09話 少年、目を付けられる
(´・ω・`)今回は間に合いました!
なんかどんどん更新が辛くなっている気がする……
――鬼人族、この世界では岩の多い砂漠などの過酷な環境に棲む少数種族である。
岩のように硬い骨格と皮膚を持ち、普人の成人男性5人分の重量ならば軽々と片手で持ち上げられるほど怪力、鬼人族の男が5人居ればドラゴンを素手で狩れるという言われもある。
額から伸びる2本の角は大気中のオドを吸収する為の物だと云われ、魔法を行使するのが苦手である代わりに、生体として強化魔法を使用する事が出来ている。
――酒と闘争を好み刹那的な思想を持つが故に、他部族や国に喧嘩を売る部族が絶えない為、現在も順調にその数を減らしている。
勇樹を殴り飛ばしたギッドガルもまた鬼人族であった。
好戦的な笑みを浮かべながら、殴り飛ばした勇樹を睨み付けて声を張り上げる。
「お前がウチの若い奴らが世話になったって言う雑魚か。話には聞いていたが、まだガキじゃねぇか。こんな奴に負けたのかよアイツらは……それで、相方の獣人の雌はどうした? さっさと吐いた方が楽になれんぜ?」
巨体を揺らしながらゆっくりと倒れている勇樹に近づき、片手で勇樹の首を掴むと軽々と持ち上げた。
ゆっくりと手の中で勇樹の首を締め上げながら、ルシアの事を問い掛ける。
しかし、そこまでされても勇樹は悲鳴どころか、声すらも漏らさない。
勇樹の無反応さにギッドガルが片眉を上げた。
「何だよ。もうくたばっちまったのか? これだから普人は、ちょっと撫でただけですぐに壊れやがるからいけねぇ」
迷宮都市で一二を争うギルドのマスターであるギッドガルの突然の登場に、その場にいた人間は誰も動く事は愚か、声を漏らす事すら出来なかった。
居るだけで撒き散らされる刃物にも似た殺気と威圧感が、周囲を支配して逆らえないからである。
本来、乱闘が禁止の筈の協会内で誰もギッドガルに注意する事は出来ず、館内は彼に呑み込まれていた……一人を除いて。
「まあ、いいや。コイツの死体を見える所にでも吊るしときゃあ、仲間も釣れんだろ……」
「貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだー!」
「ヌ?」
ネットで聞き齧ったセリフと共に、勇樹はギッドガルが僅かに手を緩めた隙を突いてすり抜ける。
同時に頭上よりロープが伸びて、ギッドガルの右腕と首に絡み付いて締め上げた。
自分の手から逃げ出した勇樹を見て、ギッドガルは大きく笑い声を上げる。
「ガッハッハッハッ、まさか死んだふりをしてたとはな! しかも、割と本気で殴ったのにダメージもなさそうだな。一体どんなカラクリだ? オイ!」
絡み付いたロープを引き千切りながら鬼人の愉快そうな笑い声が館内に響き渡る。
殺伐とした雰囲気の緊張状態に耐えきれなくなった職員の一人が躓き、大きな音を立てて転んだ。
その音で漸く我に返った周囲の人間達は、ギッドガルの様子からただならぬ雰囲気を感じ取り、今までの静寂を翻して堰を切ったように我先にとその場にいた全員がギッドガルから離れようと一斉に駆け出す。
「逃げろっ! 『迷宮の鬼神』が暴れるぞ!」
「巻き込まれたら殺されるっ!」
「は、早くここから離れるんだ!」
その場にいた冒険者も職員もその他諸々も、蜘蛛の子を散らすように協会から飛び出して……中には2人だけが残された。
静かになった館内を見渡し、ギッドガルが鋭い犬歯を剥き出しにして嗤う。
「テメェだろ? ウチのCランクを叩きのめしたガキは。その礼に来たのよ」
「いえ、全くの人違いです。僕は極普通のFランクですから、Cランク冒険者なんて相手にできるワケないじゃないですか」
ギッドガルの断定した口ぶりに勇樹は手を横に振りながら否定した。
それに対してギッドガルは鼻を鳴らす。
「おいおい、テメェがただのド底辺だと? そこに付けてるもんは何だ? ソイツがただのFが持っていい物だと思うか?」
そう言ってギッドガルが指差したのは、勇樹の腰にあるポーチだった。
ポーチを差された勇樹は咄嗟に遮るように腕で隠す。
「見てたぜ? Fランクにゃ不相応な魔石の数、Cランクの仲間がいたとしてもあの量は異常だ。お前、何か隠してるな?」
「アレはダンジョンの罠が良い具合にハマって大量だっただけです。それで他の人は先に宿へ帰ったんで、僕が代表して換金しに来ただけですよ」
「Fのガキがか? ソイツは随分と腑抜けた冒険者共だな!」
勇樹の返答を鼻で笑い飛ばし、太い幹ほどもある腕が轟音を唸らせながら振り被られる。
勇樹の目の前で破城槌の如き拳が通り過ぎ、巻き込んだ椅子を粉々に砕いた。
そして、その腕を見せつけるように拳を勇樹に付き付ける。
「グッフッフッ、この町で俺に逆らえる奴はいねぇ。何故なら腕っぷしの強さで俺に勝てる奴はどこにもいねぇからだ。この意味が分かるか?」
「つまり、ソースの二度付けは禁止。付けたい場合はキャベツで掬って付けろって事ですね解ります」
「何の話だァ!」
勇樹のおふざけでしかない返答に、咆哮に似た血管が千切れるレベルの怒鳴り声を上げながら殴り掛かる。
力任せで音の壁すら超えそうな速度の拳を、勇樹は背後から来た車でも避けるかのように横へ避けた。
その動きを見て、額に血管を浮き上がらせながら笑みを深める。
「やっぱりテメェ日和ってやがったな? ただのFランクが、そこまで動ける筈がねぇ」
「だって殴られたら痛いじゃないか! さっきだってギリギリで後ろに跳んで衝撃を和らげたのに、拳の風圧で吹っ飛ばされるとは思わなかったよ!」
「オラオラ! もっと俺を楽しませてみやがれ!」
鉄球のような拳が勇樹の頭上に雨のように降り注ぐ。
しかし、寧ろ怒りで雑になった拳など砲弾並みの威力を持たせた子供の駄々っ子パンチ同然で、避けるのは容易かった。
「おーにさんこちら、手の鳴る方へっ!」
「ウロチョロウロチョロと……虫か貴様! 叩き潰してやる!」
「カラスが鳴くからかーえろっ!」
掠っただけでも大怪我確定の拳の嵐の中を、勇樹は揺らめく煙の如くのらりくらりとふらついたような動きでギッドガルの猛攻を全て回避する。
そしてそのふざけきった動きが、更にギッドガルの怒りのボルテージを上げて行く。
「ヌガー! ちょこまかと鬱陶しい奴め、いい加減沈みやがれ!!」
「嫌だね!」
「ヌガァァァ!!」
怒りが最高潮に達したギッドガルは右腕を大きく振り上げた。
大振りになった隙に勇樹はポーチから小瓶を手に取ると、そのままギッドガルの顔へ向けて投げた。
小瓶はギッドガルの顔に当たると、中身の液体が飛び散ってギッドガルを濡らす。
直後に強烈な刺激臭がギッドガルの鼻腔を突いた。
「あ? こりゃ、酒か?」
「酒を蒸留して作った純正アルコールだ。目は散らないけどゴブリンでも卒倒するよ!」
「鬼人がこんな物で倒れるか! っとと?」
酒に強い鬼人でも粘膜に直接アルコールを掛けられて真面でいられる筈もなく、酔いが回って体勢を崩して思わず膝を突く。
体勢を崩したギッドガルの首、脇、太股に次々と手投げ矢が刺さった。
「あ? なんだこりゃ……」
刺さった手投げ矢を怪訝そうに見た途端、ギッドガルはゆっくりと前に倒れ込んだ。
ギッドガルが倒れて動かなくなった事を確認した勇樹は棍で2回ほど突き、反応がない事を見て大きく息を吐いた。
「はぁ~、流石は脳筋な鬼人族。薬が効くのも一苦労だったなぁ」
勇樹はそう言うとギッドガルの身体から手投げ矢を回収する。
この手投げ矢は密かに勇樹がモンスターを捕獲する為に用意した、熊でも数分で倒れる即効性の痺れ毒を仕込んだ毒矢である。
簡単に抜けない様に返しが付いている手投げ矢を少々強引に引き抜きながら、トドメに純アルコールの一升瓶一本分をギッドガルの口に注ぎ込んで、ついでに身体にも振り掛けた。
「さてと、これでいいかな? それじゃあ……」
冒険者協会の職員と冒険者たちは、建物を少し離れた所から窺っていた。
何しろ、ギッドガルの腕っぷしの強さと粗暴さは迷宮都市で知らない者は居らず、そんなギッドガルが暴れている所へ近づこうなどと考える者は一人もいなかった。
そうは言っても職員などは自分の仕事場がどうなっているかが気になるので、少し離れた所から様子を窺っていたが、少し前から破砕音が消えて静かになった事が気になっていた。
静かになったなら様子を見に行くべきかと話し合っていると、一人の冒険者が声を上げた。
「おい、なんか中で寝てるぞ! イビキも掻いてる!」
「な、なんだって!?」
その声に驚いた職員たちは慌てて窓へと駆け寄って中を覗き込んだ。
すると、建物内で顔を真っ赤にしたギッドガルが床に倒れて高イビキで寝ているのが見えた。
ギッドガルが暴れ回っていない事を確認した職員たちは急いで中へと駆け込み、被害状況を把握すべく館内を駆け回った。
そうして大勢の人間が出入りしている隙に、マントを頭から被った勇樹は人混みに紛れてその場を後にした。
その後、酔って暴れたと判断されたギッドガルは処分を受けて一定期間の冒険者証の使用停止となり、ギルド『迷宮の鬼神』にも重い処罰が下される事となったのはまた別のお話。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。




