第三十話 うるかくん公開裁判
罵声、罵倒、罵詈雑言。
王子とクラースは好き勝って言ってくれている。
だが、こんな事で心折れる僕じゃ無い。
伊達に二年間、中二病を患ってきた訳じゃ無いんだよ。
「もうそのへんにしておけ! 貴様らも純黒大聖堂で見た断罪を忘れたわけじゃないだろう」
「おまえが――」
「そのへんにしておけ」王様の口開く。「ウルカ・フジノキを糾弾するために呼んだのではない、どのようにしてこの情報を手に入れたかを教えてもらうためだ」
さすがはパパ、もしイズスに断罪されたらとか考えたのだろうな。
「国王陛下」
クラースは僕を睨んだまま、国王も見ずに発言しやがった。
「この者とイズスがグルになって国を貶めよとしているのかも知れません」
謁見の間がざわめいた。そりゃ当然。
「いいかげんせよ」
「いえ、国を思えばこそ、言わせてもらっているのです」
僕ちょっとカチーン。
「我はよい。我はよいが我が友イズスを呼び捨てにし、世に生きる者のため、日々恩恵を与え続けている女神に対してその侮辱は許せん」
「許せなかったらどうする。皆の前で剣を抜くか」
ほんとむかつく。
「どうすれば、国を守る女神だと信じる」
「呼べ、ここへ呼べ。イズスをここへ呼んで見せろ」
「おまえ如きのためにか」
「クラース不遜が過ぎるぞ」国王も流石に怒るわ。
「ローゼンヴェリー王国のためです。呼べ。わたし如きのために呼んで見せろ」
「呼んで見せろ」
「おまえたちいい加減にしろ!」
王子に国王は一喝する。親心だね。
で、どうするの。
「呼べ、この野郎、呼んで見せろこのクズが、呼べるもんなら呼んで見せろ」
手古希なんでそんな空気が抜けた声なんだ。そして、恨みがあるのはこっちなんだが。
まあ、仕方ない。ハッタリで行くか。ワンチャン来てくれるかもだし。
「どうなっても知らんぞ。これから起こることは貴様らが招いたことだ」
さあ、開いた掌を天井にかざしてと、シャンデリアが綺麗だな。
「女神よ降臨せよ」
この異常なまでのどよめき、そして腰を抜かすクラース、跪く国王たち。
来た? 来た? 来てくれたの? イズスが来てくれたの?
左右の耳から「我が友よ」と聞き覚えのある声。
? 左右? イズスが二人いる?
「これで満足か、首を落とす準備は出来たか」
クラースは土下座して床に張り付いた。
漆黒の人型が僕の横を通り過ぎ、クラースの頭を踏みつけた。
「天界よりわざわざ貴様如きのために下りて来てやったぞ。わたしはどんな悪さを企んでいる」
「申し訳ございませんでした」
「申し訳ないではすむまい。断罪出来ん、顔をあげよ」
「本当に申し訳ございませんでした」
「貴様は愛しのアッシリアをうるかに取られ、その腹いせをしていただけ、何を大仰に国のためなどと語っておる。貴様は神の裁きすら受けるにあたいせん。国王よこの男は即刻斬首にせよ」
「はい、仰せのままに」
「おまえたちにこの国を継ぐだけの力はあるのか?」
イズスに顔を向けられた王子たちはあからさまに震えている。
「予言を残していきましょう」
反対側から声がするんですけど。
純白の光る人の形をしたものが、僕の横を通り過ぎて行った。
イズスによく似ていて、シルエットだけで綺麗な人だろうなと分かる。
「次の王にはアッシリアがふさわしいでしょう。王都が危機に瀕している時、逃げる王子など誰が認めましょうか。そんな時こそ国民に勇猛な背中を見せずして、いつ見せましょうか。王になってからでは出来ないのです。別に他の者でも構いません。ただ、国が滅ぶだけですから」
さらっと怖いことを。
「国王も頭の中では選択肢にあるのでしょうが、女王の誕生よりも、婚約者の問題ですね」
そうかアッシリアの年齢なら婚約者がいてもおかしくない、て言うかいない方がおかしいよな。
「どのような形でも破棄して、アッシリア玉座に付けねばこの国は、滅びます」
光る人物は反対を向いた。
「王族派も貴族派も誰を担ごうが勝手です。ただ、もう一度予言、いや断言しましょう。アッシリア以外が玉座に着けば、確実にこの国は滅びます。それに王配ならここいいます。立派な王配が」
え? は? ほっぺツンツンされても意味分からないんですけど。
「我は剣、この国この世界の、そしておまえたちの敵、魔族でさえも危機と感じたなら救うつもりだ」
「我らも本望」
二人ハモったし。
「従って王の器……王の椅子に納まるつもりはないと言うことだ」
「今はそれでいいでしょう。ですが、どこで何がどう変わるか、分かりません」
いや分からないのは、その発言の意味なんだけど。
イズスが後方に向かって歩いた。
手古希を見るチャンス。
振り向くと、見るも無残すぎる手古希が張り付いていた。
「立て、異世界人」
手古希は床に張り付いて微動だにしない。
「首輪を取ってやろうと言うのだ。さあ立て」
「ほんとでございますか」
「ああ本当だ」
恐る恐る立ち上がる手古希にイズスが掌をかざすと、首輪が取れた。
「あああ、ありがとうございます」
「女神からおまえにふさわしい贈り物をしてやろうか?」
「は、はいっ」
浅ましく両手を差し出す手古希にイズスが再び掌をかざすと、手古希の身体は光り輝いた。
光りが納まると、髪が抜け落ちた頭には、フランケンシュタインのようなボルトが何本も刺さり、首には先程より分厚く背の高い鋼鉄製と思われるコルセットがはめられ、卑しく差し出された両手首には、やはり鋼鉄製と思われる大きなブロックが取り付けられており、両足首にも同じ物が一つずつあった。
服は消え全裸になっており、身体を何本もの鎖が貫きその先には拳大の重しがぶら下がっていた。
手古希は全裸の自分に気付き、ポークビッツを手で隠すと、重さでその場に座り込んだ。
「日本での、この世界に来てからの、己の罪を悔いよ。そうすればその罰は消えるだろう」
ミザリアさん見たら羨ましがるだろうな。
イズスは踵を返しこちらに歩いてきた。
二人は僕の前に立つと、この世界を頼む、と口を揃えた。
光る女性は付け加えた。
「あなたを襲った三人組はわたしの信徒です」
「わたしの信徒?」
「光明神殿教です。一度いらして下さい」
そう言うと二人は消えていった。
二人が消えたら分かるのか、一人また一人と立ち上がった。
「申し訳ないことをしたな」
国王は眉を下げた。
「いや構わん。それを返してもらえるか」
宰相を介して邪慾のネクロノミコン第一集を手にした。
ん、王族、貴族の間で、僕の存在感はさらに増すことだろう。
「では、これで失礼する。クラースよ次会う時はあの世だな。いや、天と地で出会えぬかも知れんな」
可愛そうなクラースを残して、ああ、あと手古希も残して立ち去った。
家に入ろうとすると背後から声を掛けられた。
アブソリアーナだ。
「王都内にボイドが出現する」
口調が変わっているが四天王だもんね、今後も踏まえて威厳を保たなきゃね。
「いつだ」
「遅くなって申し訳ないと思うが……明日だ。明日の正午頃。場所は女神広場、噴水市場とも呼ばれているのか。だが、十割とは言いがたい。八、九割としておこう」
「充分だ。感謝する」
「健闘を祈る」
ダイニングですぐに作戦会議を開いた。
エヴェリナと洋子先輩は早めに女神広場に行き、怪しい男を監視。行動に移ればあとを追う。
百合亜ちゃん、景ちゃん、ベッテはスピーダで巡回。
「ボイドの始末は僕にまかせて、琢磨くんたちも気を付けてね」
翌日、エヴェリナと洋子先輩のミニスカコンビは早々に出発した。
百合亜ちゃんたちも巡回範囲が広いからと、朝食を済ませると出発した。
僕は邪慾のネクロノミコンの保管場所を吟味していたら、わりといい時間になっていたので、出発した。
間の悪いことに出口で、沓沢と台場が両手両足を広げ人間バリケードを作っていた。
「悪い時間が無いんだ」
「奇遇だね」こっちも時間が無いんだよね」
と台場。
「王都が危険なんだよ」
「こっちは生活がかかっているんだ」
僕は沓沢の言葉に項垂れた。
「次元が違うだろ、人命が掛かってるんだ」
「治療する。そう言えば通してやる」
「その話はもう済んでるだろうが」
「僕たちの中では済んでいないんだよ」
腕時計に目を落とす。
モーターの回転数を上げ無理矢理通ろうとすると、沓沢はキーを抜いた。
「おい頼む嫌がらせは止めてくれ」
「嫌がらせしているのはどっちだい」
こいつの頭の中はどうなってるんだ?
「みんなの前で約束したろ」
「事情が変わったんだよ」
「じゃあ、みんなの前で釈明しろ、今はとにかく通せ」
「治療すると言え」
仕方ないから発動した。
「疾風よりも早く、鐘の音が一万尺へ届かん前にたどり着け、駆けろ神速」
そのまま十秒以内で走れるだけ走った。
あとは汗に塗れながらひたすら走った。
随分走った。すでに広場では悲鳴が上がってた。
アサルトライフル・ゴッドブレイカーを抜きながら、人波をかき分けて広場の中へと進んでいく。
少女の頭上にボイドの爪が振り下ろされた。
構えたライフルで、爪を撃ち壊す。
少女の鼻先を腕だけが通り過ぎた。
安堵しながら少女に駆け寄ると、半分ずつ手にしたクッキーを大切そうに抱えていた。
救えてよかったと、胸が温かくなり屋台が建て替えられるだけの硬貨を叩き付け、クッキーで満たした瓶を二人にあげた。
「ありがとうございます。ダーケス・ナイト様」
姉妹の少女はお辞儀をした。
自分がダーケス・ナイトでよかったと、初めて思った。
広場の外では、ダーケス・ナイト、の大合唱だ。
四体全てのボイドを倒すと、大いなる天と大地の癒やし、を掛けて回った。
腹に穴の開いた肉屋の主人はギリギリ間に合った。
若いお母さんと小さな少年が走ってきて「ありがとうございます」と言っていた。
雑貨屋の前の若い夫婦は残念ながら間に合わなかった。恐らく即死だろう。
他も治療して回ったが、残念ながら六人が助からなかった。
みんなに任せておけ、と言ってこれか。
自分を責めながら帰っていると、沓沢と台場が詰め寄ってきた。
「擦りむいたじゃないか、責任を取ってもらうぞ」
沓沢は白くなったヒジを指す。
「擦りむいた……おまえたちが邪魔をしなければ全員助けられた。あと五分、あと五分早く着ければ……」
「そんなことより責任とれ!」
「そんなこと? 六人死んだ事をそんなこと?」
悪党や盗賊ならこういう感情にはならないんだろうな。
「何を言っているのかまるで分からないよ」
先程から僕を責めるように流れニュースを映し出す、浮かぶスクリーンを指した。
「噴水市場にボイドが出現し、ダーケス・ナイトが駆けつけ撃破するも六名が死亡」
「おまえたちが邪魔をしなければ間に合ったんだ!」
ついに怒りが爆発してしまった。
力を入れるなと言い聞かせ左拳で、二人の顎を殴った。
沓沢の手から飛んだスピーダのキーを拾うと、家に帰った。
ダイニングで頭を抱えていると、エヴェリナと洋子先輩が帰ってきて報告してくれた。
追い詰めたところで、突然死んだのだとか。仕込んであった毒でも飲んだのだろう。
落ち込んでいる理由を話したところ、二人は優しく慰めてくれた。
その後、帰ってくるみんなの優しさが心に染みる。
琢磨たちはフォロヴィジョンのニュースで察したらしく、沢山の箸巻きを容器に詰めて持って帰って来てくれた。
沓沢と台場がノックもせず乗り込んで来た。
「おい顎の骨が砕けたぞ、治せ! そして治療費代わりに僕たちの言う通りにしろ! 僕たちは暴力を振るわれたんだ、みんなもこいつは僕たちに協力するべきだと思うだろう」
「顎が砕けてたらそんなペラペラ喋れるか!」
「ぶっ殺すぞてえめぇ」
琢磨と根津が音を立てて席を立った。
「ちょ、ちょっと待てくれ、二人は当時の状況を知らないだろう」
「状況なら聞いたわ」
百合亜ちゃんは沓沢を睨む。
「君たちが六人を殺したという事だ」
景ちゃんが声を震わせる。
「意味が分からないんだ」
「教えてやろう」洋子先輩は低い声で続けた。「女神広場にボイドが出るとの情報を得た。そこへ急ぐうるかくんの邪魔を君たちがしたせいで、助かるはずの六人分命が失われたと言う事だ」
「つまりあなたたちが六人を殺したんです」
エヴェリナが珍しく語気を荒げた。
「いや、僕たちは殺してないよ」
「君たちが殺したんだよ間違いなくね。スピーダのキーを奪ってなかったら確実に間に合ってた。」
入江も腹立たしげだ。
「スピーダのキーを奪ったのは沓沢さ」
「待ち伏せしようと言いだしたのは台場だろう」
二人は醜い言い合いをして、言い訳をしながら琢磨たちに追い出された。
眠る事の許されない、気の重い一夜を送る事になりそうだ……




