第八話 いざ謁見の間へ
丘を囲むように立派な城壁が巡らされている。
その周りをさらに、深く広く掘られた濠が水を湛えていた。
大きな跳ね橋が降りていた。
城壁に設けられた立派な門扉の左右に、甲冑を着た兵士と僕のような軽装にコートを羽織った兵士が、それぞれ二人ずつ立っていた。
兵士と分かるのは腰に剣を差しているからだ。
反対の腰には……ラップの芯ほどの太さをした筒にグリップの付いた、恐らく銃の類いだろうものを提げている。
腰回りには、銃弾と思われるものが数発ベルトに付いていた。
四人がこちらを睨むのも当然。
フル武装の怪しい服を着た少年。年端もいかない女の子。ヒマワリの刺繍の付いた、ミニのワンピースを着た女性。
昨日は盛り上がった。一人増えただけで結構違うもんだね。
ネコムスとマタタビは喧嘩ばかりしてたけど、実は仲良しってパターンだ。
エヴェリナに勧めてもらったお酒アプレーゼも美味しくて、飲み過ぎてしまいました。
で、早く来ようと思ってたのですが、昼過ぎになってしまったのでした。
強烈な視線に晒されながら、跳ね橋を毅然として渡り兵士の一人に声を掛けた。
「我はウルカ・フジノキと言う。アッシ――」
「これはウルカ・フジノキ様。アッシリア第二王女殿下をお救い下さり、ありがとうございました」
ん? これは?
兵士たちの動きがにわかに慌ただしくなる。
「どうぞ、こちらへ」
兵士の一人に付いて行くと、馬車っぽい形のフロータが用意されていた。
ドアを開けて頂いちゃって、乗り込みました。
向かい合わせの席で三人とも目が泳ぎました。
すごく静かで乗り心地は抜群。
曲がりくねった坂道をスイスイ登っていくと、多分お城の正面玄関的な所についたので降りてみた。
何とアッシリアが小走りで向かってくるじゃありませんか。
「お待ちしておりました」
待ってた感の演技、一万点。
「来て下さって本当に嬉しいです」
「いや、ここに異世界人がいると聞いた。是非あってみたいと思ってな」
「是非、その前にお礼を」
「えー、お父さんやお母さんお兄ちゃんたちはいたりする?」
アッシリアだけなら速攻お礼を受け取ろう。
「陛下や殿下はおりますが、王妃は……」
あれ? お亡くなりになったとか?
「申し訳なかった。余計なことを訊いたようだ。何かあったのだな」
「……デーモンシックはご存じでしょうか」
「デーモンシック?」
「いわゆる悪魔憑きです。光明神殿教会、純黒聖堂会、共に力を尽くしてくれたのですが、払えず……」
「多いんですか? デーモンシックに掛かっている人」
「王都で数人といったところでしょうか。全国だともっと多いのでしょうが、患っている者が貴族や富豪の婦人やお嬢様ばかりで、王都を始め大きな都市に集中しております」
「お辛いんでしょうか」
「教会や聖堂会の話だと、うなされている間中意識の中で悪魔に拷問を受けているのだとか」
「よくうなされるんですか」
「食事時、以外はずっと」
「じゃあ、食事の時は目を覚まされるんですね」
「いえ、栄養失調にならないように、無理矢理食道に流し込むんです。悪魔も宿主に死なれては困るので、一日に数回大人しくなりますが……それ以外はずっと……もがき苦しむので、ベッドに縛り付けています」
アッシリアはいつの間にか涙を流して、ついには号泣してしまった。
どうしていいか分からず、抱きしめちゃった――
はい、不敬罪確定。これだから童貞は。アニメの見過ぎなんだよね。
でもちょっと気になるから、ミザリアさんに訊いてみよう。
『デーモンシックって知ってますか?』
『もちろんでございます、我が主。悪魔憑きでございますね』
『払えますか? 僕でも』
『我が主出来ないことなどございません』
『僕に出来るんですね。簡単ですか』
『現実世界ではせいぜい数分。でございますが、夢の中、つまり悪魔が見ている夢に入り込むのですが、そこでは数日になります。つまり、儀式は数分、我が主にとっては数日』
『その数日間何すればいいんですか』
『悪魔共と戦い続けるのでございます。そして出口に向かうのです』
『ミザリアさん、付いてきてくれますか』
『申し訳ございません。わたくしめは橋渡しをしなければならないため、お供出来ません。でございますから、ガブラをお使いくださいませ』
『ガブラは付いて来てくれるんですね』
『もちろんでございます。本来ならわたくしめがお供を……』
『いや、ありがとうございます。詳細はまたその都度お願い致します』
アッシリアは僕の胸で鳴いている。桃園第二高校一年四組じゃああり得ないよ。
王女が僕の胸で――いやいや。
「アッシリア、今からお母さんを治しに行こう」
「え?」泣きはらした目で僕を見た。
「イズスに誓おう、我が必ずや治してみせる。そして数分後おまえたちは笑顔で抱き合っていることだろう。さあ、連れて行ってくれ」
国王と七人の王子、四人の王女が目の前にいる。
ここが噂の謁見の間だ。
「我が国で国民は王の前に跪くことをしない。無礼があれば跪くが」
王子共が罵声を浴びせる中、国王は懐の大きさを見せてくれた。
「構わん。ここでそなたが跪けば、そなたの国の王に対し非礼にあたる」
「しかし今は我がローゼンヴェリーの国民」
第何王子か知らんが余計なことを言う。
「だとしてもだ、おまえはヌードルを箸で食べるな」
「当然です。そのほうが食べやすいですから」
「貴族を訪ねヌードルが出た際フォークを出されたら、箸を出せと言うのか」
「あるのであれば出せばいいでしょう」
「フォークが出てきたということは、その一族の習慣。にもかかわらず自分習慣なぞ押し付け箸を出せなどと言えば、これだから王家は、と影で罵られるであろう」
一休さんバリのとんちの効いた返し。さすがは国王陛下。跪こうかな。
「それにこの者は王女を助け褒美はいらんと言い、次は王妃を……」
そんなに病状が酷いのか、国王が声を詰まらせるなんて。
「王妃を救ってくれると言うのだ」
「それですが、教会や聖堂会に出来なかったことをこの男に出来るとは」
これは第何王子だ。
「それに今の王妃陛下を人に会わせるのは」
こいつは腹違いっぽいな。顔立ちからしてアッシリアと全然違うし。
左の掌を顔の前で広げ、右手を真横にかざした。
「教会だか聖堂会だか知らんが、我はその者たちより優れている。そして会わねば治せるものも治せん」
両手を掲げ、床に叩き付けるように振り下ろした。
「黙って悪魔を祓わせろ!」




