竜の心臓が馴染んだ為だと予想したが、元々の持ち主を考えると極めて微妙な気分だった。
勇樹に移植した竜の心臓は、かつて北の大火山に住んでいた上級ドラゴン――黒王龍ヴォルケールの物であった。
当時、急激に力を付け始めていたヴォルケールは配下の竜を増やして、周辺の国を壊滅させて自分の力を示そうとした。
ヴォルケールの企み気付いた千年前の勇者は、計画を阻止する為に戦いを3日間繰り広げる。
しかしヴォルケールは勇者の一瞬の隙を突いて寸での所で逃げだして、勇者も失ってしまう。
その後、ヴォルケールは各地に現れては被害を撒き散らし、その度に勇者が現地へ飛び回るというサイクルが約9カ月も続いた。
だが勇者もただ後を追い掛けるだけではなかった。
9か月の間に他のドラゴンと協力を取り付けて包囲網を作り上げ、元の大火山の火口まで追い込む事に成功する。
そこで勇者とヴォルケールは自分たちの命を掛けた死闘を繰り広げた。
そして両者は傷つきヘトヘトになりながらも、遂に勇者の剣がヴォルケールを斬り裂いた。
黒王竜は死ぬ間際に、最後の悪あがきとして勇者諸共葬ろうと大火山を噴火させた。
それから3ヶ月間、勇者とその仲間たちは火山噴火の被害を止める為に全力で駆け回り、被害に遭った村や町の支援に不眠不休で2ヶ月掛かり、そして燃え尽きた勇者は1ヶ月の間、自室に篭って休んでいたという。
生きている間に1年近くも嫌がらせのような被害を巻き散らし、死んだ後も勇者を半年も行動不能にしたというドラゴン種の問題児だった。
無論、竜の心臓はただの臓器である為、本人の意思が残っていて宿主を支配するなどという事はあり得ないが、人間に竜の心臓が適合するというのが不安要素でしかなかった。
施術から1日経ち、朝の陽射しが窓から入り込んで勇樹が目を覚ました。
勇樹は目を開けると、見慣れた竿淵天井が見える。
布団から起きた勇樹は布団を畳んで部屋の隅に置き、綺麗に畳まれ衣装盆に入っていた自分の服に着替え、襖を開けるとテーブルに料理を並べているドラグニールが居た。
「ふぁ~……おはようございます」
「うむ、おはよう。ほれ、朝食が出来ているから座りなさい」
「は~い」
促されるままに座布団の上に座って、箸に手を伸ばした瞬間、色々おかしい事に気が付いた。
「お爺さん……」
「ん? なんじゃ、食べんのか? いかんぞ好き嫌いは」
「いやいやいや、そうじゃなくて! どこ此処!? 何で和室!? あまりに普通過ぎて一瞬分からなかったよ!」
思わず畳を叩いて、その畳の感触にさらに驚く。
ドラグニールが居なければ、元の世界に帰ってきたかもと勘違いするほどに、そこは異世界にはない日本特有の、完璧な和室であった。
「この家は先代の勇者が、彼奴が隠れ家して作ったんじゃよ。特に晩年はほぼここで過ごして居ったよ」
ドラグニールは懐かしむように目を細め、勇者が座っていたであろう場所に目をやった。
勇樹も座った場所から窓の外を眺めた。
窓の外は見慣れぬ山脈だけが見えたが、それがまたどこか日本の風景を彷彿とさせた。
勇樹にはその勇者が晩年に何を思い、死んで行ったかなど想像もできなかったが、少なくとも、この家をどのような想いで作ったのかは分かるような気がした……
「何せ彼奴は、事あるごとに女性を引っ掛けて来おってのう。仲間だった5人の番から逃げるのに良くここを使っておったわい」
あくまでわかる気がした、だった。
ちなみのこれは有名な話で、1国につき5人は妾がいたという話が子供向けではないアレな物語として色々と残されている。
勇樹は、召喚され異世界に連れて来られた勇者候補を保護する為に駆け回り、竜の砦を作る為に奔走していた先代勇者が、とんでもなく俗物に変わっていった気がした。
話を切り上げ、朝食を食べ終わった頃、そもそもここへ来る原因となった事を聞く事にした。
「それでお爺さん、僕の体ってどうなんたんですか?」
「ふぉっふぉっふぉっ、そう畏まらんと儂の事は赤爺とでも呼んでおくれ。あれもそう呼んでおったのでな」
そう言ってドラグニールは、懐かしそうに目を細めて髭を撫でる。
「じゃあ早速。赤爺、僕の身体ってどうなったん?」
勇樹の質問にドラグニールはお茶を一口含み、静かに息を吐いた。
「最初に結果だけ言えば、ほぼ成功じゃよ。“竜の心臓”を何の反発もなく受け入れおったわい」
ただなぁと続ける。
「竜の心臓なんぞ人間に移植するのは初めての事じゃから、はっきり言ってこの先に何があるかは、儂にも分からん」
「分からんって……そんな無責任な」
「少なくとも、適合はしておるから死ぬ事はない。ちょっと体から鱗が生えてしまうかもしれんだけじゃ」
「随分な問題だよねそれ!?」
「まあ、大丈夫かどうかはステータスを確認してみればわかるじゃろう」
笑って誤魔化そうとするドラグニールに疑惑の目を向けながら、勇樹は【能力表示】と唱えた。
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ユーキ・イトー
AGE:16 SEX:M
Lv1 HP:6000/6000
MP:30000/30000 SP:15000/15000
筋力:600
耐久:500
敏捷:900
知力:300
精神:750
運 :4
属性:無(竜)
スキル:『異世界言語』Lv2 『■■■■(未覚醒)』『竜の心臓』Lv1(1/6)
『剣術』Lv1 『気配遮断』Lv3 『気配察知』Lv2
『道具作成』Lv1 『素材加工』Lv1
称号:『巻き込まれた一般人』『毛玉に負けた男』//『種族:半竜人』
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勇樹は一度ステータスを閉じ、自分の目が疲れているのかと目頭を揉み解してから、もう一度開き直した。
しかしそこに書かれていた数値は全く変動していなかった。
「……うん、レベルが下がっていらっしゃる!?」
「まあ力の源が大きくなれば、そうなるのう~」
「知ってたの!?」
思わずドラグニールの方を振り返る。
ドラグニールはゆっくりお茶を啜って、一息ついてから頷いた。
「そもそも、レベルとはなんだと思う?」
「え、そりゃ……強さの数値?」
突然の質問に若干面食いながらも、自分の最もそれをイメージするゲームを思い浮かべて答えた。
ドラグニールは勇樹の答えに軽く頷き続けた。
「強さのう……それもあるじゃろう。じゃが、同じレベルでは人間とドラゴンの強さは同じか?」
「んな訳ないじゃん。そりゃ経験とかで個体差は出るだろうけど、基本的に牙も爪も鱗も翼もない人間に勝ち目がある訳ないじゃん」
「じゃろ? じゃあ、一体レベルとはどういう基準で測られると思う?」
「え、これに基準とかあるの?」
「そりゃあるわ。簡単に言えばレベルとは、体内の魔力効率による肉体の進化。この世界の生物には少なからず体内に魔力を宿している。それは肉体が死ぬ事で抜け出し、倒した者の身体に入り込む、それによって体内の魔力が増加して、それが肉体を強化するんじゃよ。その強化度こそがレベルの正体、とするのが現在の一般的な説じゃな」
「あ~、一応理屈があったんだ」
「勿論じゃ、そんな事を推考する暇人はどこにでもいるんじゃよ。そんな訳で、今のお主のレベルは人間と竜の間くらいが基準になっておるんじゃよ」
ドラグニールの言葉に納得したと同時に問題も発生した。
そもそも竜の砦へ来たのは、勇樹に戦う術を身に付かせ、レベルを上げて強くするのが目的だった。
確かにステータス的に言えば、ただの一般人の時よりも数値が50倍は上がっているが、レベルが1なのは変えようのない事実である。
しかも先ほどの話を考えれば、恐らく前と現在ではレベルを1上げるのに必要な経験値が倍以上、ステータスを鑑みると50倍になっている可能性がある。
そうなると一度下がったレベルを元のレベルまで上げるのは困難である。
どうした物かと悩んでいる勇樹を尻目に、お茶を飲みきったドラグニールは湯呑を置いて立ち上がった。
「さて、飯も食ったようじゃし、そろそろ出かけようかのう」
「ふえ? 出かけるってどこへ?」
勇樹の質問にニヤリと笑う。
「修行の第二弾、竜の里へじゃよ」
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




