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第六話 恐怖猫娘の秘密

 風呂上がりの二人はさらに可愛く、綺麗になっていた。

 何故かエヴェリナはベッテに髪をとかしてもらっていて、ベッテもそれなりに長く三つ編みにしたがっていたのだが、自分では出来ずエヴェリナも出来ないようで諦めていた。


 この二人を磨こう――


 服を買いに行くことにした。

 センスのいい衣料品店があったので、入ってみた。

「好きな服を選んでいいよ」

 とい言うと当然安価な衣類を持ってきた。

 店員を呼んで麻袋から一,二枚のプラチナ硬貨を取り出し渡した。

「二人の好きそうな……好きそうでセンスのいい服、何着か見繕ってくれる?」

 そりゃあもう張り切ってくれましたよ。


 試着室からアイラが出てきた。

 紺と白のボーダーのシャツに、ベージュのショートのオーバーオールを着ていた。街でよく見かける服装とは違い、ファッショナブルでおしゃれだった。足下は赤いパンプス仕立ての靴を履いていた。

 横に立つ店員を見ると、満面の笑みだった。

「値札を隠して本人に選ばせたんです。他もおしゃれですよ」


 次にエヴェリナが出てきた。

 赤い半袖のワンピース。襟は白。襟の下には謎の毛玉が二つ付いている。丈はパンツが見えないか? 位で日本のJCやJKでも敬遠しそうなくらい短い。足が長くて綺麗なのが救いか。大きなヒマワリの刺繍が胸と左裾辺りについている。

 極めつけは足下、黄色い長靴だ。つま先に目と口が描いてあり、何かの生き物を模しているのだろう。

 店員を見ると渋い顔をしていた。こっち特有のセンスという訳ではなさそうだ。

「値札を隠して本人に選ばせたんです。他も似たようなものです」

 エヴェリナは綺麗だよ、だからその致命的なセンスの悪さが余計目立つんだ。


「エヴェリナはそう言うのが好きなの?」

「はいっ、可愛いですよね」

「二人ともよく似合ってるよ」

 エヴェリナとベッテ、服を取り替えてもいいんじゃないのか?


 会計を済ませ店を出た。

「お財布は使われないんですか」

 両手に荷物を抱えたエヴェリナが訊いてきた。

 財布?

 異世界では麻袋と相場は決まっているものだと思っていたが、確かに財布があった方が便利だ。


「どこで買える?」


 しばらく歩くと、こちらでも、と露天に案内してくれた。

 容量の大きい実用性のある長財布を選び二人にも選ばせた。

「わたしたちは必用ありません」

 エヴェリナの言葉にベッテは激しく首を縦に振った。

「選ぶだけ選んでみて、センスが見たいんだ」


「あたしはこれが可愛いと思います」

 ベッテは首から提げる大きなガマ口財布を選んだ。想像すると確かに可愛い。

「身体が小さいから肩から斜めにかけなきゃね」

 小さな両掌で口を押さえて、キャッキャッと笑った。


「エヴェリナは?」

「わたしはこれがいいと思います」

 ベッテの選んだ財布の色違いだ。

「自分の好きなのでいい、センスが見たいんだよね」

「はい、これがいいと思います」

 よく見ると、ヒマワリが刺繍してあった。この人本気だわ。


 三つ財布を買うと二人に渡した。

 恐縮したが、押し付けるように渡すと、満面の笑みで、エヴェリナは首から提げ、ベッテは肩から提げた。


 宿に帰り食事をとることにした。異世界発の食事だ。


 食堂に入ると、もう誰も二人を奴隷だと思う者はいない。


「二人とも好きなもの頼んで」

「お任せします」エヴェリナは俯く。

 任されても料理とかドリンク分からないし……

「ベッテ何食べたい?」

「何でも食べます」ベッテも俯く。

 二人とも自分が奴隷だということを、意識しているんだな。

 僕は財布からそこそこの金額のお金を出して、二つに分けると二人の前に差し出した。

「財布の中に入れといて、あげるよ」

 二人は顔を上げて驚いた。

「服や財布まで買ってもらって、刺青もとってもらったのに、こんなものまで……」

「頼むからもらって」面倒くさくなってきたので、少々語気が強くなった。

 二人は無言で財布の中にお金を入れた。

 奴隷契約書を取り出し、スッピリットナイフで何枚にも刻んで見せた。

 スピリットナイフ、スゲー切れ味。

「明日、奴隷商人の所に行って、他に破棄の手続きがあれば済ませるよ。これで自由だ。好きな所に行っていいよ」

 何故か二人は悲しそうな顔をした。

「どうした? お金が足りない」

「いえ、そうじゃありません。自由にして頂いたとしても、いずれかの国の国民証が無ければ、また捕まってしまいます」

「じゃあその手続きもしよう。どこで出来る?」

「王国庁で……ただ、わたしたち奴隷にされた者は、元々の国民証を焼かれてしまっているので、手数料が……」

「いくら?」

「百万ギル」

「それも払うよ」

「どうしても破棄しなきゃダメですか」

 ベッテが口を挟んできた。

「なんで?」

「あたしはご主人様と一緒にいたいです」

「……」

「行くところもありません」

「お家は?」

「口減らしで……売られました。身体も弱かったですし。ご主人様と一緒にいたいです」

 ベッテは涙を浮かべながら、懇願してきた。

「エヴェリナはどうする」

「私はご主人様を十年待ち続けました」

「奴隷商人は十日前にって……」

「捕まったのが十日前です。それまでは山や森で、盗賊や奴隷狩りに見つからないように、逃げ回って暮らしてました。言い付け通り剣の稽古をしながら」


 だから、服のセンスが十歳で止まってる感じなんだ


「十年逃げ回ってたの? 誰の言い付けで」

「えっ、やっぱり覚えてなかったのですね。わたしは十年前ご主人様、ダーケス・ナイト、ウルカ・フジノキ様とお会いしております。そして、森に身を隠し強くなるよう鍛錬しろと……」

「それはノリとかじゃなくて」


 と言うか、すぐ別れるつもりでいたから、うるかとは名乗ったけど、苗字は名乗ってないんだ。契約書を見たとしても、読み書きは出来ないって言ってたし……


「確かにご主人様、ウルカ様です。背中に何か今のカバンとは違う物を背負っており、立派なフェンリルをお連れになっていました」


 いやー、フェンリルなんて飼ってないし飼う予定も無いし、背中にはリュックしか背負ってないし、背負う予定も無いんだけど、そもそも、今日来たばかりで、十年前と言われても、覚えてる訳ないよね。


「間違いありません。命の恩人ですから」

「どこの話?」

「私の産まれた村です。国境近くの小さな村で、残念ながらアルザーヌ辺境伯様にも見放され、今はもうありません」


 よく分からないけど、まあいいか。


「でも、奴隷じゃないからご主人様って呼ぶ必要も無いし、いつでも好きなとこへ行っていいからね」

「じゃあ、付いて行ってもいいんですね、ご主人様」

「あー、ん、いいよ」

 二人は出逢って一番の笑顔を見せてくれた。


 注文しようと店員を呼んだ。

「ご注文はお決まりですかニャン」

 きたー、耳も動いてる、尻尾も動いてる。ネコムスは何だったんだ。


「おすすめの料理を適当に、あと、彼女には料理に合うお酒と、この子にはソフトドリンク。僕もこの子と同じ物を」

「ちょっと待つニャン。お客様はいくつだニャン。もうすぐ二十歳だから……」

「違うニャン、おまえだニャン」

「僕? 十六だけど」

「十六にもなって男がソフトドリンクニャン。心臓止まるかと思ったニャン」

「いくつから呑めるの?」

「十二だニャン、貴族が社交界で呑む機会があるから、そう言う決まりになってるニャン」

「ご主人様はお酒を呑んだことがないのでしょうか」

「う、うん」訊いてきたエヴェリナに答えた。

「では、りんごのスパークリングワイン。アプレーゼが呑みやすくていいかと」

 山に籠もってた割によく知ってるな。

「じゃあ、それで」

「分かったニャン、すぐお持ちしますニャン」

「よく知ってるんだ。飲み物のこと」

「食べ物も多少は、冬は食料が獲れないので、下山して働かせてもらってたのですが、捕まるのが怖くて厨房での洗い物などをしてました。その時に」

「大変だったんだね」と、レオタード姿のうさ耳ウエイトレスを見ていた。

「信じておりました。十年後また会おう、っていうご主人様の言葉を、だから平気でした」


 何なんだろう十年前の僕って。もう一人の僕がこの世界にいる?

 まあいいか。今を楽しもう。


 サラダにパン、フライドチキンにスペアリブ。他にも色々出てきたが、どれも口に合う物ばかりで、食材もゲテモノ関連ではなかった。他の人たちを見ていると、フォーク、ナイフに箸も使っていた。

 不思議な文化形態だ。


 食事が終盤になると猫耳がやって来て、親指と人差し指で丸を作った。

「会計ならフロントにまとめて払ってるんだけど」

「困るニャー、チップだニャー」

「ああ、ごめんごめん。どれくらいが相場?」

「気持ちだニャン」猫耳はウインクをしてきた。

 そうは言われても。とりあえず三人だし千ギルを渡した。

 激しく揺れる尻尾を見て安心した。

「こんなにいいのかニャン」

「うん、ただ、ちょっと訊かせて欲しい事がある」

「何でも訊くニャン」

「まず名前」

「マタタビニャン。ちょっと男っぽいけど気に入ってるニャン」

 マタタビは男っぽい響きなのか。


「その耳どんなふうに聞こえるの?」

「どうもこうも普通だニャン」

「いや、四つあるからエコーしないのかなとか」

「二つしか無いニャン」

 マタタビが猫耳をとると、それはカチューシャだった。は?

「とれるのそれ」

「とれるニャン」尻尾も抜いた。

「でも動いてたよね」

「邪獣っていう害獣の一種から採れる燃石を利用して作られてるニャン。脳波に反応して動くニャン」

「僕が付けたら気分に合わせて動く?」

「動かないニャン。猫耳族しか反応しないニャン」

「付けなきゃ普通の人間と変わらないんだ」

「駄目ニャン。国から監視員が派遣されていて、見つかったら罰金とられるニャン。あと、語尾にニャンを付けなくても罰金ニャン」

「……」

 何か大切な物を無くした気がした。

「今日、耳も尻尾も動かない、語尾にニャンも付けない猫耳族見たけど」

「不良だニャン。相当な悪だニャン。耳と尻尾は充電切れだニャン。それも罰金対象だニャン。もしかして、ネコムスじゃないかニャン」

「ああ、ネコムス」

「あいつは相当な悪だニャン。多額の罰金踏み倒してるニャン。反社会的猫耳族だニャン」


 色々と為になる話を聞いてしまった……


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