第二十話 やっぱり手古希はうざい
数週間でローゼンヴェリーからデーモンシックが消えた。
国王ゼギスムントにその事を報告に行くと、国王はうるかたちに追加で報酬を出した。
皆揃ってその足で琢磨大怪獣に会いに行くと何故か台場功也と入江シオンも付いてきた。
「百合亜、大丈夫か大変だろう、僕が国王陛下に掛け合って戻れるようにしてあげるよ」
台場は胸に手をあてる。
「毎日が楽しくて、充実してるわよ」
三人の顔色が変わった。
「それに台場くんが国王陛下に何を言おうが、耳を貸す事はない……どころか会えるの? うるかくんは逆、国王陛下や王女殿下が会いたい存在なの」
百合亜の言葉に台場は唖然とした。
「楽しいの?」
「自分次第だしわたしにはうるかくんがいてくれたから」
入江に百合亜は答えた。
「今日は琢磨くんに用事があって来たんだ。ここにいるみんなのお陰もあってまとまったお金が出来たんだ、根付くんと手古希を買って自由にしてやろうと思う」
「待ってくれ――」
琢磨は身を乗りだした。
「数日待ってくれ、城の連中に礼と謝罪をして……俺出て行く。だから一緒に連れてってくれ」
「ん、いいよ」
「出て行くのかい」台場は驚いた。
「うるかが来た時からずっと考えてたんだよ、やっぱ人の世話になりながら生きてくの格好わりぃなって。ずっと出ようと思ってたけどなんかこえぇし踏ん切り付かなくて」
「出てどうする?」
「分かんねぇ。おまえらは」
「僕たちは運がよかったんだよ。だけど、琢磨くんたちに同じ仕事が出来るとは思えない。チームの人数も闇雲に増やせないし、景ちゃん探し出せば入れてあげたいから」
「景がいたのか」
台場は立ち上がった。
「いや落ち着けよ。探し出せば、だ。でいろいろ考えたんだけど、自分たちで屋台やってみたらどうかな。食事は日本風だし食べ歩きすれば、まだ無いこっちの人受けする料理研究して出せばいいんじゃないかと、多少の金なら貸せるよ」
「屋台……根津と屋台……」
琢磨は遠くを見た。
「失敗するに決まってる」
「俺もまぜてくんない」
台場の話しに入江が入って来た。
「二人だけって分けじゃないんだろう」
「出て行くんだぞ」
「ああ、俺もうるかくんの話聞いてからずっと、なんとかしなきゃって」
「まあ、一週間後、でいいかな。また来るよ」
うるかが立ち上がると、皆も席を立った。
翌日プロテクター組合の待合室でうるかが口を開いた。
「お金も貯まったし、みんなのお金で例のイベントやったらどうかと思うんだよね」
「例のイベントって」
百合亜が首を捻ってると、洋子が楽しそうに立ち上がった。
「例のイベントか。異世界に来たら絶対にしなきゃならないヤツだよな。確かに今なら出来るぞ」
エヴェリナとベッテは首を捻る。
「例のイベントってなんなんですか」
問いかけるエヴェリナに洋子は目を輝かせた。
「みんなで住む家と買うんだよ」
「キッチンは広い方がいいわ」
百合亜の理想だ。
「地下倉庫はあったほうがいいですよね」
エヴェリナの理想だ。
「あたしは広い庭がいいです」
ベッテの理想だ。
「広い庭いいな、中が見えるか見えないかくらいの生け垣があって、そこで露出するんだ」
洋子の理想だ
そんな話しを楽しそうにうるかが聞いていると、複数の黒ずくめの男が入って来た。
男たちはうるかの前に来ると、ウルカ・フジノキだな、と確認を取った。
男たちが左右に割れ道を空けると、鉄の首輪をして肩を怒らせた手古希打志多が揚々と歩いてきた。
「おい藤之木付いてこい」
うしろにはテレビカメラのようなもの構えた人物とマイクを持った女性がいた。リポーターだろう。
フォロヴィジョンのスタッフだ。フォロヴィジョンは空に浮かぶ大きなスクリーン。ライブ放送されている可能性が高い。うかつな事は出来ない。
「おまえ買ってもらえたんだ。あと根津くんだけだ。助かったわ」
「おまえ! 誰に向かって言ってる!」
「おまえだよ。手古希」
うるかが立ち上がると手古希は身じろぎし二、三歩後ずさった。
「ここにいるみんなもおまえがまだ奴隷だと思って、文字通り命がけで金を稼いできたんだぞ」
歩み寄るうるかに手古希は顔色を変えると尻もちを付いた。
「僕だけじゃないここにいるみんなも仕事の邪魔だ。サッサと出て行け! おまえらもだ!」
黒ずくめの男たちを睨むと席に着いた。
「おい、どうなっている、このままだと断罪だぞ」
「あああああ、たまにあるんですよぉ、突然キレて……日を改めましょう」
「大金を払ってフォロヴィジョンまで呼んだんだぞ、なんとかしろ」
手古希は立ち上がった。
「次、目の前に来たら殺す。いや、殺すのはおまえを買った人に悪いな、九分殺しにする」
「こっちは殺されるんだ。九分殺しがなんだ、付いてこい」
うるかは立ち上がり、頬に拳を叩き込んだ。
手古希は白目を剥いて倒れそうになるが、膝蹴りで反対方向に蹴り肋骨を全て折った。
倒れることを許さない。
ローキックで大腿骨を蹴ると、足はあらぬ方向に曲がり、倒れそうになると両腕を掴み、握力で骨を握りつぶした。
待合室で骨の折れる音が鳴り止む事は無かった。
黒ずくめの男たちは後ずさりしていく。
最後に真上から、手古希の頭蓋骨に拳を叩き込んだ。
手古希の頭は傍目にも明らかに変形していた。
その場に崩れ落ち、糸の切れた操り人形のようになっていた。
うるかは手袋を外し手古希にかざした。
「天と大地に渦巻く精霊たちよ、その力を我に与えたまえ、この者を癒やしたまえ」
手古希の身体に光の粒子が集まる。
うるかは願った、どうかホッペのバッテンは消えませんように、と。
フォロヴィジョンのスタッフがにわかに慌ただしくなったのは、手古希の身体が徐々に戻り始めたからだ。
「ちょっとすみません。通して下さい」
カメラマンとリポーターはうるかの所まで来た。
「今は話し掛けない方がいいですか?」
「いや、構わん。美女の頼みは断らない主義だ。訊きたいことでもあるなら、何でも訊いてくれ」
「これはどういう魔法なんですか」
「大きな声では言えないが」
とカメラのレンズを見ながら続けた。
「大いなる天と大地の癒やし。自然界の偉大なる力を借りて人間の持つ治癒力、そして再生力を最大限に引き出す。ちなみにこの指輪とても綺麗だろう。五番街の路地でゴザを敷いてやる気なさそうにしている猫耳族のネコムスの作品だが、効果効力こそ無いが、彼女の作品はどれも素晴らしい物ばかりだ」
ネコムスの店を紹介したあと、うるかはちらりとリポーターを見た。
「貴様名はなんと言う」
「フォロヴィジョン放送のエレオノールと言います」
「接触しようと思うと、いかにすればよい」
「王都のフォロヴィジョン放送ビルを訪ねて頂いて、エレオノールを呼んで頂ければ」
「ん、いずれ力を借りる日が来るやもしれん」
「はい、お気軽にお声かけ下さい。この魔法は何でも治せるんでしょうか」
「残念ながらこの男のように頭の悪いのは治せ無い。こっちの世界にはこういった魔法や薬品は無いのか」
「ヒールやポーションがございますが、傷や病の治りが早くなるとかで、こんな劇的な効果はありません……こっちの世界と言いましたが、今、世間で言われている異世界人ですか」
「ああ、我は異世界よりこのガイアを救いに来た者。すでにローゼンヴェリーからデーモンシックは駆逐した」
「あ、あ、あ、あ、あ」
リポーターは言葉を失った。噂が尾ひれはひれを付けて一人歩きをしているのだろう。
そうしている間に手古希の身体は×印も含め元通りになり、意識を取り戻した。
うるかは見下ろした。
「さあ、次が本番だ。死と九分の死、選ばせてやろう、手古希打志多よ」
手古希は唇を震わせながら凄まじい早さで、床を後方へ滑った。
「貴様らも」
うるかは黒ずくめの男たち指差した。
「社会人、いい大人なら、人と会う時の態度くらいわきまえたらどうだ。このような場所に来るなら、最小限度の人数で何故同行して欲しいのか、事情くらいは説明しろ」
うるかはキメ顔をカメラに向けて言い放った。
純黒聖堂会のイズス像前で大司教は天井を見上げた。
「確実に落ちてくるのだな」
訊かれた神官は薄い笑みを浮かべ大きく頷いた。
「手動にしました。その方が確実かと思いまして」
それを聞いた大司教の唇がいやらしく歪んだ。
「これでウルカ・フジノキは終わりだ」
ウルカ・フジノキの名が出た事に背後の不穏な気配を気にしながら、純黒聖堂会、王都会の巫女ギュードゥルは、訪れる信者たちに組んだ手で祈りを捧げていた。




