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第二十三話 マヨネーズだけはダメ

 みんなでお城に行った。

 琢磨と入江の決断を聞くためだ。


 庭にある屋根の付いた丸いお茶するとこに、琢磨と入江を呼び出したら、なぜか台場も付いて来た。


「琢磨くん入江くん、決まった?」

 訊くと台場がしゃしゃり出てきた。

「百合亜大丈夫だったか、先日とても危険なことしていたじゃないか」

「今日はうるか君が琢磨くんと入江くんに話があって来たの」

 百合亜ちゃんナイスカウンター。

「何かあったら沓沢に――」

「沓沢くんは全く関係ない」

 ほんと台場は自己中だよな。

「台場くん話進めるね。琢磨くん入江くんどう?」

「決心した、って言うか。出来てた」

 琢磨が答えると、入江は目を閉じて頷いた。

「出て行く。今日、今からおまえたちと一緒に」

「えっ!」

 琢磨の力強い言葉に台場は驚いていた。

 こいつらコミュニケーションとれてない? と言うか台場ハブられてる?

「入江くんも?」

「ああ、色々とお世話になった方々に謝罪と感謝を伝え、国王陛下にも挨拶を済ませてある」

「おまえたちが来なかったとしても、出て行くつもりだったんだ」

 琢磨と入江の覚悟が伝わる。

「陛下は何かしてくれた?」

「こんな俺たちに国民証発行してくれて、銀貨四枚くれた」

 琢磨は多分勘違いしてる。

「国民証発行してもらうのって高いんでしょ」

「百万」

 琢磨と入江は顔を見合わせた。

「銀貨ってこれ?」

 プラチナ硬貨を見せると二人は頷いた。

「一枚五十万、つまり二百万くれたんだ、生活費の足しに。こっちの通貨単位はギル。一ギル約一円弱だから、二人の門出に合計三百万円以上の出費を惜しまなかったわけだよ」

 二人の瞳が滲んだ。王家を利用してやろうという浅ましさを悔やんでいるんだろう。

「じゃあわたしも出ていくよ」

「挨拶済んでねぇだろう」

 身勝手な台場に琢磨が言った。

「それに前回藤之木くんが来たあとどうするか訊いたら、近衛兵になるんだって息巻いてたじゃないか」

 入江は台場を見た。

「……」

「藤之木行こうぜ。根津が気になるんだ」

「その前に一つ言っていい」百合亜ちゃんは台場に顔を向ける。「こっちの世界の人は王城の兵士になるために、幼い頃から十数年鍛えている。近衛兵はその中でもエリートの集団よ。十数年もお世話になる気?」

 台場は言葉を無くした。

「その面の皮の厚さがあって言っているならいいわ」

 百合亜ちゃんは追い打ちを掛けた。

「おまえも挨拶して出て行った方がいいぜ」

 琢磨は台場の肩を叩く。

「じゃあこの件で僕がここへ来る事は無いと思う。行くよ。僕も根津くんの事心配だし」

「君たちはどこへ住むんだ」

「国王陛下がくれたお金があるから宿でも取るよ」

「いや、それはなるべく大切にとっておく方がいい。今、僕たちは一緒に住んでるんだ。しばらくはそこに住めばいいよ」

 僕がエヴェリナたちの顔を見ると、みんな頷いてくれた。

「百合亜、藤之木と一緒に住んでるのか!」

 台場よ、今おまえが気にすべき事はそこじゃないだろ。

「ええ、毎日楽しいわよ」

「沓沢が訊いたら……」

「何でそこで沓沢くんの名前が出てくるのか分からないけど、今のあなたに他人の事考える余裕は無いと思うんだけど」

「きりが無いから行くよ」


 僕は席を立った。



 奴隷市場を見た琢磨は複雑な顔をしていたが、根津の頬のタトゥーを見て愕然とした。

「この者は今いくらまで落ちた」

 市場の主人に訊いた。

「……一千八百万でございます」

「理由は手古希だな」

「ええ、フォロヴィジョンであのような醜態をさらされてしまっては、異世界人自体の評判が……」

「手古希なんかやらかしたの?」

 入江が百合亜ちゃんに小声で訊く。

「それはもう見るに堪えない事をね。同じ日本人として恥ずかしいわ」


「我が静かに隠れて暮らしていれば、値はどんどん落ちる。さらにフォロヴィジョンか? エレオノールと親しくなった。手古希がどこでいくらで売られていたか、あそこで何度も言ってもらえば、この市場の奴隷自体、値が下がる」

「エレオノールさんのような有名リポーターに発言されては、うちの市場は潰れてしまいます」

「じゃあ、率直に言おう。一千二百万だ。一千万で合うと言っていたのだ、釣りが来るであろう」

 主人はしばらく沈黙し、首を縦に振った。


 契約書を交したり手続きをしたりなどは一切せず、根津は奴隷では無いという事を確認すると市場を出た。


 根津と琢磨は抱き合って、涙を流した。

「信じてたよ来てくれるって」

「藤之木のお陰なんだ、金も含めてな」

「ありがとう藤之木。ほんとにありがとう」


「消えるかどうか分からないけどやってみよう」

 頬のタトゥーはかなり時間が経っている。傷だと判定されないかも知れない。

 タトゥーが消えますようにと祈りながら、大いなる天と大地の癒やし、を掛けた。


 根津の身体に光が集まり消えたかと思えば、頬のタトゥーは無くなっていた。

「成功だ」


「無いの? バッテン無いの?」

 みんなに確認をとって喜んでいた。


 三人を屋敷に招き、食事をしながら今後について話し合った。


「やっぱり飲食業だと思うんだよね。分かりやすいし即効性がある。店舗は無理だろうから屋台で」

 僕が言うと入江が禁断のあれを言った。

「マヨネーズなんかどうよ」

「ダメだ!」

 僕と洋子先輩はテーブルを叩いて立ち上がった。

「え? そこまで?」

 動揺する入江に僕は言い放った。

「定番過ぎるんだ! 成功するのが見え透いてるんだよ!」

「面白みがない。歴代の転位者はみんなやってきてるだろう。もっとオリジナリティーを持て」

 洋子先輩はいつになく真剣だ。

「成功が約束されてるんならいいじゃん」

 根津が言うとエヴェリナがあっさり答えた。

「ありますよ。マヨネーズ。キュルピーマヨネーズ。卵とお酢と油で作るんですよね」

「なんだぁ、もうあんのか。保存も利くしいいと思ったんだけどな」

「お好み焼きは? ある?」

「どんな食べ物ですか?」

 琢磨にベッテが訊いた。

「水で溶いた小麦粉に色々具をまぜて焼いたあと、ソース塗って食べんだよ」

「見た事ないですね」

 ベッテがエヴェリナの顔を見ると、エヴェリナは頷いた。

「片手で食べれるのがいいんだけどなぁ」

 握った拳を口元に運んだ。

「箸巻きにすりゃいいじゃんよ」

 根津が言いだした。

「具は色々入ってた方がいいよね」

「あとソースだな」

 入江のあと琢磨が乗っかった。

 箸巻きの方向で決まりか?


『ミザリアさん、お好み焼きのソース作り方分かる?』

『分かりますが、熟成や加工などのスペース、衛生管理などを考えると現実的だは無いかと。今ある調味料を混ぜて近い味を再現するのが、最適ではないでしょうか』


「ソースを手造りは現実的じゃないから、今ある調味料を混ぜて再現したらどお」


 メニューは箸巻きの方向で決まり僕たち五人は返してもらう事を前提に、軍資金として五百万ギルを三人に渡した。


 日中、琢磨たち三人は屋台を出すに当たっての手続きを調べたり、王都の物価や食事情を調べたり、調達出来る材料の確認などを行った。


 僕たちはハンターとしての仕事をこなした。やはり、プロテクターとして長期不在はまだ少し心配だからだ。


 根津と琢磨は奴隷の代金も返済すると言っていたのだが、僕たちは選別だと言って断った。学生が箸巻きで一千万以上って現実的じゃないよね。



 借りを終えハンター組合に納品に行くと、客が来てたと受付嬢から伝えられた。


「名前は言ってました?」

「はい、少々お待ちください」

 受付嬢は引き出しからメモを取り出した。

沓沢龍馬(くつざわりょうま)様と岡城景(おかしろけい)様と名乗られました」

 僕と百合亜ちゃんは見つめ合い……そのまま口と口が……じゃなくて、笑顔になっただけ、沓沢の名前がなかったらもっと笑えたのに。

「どこにいるとかは?」

「お伺いしたのですが、みなさまのだいたいの活動時間をお伝えしたところ、また来ますと言って」

「そうですか、ありがとうございます」



 夕食の時みんなに伝えたら喜んでいた。

「台場にも教えてやったら喜ぶぜ」

 琢磨、いいよあんな奴に教えなくたって。

「そうかぁ」入江が眉根を寄せた。「須藤久瑠実(すどうくるみ)はどこでどうしてるんだろう」

 だよね、同じ陽キャの一軍だったもんね。で眉根ってどこ?



 翌日も大猟でハンター組合に納品していると背後から声を掛けられた。


「百合亜、うるかくん」

 振り向くと沓沢が立っていた。どけよおまえ、その後ろに景ちゃんがいるんだろ。

「百合亜、無事だったんだね」

 クソ沓沢が僕の百合亜ちゃんに抱きつこうとしやがった。

 百合亜ちゃんは手を広げバスケの選手並みのフットワークで沓沢を避けると、景ちゃんに抱きついた。

「景やっと会えた。うるかくんと絶対探し出そうねって約束してたの」

 ナイス情報。探し出したの向こうだけどね。

「そうだったのか、フォロヴィジョンでうるかくんが活躍してるの見てハンターかプロテクターになってるだろうって。うるかくんがいなかったら見つけられなかったよ」

 ナイス情報。高感度が上がった。沓沢のへそ曲がった。ラップ風に。


 僕は二人に歩み寄り声を掛けた。

「百合亜ちゃん、ほんとによかったね」

 まずは下の名前で呼んでる事をアピッといて。

「景ちゃんも無事でよかったよ」

 下の名前で呼んで様子を見る。

 景ちゃんが抱きついてきた。

「君はほんとに凄いな」

 何が? カチカチになった。

「女神様に認められたんだぞ」

 ああ、それね……真のダーケス・ナイトってくだり、やっぱり薄まってるよ。

「君たち下の名前で呼び合うほど仲良かったっけ」

 うっざ、沓沢うっざ。

「わたしたちは仲いいわよ親友よ。ね」

 え、そんなに仲良かったっけ。

「わたしは学校いた時から、うるかくんはうるかくんだよ。君たちがいつもそばにいて話す機会無かったけど、気持ち的にはうるかくんだったよな」

 百合亜ちゃんの顔見て、百合亜ちゃん頷いてるし、青天の霹靂(へきれき)なんですけど、沓沢と台場がうざがられてた事。チョーうける。


「会いに来たって言う事は、何か用事でもあったり?」

「純粋に会いたかったって言うのが何より一番なんだけど――」

「おまえ怪我が治せるんだろう。怪我人がいるんだ、治せ」

 景ちゃんの言葉遮ってまで、その態度で言う事か。


「我に出来ない事は無い! デーモンシックか」

「違う! 先天性の疾患だ」

 だよね、国内のデーモンシックは撲滅したもんね。

「はっきり言う。戦闘で負傷した人たちは治す。国のために命をかけて身体を張ったんだ。だが、怪我人を治してくれ、はい分かりました。となれば、今後は病気や怪我をした人を直し続けなきゃならなくなるだろう」

「たった一人だぞ、心の狭い奴だ」

「心は関係ない。デーモンシックもたった一人から始まって、結局全国を回る事になった」

 沓沢よ拳を振るわせてるが、おまえがやってみろよ。

「百合亜からも言ってやれ」

「うるかくんの言う通りよ。一生お医者さんとして生きていかなきゃならなくなるのよ」


「僕はあの時女神と約束したんだ。まだその意味は分からない。だけど医者になることじゃ無いのは確かだ」


 この世界を救ってほしい、その意味はもっと大きな何かだと思う……


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