第十七話 十六夜恋歌、病む方向が違う件
十六夜さんカッコ仮名は転位して以来、ハンターをしながらこの町トリントでずっと宿暮らしをしているという。
色々と話しをしてみたかったので同じ宿をとる事にした。
食事を終え今後の自衛についてなども含め、四人で雑談をしているとノックの音がした。
十六夜さんカッコ仮名は神妙な面持ちで、僕に話があるから部屋に来て欲しいと言う。
やっぱり、異世界補正が気になるようだ。
雑談が一段落付いたところで部屋に向かい、ノックした。
「入ってくれ、鍵は掛かってない」
ドアを開けると十六夜さんカッコ仮名が全裸で直立していたので、ドアを閉めた。
「何故閉める、入ってくれ」
「全裸だったので……服を着てください」
「その方がいいのか」
「はい」
しばらくして、声が掛かった。
「申し訳なかった。入ってくれ」
ドアを開け、そして閉めた。全裸の十六夜さんカッコ仮名がいたからだ。
「服を着てください」
結局バスタオルを巻くというのが、何故か妥協点になった。
「君たちは今どこにいるんだ」
「王都ですね。やっぱり宿暮らしですけど。今回プロテクターの仕事は初めてなんです」
「それまでは、お金はどうしてたんだ」
「まず運がよかったんです。来て早々王女が盗賊に襲われるイベントに遭遇して褒美をもらい、悪魔祓いでまとまったお金も入ったので」
「悪魔祓い出来るのか」
「ええ、命がけですけど。この町にもいれば祓おうかなと思ってます」
「一緒に出来ないか、興味あるんだ。わたしたちにとって悪魔は切っても切れないだろ」
「ちょっと待ってください、ミザリアさんに訊いてみます」
『ミザリアさん彼女と一緒に夢の中に入れますか』
『十六夜さんカッコ仮名様であれば可能かと思いますが、癒やしの方が忙しいかと』
『なるほど。ポーション的なのはないんですか』
『わたくしめが次元の裏で手に入る材料でおつくりしてみます』
『助かります』
「いけそうですね」
「ミザリアさんって誰だ?」
「僕の部下」
ミザリアさんが出て来て僕の前にひれ伏した。
「下僕でございます」
ですよね、十六夜さんカッコ仮名でもさすがに引きますよ。
「当時の僕は病んでたのかも」
「素晴らしい。こういう方向性があったのか。わたしは露出専門だからな、いや実に素晴らしいよ。いい趣味してる。同じ匂いがするわけだ」
色々と間違ってる。
「お褒めにあずかり光栄でございます。十六夜さんカッコ仮名様」
ミザリアさん乗っかるな。
「ミザリアさん戻ってください」
「わたくしめが下僕だという事は、くれぐれもお忘れ無く」
「ミザリアさんを考えた時は病んでたんだと思います」
「言い訳は結構。他にいないのかああいうの」
手袋を外して覚醒前のガブラを見せた。
「これが覚醒すると立体的になるんです」
「元はマジックか」
「はい」
「惜しいことしたな、わたしも書いとけばよかった」
「描くの好きなんですか」
「ああ、全裸で体中に書くんだ。背中にもな」
「右腕とか背中とか鏡見ながらですか」
「さすがに無理だろう。弟に書いてもらうんだ。胸に、変、態、とか左右に一文字ずつな。背中にち○ぽのイラストとか、ヘタなんだ、イライラしてきてな、違うだろう反りが、とか言ったら自分で書けよとか、逆ギレだよ。よく、姉弟喧嘩したなぁ」
どこか遠くを見てるし――
「しょうがないからエロ動画サイト見せたり大変なんだ。あと太股の内側に正の字とかなお尻に、淫、乱、って左右」
「もういいです。弟いくつですか」
「中二だ中二病にならなきゃいいけどな……」
項垂れて悩んでるよこの人、絶対ならないから……と言うか別の病にかかるわ。
「ホントの名前教えてくださいよ」
「十六夜恋――」
「ホントの名前」
「太田洋子」
微妙……突っ込めるくらいの名前にして欲しかった。
「洋子先輩の刀と銃って元はなんだったんですか」
「名刀、長竿反り返り丸が百均のプラッチックの刀で、伝説の銃、悦楽歓喜が百均の水鉄砲。ホルスターとかは端布屋さんで買ってきた布で作って、百均のベルトに瞬間接着剤でくっ付けたんだ。うち貧乏でな、だからリアルになってた時は嬉しかったぞ」
「刀、改造してみてもいいですかね。試してみたい事があるんですよ」
「ああ、構わない」
「バイブルみたいのはないんですか」
「もちろんあるが、置いて来た」
「あー惜しいことしたかもですね。まだ分かりませんけど」
「わたしも王都で一緒に暮らせないか」
「いいですよ。強い人は多いに越したことはありませんから」
ということで、洋子先輩と行動を共にすることになった。
翌日ハンター組合に顔を出して、デーモンシックの依頼が来てないか問い合わせてみると、二件入っており、この町ではその二人しかいないと言うことだったので、明日伺うと連絡しておいてもらった。
二十代後半の女性がベッドに縛られもがき苦しんでいる。やはり綺麗な女性だ。
燃石を使った、とある魔道具で一儲けした富豪の娘らしい。名はデシレアと言った。
エヴェリナは指輪大いなる天と大地の癒やしを嵌めると、真言を復唱した。
百合亜ちゃんとベッテは手を組んで祈っていた。誰に?
僕と洋子先輩は女性を挟む形で座り、デシレアの手を組むとミザリアさんのクロスを洋子先輩と三人で握った。
すぐさま眠りに落ちたと思ったら、禍々しい悪魔の夢の中だった。
デシレアは鎖に繋がれ十字架に掛けられていた。
角を生やした大きなネズミの群れが迫っていた。
僕はデシレアの前に駆け込み盾となり、ドラゴンブレスを抜いた。
ドラゴンブレスで遠距離射撃せず、盾となったのは、その方がカッコいいからだ。
ネズミの額を打ち抜いていると、呆気にとられていた洋子先輩も悦楽歓喜……で撃ち殺していった。
装弾数こそ少ないものの悦楽歓喜の破壊力は凄まじく、着弾すれば頭が丸ごと吹き飛んだ。
全て片付けたあとはデシレアを解放し三人で、現世の門ブライトネスゲートを目指した。
やはり敵は狡猾になっていき、僕はケイオスブレード、洋子先輩は名刀、長竿反り返り丸……で応戦した。
洋子先輩はまさに即戦力だ。
深手を負えばミザリアさんの作ってくれたポーション、刹那のリストレーションで回復した。
最後の一体になれば、無力化して拷問により取り憑いている悪魔の名前を聞き出す。
何度かこれを繰り返すうち、悪魔の名はバマムトールだと分かった。
食事はリュックに詰めてきたもので、景観はさておいてピクニック気分だ。
「服を脱いでいいか? 裸を見てくれ」
戦いが落ち着くと、恥じらいながら洋子先輩が立ち上がり、ブレザーのボタンに手を掛けるので、慌てて止めた。
この人ほんとにやるし。
デレシアは口に手を当てて笑っているが、冗談じゃないんだよね。
何日目だっただろうかブライトネスゲートの光が見えた。
「あそこが目的地だ。もうひと頑張りしよう」
ブライトネスゲートの前。
デレシアには離れていてもらい、洋子先輩には上にボクは下に注意しながら進んでいった。
はい来ました。横からしかも左右。
赤鬼、青鬼だよ。
咄嗟に後方へ飛び退くと赤青ぶつかってひっくり返るし、意外とバカなの?
まずは距離を置いて銃で応戦。
五メートルくらいの大きさだから、結構効いてる。
「洋子先輩、銃撃で距離を詰めて切り込みましょう」
「ああ、分かった。濡れてくるな――手汗でグリップが」
今必要な情報でしょうか……
鬼たちに近づくと、抜剣アンド抜刀からの斬って斬って斬りまくって、どんどん押し切る。こいつら、ないよね第二形態。
と思っていたら、そのまま倒れたので、首を切り落とした。
バマムトール、こっちが一人で来る前提だったな。
これならデーモンシックどんどん受注して、荒稼ぎしてもいいんじゃね、みたいな。
「いやー興奮し過ぎてビチョビチョだよ」
「グリップですね、あ、柄ですね」
「いや、パン――」
「結構です。その情報」
「バディには報告しておいた方が」
「結構です」
「信頼関係が」
「信頼、関係ないです」
「じゃあくぐりましょう」
デシレアを真ん中に三人で手を繋いでゲートをくぐった。
よほど嬉しかったのか、父親は報酬を多めにくれた。
先輩は、そんなつもりじゃなかった、と、とても恐縮していたが、半ば強引に報酬は山分けにしてこの件を終えた。
もう一人は伯爵令嬢だった。
伯爵があとになったのは、ただ単にスケジュールの問題だ。
難易度が一気に下がるので、やはり先輩に付いて来てもらい、無事任務を終えた。
ラッパの音と共に、新しい仲間が加わった。




