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勇者は101人いる(旧版)  作者: 酔生夢死
6章 少年、迷宮を潜る

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10話 少年、奴隷の強かさを知る

(´‐ω‐`)眠気が取れず頭が回りません……

 ギッドガルの暴行をただの酔っぱらいが暴れたという風に偽装してきた勇樹は、冒険者の絡んでくるワンパターンさを考えながら、所詮は冒険者(チンピラ)にバリエーションを求めるのは酷だという答えに行き着いた所で宿へと戻ってきた。


「たっだいま~……って、何やってんの?」


「あ、ユーキお帰り」


「お、お帰りなさいませ。これは、その……」


「あ、ユーキ君。久しぶり~」


「ぐぬぬ……アリサよ! 早く手番を妾に回さぬか!」


「もうティナってば。ユーキさん、お邪魔しております……」


 勇樹が部屋に帰ると、そこにはいる筈のないアリサと自分たちの宿に戻っている筈のティアナたちが、フィーアとルシアも混ざりながらカードを広げて遊んでいた。

 ゲームに夢中になっている約一名以外が、勇樹が返って来た事に気が付いてゲームの手を止めて出迎える。


 フィーアにマントを脱がされながら、勇樹はエルクレアに居る筈のアリサに目を向ける。

 視線を向けられた事に気付いたアリサは、何かを誤魔化すような曖昧な笑みで返してきたので勇樹は率直に尋ねてみる事にした。


「……なんでアリサさんがここにいるの?」


「なによ。私はここに居ちゃけないって言うの? こんなに女の子が沢山いるのに」


「いやいや、問題はそこじゃないでしょう。教会のお仕事はどうしたんですか?」


「……あそこに私の居場所なんてないもん」


 その呟きで勇樹は全てを察した。

 つまり、これは前回の家出の続きであり、大方新しくやってきた新人とやらに自分の居場所を取られたと感じて逃げてきたのだろうと、勇樹は予想した。

 ルシアやティアナ達が居る手前で、これ以上は話せないと判断した勇樹はアリサの相手をフィーアに任せてもう片方の珍客に顔を向ける。


「うぐぅ……このままでは、また妾が最下位になってしまう。エルクレア王女として一回も勝てぬまま終わるワケには……」


「ちょっとティナ、ゲームは一体止めなさい」


「む? おお、勇樹か。戻っていたのか」


「こっちはこっちで物凄く馴染んでるね……」


 今頃になって勇樹が来た事に気付き、手を上げて暢気に声を掛ける。

 勇樹はティアナの手元にあるカードに視線を向けると、それに気付いたティアナが悪戯小僧のような笑みを浮かべながらカードを見せびらかす。


「ふっふっふっ、凄いだろう。これはフィーアが持って来た物だが“トランプ”というらしいぞ? カード遊びと言えば木を削り出した札しか知らなかったが、こんな上等な紙を使ったカードがあるとは知らなかった」


「あ~、うん。ソウナンデスカー」


 フィーアが奴隷だという事に気が付いていないティアナは、フィーアの持ち物イコール勇樹が与えた物だという等式に辿り着けない。

 ましてや今自慢げに見せている物が、勇樹がノームの里で歴代の召喚された勇者たちの持ち物を研究する為に複製されたまま倉庫で埃を被っていた品を、フィーアとアリサの暇潰し用に貰って来た物だとは露とも思っていなかった。


 すると、ゲームが中断してからずっと手持ちのカードとコイン代わりの堅果を手の中で弄びながら勇樹たちを黙って見ていたルシアが、徐に堅果の殻を割りながら口を開いた。


「姫はまだ気付いてなかったのか。フィーアはソイツの奴隷だぞ?」


 一瞬、ティアナは何を言われたのか理解できなかったが、内容を反芻して行く内に内容を理解してトランプで口元を隠しながら肩を揺らして笑い出した。


「ぷっくっくっ、面白い冗談だ。フィーアがコイツの奴隷? ルシアよ、幾ら妾が王女だと言っても奴隷が世間でどのように扱われているのかはそれなりに知っているつもりだぞ。自分の身内ならともかく、どこの世界に奴隷にこのような洒落た服を着せて連れ回る物好きな道楽者がおるのだ」


「少なくともここに一人いるな」


「物好き……」


 申し訳ない程度に口元だけ隠して大笑いするティアナと、ティアナの科白にニヤニヤ笑いながら指を差すルシアに挟まれて、勇樹はショックを受けた様に机に突っ伏した。


「だってそうであろう? 犯罪奴隷でもない限り、奴隷には自分を買い戻す権利が与えられているのだ。あんな物を与えてよっぽど主人に仕える理由でもなければ、金に換えられて奴隷商で奴隷解除の手続きをされて終わりだぞ」


「……ちなみに、奴隷が自分を買い取るのってどれくらいかかるの?」


「そ、それは……アンジュ!」


 苦し紛れにティアナから話を振られたアンジュは、軽く溜息を吐きながら話を続けた。


「大体の相場は奴隷を購入した時の金額の2倍程度と言われています。但し、殆どの奴隷は自分でお金を貯める機会が居ないので、自分で買い取れる奴隷は滅多にいません。大概の場合は主の合意の元、長く勤めあげた執事などが間際に褒美として開放する事があるくらいですね」


「2倍ですか」


 現在、勇樹はフィーアに毎月銀貨3枚のお小遣いを渡している。

 それとは別途に、買い物用にいつでも何に使って良いと大小取り混ぜて金貨10枚分(10万E)が入った財布も渡しているので、フィーアの購入金額が金貨3枚だった事を考えれば十分に自分を買い戻す事はできた。


 しかし、フィーアがそうしなかったのは彼女の生真面目な性格であった事と他に行き場のないハーフエルフだったからである。

 奴隷商で8年間も売れ残っていて鉱山行き寸前だったフィーアを嫌な顔一つも見せず買い取り、汚屋敷と化していた自宅を全て任せられた事に一生懸命になっていたので、そもそも仕事を放りだして逃げ出そうという考えすら起きていなかった。


 アンジュの話を聞いた思った以上に穴だらけな奴隷の扱いに、今以上にフィーアにも何か身を守る術が必要だと考えた勇樹は、アリサの相手をしていたフィーアを呼び寄せた。


「フィーア、ちょっといい?」


「あ、はい。何でしょう」


「フィーアって確か属性魔法は使えたよね?」


「は、はい……精霊魔法は使えませんが属性魔法ならそれなりに」


「よし、それだったら……えーっと」


 フィーアからの返答を聞きながら、勇樹はポーチに手を入れて中を漁り出した。

 ヤカン、金槌、湯呑、六角ナット、何かの鉱石などをテーブルに並べて最後に細かな装飾が刻まれた指輪を取り出した。


「あった、あった。とりあえず、いつか自分で使おうと思ってた指輪型の魔法媒体を渡して置くね。ただし、コレがあるからと言っても自分で戦おうとか思っちゃダメだよ? 魔力のロスを減らしてくれる物ではあるけど、消費するのは変わりないんだから」


「はぁ、その、何でこのような物をわたしに?」


「ほら、何かの拍子にフィーアの傍に僕やルシアが傍に居ない時に、自分でも動けるように? 空に思いっきり魔法を撃ち上げてくれれば合図にもなるしね」


 勇樹はそう言いながらフィーアに指輪を手渡す。

 突然そんな物を渡されたフィーアは少し困った笑顔でそれを受け取った。

 勇樹の行動にアンジュは大きく溜息を吐く。


「ユーキさん……余り言いたくはないですが奴隷にそんな高待遇を与えて、逃げられたらどうするおつもりなんですか?」


「フィーアに逃げられたら……とりあえず困るかなぁ」


「困るって……今、彼女に与えたそれだってマジックアイテムの類でしょう? そんな希少な物を持ち逃げされたらどうするんですか」


「え、こんなの手慰みに作った玩具だよ。魔力消費だって半分くらいしか抑えられないし、威力だって倍くらいが限界なんだよ?」


 まるで食玩のプラモデルでも作ったかのような何気ない科白に、アンジュは目を見開いて顔を真っ赤にして声を上げた。


「それが本当だったら国宝級ですよ! 話半分だとしても奴隷に与えていいマジックアイテムじゃありません!」


「これくらいで大袈裟な。師匠の所にはこれより凄いのが埃被ってゴロゴロしてたし、これはホントに材料が余ってたから、何気なく思い付いて作っただけのお遊びだよ」


「あ、でもこの指輪は凄いですね。魔力がスムーズに篭められます」


「そりゃあ、魔石を粉にして混ぜた特別製だからね! 魔力の伝導率が違うよ!」


「ああ、もう何なんですかこの人は……」


「あははは、ユーキは凄いな!」


 指輪の性能に驚くフィーアに、勇樹は自慢げに親指を立てる。

 それを見ていたアンジュは頭を抱え、ティアナは大きく笑っていた。


最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。

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