第三十四話 大型ボイド破壊作戦
純黒大聖堂のイズス像の前に立つと、僕だけなんか真っ暗闇に飛ばされたんだ。
目の前には漆黒のイズスがいる。
闇の中に漆黒、見えるはず無いのに、なぜかそこにイズスがいるって分かるんだ。
不思議な感覚だった。ついてる真っ黒なモニターと消えてるモニターの違い? みたいな。
で、この窮地に突然イズスがクイズごっこを始めちゃったよ。
「おまえはアナグラムが好きだったな」
「好き? でも無いけど、やりがち」
「わたしの名はイズス。アナグラムにすると?」
「スズイ、スイズ、ズイス、ズスイ……」
「もういい! イリスの時といいなんで?」
イズスが突然キレるし。
「イスズ!」
「へー本当の名前はイスズって言うんだ」
「じゃなくて、イスズって聞いてピンとこない?」
「伊勢神宮の五十鈴川……」
「違う! イスズ、五十鈴有栖」
「イスズアリス? 分からない」
「幼なじみの五十鈴有栖よ」
「よく被ってた五十鈴有栖? なんで」
「事情はややこしいからまた今度話すけど、よく聞いてみんなを助ける方法」
「おまえ魔法陣出てなかったろう」
「だ、か、ら、ややこしいから今度話すって言ってんじゃん。とにかくよく聞いて」
五十鈴が言うには巫女ギュードゥルを連れて、光明神殿に行けとの事。
そこで聖女ベルナットにオーダー零零が発動したと言えばいいと……
気が付くと石像の間にいた。
五十鈴の件が非常に気になるが、光明神殿に行きオーダー零零が発動したと聖女ベルナットに伝えたところ、酷く狼狽したが、付いてこい、との事だったので、みんなで後に続いた。
いくつも厳重に閉じられた扉をくぐり、地下へと進むと頑丈そうなドアに暗証番号を打ち込んで、自動ドアを開いた。
壁面は機械で埋め尽くされ中はまさにSFの世界だった。
「ここは?」
「神殿が建つ前よりあった、わたしたちもよくは知らない施設です。わたしたち聖女は一部のオーダーを、口伝で引き継いでいるだけなのです」
聖女はそう答えた。
「皆様そこへお立ちください。巫女ギュードゥルはこれを、帰ってくる時に必要になります」
聖女は巫女にトランシーバーのようなものを渡した。
僕たちが指示された場所に立つと、聖女は機械を操作し始めた。
「ウルカ様は中央へ」
僕は天井から三角錐のぶら下がる真下に立った。
「お供をしたいところなのですが、わたしはこちら側で機械の操作をし続けなければなりません。巫女ギュードゥルあとはお願いします」
そう言うと聖女は大きなレバーを引いた。
光りに包まれた瞬間、気が付けば僕たちは草原に立っていた。
「こちらでございます。あとは指輪の案内に従うだけでございます」
巫女ギュードゥルは人差し指にはまった指輪を見せた。
しばらく行くと山間に小さな村があった。火の手が上がっているようだ。
「みんなは村へ気を付けて、僕は村の周りを巡回してから村に入る」
ミザリアさんをみんなに同行させた。
うっとりしている洋子さん以外は、ドン引きすると言う通常の反応を見せてくれた。
僕はスティーヌと共に村の周囲から探索する事にした。
村の火災は遠目にも勢いがあるものと分かった。
「数は少ないですがボイドでございますね」
スティーヌが村を見ていった。
「シードブリーダーの気配もします。何者かが意図的に放ったのでは」
「何のために」
「このような村を襲って得があるとは思えません。実験的に放ったのでしょう」
歩きながら話す。
スティーヌは千年の齢を生きている設定だ。ミザリアさんほどじゃないにしても、博識で頭が切れる。
歩き続けると大きな木の陰で、丸くなる少女がいた。
「心配するな怪しいものでは無い。貴様の名は」
「……エヴェリナです」
近づくと赤いワンピースに大きなヒマワリの刺繍。
間違いない、エヴェリナだ。
……十年前に、僕たちは来たのか?
ボイドが一体ノコノコと現れた。
錯乱したように叫ぶエヴェリナに言って上げた。
「我が名はウルカ・フジノキ、真のダーケス・ナイトだ」
背中のアサルトライフルを抜き、ズタズタに撃ち乱しグレネードで吹き飛ばした。
歩み寄ると涙に濡れた顔を上げた。
面影がある。エヴェリナだ。
きっと家族を亡くし、恐怖しながら逃げてきたのだろう。
でも、生きてくれている。
僕はエヴェリナを強く抱きしめた。
「生きてくれていてありがとう」
エヴェリナは声を上げて泣きじゃくり、僕にしがみ付いた。
僕の目尻からも涙がこぼれる。
小さな耳元でささやいた。
「山に隠れ、剣の腕を磨けそして強くなれ、盗賊や奴隷商には見つかるな、十年後、必ず迎えに行く。だから鍛錬して安心して待っていろ」
エヴェリナが僕の顔を見た。
「迎えに来てくれるのですか」
「約束する。何があろうとも、必ず迎えに行く。そして家族のように暮らそう」
山に入っていくエヴェリナを見届けると、村を周回して村内に入って行った。
ボイドは全て片付いていた。
巫女ギュードゥルの案内で進むと城塞が見えた。
「ダンク・フォン・アルザーヌ辺境伯の城塞でございます。指輪は東側地下を指しております」
城塞への侵入は東側城壁を、二人ずつスティーヌで飛び越えた。
スティーヌは痛いからとミザリアさんを乗せるのを嫌がったが、時間も掛けていられないので我慢してもらう事にした。
そのまま城内に侵入し指輪の示すまま、地下へと進む。
いくつかの扉があったが、スティーヌの体当たりで難なく突破出来た。
分厚い頑丈な扉があり、これは体当たりでは無理だった。
グレネードを使えば確実に見つかってしまう。
琢磨と根津、入江がここは任せろというので、スティーヌを残して僕と洋子先輩、巫女ギュードゥル、ミザリアさんで先に進む事にして、グレネードで扉を吹き飛ばした。
中に入るとミザリアさんが、ライトのスイッチを入れた。
僕たちは戦慄を覚えた。
硝子容器に入った人間のような形、邪獣のような形、昆虫のような形、それらを合わせたような形をした、体表を走る血管の状のパイプに深紅の身体、黒い縞模様、ボイドとしか形容出来ないものがいくつもあった。
「何なんだ――」
「ケイ素生命体、シリコン生命体、つまりアンドロイドです。我が主が邪慾のネクロノミコンに書き記したものに酷似しているかと」
ミザリアさんが僕に答えた。
そんな中、異質なものを発見した。
「これは?」
「少女のようですね」
半円筒形を寝かせた中に少女が入っていた。
さらわれて来て実験にでも使われたのだろうか。
ベッテと同じくらいか、少し幼いくらいだ。
開けようとしても開かない。
異形のボイド同様液体に浸かっている。
「琢磨くんたちが戦っている。今は急ごう」
洋子先輩が声を掛けてきた。
「ミザリアさん。この少女だけでも爆発から守る事は出来ませんか」
ミザリアさんが手をかざすと少女の身体が光りに包まれた。
「どれだけのエネルギーにもちこたえられるかは分かりませんが、全力をつくしました」
「ありがとうございます」
最後にもう一度少女の顔を覗き込んだ。
少女の瞳がゆっくりと開く。
「お兄ちゃん?」
硝子越しに声が聞こえた。
「迎えに来てくれたの?」
十歳のエヴェリナの顔が浮かぶ。
拳を握り、ごめんと、言って先を急いだ。
さらに頑丈そうな扉があった。
グレネードを連射して破壊すると、円筒形の身体をしたボイドが現れた。
「こいつだ、小さいが間違いないこいつだ」
洋子先輩の顔が憎しみで歪んだ。
「ミザリアさんみんなをバリアー的なもので守れますか」
「範囲防御なら可能です」
「スティーヌ! 全員を連れて戻ってこい!」
ほどなくスティーヌは全員を連れて戻って来た。
「全員わたしに近づいてください」
スティーヌはいやいやミザリアさんに近づいた。
手袋を外すとガブラを呼び出した。
背後から兵士が追ってくる中、放った。
「メガ・インフィニティーバーン」
巨大な火球が円筒形のボイドはもちろん、城の半分を吹き飛ばした。
ミザリアさんがバリアを張った周辺、僕たちの立つ場所以外は巨大な穴が開いた。
見上げると土埃の隙間から、空が垣間見えた。
草原に戻ると、ギュードゥルはトランシーバーのような機械のスイッチを押した。
光りに包まれたと思ったら、一面機械の部屋に戻っていた。
僕と洋子先輩はスティーヌに乗り、外苑城壁正門まで急いだ。
見えてくると王子たちがスピーダに乗り、何か演説をしている。
「あれがそもそもの始まりだ」
僕たちが到着して正門から出ようとすると、第一王子の第一声がこうだ。
「貴様! 待ち合わせはどうした!」
無視して門を開けよとすると第二王子がすごんだ。
「勝手をするな、わたしたちの指揮下に入れ!」
「我は誰の指図も受けん、誰の言葉にも従わん、誰の指揮下にも入らん。我は我の言葉にのみ従う」
ガブラで門を破壊した。
「みんな行け! 王都を守れ」
僕の横を駆け抜ける、エヴェリナ、ベッテ、百合亜ちゃん、景ちゃん。
自然と涙が滲む。
ミザリアさんを召喚して、スティーヌと共に前線に出てもらった。
僕と洋子先輩は城壁に上がり、大きなボイドを確認した。
「いない、いないぞ。デカい奴がいない」
洋子先輩は僕に抱きつくと、すぐさま前線に出た。
僕は集まった兵士たちに言った。
「おまえたちの使命は王子の機嫌を取る事か、王都の財産、そして民の命を守る事か」
一人、また一人、一部隊、また一部隊と門を抜けていく。
「貴様ら! わたしは第一王子だぞ!」
後方で声がした。
「皆、わたくしはアッシリア。王子により幽閉されていて遅くなり申し訳ございません。国王陛下より正式に指揮を執るよう、仰せつかりました」
アッシリアは剣を掲げると、スピーダを進めた。
「全員前進!」
みんなアッシリアに続いた。
幽閉って……
僕はボイドの群れを睨んだ。
「煉獄より来たりし番人よ、熱き慟哭の咆哮で彼の者どもを食らい尽くし、己が運命を後悔させよ」
手を振りかざすと、「ギガ・インフィニティーバーン」
ボイドは吹き飛び破壊され灼熱に炎上した。
ギガ・インフィニティーバーン数発も放てば、ボイドは数えるほどになった。
振り向くと、王子たちは姿を消していた。
国王に大目玉を食らう事だろう。
前線に赴き、ゴッドブレイカーで応戦した。
全員で負傷者の手当てをして回った。
全てが終わるとみんなを抱きしめ、涙を流した。
この涙の意味を知るのは、ここには洋子先輩しかいない。




