33.お光の葛藤
又吉に会えて良かった。
私の住まう鬼里にも又吉の指示の下、囲いができ、また術などを練習するための集会所が改築されました。彼は術具の腕がよく、あの消えない炎を燈す台座や瘴気を集める装置まで設置してくれました。私の教導する術と違い、道具と言うものは目に見えて改善され行く様がよくわかります。これはかなりここに住まう鬼人達の心を暖かなものにしてくれることでしょう。
「お光、一応設置できるものは全て作った。後は追々といったところか」
「苦労かけました。そちらの村への教導も明日よりはじめます」
「それこそ苦労をかけるな。せっかく会えたが拠点が離れているのは拙い。教導もそうだが必要なものも倍かかるし、鳩が飛ばせないのが一番痛い」
又吉は術具である炎の台座を見つめながら今後のことを話始めました。また連絡が取れるようにと瘴気に似せた伝書鳩を作ったのですが、前より瘴気が濃くなっているためかある程度の距離になると宙にとけてしまったのです。おかげでこうしてこの村の防備を固めなおす作業は、又吉にこちらで滞在してもらい毎日あちらの里からくる鬼人に伝言を持たせるということになっています。同じようにあちらの村に私が教導に行く間は、この村から鬼人が毎日術の鍛錬具合から近隣の様子などを伝えてもらうことになりそうです。
「鬼人たちが頼ってくれるのは嬉しいのですがね……これは良くない傾向だと思います」
「そうだな、もしも俺たちどちらかが死ぬことがあったら一体どうなってしまうのか」
彼らの成長は目覚しいものですが、私達ありきなのです。まるでいつかの自分達を見ているようでした。悟様。私たちは皆、悟様に頼り切っていました。悟様の代わりはいない、今もそう思います。けれども私たちはこうして次の希望を育てることができています。彼らは今のままでまた誰かを育てることができるのでしょうか。悟様もこのように私達をみていたのでしょうか。
「結局、私も彼らと変わらないのです。悟様なら、悟様がいてくれたらと思ってしまいます」
「お光、悟様ならどうなさるのかを考えよう。きっと至らぬものだろうが、彼らのためにできることはそれくらいだろう」
「そんな、恐れ多い」
「ではこのまま捨て置くのかい?俺はいやだ。俺を頼ってくれた鬼人たちを見捨てることなどできるはずもない。現実をみよう」
「現実です。現実でできぬことなのです」
「君が悟様をどれだけ思っているかは知っていたが。なぁ、お光。悟様がいらっしゃるかはわからない。他の仲間もだ。だけどな、今、ここにいるのは誰か考えて欲しい。俺とお前と鬼人たちだ。今すべきことは何だ?悟様がお光を見たとき、何をみればお喜びになられるだろうか」
又吉はじっと私の目をみつめます。彼の目には何が映っているのでしょうか。きっと私に見えぬ何かがあるのでしょう。そして私の目には悟様の幻影でしょうか。悟様を思い出すだけで無力になる私がいます。
「私には悟様が何をお喜びになるかわからない」
「誰よりも悟様を見ていたお光が?では鬼人はどうだ?俺はどうだ?何をしたらいいと思う?このままであるといつかまた人間が攻めてくるやもしれぬ。だから、だから何とかしたいのだ。まだ鬼人たちは簡単な術を使える程度だろう。神子が恐ろしいほどの術使いともきく。今何ができるのか考えなくては、きっときっと後悔する。あの時準備していればとな」
又吉は私の手を掴みます。酷く追い詰められた顔。私が思っているより深刻なのやも知れません。又吉は私を置いて、悟様のように、先をみている。私だけ、無力のまま。悟様。どうしてここにいてくださらないのでしょうか。私は悟様のようになど、そんなこと。
「神子……?」
「知らぬのか?神子は神が日ノ本に贈った神の子だ。恐らく、我々が戦わねばならぬ最悪の敵だろう。俺とお光が。鬼人ではなく、俺とお光が」
「お光様っ!」
捨様が走ってきます。
「又吉様、そろそろお帰りの時間です。今出なければあちらに着く頃には日が落ちきってしまいます」
「もうそんな時間か。捨といったか、お光は神子の話を知らぬようだ。明日俺の村に送るまでに聞かせてやってくれ」
「承知」
「お光、俺は鬼人のために考えるに、俺とお前が直接神子をやらねばならぬと思っている。明日よりの教導期待している」
又吉は帰路につくようです。明日もまた悟様や鬼人のことを聞かれるのでしょう。しっかりと答えられない私に。
「捨様、神子はそんなに強いのですか?」
「何人も傷つけられぬ至高の存在だと。神が使わした褒美であると。60年経てどもその麗しの姿は衰えぬとも」
「60年……。」
私達が最後にもつ記憶からずっと君臨している。これは本当に神の使いだろう。陰陽巫女のように。また神に陵辱される。守らなければ。育てなければ。悟様も、神に。許せない。許さない。悟様、私はあなたにお会いしたい。私はあなた無しでどうにかすることができぬのです。
難産。
要約すると「お光、悟病をこじらせる」




