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第三十五話 帝国の侵攻

 うるかやアッシリアが勝利の喜びを味わえたのも束の間。

 アッシリアの元へよくない知らせが届いた。


 ローゼンヴェリー王国南方より、隣国ハバールス帝国が侵攻を開始したというのだ。

 現在、貴族が王城に集まり作戦会議をしているところだ。


 うるかは少し考え、アッシリアの両肩を掴むとこう言った。

「作戦ならもう立ててある、アポレアス平原で迎え撃つ、一人の犠牲者も出さずにこの戦を終わらせて見せる。信じられない者はそのまま作戦会議を続ければいい、自分は時間が惜しいから、動ける兵を連れてこの足でアポレアス平原に向かう、と」

 心配そうなアッシリアを抱きしめた。

「大丈夫、僕が必ず成し遂げる。信じて」


 アッシリアは全ての兵をアポレアス平原へと向けた。


 王城では難しい選択に迫られていた。

 いくら女神のお墨付きとは言え、あまりにである。

 兵力も決まらず、何の作戦も無い、遮蔽物もろくに無い平原で、軍事強国であるハバールス帝国とやり合うのである。


 しかし、乗っかって成功すれば、地位は盤石のものとなる。


 わたしにアポレアスに向かわせてください。

 手を上げる一人の伯爵に視線が集まった。

 少しの間を置いてまた手が上がった。

 その先は競りのようなものであった。

 あとは私兵の数比べだった。


 王子たちは拳を握り奥歯を鳴らした。



「我らもこの機に乗じるぞ」

 ダンク・フォン・アルザーヌは甲冑を着込みハバールス帝国軍との合流を待った。

 そこへ砲撃が来たのだ。

フロータ・タンクの砲弾が雨のように降ってきた。

その後は長時間にわたり集中砲火が続き、ダンク・フォン・アルザーヌは城塞ごと消えた。



 うるかたちは一足先にアポレアス平原に着いた。

 ミザリアを呼び出して、敵の犠牲を最小限度にとどめたい旨を伝えた。

「敵の編成にもよりますが、なるべく心がけます」

 うるかは手袋を外しガブラを用意する。

 頼むぞガブラ。

「はは、お任せを我が主」

 スティーヌを呼び出してみんなの前に待機させた。

「みんなを任せたぞスティーヌ」

「はい、我が主」

「エヴェリナ、悪いがアッシリアたちが到着したら、ここから五キロ後方に陣を張るように言って欲しい。スティーヌと行くといい。作戦は、と訊かれたら、誰も犠牲の出ない作戦だと答えておけばいい、と」

「はい分かりましたご主人様」



 アッシリアが到着し陣を張ると、しばらくしてポツリ、ポツリ、と貴族が私兵を連れて集まり始めた。


 スティーヌが鼻を鳴らし立ち上がる。

「現在六十キロくらい先まで来ているかと」

「ミザリアさん?」

「十キロ進んだらまいりましょう。スティーヌお願いしますね」

 スティーヌはそっぽを向いて返事をした。


「我が主、あれから十キロ進行しました」

「百キロ四方に声を響かせたい、いや、ハバールス帝国まで轟かせたい」

「我が口をお使いくださいませ」

 スティーヌは大きく口を開けた。

 うるかの声は増幅され、スティーヌの口から出て、まるで天から降り注ぐように聞こえるのだ。


 左腕の包帯をほどいた。

 すると燃え立つ炎のようなたタトゥーが現れた。

「ミザリアさんお願いします」

 ミザリアはうるかの左腕をバズーカ砲でも持つように構え、角度や向きを調整すると小さく頷いた。

「これでよろしいかと」

「我を恐れよ、我が神髄を目に焼き付けよ、これこそが真のダーケス・ナイトの力」

 暗雲垂れ込める空から声が響く。

 敵兵の歩みも自ずと遅くなる。

 自軍の兵たちも空を見上げた。

「これこそが真の断罪、スーパーノヴァ!」

 ガブラは口から黒いパチンコ玉くらいの球を発射した。


 数秒後、黒い球が着弾すると半径二十キロが大爆発を起こし、その先は熱風そして爆風が吹き荒れた。フロータ・タンクは舞い上がり吹き飛ばされ、敵軍兵士もどんどん飛ばされていった。

 その爆風は自軍のテントも揺らし、場合によっては飛ばしてしまうほどだった。

 巨大なキノコ雲を目の当たりにしたガイア人たちは、恐れおののいた。

 キノコ雲は摩擦熱でプラズマ反応を起こし、稲光、雷を放ちながら空へと育っていく。

 熱風は周囲の森も焼いた。

 あとには巨大なクレーター状の穴が開いていた。


 その後わずかながら降った黒い雨が、さらに恐怖を煽った。

 もちろん放射能は含まれてはいない。


 これを見て撤退の判断をしない指揮官はいなかった。


「ガブラもう一発だ。ミザリアさん今度はさらに慎重に」


 ミザリアは幾度も微調整を繰り返す。

「スティーヌ目を貸してください」

 スティーヌは無言でミザリアの横に少し距離を置いて立つと、脳波をリンクさせた。

 卓越した視力がミザリアの物になる。

 さらに微調整を加えるとミザリアはうるかに大丈夫だと答えた。

 ガブラは二射目を放った。



 天からうるかの口上が聞こえて数十秒後、帝都城壁付近の無人の森に、スーパーノヴァが着弾した。


 森は消滅し城壁は破壊され、巨大なキノコ雲が不気味に上がった。


 それを見たマティアス皇帝は腰を抜かし、階段から転げ落ちた。

 負傷者は出たものの死者は一人も出なかった。


「おい、いつかあんなのとも戦わされんのか」

 人形遣いケン・ジョーは目を丸くした。

「出ようぜこの国、やべーよ」

 人形遣いイーズは身震いする。

「大丈夫かな、放射能とか」

 二人は顔を見合わせた。



 唖然としていたアッシリアは気を取り直した。

「犠牲者は一人も出ませんでした」

 チラホラ始まった拍手はやがて喝采となった。


 ボイドを撃退し、その直後ハバールス帝国軍を撃退したアッシリアそしてうるかは、王都のみならず国中で大人気だった。


 当然貴族の中にはうるかを危険視する者もいた。だからこそアッシリアにしっかり手綱を握ってもらう必要がある、そう考える者が多数であった。



 屋敷で夕食をとりながら、百合亜がふと言いだした。

「他のみんなどうしてるのかな」

「我聞と久瑠実どこにいんだろうね」

 入江の箸が止まる

「仲間捜しを第一のミッションにしようか」

 うるかがそう言うとみんな笑顔で食事を再開した。



 瀟洒(しょうしゃ)な作りの内装だった。

 派手さはないが上品な作りの椅子に大魔王ダールビョルは座っていた。

 大魔王の名にふさわしい風格はある。

 その前には魔王バルデマール、と四天王が集まっていた。

「人類の進行はありそうか」

「今すぐではないもののいずれは」

 四天王の一人アブソリアーナが大魔王の前に跪く。

「ダールビョル様の威厳が落ちたのでは」

 バルデマールの言葉に、クククと小さく笑う声がする。

「バルデマール様、無礼が過ぎます」

「よい、アブソリアーナ。では少し威厳を取り戻すとしよう」

 ダールビョルがその場で手を握ると、バルデマールが首を押さえて突然苦しみだした。

 そのまま手を上げると、バルデマールの身体が宙に浮く。

「おまえたち、これでわたしも少しは威厳が取り戻せたか」

 残りの四天王も跪く。

 アブソリアーナは口元が緩む。


 バルデマールの身体を壁に打ち付けると、泡を吹いて失神した。



うるかたちが食後のティータイムを楽しんでいると、ドアを叩く音がした。


「僕が出るよ」


 うるかがドアを開けると、少女が立っていた。

 ダンク・フォン・アルザーヌの城で、半円筒形の容器に入っていた少女だ。

 しかしあれは十年前。目の前の少女はあの時のままだ。

 転送する時に着いて来た?

 そんなはずは無い。みんなで確認し合った。

 じゃあなぜ。


「お兄ちゃんを探してた。ずっと十年」

「僕を何で?」

「忘れた」

「でも……十年前から成長してないよね」


「だってボイドだもん。ボイドオリジン」



 女神の降臨・完


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