第十九話 五人で悪魔祓い
鋼を鋼にぶつけるような音が響く。
それは怒りを鎚に込めて叩いているような音でもあった。
剣と剣がぶつかり合うとどんよりと曇った空を、剣は回転しながら飛んで行く。
剣を手元から失った手古希打志多は血まみれの両手を見て苦い顔をする。数え切れないマメが潰れて、皮が剥がれている。
断罪の女神イズスを信仰する純黒聖堂会の訓練場だ。
「一体おまえは何が出来る」
手古希の相手をしていた黒ずくめの男が苛立たしげに納剣する。
「ええ、剣だけは苦手なんですよぉ」
「剣だけは苦手、銃だけは苦手、魔法だけは苦手、体力だけは苦手、エクソシズムだけは苦手、ウルカ・フジノキの装備のことだけは知らない、頬のタトゥーをどうやって消したのだけは知らない。おまえの世界では、だけ、と言うのはいくつまで許されるんだ」
「ああ、そうなんですよ、こっちと違っていくつでも――」
「男は抜剣して早歩きで歩み寄り、剣を振り上げた」
手古希は頭を抱えしゃがみ込む。
「すいません、すいません、すいません」
「すみませんだ!」
剣は激しく地面を叩いた。
「貴様にいくら払ったと思ってる。最後にもう一度訊く、何が出来る」
「……えーと、えーと、えーと、藤之木に命令出来ます。何でも言うことを聞かせれます」
「本当だろうな」
「はいぃ、もちろんですぅ、わたしが言えば何でも言うこと聞きますから、あいつ殺せ、って命令すれば間違いなく殺しますよ、はい」
「今度偽りなら、断罪だ」
「断罪って言うのは」
「俗に言えば……死刑だ」
手古希は腰を抜かして歯を鳴らした。
ダンク・フォン・アルザーヌ辺境伯は腹心の部下に、小さな麻袋を渡した。
「使い捨ての駒にこれを渡して王都の門の前に撒かせろ。そして呪言を唱えさせるんだ。決してアルザーヌ家との繋がりは悟られてはならない」
「はっ」
跪く兵士は短く返事をした。
「デーモンシックの方はどうだ」
「……」
兵士は言いにくそうに口ごもり答えた。
「どうやら王家の方で大々的エクソシズムを行うそうで、全国規模の」
「出来る者がいるのか」
「すでにマリブリット王妃を始め王都内は全員」
ダンクは握り拳で肘掛けを叩いた。
「魔族にどれほどの代償を支払ったと思っている。ゼギスムントめ」
ダンク・フォン・アルザーヌは顔を歪めローゼンヴェリー国王を呼び捨てにした。
国王から依頼があったデーモンシックの発症者は全部で十六名。
うるかたちはプロテクターの仕事を受注する際、発症者のいる街に行く便に限定した。
受注したのは片道五日のキャラバンで、他にも二チーム同行する。この仕事を受けたのは、行き先の街にに四人のデーモンシック発症者がいたからだ。
食料を詰め込みピクニック気分だ。
うるかたちは荷台がオープンになったトラックタイプのフロータに乗った。
各チームがそれぞれのフロータに乗り、キャラバンを巡回しながら目的地を目指した。
「いやーやっぱりチキンはけケンタルキフライドチキンだよね」
アプレーゼを呑みながらチキンをかじる。
「わたしは普通の方も好きだな、衣が薄くて鳥の味がする」
「分かってないな。この濃い味がいいんじゃないですか」
「ヌードル関係は食べたか?」
「いいえ、美味しいのがあるんですか」
「天下三品って言うラーメンみたいなのがあってだな、スープに麺の跡が付くくらいこってりしてるんだ」
うるかと洋子は食べ物の話しに花を咲かせる。
「それって、ゆで卵食べ放題ですか」
百合亜が加わってきた。
「もちろん。エヴェリナとベッテはどんな料理が好きだ?」
「わたしはいなり寿司やきつねうどんが好きです」
エヴェリナは微笑んだ。
「あたしは豚のショウガ焼きやアサバア豆腐が好きです」
ベッタはご飯に合う料理が好きなようだ。
「いやあ、食べたことのない料理がたくさんあるな」
洋子はチキンにかじりついた。
「話変わるけど、次の街からしばらく行ったとこに、もう二人いるんだよね」
「片付けておきたいな」
「足をどうするか、で、フロータ買っちゃう?」
「あ、欲しい。免許とかいるのかな」
百合亜は手を叩いた。
「買う時に操縦方法聞くだけでよかったと思います」
エヴェリナは顎に人差し指を当てた。
「じゃあ買おう。どんなのがいい」
「馬車みたいなの」
百合亜は頬に手をあてる。
「んー悪くないかな」
「わたしもお城で乗ったようなのがいいと思います」
「あたしも賛成です」
「決まりだな」
「あいつらまるで旅行か何かと勘違いしてるな」
「女とガキだけじゃねえか」
楽しそうに盛り上がるうるかたちを横目に、他のチームはいい気がしない。
しかし道中何度か出くわした害獣や邪獣は、そのほとんどを軽いノリでうるかたち五人が片付けた。
街に着くとハンター組合でスケジュールを組んでもらい、エクソシズムを行う。
どの発症者も、やはり美しかった。
手順は基本的に同じだ。
違うのは発症者の掌にミザリアのクロスを乗せ、皆の手をその上に重ねるというところ。
眠りについたと思うと悪魔の夢だった。
うるかと洋子はすぐに対処したが、エヴェリナたち三人はその異様な景色と悪魔の不気味さ、そして数の多さに圧倒された。
しかしエヴェリナが突撃すると皆あとに続いた。
「解き放て雷撃の垓環、レイニーサンダー」
「解き放て太陽の垓環、レイニーサン」
「解き放て溶岩の垓環、レイニーラーヴァ」
無数の走り寄る悪魔の頭上に、雷の、レイザーの、溶岩の、雨が降り注いだ。
下級悪魔は一瞬にして消し飛んだ。
あまりのあっさり片付くものだから、うるかも洋子も呆気にとられた。
囚われていた女性解放すると、護衛しながら進み拷問しながら悪魔の名前を聞き出す。
口を押さえ顔を背けていた百合亜が、何体目かで言いだした。
「ちょっとわたしにもやらせて」
うるかが魔法陣を施した退魔の短剣で、無力化した悪魔の目をえぐり出す。
「右目で左目見たことある?」
全員が背を向けると口を押さえると、逆流しそうな昼食を押し留めた。
「自分の目玉は美味しい?」
眼球を不気味な口の中にねじ込んだ。
皆木陰などに走る。
「さあ、次は新鮮なホルモンを食べさせてあげるわ」
不気味な世界に百合亜の不気味な声が響く。
『我が主、あの名は本物でございましょう。あれで嘘をつけるなら、まさに悪魔です』
ミザリアが話し掛けてきた。
悪魔が五体向かってきた。
「わたしのやらせて下さい」
エヴェリナが退魔の剣を抜くと駆け出していった。
「解き放てミスリルの垓環、覚醒ミスリルシールド!」
盾で攻撃を受け、そのまま身体を回転させて胴体を二つに裂く。
悪魔が飛んで背後に回れば、振り向きざまに首を落とした。
盾と剣を見事に使いこなしている。
十年間、研鑽を積んだと言うだけはある。
一人で見事に五体の悪魔をさばききった。
食事時はまさにピクニックだ。
囚われの女性も含め、みんなでワイワイ楽しみながら食事をする。笑い声が絶えることは無く。まるで宴会だった。
昼過ぎからはベッテも負けていなかった。
八体の悪魔が一斉に現れ皆身構えたが、一人冷静に対処した。
「解き放て溶岩の垓環、ライジングラーヴァ!」
ベッテの叫びに呼応して、悪魔の足下から無数の溶岩が吹きだした。
悪魔は焼かれ岩の塊となる。
「よくやったベッテ」
ベッテ口に小さな手を当てて笑った。
「拷問はよかったの?」
百合亜は心配そうに短剣の柄に手を掛けた。
ブライトネスゲートが見えた。
いよいよボス戦と言うことだ。
「みんな気を付けて」
「ああ、ボスは手強いぞ」
うるかと洋子は刃を抜いて身構えた。
空から左右六本の腕を生やし、それぞれに武器を装備している巨大な悪魔が、地響きを立てて下りて来た。
悪魔は武器を振りかざし咆哮をあげた。
「解き放て――」
「アルティメットサン!」
「アルティメットサンダー!」
「アルティメットラーヴァ!」
レイザーが、稲妻の束が、溶岩の塊が、悪魔の身体に穴を空けた。
一瞬で決着した。
うるかと洋子は俯いて刃を納めた。
四人を救出したあとは、約束通り馬車のようなフロータを買った。
操縦席には操縦者を入れて三人、後部座席は広くテーブルを挟んで合計六人が座れる。操縦席と後部座席は背もたれ以外仕切りが無く、シートを倒せば行き来出来る。窓は多くドアは観音開きで開口は広く作られていた。
操縦は余分な機能が無く思っていた以上に簡単であった。
フロータは、うるモービルと名付けられた。
それで隣町まで行きさらに発症者を二人救出した。
帰路は自分たちのフロータで代わる代わる操縦して、護衛に付いた。




