番外 はつは笑う
「最近、中山の人使いが荒い件」
菊が肉体から半分魂をはみ出させてだれている。「やめとけ、肉体と魂を離すと劣化速度が上がるんだぞ。せっかく美人なのに」と、言いたいところではあるが、こいつは最初から自分の肉体に愛着が無かったなと思いなおす。
「お菊、魂はみでてるから。ちょっとキモい」
みよが俺の心の声に毒を足して代わりに注意してくれる。咲は目線だけでキモいと言っている。俺はとりあえず出動時間ぎりぎりまで出ないであろう仲間のために茶を入れることにする。俺だけは菊に冷たい目線をくれてやるのは止しておこう。
「なぁ、はつよ。お前60年ほぼ男だったのに、その前遡ると何千年だ、男やってただろう。なんで手つきがそんなに女々しいんだよ!」
「俺はまだ結婚を諦めてはいない!!」
「大黒屋の倅はもう死んだだろうが!」
「俺だけボーナスが無いなんて認めない!!」
これは本音である。みよはカルシウム不足っぽいし、咲の目線が厳しい。でもめげない。ちゃんとこの「はつ」の姿に相応しく女として急須を傾ける。
思えばこいつらとの男4人逃亡劇、恵まれすぎていた。データ管理部元部長改め神子(笑)様は3日に1回攻撃を仕掛けに来たが、それ以外大豪遊だった。まず行く先々で馬とか台車を持った旅人が困ってるところに鉢合わせて最終的に乗せてもらい移動は楽だった。恐らく咲の加護だろう。次に道を聞いたり宿を聞いたりする度に、そいつが何者かに襲われた。これに冥界も神子も関連性は無い。それで変身するまでも無く片付けたら礼にと大量の食べ物を渡された。ついでに宿の飯うま率も高い。これは菊の加護だろう。最後にこの二人を見たみよが自棄っぱちで賭場に入る。賭場はつぶれた。散々稼いで気を良くしたみよは賭場荒らしとして有名人のスターダムを駆け上る。勿論これもみよの加護なのだろう。それであちらこちらに早足で訪れ、賭場を荒らし、うまい飯を食う、たまに見つけた容疑者に札を貼る、あと神子の部下とみよの追っ手を足止めする。はっきりいって派手すぎた。どうしようもなく目立つし、加護の力強すぎる。チートすぎた。そして思う。なんで俺だけボーナスがないんだ。
50年、50年ずっと思い続けてきた。俺のボーナスだけ何故ないのだ!!いつか仕事が終わったら絶対、俺もボーナス期間を設けてもらう。これだけみんなあほらしいほど効いてる加護をもらったのだ。有り得ないくらいの幸せ豪華詰め合わせセットな結婚ができるであろう。でなければ認めない!
俺はもうかなり昔から結婚に憧れている。生前、俺は役者だった。そりゃもう売れっ子の役者だった。売れすぎて興行主が結婚を許さないほどだった。そしてやっと許されたのは歳が30を越えてからだった。結婚詐欺にあった。美人局にあった。見知らぬ子どもが「お父さん!!」とやってきた。そして未婚のまま死を迎えた。冥界に来てからも何千年か役者だけをさせてもらっている。既婚の役もあった。泣きそうだった。何故なら相手役は俺のことを愛していなかったからだ。
俺は期待しているのだ。ただのシステム介入である加護であったとしても、世界に立てば本物なのだ。本物の愛情が欲しい。ちゃんとした結婚がしたい。平均寿命までだとか贅沢は言わない。ほんの少しでいいのだ。
「はつ、そろそろ出かけろって部長がいってる」
咲に声をかけられてふと我に返る。そういや、時間が迫ったお仕事があったな。いかねばならん。
「なぁ、はつ。俺らが向かう鬼里にいる伝衛門?あれ、多分お前の好みっぽい」
咲が閲覧書類を投げ渡してきた。彼女はにやりと笑う。俺もにやりと笑い返した。




