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第三十三話 悲劇

 うるかはアムルス貝の指輪に古代パブリス文字を描くのに集中していた。


 そこへ沓沢と台場がやって来た。

 対応に出たのは百合亜と景だ。

「本人と直接話したいんだ」

「だから手が離せないって言ってるでしょう」

「話ならわたしたちが聞こう」

「いや、本人じゃ無いと駄目なんだよ」

「しつこいなあ、じゃあ出直して来い」

 景は台場にイラついた。


 こんなやり取りが三十分ほど続いてる。

 まともに食事を取っていない沓沢と台場は、必死だ。


 だが結局、百合亜と景に追い返された。



 うるかは完成した指輪、大いなる天と大地の癒やし、をエヴェリナたち五人に渡し、真言を覚えさせた。

 五人はこれでうるかの負担が減ると、喜んだ。



 沓沢と台場が飲食店の前で腹をさすっていると、ご馳走しよう、と声を掛けられた。

「君たちの服装、異世界人だね」

 がっつく二人に、円錐形のフードを被った白装束の男が訊いてきた。

 頷くと、ウルカ・フジノキを知っているか尋ねられた。

 一瞬顔を歪め、知っていると答えると、男は切り出した。

「わたしの部下三人がヤツに酷い目に遭わされてね、何としても敵を取ってやりたいんだ」

 二人の箸が止まった。

 男は光明神殿教会のブライテス・ナイト・アジルと名乗った。

 簡単に強くなれる方法があるのだが、共に戦ってくれないか、と言う。

 報酬を聞くと目玉が飛びだすほどの額だった。ただし、成功報酬でうるかを無力化する事が条件らしい。

「殺してしまって構わないのですか」

 などと威勢のいい事を沓沢は言う。

「依頼者に、やり過ぎましたと笑っておけばいい。君たちがやらなくても、わたしがやるけどね」


 アジルは声を上げて笑った。



 ハバールス帝国のマティアス皇帝の前に二人の男が跪いていた。

 一人は小太りで一人はヒョロリとしていた。

「人形遣いのケン・ジョーと申します」

 小太りの男が頭を下げた。

「同じく人形遣いのイーズと申します」

 ヒョロリとした男も頭を下げた。

「この者たち面白い芸を持っております」

 二人を皇帝に紹介した男だ。

「皇帝にお見せしろ」


 立つ事を許可してもらい指を回すと、肩に乗っていた小さな人形が飛び回った。

 羽織っていたマントを広げると、体中に張り付いていた小さな人形も飛び回り始めた。

「この人形ども様々な攻撃手段も持っております」

 皇帝は手を叩いて喜んだ。

「素晴らしい、おまえたち、しばらく城に滞在するがよい。ダーケス・ナイト対策にも使えそうだ。貴様には褒美をやろう」


 二人を紹介した男は胸に手を当てて、腰を折った。



 ダンク・フォン・アルザーヌが実験室から出てくると、部下が彼の額に浮かぶ汗を拭った。

「出来栄えはいかがでしょうか」

「付け焼き刃にしては上出来だ。まあ、しょせんは試作品、長くは持たんがこれだけの数がいれば流石のダーケス・ナイトも、ひとたまりも無かろう」


「例のものの運び出しは順調か」

「はい、滞りなく」

「ボイドも出し惜しみはせぬ。全て投入だ」

「はい、かしこまりました」


 部下はダンク・フォン・アルザーヌを見送ると、実験室に戻って行った。



 うるかの元に一通の封書が届いた。

 第一王子からだった。ある場所へ来るようにと書かれていた。


「間違いなく本物か?」

「サインもしてあるし印章も押してある」

 洋子に訊かれうるかは確認した。


 うるかは所定の時間に指示された場所に行ってみた。

 うるかを取り囲むように、ブライテス・ナイトが一人、白いマントに身を包んだ者が五人、うるかが手足をアサルトライフル、ゴッドブレイカーで撃ち抜いた奴らだ。

 黒いマントで身を包んだ者が三人、やはりエヴェリナと洋子が手足を切り落とした連中だ。

 以上九人だが、白装束の男二人にうるかは驚いた。


「おまえたち何してる」

「黙れ!」

 台場は憎しみに顔を歪めた。

「君は僕たちが正義を遂行しようとしていたのを、邪魔したんだ」

 沓沢は真剣な眼差しだ。

「正義って……約束一つ守れないくせに」

「うるさい!」

 沓沢は子供のように叫んだ。

「まあいいじゃないか、わたしはアジル、ブライテス・ナイトだ、この三人の上官でね、黙っておく分けにはいかないんだよ」

 アジルはうるかが倒した三人を掌で指した。

「王子は協力的だったよ。貴様を殺すためだと言ったら率先して、偽の書状を書いてくれた」

「イリスが許すと思うか」

「構わんさ、イリス様に憎まれてもいいだけの金を手に出来るんだ」

「結局金と嫉妬、逆恨み……か。よかろう我が相手をしてやる、かかってくるがよい」

 うるかは神速を使った、が、全員動きについてきていた。

 かろうじて白装束の男一人の首を落とす事で精一杯だった。


 アジルがブライテス・ナイトの装束をを脱いだ。


 首から下は深紅に黒い縞模様。ボイドと同じ色だ。

「おまえたち……」

「貴様に勝ち目は無いよ」

 全員が抜剣すると斬り掛かって来た。

 うるかは捌くが精々だ。



 家の前が騒がしいので百合亜が出てみると、ボイドの大群が出たと言う。

 中には巨大ボイドもいるのだとか。

 全員、外苑城壁前に向かった。


 数は前回をしのぐ。

 全員で出て広域攻撃を掛けようとすると、背後から声が掛かった。

「待て、ここはわたしたちの指揮の下動け」

 第一王子を中心に、左右を第二王子、第三王子が固めていた。

「まずは全ての兵よ整列せよ」

「そんな悠長な時間は無いわたしたちだけでも出してくれ」

「黙れ!」

 第二王子が洋子を一喝した。

 その時、高エネルギーのレイザーが太い光りとなり、城壁を貫き街の家々を焼き尽くしていった。

 王都内はパニックに陥った。

 さらにもう一発、王子たちの頭上をかすめレイザーは街を焼き払った。

「撤退だ、撤退だーっ!」

 王子たちは叫びながら逃げていった。


 レイザーは次から次へと発射され、城壁は形をなしていなかった。

 次のレイザーが照射されれば多くの家屋が焼かれる。


 エヴェリナたちはその前に立ち、ミスリルシールドでレイザーを受けた。

 直撃は回避出来たものの、熱線と圧力に押され、エヴェリナ、ベッテ、百合亜、景は気を失った。


 洋子は崩れた城門から侵入してくるボイドに、銃と刀で応戦した。


 大口径レイザーは王城をも破壊し始めた。



 うるかはミザリアとスティーヌを召喚し、応戦した。

 ミザリアは音速を超える速さで踏み込み、敵の腹に穴を空け高温の炎で焼き尽くした。

 スティーヌは敵の頭に噛みつくと、雷撃を食らわせながら顔を半分に食い千切った。

 うるかはアサルトライフルに持ち替え、脚に銃弾を食らわせ動きを止めると、グレネードで吹き飛ばした。

 形勢は逆転し残るはアジルと沓沢、台場だけになった。

「待て、話し合おう。足止めさえ出来ればよかったんだ。だからこの辺で終わりにようじゃないか」

 うるかは全ての銃弾をアジルの胴体に浴びせた。

「聞いてなかったのかい、もう戦う意味は無いんだよ」

 リロードして沓沢と台場の胴体にも銃弾を撃ち込んだ。


 三人は何かしゃべっている。死んでは無さそうだ。

 ミザリアに戻ってもらい、スティーヌに轟音のする方へと向かってもらった。



 国王の元に三人の王子が帰って来た。

「陛下城を捨てて逃げましょう」

 レイザー攻撃に揺れる城内で第一王子はそう進言した。

「貴様らは現場で指揮を執るのでは無いのか!」

「いえ、それはアッシリアが――」

 国王は窓の外、遠方のフォロヴィジョンを指した。

「わたしが、国民が見てないとでも思っているのか! この恥知らずが!」

「……」

 三人の王子は黙って俯いた。

「アッシリアはどこだ!」

「それでしたら、わたしたちに心当たりが、呼んでまいります」

「心当たりの場所を言え」

「……」

「首を切り落とすぞ!」

 もちろん脅しだが、それくらい怒っているのは事実だ。

「部屋におりますので呼んでまいります」

 国王は自らアッシリアの部屋に向かう。

 国王を抜いて走る三人に、違和感を抱いたため、兵に

「あの者たちより先にアッシリアの部屋に行け」

 と命じた。


 兵がドアを開けると他の王子たちにより、椅子に縛られたアッシリアの姿があった。



 うるかは現場に駆けつけ、涙を流しながら、大いなる天と大地の癒やし、をかけたがボイドに踏み荒らされ、血に塗れた身体から再び心音がする事は無かった。

 もっと遊んでおけば、もっと美味しいものを食べさせてあげたかった。

 僕と出会いさえしなければ……

 エヴェリナとベッテの身体を抱きしめた。


 洋子がうるかの覆い被さる。

 頭上をレイザーがかすめた。

「しっかりしろ、気持ちは分かる。わたしも辛い。だが、今はやるべき事があるだろう」


 うるかは洋子の顔を見た。滝のように涙が流れた。

 洋子はしっかりとうるかを抱きしめた。

 うるかは洋子の背中にしがみ付いた。そしてひとしきり泣く。


「わたしの名前は十六夜恋歌、この世を救う女剣士だ。君は誰だ」


「僕は……我は真のダーケス・ナイト。世界の救世主にして絶対正義!」


 うるかは立ち上がった――その瞬間、頭の中に声が響いた。


「純黒大聖堂に来るのです。皆を救う道はあります。十六夜恋歌と共に皆を救うのです」


 うるかは洋子を見た。

「まだ、みんなを救えるかも知れない」

「ほんとか、信じていいんだな」

「我を信じずして誰を信じる」

 二人は駆け出した。

 途中、琢磨たちがこちらに向かっていた。

 皆が気になったらしい。事情を話すと、付いていくと言う。

 何をするのかどんな危険があるのかも分からない、それでも行きたいという。


 当然うるかは付いて来てもらう事にした。


 ボイドを退治しながら道を切り開き、純黒大聖堂に向かった。


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