第七話 十年前の僕
朝食を食べていて驚愕の事実を知った。
それは真実を二人に伝えた時だった。
「二人ともよく聞いて、僕はね……実は異世界から来たんだ」
「やっぱりそうだったんですね」エヴェリナの反応。
「そうかもしれないと思ってました」ベッテの反応。
「疑ったり驚いたりしないの?」
「はい」二人は声を揃えた。
「折の中で聞いたんです。異世界から来た奴隷が二人入ったって」
間違いない、教室にいたうちの誰かだ。桜井百合亜ちゃんと岡城景ちゃん――
「手続きもあるし、奴隷市場に行ってみようと思うけど、辛かったら残ってればいいよ」
「平気です。ついて行きます」
「あたしもご主人様のそばにいます」
「辛くなったら遠慮せず言ってね」
奴隷市場で小屋を訪ね、フードを目深に被り奴隷商人に会った。
「その二人頬のタトゥーは……」
奴隷商人は僕から距離をとった。
「ダーケス・ナイトに不可能はない。それより彼女たちを完全に解放してやりたい。何か手続きはあるか」
「はい、こちらで預かっている契約書を破棄させていただいたら、もう……あと、なんとかして国民証を手に入れられた方が」
意外といい人なのかも知れない。
「分かった。助言助かる。それで、異世界から来た珍しい奴隷がいるとか」
奴隷商人はさらに距離をとった。
「こればっかりは値切られては困ります。本当に珍しい品なので」
「約束する。パニッシュメントアイは決して使わない。ただ見せて欲しいんだ。ちなみに値はいくらだ?」
「はい、すぐにご案内いたします。ちなみに値は一千万ギル」
「一千万!」
「はい何分貴重な者ですし、王家にもいるとか。ですから表に出せばいくら値を付けても売れるでしょう」
確かに王様と同じ存在を所有していて、異世界の話が色々聞ける。上手くすれば商売にだって繋げることだって……
奴隷商人に付いていくと、頑丈そうな作りの倉庫のような場所に着いた。中から聞こえてくる声に、フードは決してとらないと決めさらに目深に被った。
ドアが開くと、聞くだけで不愉快になる声が聞こえた。担任の手古希打志多だ。
「こちらと、こちらです」
もう一人は根津牙命羅だ。
それにしてもたった一日二日で奴隷になるとか、何があったんだ。
「おい出しやがれ、ぶっ殺すぞ」
手古希が吠えていると、奴隷商人が手にしていた棒で檻を叩いた。
「あ、すいません、すいません、すいません」
なんなんだこいつ。それから、すいません、じゃなくて、すみませんだ。おまえ国語の教師だろうが。
「この調子ですから、まだ表に出せないんですよ」
「そこの方助けて下さい。お願いします」
いつも琢磨大怪獣にのかって威勢のいいことを言っているガメラも、この調子だ。
まあ、奴隷にされたら困惑するわな
それにしても二人で二千万。まず持ってないし、こいつらのために稼ぐ気にはなれない。
「調教にはどれくらい掛かりそうだ」二人と目を合わせないように気を付ける。
「そうですねぇ、あんまり乱暴にして傷物にもしたくありませんし、数ヶ月はかかるかと思いますが」
「予約しておくというのはどうだ」
「前金でそれなりの額を頂ければ、それに王家にいるという噂が広がれば、もっと値を付けられますので」
「なるほど分かった。これを渡しておく、旨いものでも食べさせてやってくれ」
財布から出した四枚のプラチナ硬貨を手渡した。
「はい、かしこまりました」
全額があいつらの胃袋に入るとも思えないが、せめてもの気遣いだ。
あいつらじゃなかったら、死に物狂いで稼いで自由にしてやろうと思うのだが、どうも気が乗らない。
王家の異世界人も気になる。王女は来ていいと言ってたのだから、会いに行ってみようか。
その前に国民証だ。僕も正式なのが欲しいし、お金があるうちにもらっておこう。
王国庁は城の建つ丘の横にあり、とても立派だった。入ると凜とした空気に包まれていて、身の引き締まる思いだ。
国民証の発行は一階だった。
エヴェリナは少し怯えていたので「僕が書けると思うから、質問に答えてくれればいいよ」そう伝えると、少し安心していた。
提出書類には、出身国、生年月日、名前、国民になる動機などで、あとは、マークシート形式で、職歴や資格の有無、犯罪歴などを選択してチェックすればいいだけだった。
まずは僕から提出した。出身国はジャポニカとしたところ、ジャポニカでございますか、と驚かれてしまい逆に動揺してしまった。ほんとあるんだジャポニカ。
で三百万ギル払いあとの二人分だと伝えた
「字の読み書きが出来るような練習帳はありませんか」
「話は出来ますか」
と訊かれたのではいと答えると、奥から三冊の本を出してきた。
「こちらはアッシリア王女殿下の発案で作られた練習帳で、よく出来ております」
アッシリアって本当にいい子なんだ。
「何か書くものと一緒に下さい」
エヴェリナの書類は聞きながら僕が書いて提出した。
練習帳をエヴェリナはとても喜んでくれた。コンプレックスって抱えてると辛いよね。
待ってると国民証が出来た。
免許証くらいの大きさで、記入したことはほとんど記載されていた。
それを僕が財布に入れると、二人も財布に入れ、何度もお辞儀をしてきた。
チャンスが到来したのはそんな時だった。
「あれ、名前なんて言うの?」
車みたいなヤツを指差した。
「フロータです」
「あれの二人乗りは?」
「スピーダです」
また問題が解決した。
「ちょっと寄りたいとこがあるんだ」
僕の提案でネコムスのとこに来た。
「ねえ、この子に三つ編みしてあげて欲しいんだけど、いくらならしてくれる?」
「うちの事金亡者かなにかと勘違いしてるだろ!」
「そうじゃないんだ、毎日とは言わないけど、チョイチョイやって貰うとしたら」
「ただでいいよ、そんなの」
ベッテの髪を三つ編みにしながら世間話をした。
「いくらくらい踏み倒したの?」
「入国禁止になるまで」
「じゃあ帰れないの?」
「まあね」
「耳と尻尾もとればいいじゃん」
「別に猫耳族が嫌な訳じゃないから、ただ今更恥ずかしいじゃん」
「でも、家族になんかあった時も帰れないんだ」
「それは寂しいよね」
「ぶっちゃけいくら」
「……一千万ギルくらい」
「それ払えばまた入国出来るの?」
「うん、はい出来たよ。よく似合ってる」
エヴェリナは三つ編みをしている間、熱心に見入っていた。
ベッテは尻尾を噛もうとしている犬みたいに、後ろで結んだ三つ編みを見ようとクルクル回ってる。
「マタタビ知ってる?」
「ああ、頭の悪い女だろ」
はあ。
「あの宿に泊まってるから、あそこの食堂でたまにおごるよ」
「マジ!」
「まともなもん食べてないんだ」
「金はもらえないけど、おごりは別だよ」
「今夜食べにおいでよ」
ネコムスは二つ返事で了承した。
一千万か、何か寂しそうだったよな。
帰路、エヴェリナの練習帳が入る鞄を買って、ご機嫌なベッテは三つ編みを揺らしながら前を歩いている。
明日は王家の転位者に会いに行ってみるか。




