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報酬は世界の半分  作者: 麦ちよこ
中山の本気編(改稿前)
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29.お光、またはじまりを

 この村は暗い。心も暗ければ建物も、そして畑も全てが暗いのです。いつだったか、悟様がおっしゃっていました。「陽の光を浴びれぬ生活は全てを闇に包んでしまう」と。妖怪は、望んで陽の光を避けているのではありません。人間が、神が妖怪たちを闇へ追い込んでいるのです。そして心までもが荒んでしまうのです。この村の鬼人たちも人から生まれたものなのに妖怪としてこの暗闇に軟禁されていました。鬼の心は暗い。人々から迫害されて陽の光を奪われ、なるべくして暗闇に落ちているのです。悟様が連れていた優しいけれど陰のある笑顔をされていた妖怪たちを思い出します。ここは仲間といたあの町に似ている。

 町並みを眺めながら私は捨様の後をついて行きます。この村はできて以来ひとりも人を入れたことがないそうで、倒れてはいたが鬼里を知ってしまった私を村長に知らせねばならないそうでした。私は村長の家に存在を明かしに行くと聞いたとき、ここから追い出されることを想像しました。最初の捨様の反応がそうだったからです。

 ここを追い出されてどこへ行けばいいというのか。60年知らぬうちに経っていたと言う事実が、そばに仲間がいないという事実が不安な気持ちを駆り立てます。きっともう、悟様はいない。そして仲間達と過ごした瘴気溢れるあの村も、もうない。60年、何があったのかわかりませんが一人でここにいるということはきっとすぐには会えぬと言う事なのでしょう。生きていかねば。どうにかして生きていかねば。また捨様にすがるしかないでしょう。60年経っても幼いままの私はきっと人間ではなく妖怪となってしまったのでしょう。どうにかここに置いてもらわなければ。



「捨様、(まなこ)に魔力をためる事はできますか」


「急にどうした。できはするがこれは鬼人たちの寿命を関知するもの。それを知ってどうする」


「私は普通の人ではありません。私をそれで見てください」


「これは。お光、お前は鬼なのか」


「いいえ、人でした。悟様に授かりました」


「また悟様か。これを知らせてどうしたい」


「この村においていただきたいのです。私がただの人でないことはお分かりいただけたと思います」


「俺の一存ではきめられん。人でないことは話してやろう。そこからはお前次第だ」




 暗く小さな村の真ん中にある小屋、そこに捨様について入ります。部屋は狭く、一人の老人だけがいることをすぐに確認できました。村長は私を一瞥した後、暗くそして怒りをこめて捨様に言葉を投げつけます。



「どうしてここに人間の子がおる」


「村の入り口に捨て置かれていたのです」


「ここがわからぬよう時間をかけて人里に返すように」


「村長、これは妖怪に憑かれたと捨てられた様子。そして、鬼以外の妖怪をしっている」


「でたらめであろう」



 村長の言葉は捨様と私の最初の問いかけと似たものでした。人間が怖い。生きるために排除しなければならない。妖怪は鬼人しかいない。迫害しかしない人間の代表のようでただ申し訳ない気持ちで身を小さくするしかありません。



「妖怪は、鬼人以外の妖怪は60年前消え失せた。神の御子様のお力によりもう瘴気から妖怪は生まれぬ。たった十にも満たぬ童が妖怪など知りえぬ。捨もみたことはなかろうぞ。何故おまえより若いこの童がみたと信ずるのか。お前はもう少し頭を使え」


「村長、俺も最初は疑った。しかし魔力をこの眼にこめてからもう一度考え直した」


「眼に魔力か。いいだろう、何に使えばよいかわからぬ魔力だ。つかってやろうではないか」



 鬼人は術を使えない。これは私の知る妖怪との大きな違いでした。魔力を持ち、魔力を感じることが出来るのに。彼らはその使い方を知らない。私は最初御使いに習った。そして悟様に師事を得た。鬼人は人間から生まれるもの。教えるものがいなかったのでしょう。



「魔力か、これは。人間であるのに魔力があるのか」


「これはその妖怪から授かったという。人に魔力があるものか。もらったというがそれもわからぬ。親が鬼だったのやも知れぬとも思った。しかし鬼人から人間が生まれるなどときいたことも無い。魔力がある人間なのだ。それだけでも人間なのかわからぬ。姿はいい。けれど親に捨てられる何かがあることはわかる」


「娘よ、その力はどこで得た」



 村長は恐れを含む目から驚きを含む目に変えて私をみました。魔力がある。巫女も私ももはや人間ではないのでしょう。捨様は言うべきことは果たしたのであとは己で何とかしろといいたげです。



「私は、私はサトリ妖怪の悟様に出会いました。神と絶縁したものであると。神との縁をなくした私が生きていくために必要なものであろうと瘴気を集めてそれを私に与えてくださいました」



 私は巫女であったことを隠しました。この村でそれをいうことに恐れを抱いたのです。



「人は瘴気に耐えられぬ」


「それは神の加護ゆえです。加護がない。神と絶縁したものには瘴気は毒にはなりませぬ」


「絶縁とは何だ」


「私は、神を裏切りました。そして神を否定した。それ故私は他の人と違い加護をなくしました」


「加護がないから瘴気に耐えられる。瘴気から魔力を得れる。では加護を得れればこの鬼の身も人になるとでも?」


「わかりません。人が何故加護を得ており、妖怪が加護をもらえぬのか、それが私にはわかりません」



 本当にわからなかったのだ。悟様は神の加護を得られないことを嘆いていた。そして、瘴気で苦しむ人々をみて、人々から加護という名の人を縛る鎖を解き放とうとなされていた。瘴気もまた妖怪の関知するものではなかったのだ。



「人から妖怪にはなれるが妖怪から人にはなれぬということか。娘よ、加護がない身に魔力が必要だとはどういうことだ」


「悟様は術を使えました。魔力を使い術を使うのです」


「古の妖怪が使ったという術か。術には魔力を使うと」


「眼に魔力を貯めるのは初歩的な術でした。これを術式というものにはめて陣というものを作ります。実演してみても宜しいでしょうか?」


「お前も術を使えると。いいだろう、見せてみよ」



 私は悟様のそばで大きな術を覚えました。しかしこの部屋は狭すぎる。小さな灯。御使いが教えた小さな灯を作ります。



「それが術か。なんとも面妖な。これは私達にも使えるのか」


「覚えれば可能だと思います」



 私はこの時、捨様と村長しか鬼人を知りませんでした。しかし鬼人が魔力を持っているということは術を使えるということ。これはきっと彼らの希望になる。悟様が術で神と戦ったように。そうです。私はまた神と戦うために生きている。きっと。だから私はここに、60年先ではあったけれど生きているのだと思います。



「村長、私の身の上をもう少々聞いていただけませんか」



 悟様と仲間のことを、そして神と人を。夢のような私の話を。そしてこの村からまたはじめるのです。悟様が描いた、妖怪と人が神に縛られずに幸せに生きる世界を。

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